今日は忘れなくていい日だ
2016.12.04 20:53
今日は雨が唐突に降る日だ。
ちょっと油断して外に出ると、遠くから雨の音が近づいてきて、あっというまにずぶ濡れになる。
2年前の今日は、雪が降っていた。
その日の朝の7時にハチは死んだ。
わたしは「ハチ、ハチ、ハチ」と小さく呼びながら、死にゆくハチの体を撫でていた。
息がとまった・・・
それでも顔をあげようとしたハチ。
もういいよ、もういいよ、ハチ。
がんばったんだから、もういいよ。楽になろうよ、ハチ。
そして、動かなくなったハチ。
命が消えた。
妻も娘も泣いた。
ハチを抱っこして箱に入れた。
白い布を被せて、仏壇の前に置いた。
ハチはかわいい顔をしていた。
この数日間の顔とはちがって、苦しみのない、元気なときのハチの穏やかな寝顔だった。
わたしは、そのまま講演会に行った。
声を出して泣いていたわけじゃないのに、声が涸れていた。
いつもの調子で話ができず、お客様には迷惑をかけた。
スミマセン。
16年一緒にいた犬が、今朝の7時に死んじゃったんです。
聞かれもしないのに、話していた。
家に戻って、またハチのところにいった。
冷たくなっていたハチの顔を撫でた。
その日の午後、書評の依頼がメールで届いた。
タイトルは「犬から聞いた素敵な話」。
新潟出身の山口花さんの書評依頼だった。
どうしてハチを失ったその日に、こんなせつない仕事がくるのだろう。
いまは、犬の本なんて読みたくなかった。
しかし、それもハチの心だと思った。
ハチが「おとうさん、あんまり泣かないでね」と与えてくれた仕事だと思った。
書き終えて、ハチに「ありがとう」と伝えた。
悲しみは、悲しみのままでいい。
あの悲しさを忘れずに、ずっと覚えていればいいと思った日だった。
ハチのこと