洋菓子店員の恋-5-
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ドアをくぐってみると、実際の部屋は写真で見た印象よりずっと狭く、薄暗く感じられた。
やたら大きなベッドがほとんどのスペースを占めている。
他にあるものと言えば、二人で座るには狭すぎるソファと小さなローテーブル、金庫みたいな小型冷蔵庫、そして――ガラス張りの風呂。
「……」
ガラス張り、だと……?
いくらなんでもこれはさすがに、と固まっていると、さゆちゃんがスタスタとソファに歩み寄った。
荷物を置き、白いコートのボタンを外し始める。
その下から現れたタートルネックセーターは淡いブルーで、色白な彼女によく似合っていた。
くっきりと形の浮き出た小さめの胸から急いで目を逸らし、慣れた感じを装いながらベッドに近づく。
少し勢いをつけて腰かけると、スプリングは想像以上に弾力があり、軽く体が跳ねた。
「バイトで疲れてるでしょ?」
「え?」
「お風呂、お湯張ってくるね。シャワーだけだと疲れが取れないから」
「あ、……うん」
奥さんみたいなことを言って小さなドアの向こうに消えた彼女の姿が、すぐにガラス壁の向こうに現れる。
風呂場の電気が点くと、まるであちらが舞台でこちら側が観客席のように感じられた。
「……」
――これは……こういうものなのか?
誰かに見られながら風呂に入るなんて、初心者にはハードルが高すぎる気が……。
ていうか、俺はともかくさゆちゃんは嫌じゃないんだろうか。
あれこれ余計な考えを巡らせる俺をよそに、さゆちゃんは慣れた手つきで風呂の栓をし、蛇口から吐き出されるお湯の加減を確かめている。
すると、立ち込めた湯気によって次第にガラスが曇り、さゆちゃんの姿がぼんやり霞み始めた。
――なるほど。
これで丸見えではなくなるというわけか。
安堵半分、がっかり半分で肩の力が抜け、俺はそのまま後ろにごろりと寝転がった。
鏡張りの天井に映った間抜けヅラと目が合い、軽蔑を込めた視線を送ると、それはそっくりそのまま俺に跳ね返って来た。
――もしかして、さゆちゃんは慣れてるのかな、こういうとこ。
落ち着いた様子だし、少なくとも初めてではないように思える。
ガラス張りの風呂にも動じなかったし、色々と手際もいいし。
意外と経験豊富なのかもな、などと考えてから、いやいや、と思い直す。
きっとさゆちゃんが特別なわけじゃない。
それくらいで普通なのだ。
高3も終わり近くなって初ラブホだなんて、……遅れを取ってるのは俺の方だ。
ため息をつきながらぐるりと身体を返してうつ伏せになる。
焦燥感と羞恥心のようなものが湧き上がり、ジワリと胸を焦がした。
自分の経験不足が恥ずかしく、虚しい。
――まあ、今さらしょうがないんだけど。
実際、色恋沙汰とは縁遠い高校生活だったんだし――。
「……」
いや。――違う。
本当は俺だって、こういう場所にまったく縁が無かったわけじゃない。
『――私、今夜は遅くなるって、お母さんに言って来たの』
耳元に蘇った、微かに震える、囁くような声。
あの時も、今日みたいに冷え込んだ夜だった。
1年以上も前のことだ。
当時付き合っていた彼女と久しぶりに遊んだ帰り道。
駅に向かう途中、通りかかったホテルの前で、彼女は俺の手を握って立ち止まり、そう言った。
『もう少し、新太くんと一緒にいたい』
彼女なりに勇気を振り絞ってくれたのだと思う。
あの時、俺は恥ずかしそうに俯く彼女の背中に手を添え、そのままホテルに入りさえすればよかったのだ。
でも、――。
『今日はもう遅いから、帰ろう』
俺は彼女の精一杯の勇気を踏みにじった。
翌日から始まる遠征合宿のことで頭がいっぱいだったから。
隣で顔を伏せたままの彼女の手を引きながら、俺は明朝の出発時間から逆算し、何時に起きればいいかを考えていた。
――俺、今まで何やってたんだろ。
バレーボールに夢中になっているうちに、気付けば高校生活も残り少なくなってて。
もちろん、他のことと部活を両立できない不器用さは自分の責任だ。
というよりもむしろ、――バレーボールのために他の全てを犠牲にすることを、俺はどこかで快感にも感じていたんだと思う。
これだけ頑張っているんだから必ず報われる、なんて。
だから色んなことを我慢して、わき目もふらずに必死で突き進んで。
蓋を開けてみれば、結果は出せずじまい。
高校3年にもなってロクな恋愛もしたことがない、ただの童貞ヤローの出来上がり。
――なんつーか俺、……めちゃくちゃ、ダセェ……。
情けなさのあまり目の奥に微かな熱を感じ、急いで目を閉じる。
バレーボールなんか、最初からやらなきゃよかった。
