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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

恩ある場所へ

2012.12.07 01:15

 これまでも何度かそばを通っていたのだけれど、いちども入ることができなかった。

 

 昨夜、この近くに住む人とお話する機会があり「○○の社長さんをご存じですか?」と聞いてみた。

 

 お元気とのこと。よかった。

 

 

 

 もう二十年も前のことだけど、わたしが仕事を辞めるにあたり、とくにお世話になった取引先の社長さんのところに挨拶にいった。

 

 その挨拶自体、かなり精神的には苦痛であったけれど、気力の残っているうちに顔を出さなければと思い、這うようにしていった。

 

 

 そして、「いろいろとお世話になりました」と伝えた。

 

 社長さんは驚き残念がり、そして「うちの会社にこないか」と言ってくれた。

「いまはまだ小さいが、いっしょにやっていかないか」と言ってくれた。

 

 とてもうれしかった。

わたしを必要と思ってくれる人がまだいることが、たまらなくうれしかった。

 

 

 でも、「はい」と言えなかった。

わたしはもう仕事ができない。わたしには仕事をする能力がないのだから、信頼してくれた社長さんを裏切ることになってしまうと思った。これ以上、迷惑をかけてしまうことが恐くてしかたなかった。逃げるように帰ってきた。

 

 結果として、それでよかった。

社長さんは会社を大きくしたし、わたしはエッセイストになった。

 

  

 

 二十年ぶりに、その扉を開けた。

開ける瞬間、ちょっと震えた。

 

 

 そこには二十年分齢をとった事務員さんと社長さんがいた。

 

 

 「以前たいへんお世話になりましたフジタ・・・」と言ってる途中で「おお!」と大きな声で「さ、入りなさい。そこに座って、ほら」と言ってくれた。

 

 

 やっといけた。

もういちど、「ありがとうございました」が言えた。