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uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

旅:ベッドだけの部屋

2017.05.18 22:42



 実話であるから、彼女の本名は明かせない。

 仮にB子としておこう。もう三十年も前の話だ。



 当時、彼女は二十代前半。

 付き合いはじめたばかりのオトコがいた。





 その彼に誘われた。



 泊まりの旅行にいかないかと。



 「泊まりって・・・」



 「・・・ダメかな?」



 「ダメ・・・じゃないけど」



 「考えておいてくれないか」





 彼のことは嫌いじゃない。いや、好きだと思う。いい人だもの。



 しかし、なにか踏み切れないものがあるのも事実。漠然とした不安。





 でも、旅行にいけばその不安も消えるかもしれない。



 B子は後日、旅行の話を承知した。

 親とはいっしょに住んではいない。だから、ヘンな言い訳もしなくていいから気が楽だ。





 「部屋が取れたよ。でもオレ、金があんまりないので、高級な部屋じゃないんだ・・・。それでもいいかい?」



 それを、飾りのない言葉として受けとったB子。嬉しくなった。



 「もちろんよ」



 「高級じゃないけど、二人のベッドはあるから」と、テレたようにいう彼がステキだった。



 

 彼が車で迎えにきた。

 どこにでもいるファミリーカー。中古で買ったと言っていた。



 B子ははじめての泊まりの旅行で、とってもワクワクしていたけれど、やっぱり少しドキドキもした。





 「ベッド・・・ボクが上になるから、キミは下でいいかな」

 と、彼に言われていた。



 「え? え、えっ? (なんかストレートすぎるわよ!)」 



 恥ずかしくて返事に困っていると



 「じゃあ、それで」と彼が言った。



 「え、ええ、お任せします(ああ、これがオトナの会話なのね)」

 いやん、ちょっとドキドキ。

 

 

 そしてついた宿は、白い木造モルタル二階建ての四角っぽい建物。



 小奇麗ではあるが、情緒はいまひとつといった感じ。



 「でも、彼はまだお金がないんだもの。しょうがないわよ。そんな堅実的な人のほうが、結婚してから安心よね」とB子は思った。



 もう彼と結婚のことを考えている自分に気づいて、B子は顔を赤らめた。









 フロントでサササッと名前を書く彼。慣れているのかしら。

 わたしのことは、どういうふうに書いているのかしら。もしかして「妻」なんて・・・きゃっ。



 部屋の番号は202号室。



 ガチャッと開いたその狭い部屋には、ほんとにベッドだけしかなかった。

 なんと、まさかの二段ベッド。



 彼は上で寝た。







 わたしが知っているのは、そこまでだ。

 その後の二人がどうなったのかは、知らない。



*このはなし、わたしたち夫婦のことではありませんから。