どんなに努力しても、どんなにバレーが好きでも、チームから必要とされなければそこに意味なんてない。
全部無駄だったんだ。
俺の中学からの6年間は、無かったのと同じ。
「――コート、シワになっちゃうよ」
うつ伏せのまま顔だけ向けると、いつの間にかベッドの傍らに立っていたさゆちゃんがこちらを覗き込んでいた。
黙って見上げていると、不思議そうに目を瞬き、首を傾げて長い髪を耳に掛ける。
「ハンガーに掛けるから、ちょうだい」
こちらに差し出された、細長い手のひら。
俺はその手を掴み、力任せに引き寄せた。
キャッ、というか細い悲鳴とともに、さゆちゃんがベッドに倒れ込む。
入れ替わりに身体を起こし、間近から見下ろした彼女の目は大きく見開かれていた。
顔にかかったきれいな髪を、そっと人差し指で除ける。
陶器のようにきれいな頬は、ほんのり紅く染まっていた。
「新太くん、……」
ゆっくり顔を近づけると、艶のある綺麗なまつ毛が微かに震えた。
顔を背けられるかな、と思ったけれど、彼女はそうしなかった。
置き場のわからなくなった視線だけが、ぎこちなく逸らされる。
「……待って。コートがシワになっ……」
さっきと同じセリフを繰り返そうとした彼女の唇を、俺は強引に塞いだ。
――女の子って、なんでこんなに甘い匂いがするんだろう。
吸い付くように柔らかな、少し冷たい唇を舌でこじ開けると、さゆちゃんは切なげに呻いた。
遠慮がちな手のひらが俺の背中を伝い、そっと首に巻きつく。
……やべえ。
このままだと思考が停止して、――サルになりそう。
身体が燃えるように熱を帯び、激しい鼓動が頭の中を隙間なく埋めていく。
薄いニットの裾を探り、手のひらを滑り込ませる。
塞がれた唇から、ん、と微かな声を上げ、さゆちゃんは逃れるように身をよじった。
――このまま、何も考えられなくなればいい。
頭が空っぽになって、俺自身も空っぽになって。
そのまま、全部捨ててしまおう。
バレーへの想いも、注ぎ続けた情熱も、小学生の頃の無邪気な夢も。
だってそれは、どうやっても取り戻せないのだから。
惜しむ必要なんてない。
もう、俺にはいらないものだ。
『――新太くんのジャンプサーブは本物だと思う。これからもがんばってね。大学のバレー部で会おう』
胸の奥で何度も繰り返し再生し、励みにしたユキエ先輩の言葉。
あの時、舞い上がった俺は先輩に何と答えたのだろう。
自分にはバレーボールしかないと、――チームから必要とされていると信じていた、あの頃の俺は。
――ユキエ先輩、すみません。
約束、守れませんでした。
俺のバレーは、ここまでです。
瞼の裏で、ユキエ先輩の面影が少しずつぼやけ、滲んでいく。
そして、――。
入れ替わるようにして浮かび上がったのは、椎名さんの笑顔だった。
――そうか……。
俺は、逃げたかったんだ。
過去の自分と今の自分を切り離したくて、椎名さんの包み込むような優しい笑顔にすがろうとした。
そして、それが叶わないと思い知らされた今、
――今度はさゆちゃんに逃げ込もうとしている。
「――どうしたの」
ゆっくりと体を起こした俺を、さゆちゃんは戸惑ったような表情で見上げていた。
その瞳の中に、救いようのないほど情けない自分の顔を見つけ、やれやれと息をつく。
「ごめん。調子に乗りすぎた」
「……」
たくし上げたセーターの裾を引き下ろし、さゆちゃんの隣にドサリと仰向けになると、二人の姿が天井の鏡に映った。
こうして並ぶと、明らかにさゆちゃんの方が大人びて見える。
身長があまり変わらないせいもあるかもしれないが、高校生のカップルというよりはまるで姉と弟みたいだ。
「さゆちゃんはうすうす気づいてると思うけど。本当は俺、こんなことする度胸ないんだ。……カッコつけてごめん」
「……」
「なんか、あんな風に誘った手前、引っ込みつかなくなっちゃったんだよね。
まさか本当に誘いに乗って来るとは思わなかったから、――」
そう言いかけて、苦笑する。
「いや。ごめん、それも嘘。……あんな風に言えば、さゆちゃんはきっと負けず嫌いだから断らないだろうって、ちょっと思ってた。だから、わざと挑発するような誘い方、した」
天井に貼り付いたさゆちゃんは、静かな表情で俺の顔を見ていた。
しばらく鏡越しに見つめ合った後、隣から呆れたようなため息が聞こえた。
「そんな風に見える?」
「……え?」
「私、……ちょっと挑発したくらいで簡単にホテルについてくるような女に見える?ってこと」
「……」
首を巡らせてさゆちゃんの方を見ようとした瞬間、目の前にボスッと枕が押し付けられた。
引き下ろすと、こちらを軽く睨むさゆちゃんの視線とぶつかる。
むっと口を尖らせた表情が、何だか子供っぽくて可愛かった。
