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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

あの時代、その2

2013.06.03 18:47

 最初は、厳しい練習に泣きだすのではないかと心配したわたしであるが、息子は嬉々として修業に励んだ。

 

 練習熱心で、蹴りやパンチのフォームがとてもキレイだと思うのは親の欲目だけではなく、道場の先生も褒めてくれた。

 

 週にいちどの練習を、いちども休みたいといったことはなかった。しかし、熱心なわりに、うちの息子は弱い。背が小さくてとても軽いから、試合になると、体力負けしてしまうのだ。

 

 しかし、「試合に勝つために空手を習わせているのではない」といって聞かせた。

 

 三度目の公式試合を一か月後に控えたある日、息子はどうしても勝ちたいと唐突に泣きだした。

 

 驚いた。

 

 息子はわたしが思うよりも真剣に空手をやっていたのだ。

「心身ともに健康に」、なんていう親の身勝手な都合よりも、息子は試合に勝ちたかったのだ。

 

 それからは道場の練習以外にも、毎日家で特訓することにした。

わたしの体にキャンプ用の銀マットを巻き、息子の背の高さから頭ひとつの場所に顔を描いてそこを蹴らせた。顔面への「前蹴り」の特訓である。

 

 蹴りというと回し蹴りが有名であるが、これは構えをとってる相手にいきなり蹴っても、手でしっかり守られているから顔にはなかなか当たらない。まず腹部への突きを二発、腕が下がってきたら「回し蹴り」といくのが理想らしいが・・・

 

 しかし、うちの息子の突きは軽い。ヘニャヘニャの突きを出しているあいだに、ガードのあいた顔面に、反対に回し蹴りをもらってしまう。

 

 その対応策として、息子と二人で前蹴りの特訓をやったのだ。

 前蹴りならば、ガードの隙間から直接顔面を狙える。相手が攻撃をしようと息子の射程距離に入ってきたらすかさず顔面へ右足で前蹴、そして左の回し蹴りに繋げようと、文字どおり何千回も練習した。

 

 いままで道場の練習では泣かなかった息子も、辛くてなんども泣いた。

 それでもわたしはやめなかった。

 

 「オマエ、勝ちたいのだったら泣いている場合じゃないぞ」と、ガラじゃないのを重々承知で怒鳴った。

 

 そして、息子は涙を出しながら足を真っ赤にして、また蹴りつづけた。

 

 「これを練習すれば絶対に勝てるよね」という息子に、わたしは「あったりまえだ」と答えた。

 

 息子はうれしそうだった。

 

 

 また続く 

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