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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

ありがとう・・・

2015.10.02 19:00



 彼女はいつも、笑顔の後ろに、涙をいっぱい隠していた。





 彼女が「ありがとう」を言えないでいたのは、しょうがなかった。

 




 だって「ありがとう」って言ってしまったら、もうそれが最後のお別れになりそうで、恐かったから。



 



 



 だから、言えなかった。



 たくさん感謝しているけど、言えなかった。



 



 



 でも、言わないままお別れになったら、もっとせつないことはわかっていた。





 もう、残された時間がなかった。



 



****



 



 今日、ありがとうが言えた。





****

 



 ベッドの上で、彼女の父は、彼女の名前をいっぱい書いてくれた。



 



****



 



 声が出なくなったから、紙に書いてわたし呼んでくれたんだね、おとうさん。



 



 おとうさん、強いね。がんばってるね。



 



 おとうさんは、いつも強かったね。



 



 おとうさん、わたしのおとうさんでありがとう。



 



 おとうさんはわたしの誇りだよ。かけがえのないおとうさんだよ。



 



 おとうさん、ありがとう。



 わたしはおとうさんの子どもでうれしいよ。ありがとう。



 



 おとうさんがそばにいてくれて、うれしいよ。





****





 ・・・あ、おとうさん、いまわたしの名前を呼んだでしょ?



 



 いま口がそう動いたからわかったよ。



 



 おとうさん、ありがとう。



 わたしのおとうさんでいてくれてありがとう。



 



 おとうさんがいたから、わたしはなんでも思いきりやってこれたんだってわかったよ。お父さんはわたしの心の中のおっきな柱だよ。



 



 なにがあっても、おとうさんがいれば大丈夫って思っていたこと、気づいていたよ。



 



 おとうさん、ありがとう。



 



*******



 



 父はやさしく、耳もとにいる彼女の頭をなでた。



 



******



 



 わあ、ちいさな子どもに戻ったみたいだよ、わたし。

 わたしが小さなころ、おとうさんは、いつもこうやってくれていたんだね。





******

 



 おとうさん、窓を開けようね。

 気持ちのいい、外の空気を入れようね。



 



*******



 



 微かに肯いた父を見て、彼女は立ちあがり窓を開けにいった。





*******



 いい風が入ってくるよ、おとうさん・・・






 おとうさん、おとうさん・・・



 



 おとうさん