高妻山(たかつまやま)戸隠富士から周辺の絶景を展望。
新潟県妙高市と長野県長野市の間には戸隠連峰が並んでいます。その中で最高峰となるのは高妻山であり日本百名山として管理されています。
戸隠連峰の代表は以下の7つです。
①西岳②本院岳③戸隠山④九頭龍山
⑤五地蔵山⑥高妻山⑦乙妻山
①~④は戸隠表山、⑤~⑦は戸隠裏山と呼ばれています。高妻山を目指すためには、戸隠裏山の登山ルートを歩くことになります。
この時期はすでに梅雨入りしていましたが、気象庁の晴れマークを見た友人が慌てて登山計画を立案しました。朝7時スタートに合わせて地元を深夜に出発し、自動車を交代で運転しながら市営戸隠キャンプ場を目指しました。キャンプ場内に入ると、正面(西側)に戸隠連峰が綺麗に見えました。
左には戸隠山、九頭龍山が並び、右側には五地蔵山があります。真ん中の窪んだところが戸隠表山と戸隠裏山の境目になり、往路はそこを通過してから高妻山を目指すことになります。高妻山は戸隠裏山の奥に位置するため、ここからは確認することができません。
後ろ(東側)を見ると、筑波山のような孤峰がありました。これは長野県の「信濃富士」と呼ばれる標高2053mの黒姫山です。それに対して、高妻山も「戸隠富士」と呼ばれています。
市営戸隠キャンプ場から登山口までの時間は、寄り道をしなければ30分もかかりません。そのため、このキャンプ場内に溢れる緑や景色を楽しんでから山に登るのもいいかもしれません。この分岐路では、左に進むと一不動・大洞沢コースの入口になります。
上の写真の分岐点で真っ直ぐに進むと、小屋の中から鳴き声が聞こえました。小屋の中にはモグモグと口を動かしている動物がいました。このキャンプ場に広がる芝生や動物を見ながらアルプスの少女ハイジをイメージしました。
その先では、すごい重低音で遠くから何かを叫んでいる牛がいました。雌と雄が柵で分けられ、雄が発情することで大きな鳴き声が牧場内に響き渡っています。東北の牧場に行ったときはすごい匂いが漂ってきましたが、ここではそういったものを感じませんでした。
向夏の時期は植物が元気に育っていくように感じます。私はこの木、葉、花、空、地の色によって普段のストレスが一気に吹き飛びました。登山前から満足度が溢れてしまうくらい自然豊かな場所になります。
分岐路に戻り一不動・大洞沢コースの入口を目指すと、五地蔵桜があります。この後ろを見ると再び分岐点になります。
左に抜けると一不動・大洞沢コース、直進することで弥勒尾根新道コースになります。どちらも五地蔵山の上で合流しますが、登りは1時間の差が出てきます。高妻山頂上までの所要時間は一不動・大洞沢コースで4.5時間、弥勒尾根新道コースで3.5時間となります。
私が選んだのは、一不動・大洞沢コース。ここを真っ直ぐ歩いていけば登山道入口に到着です。
ここからが本格的な登山道です。看板に「おるまい・とるまい」と書かれていますが、植物を折ったり採ったりしないようにという方言でしょうか。地元住民は地域の人たちに対して呼びかけているものではないはず。他県から観光で訪れる人に呼びかけているのであれば、伝わりやすい言葉で明確に標示した方が効果は高いと思いました。
戸隠連峰の登山ルートの特徴は、石や岩に赤い矢印が書かれているところです。奥多摩に比べると、分岐地点は少ないため、この矢印を辿っていくことで高妻山の山頂に到達することができます。さっそく渓流がありましたが、橋はなくても向かい側に矢印があれば飛び越えていくしかありません。
あんなに太陽の日差しが眩しかったはずが、ここでは溢れた樹木や植物によって日陰になっていました。でも、こう配はそれほど急ではなかったため、大自然に癒されながら歩くことができました。
登山道のスタート付近や標高の低い位置は森林の管理がしやすくなっているため、針葉樹の植林が多く見られます。しかし、ここは植林がほとんどないため、広葉樹の割合が多くなっています。
しばらく歩くと雪のある場所へ到着しました。体は熱くなっているため、雪が残るような気温には感じませんでした。向側で一人の男性が足を何度も滑らせながら雪の中を歩いていきました。
地元の登山者から、毎年この登山道が雪崩によって変化しているということを解説していただきました。橋がなくなったり、道が広くなったり狭くなったり、大木が道を塞いだり。上の写真が例のように、今年も登山道が変化しています。
沢のルートでは、優しい渓流の音と鳥の鳴き声が周囲に響いていました。しかし、岩や石が多く、景色ばかりに気をとられてしまうとすぐに次の一歩を踏み外してしまうような条件になっています。足元は常に濡れているため、転倒することで登山服が汚れてしまいます。
木陰がなくなると同時に、急こう配が増えていきます。このような場所は急斜面で高い樹木が倒れやすいため、日差しが良く当たりやすくなります。下から見上げると木が少ないために視界が良く歩きやすそうに感じます。しかし、雪崩や土砂崩れが頻繁に起きやすい条件をもっているため、足元の条件は安全とはいえません。
まさか6月になって雪の上を歩くことができるとは思ってもいませんでした。6月の高妻山は、平均気温が7℃、日中は4~12℃の気候になっています。ここら辺は夏に向かって雪が溶け始めているため、雪の上は滑りやすくなっています。また、ここら辺は急こう配になっているため、速さよりも慎重さを重視して登らなくてはいけません。