「そんな風に見えるか見えないかって聞かれたら……」
「見えるんでしょ?」
「いや、見えない。……けど」
「けど?」
「けど、……そう見えなくても、実際そうじゃん。さゆちゃんは現にこうしてよく知らない相手と一緒にホテルにいるわけでしょ」
「……」
さゆちゃんの眉が、きゅっと中央に寄せられた。
「新太くんて、意地悪だよね」
「そう?」
「理屈っぽいし、女の子に優しくないし」
「まあ、それは自覚してるけど」
「だいたい、よく知らない相手だなんて決めつけないでよ。新太くんにとってはそうでも、私にとっては――」
「……?」
さゆちゃんはプイと寝返り、枕を抱くようにしてこちらに背中を向けてしまった。
わけが分からずポカンとしていると、少し間を置いてから、細い肩の向こうから小さな呟きが聞こえて来た。
「……私にとっては、違うんだから……。私は見てたもの、ずっと前から、新太くんの試合。――コハルの後ろで、いつも」
「――」
勢いよく体を起こすと、ベッドのスプリングが軋み、ゆらりと身体が弾んだ。
「……コハル?」
身を乗り出して上から覗き込むと、さゆちゃんは抱いた枕に顔を埋めていた。
こちらを向かせようとしたが、強情な肩はピクリとも動かない。
「さゆちゃん、――小春を知ってるの」
混乱したまま、問いかける。
それは、久しぶりに口にした、俺の唯一の元カノの名前だった。
さゆちゃんの手が、ぎゅっと枕を握り締めるのが見えた。
「知ってるよ。同じ中学だもの。それに……。新太くんのことも、知ってた。……中学の時は私も、小春と同じバレー部だったから」
マジで、と思わず漏れた俺の声は、お湯が満タンになったことを告げるお風呂のメロディーコールにかき消された。
*****
記憶が一気に遡る。あれはもう、4年以上も前のことだ。
小春と初めて知り合った、中学の都大会。
2年だった俺は既にレギュラーで(思うにあの頃が俺のピークだった)、高揚感冷めやらぬ試合後の会場で、隣町の中学の女子バレー部だった小春が「連絡先を交換したい」と声をかけてきたのだ。
――いや。
正確に言うと、実際に話しかけて来たのは小春の友達だった。
『あの子が、良かったらここにメールしてだって』
自分の背後を親指で示し、小春の友達は1枚の紙切れを差し出した。
ちらりと視線を向けると、柱の陰でもじもじしている女の子――小春が、遠目にも可愛い子だと分かった。
『あ、そう。……練習忙しいから、出来るか分かんないけど』
ガッツポーズしたくなるほど嬉しかったくせに、妙なカッコつけ方をしてから手を伸ばすと、紙切れがスッと逃げた。
『忙しくてもメールくらい出来るでしょ。アドレス受け取るなら絶対、してあげて。短くてもいいから。しないつもりなら今、はっきり断って』
偉そうな女だな、と思った。言っていることが正論なのが余計に気に入らなかった。
顔は覚えていない。ポニテのかなり背の高い子だったことは記憶にある。そして、――その時の彼女が、やけに機嫌が悪く、無愛想だったことも。
「もしかして、……あの時の?」
さゆちゃんがゆっくりとこちらに顔を向けた。
その目は赤く充血し、うっすらと涙が浮かんでいる。
「言わないつもりだったのに……新太くんがイジワルなこと、言うから」
ず、と鼻を啜り、恥ずかしさを誤魔化そうとするような、責めるような目でこちらを見上げる。
「わたし、新太くんのこと、……小春と付き合うことになったから、がんばって諦めたんだよ。なのに……。――どうして、別れちゃったの。……どうして、小春にもっと優しくしてあげなかったの」
「……」
俺はゆっくりと体を起こした。ベッドの上で正座し、自分の両膝を握り締める。
何も言えなかった。さゆちゃんの“どうして”に、俺は一つも答えられない。
背中を丸めて項垂れていると、さゆちゃんも起き上がり、俺の方に向き直った。
「もう、新太くんに会うことはないだろうなって思ってた。わたし、バレーやめて高校ではテニス部に入っちゃったし。だから、……合コンで再会した時、ホントにびっくりして」
そこで、何やら恨みがましい目をこちらに向ける。
「再会できたことは嬉しかったけど、ショックだったんだから。わたしのこと、まったく覚えてないし」
「――それは……」
そこは思わず反論する。
「しょうがないと思う。俺じゃなくても気付けなかったよ。だってさゆちゃん、すごく綺麗になったし」
「……」
さゆちゃんは怒ったようにむっと唇を尖らせたかと思うと、――徐々に顔を赤く染めていった。
口を開きかけたが、言い返す言葉が思いつかなかったのか、「バカ」とだけ呟く。
「……」
俺はその表情をまじまじと見つめた。
これは……。
喜んでる、のか?
