悲しみのロンドン
世界を代表する金融街ロンドン。そのロンドンが今、苦境に立たされている。テロ、大火災。美しい町並みと気概に溢れた英国人のプライドが傷付く事態が続くロンドンは今後どのように変化していくのだろうか。
テロの脅威に立ち向かうロンドン市民
ロンドンのみならず、欧州全体での危機として「テロ抑止」が最大の課題であることは周知の通りだ。ISに感化されたホームグロウン型の犯行が跋扈するなか、各国の治安当局はいかにテロ攻撃を未然に防ぐかが国家運営の最優先課題といえる。パリ、ブリュッセルなどの大型テロは国家を揺るがす一大事であるが、昨日起こったロンドンでのテロも衝撃的だった。
ライブ会場といったソフトターゲットが狙われたことは非常にショックな出来事である。多くの人が集まる場所を狙った残虐性はロンドン市民の悲しみと怒りを最高潮に高めた。しかしその怒りをどこにぶつければいいのか。その戸惑いと不安が現在のロンドンを作り上げているといっても過言ではない。
テロ攻撃後、テロに屈していけないことをよくわかっている彼らは、テロ犠牲者を追悼するコンサートに参加した。それは犠牲者を悼む目的だけではなく、「絶対テロを許さない」という強い表れである。
もし日本が同じ目に遭ったら、我々日本人は英国人のようにテロに立ち向かう姿勢を共有できるのだろうか?と疑問に思う。国民性の違いはあれど、世界中で「テロ根絶」が叫ばれるなかで、日本政治と日本国民はそれに対応できているだろうか。ロンドンテロから私達が学ぶことは多い。
トランプ現象を生んだ不満爆発が起こる懸念
テロだけでなくロンドンの苦悩は続く。ノース・ケンジントン地区にある公営住宅グレンフェル・タワーで14日未明に火事が発生したのだ。たちまち火は燃え広がり全焼。18日現在、58人が死亡。犠牲者はさらに増えると見られる。火災の原因は建て替え工事の際に、可燃性の外壁材が使用されたからではないか、と言われている。
公営住宅で、しかも建築基準に満たない外壁材が使われていた。テロ、そして火災へと繋がるロンドンの不運は言葉にしがたい悲しみに溢れている。その表れが国民の不満として爆発するのも時間の問題である。
ロンドン各地で政府に対する抗議デモも発生している。火災事故の被害者への支援が不十分だというのだ。これを受けてメイ首相は「政府として、原因を徹底的に究明する。住民に住居を提供する。そうしたことが確実に実施されるようにする」と表明。早速7億円近い基金を立ち上げたが当分ロンドン市民の不満は収まりそうにないだろう。
トランプ大統領が大統領選に勝った理由として、白人層の不平不満を代弁した発言が支持を得ることに繋がったからだ、という意見が多く見られる。
ロンドンの場合、テロの恐怖と政治への不信感。この両者はメイ政権にとって大きな誤算であり、大きな不安材料である。EU離脱を決めた英国はさらに内向きな姿勢に転じるのではないかと予測する。
テロを防ぐにはまず過激思想の封じ込めと、テロリストの流入阻止が肝心になってくる。しかし前者は容易なことではないため当局による捜査次第という側面はあるが、後者は政策次第である。
英国民がテロ抑止を理解するならば、恐らく難民の受け入れも、移民の受け入れも、これまでの柔軟な姿勢から一転するだろう。そうなればイスラム過激派と欧米社会との対立はより鮮明になり、新たなテロを生む原因になりかねない。完璧な解決策は存在しないが、英国が今後も世界に一定の影響力を持つならば、国際協調の姿勢を保つべきである。
JAPAN IN THE WORLD編集長
Mitsuteru.O
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