罵倒でもされるかと身構えていたところを拍子抜けし、頬が緩みそうになるのを寸前で堪える。
つい口走った本音だったが、思いのほか効き目があったようだ。
「……さゆちゃんてさ」
「なに」
「素直じゃないよね。プライド高いし」
「……」
今度はショックを受けたのか、眉がふにゃっと八の字になる。
意外なほど分かりやすい反応に、俺はふっと笑った。
「ひどい。どうして笑うの」
「笑ってないよ」
「笑ってるじゃない」
「まあ、いいじゃん。俺はかわいいと思うよ、そういうとこ」
「ちょっと、……もう、いいからやめてよ……」
恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、さゆちゃんがグーで俺の胸元にパンチを打ち込む。
かなり効いたが、代わりにいい表情を見せてもらったのでダメージはプラマイゼロ。どちらかというとプラス寄りだろう。
――”素直じゃなくて、プライドが高い”か。
それはそのまま自分にも当てはまるな、と思った。
俺たちには、わりと似たところがあるのかもしれない。
「……新太くん」
「ん?」
「ひとつ、言ってもいい?」
「なに」
少し迷ってから、さゆちゃんが続ける。
「わたしね。ずっと、伝えたかったことがあって、新太くんに。もう本人に言う機会はないだろうって、思ってたけど……。このままじゃ、ずっと引きずっちゃいそうだから。
今、伝えるね」
「……?うん」
彼女は俺の手を大切そうに両手で包み、軽く深呼吸してから口を開いた。
「合コンの時、新太くんがバレーボールやめたって聞いて。すごく、ショックだった。やめてほしくないって、思った。新太くんのバレー、大好きだったから。憧れだったの。しなやかで、それでいて力強くて。試合の時、新太くんのことだけ目で追ってた。ずっと見ていたいって感じた」
うるんだ目が、真っ直ぐにこちらを見上げる。
「バレーボールをしてた新太くんが、好きだった。この気持ち、忘れないから、わたし。
何年も前のことだけど、今でも、目を閉じると浮かぶの。コートの中に居る新太くんの姿。
もう新太くんのプレーが見られないのは、悲しいけど。――これからもこうして、ずっと覚えてるから」
そう言うと、さゆちゃんは少しだけ微笑んだ。
「それだけ。……聞いてくれてありがと。すっきりした」
「……」
熱いものがじわじわと込み上げ、胸がいっぱいになる。
俺は「うん」とだけ言って声を詰まらせた。
続きの言葉を呑み込んだまま、さゆちゃんの身体をしっかりと抱きしめる。
嬉しかった。本当に、泣いてしまいそうなくらい。
――今、分かった気がする。
コートを去ってから俺はずっと、何か忘れ物をしたような気がしていた。
どんなに言い聞かせても、どうやってもフッきれなくて、何度も後ろを振り返って。
その忘れ物の正体が今、分かった。
もしかしたら俺は、バレーボールをやめたことを自分以外の誰かに責めてほしかっただけなのかもしれない。
引退を惜しまれたかった。誰かに「続けてほしい」と、「やめてほしくない」と言ってもらいたかった。
自分がバレーに賭けた日々が、少なくとも無駄ではなかったと、そう思いたかったのだ。
やめる覚悟はとっくに決まっていた。なのに、そんな女々しい思いだけが俺の脚を引っ張り、前に進ませまいとしていたんだとしたら……。
「……ガキだな、俺は……」
泣きたい気分でそう呟くと、さゆちゃんの手のひらが俺の頭を優しく撫でた。
否定も肯定もされなかったが、赦された気がした。ずっと沈んでいた心が少しだけ軽くなった。
「さゆちゃん」
「ん?」
「実は俺、いま泣きそうなんだけど」
さゆちゃんは俺の顔を見て目をぱちぱちと瞬いてから、ふふ、と笑った。
「いいよ、泣いても。憧れの彼女には黙っててあげる。それから、稲垣くんにも」
さすがに泣き顔は見せたくなかったので、俺は部屋の灯りを落とした。
考えてみたら、バレーをやめたことで泣くのはこれが初めてだ。
閉じ込めていたものをすべて流し終え、そして、この涙が乾いたその時、――。
俺は今度こそ、言い訳ナシで前に足を踏み出せるかもしれない。
バレーコートの中の忘れ物を、誇らしさと思い出に替えて。