上の写真は高妻山を紹介する上で有名な経由地点です。「滑滝」と呼ばれ、その端側に2本の鎖が設置されているため、それを利用して上まで登る場所になっています。前の人が使用している鎖を自分も持つことでお互いのバランスが確保できなくなるため、1つずつ鎖を保持して登ることが安全な方法になります。降水量の多い日やその翌日は渓流の水量が増加するため、滑滝の端側まで渓流が太くなることを想定して登山日を計画しなければなりません。
滑滝の上には帯岩が横に広がっています。上の写真では、登山者が向側へ移動しています。はっきりとした層の上を歩くわけではありません。鎖が横に架けられているため、それにつかまりながら斜面から落ちないように横移動することになります。
ここまではほとんど後方(東側)を振り返ることはありませんでした。帯岩の真ん中から東側を振り返ると、こんなに綺麗な景色が広がっていました。鎖につかまりながら片手でカメラを取り出し、景色にピントを合わせているだけでカメラを下に落としそうな恐怖感が高くなりました。
帯岩の向側にも滝があります。滝を下に見下ろした状態で撮影してみました。苔が豊富に生えているため、滑落すると勢いよく下まで降下しそうな場所です。
帯岩の滝を越えると「氷清水」という水場のポイントがあります。登山ルートの中で、ここまでは休憩できるようなスペースがありませんでした。一気にここまで上がってきたため10℃以下でも寒さとは無関係に発汗が多く、500mlのペットボトルを丸ごと1本飲んでしまいました。
登山中は飲料水の調整はとても大切になりますが、水場を目の前にすれば水分を惜しむことはありません。空いたペットボトルに湧水を補給すればいいこと。よって、登山をする上で、事前に登山マップから水場の数や位置を調べておくと脱水状態を防止することができます。
氷清水から10分程度で最初の分岐地点に到着します。右側は、五地蔵山→高妻山のコース。左側は、九頭龍山→戸隠山→本院岳→西岳のコースになります。右側へ進む前に左側に「一不動避難小屋」があるため、そこで休憩をしました。扉の内側は上の写真のとおりです。
一不動避難小屋から北方を見上げると五地蔵山が目の前に見えます。しかし、ここから見えるとがった部分は五地蔵山の頂上ではなく、更に奥へ進まなければならないため高妻山の確認ができません。
一不動避難小屋から南方には九頭龍山があります。市営戸隠キャンプ場に入場してから一不動避難小屋までは1時間で到着することができました。急ごうとしなくても休憩ポイントに使用できる場所がないため、ここまでの距離が長くても所要時間はそれほどかからないことが分かりました。
一不動避難小屋で十分な休憩をとり、五地蔵山の山頂に向かって歩き出しました。ルートの幅は狭く、周囲の木の枝や根をつかまりながら段差を登る場所が多くなります。その木の隙間から西側に雪倉岳、白馬山が見えてきます。向側は高妻山より標高が約600mも高い場所になります。
20分程度の急傾斜を登ると「二釈迦(にしゃか)」というポイントがあります。
下を見渡すとスタート地点からかなり高いところまで上がっていることが分かりました。遠くには低い位置で霧が広がっていました。梅雨の時期の特徴として、日中は日射により気温が高く夜間は太陽がないため気温が低くなります。気温が低くなると空気中に水蒸気が発生し、植物に水滴が付着します。翌日の日の出が来ると冷たい空気に向かって霧が移動します。川の上空や山の気温は気温が低いため、山霧や川霧が集まりやすくなるのです。あの写真にある霧の下には川が流れているため、川霧になります。
五地蔵山からの稜線は狭くて道幅が1m程度になります。写真では頑丈な地面に見えますが、端側を歩くことで地面が沈んでいきます。そのため、簡単に大きな石が下に転がっていくため、下の登山者に怪我を負わせる危険性も考えられます。
しばらく進み、西側を見ると「高妻山」が見えてきました。高妻山は戸隠富士と呼ばれています。上に向かって鋭い綺麗な形が印象的でした。他の登山者も足を止めて何度も撮影している姿が見られました。それにしても、こんなに高妻山が遠くにあるとは思いませんでした。一不動避難小屋まではあっという間に到着できたため、山頂までの到着時間をそれほど気にしていませんでした。
次のポイントは「三文殊(さんもんじゅ)」です。ここも足元は絶壁で景色を見渡せるところですが、山霧がすぐ近くまで移動してきていることが分かりました。
前の方から「ちょ…!!ちょっと待ったぁぁ…!」という声が聞こえてきました。最初は大木に潰されて倒れているのかと思いましたが、倒れた後の大木の下をなんとかして潜っていたようです。笑って見ていた自分も、実際に潜ってみると叫びそうになるような狭さでした。
また眺めのいい場所へ到着するはずが、目の前を見ると先ほどよりも山霧が目の前に押し寄せています。足場の狭い稜線でこの霧に包まれると滑落リスクが高くなるため、歩くペースを速めました。
次のポイントは「四普賢(しふげん)」で、ここまで2時間半が経過していました。
四普賢を過ぎたところで山霧に包まれてしまいました。夜間に発生した水蒸気が気温の低いところに集まり霧をつくり出します。しかし、気温の低さを感じさせないほど激しい登りが多くなっていきます。
「ひゃ~、またかよ…。」というほど稜線では倒れた木に出会います。ここを通過した後、「五地蔵山」という標識が見えました。ここで直進していく人はどんな人なんでしょう。ここで右を選択し、五地蔵山での山頂からの景色を観なければ損をしてしまいます。
五地蔵山は標高が1998m。市営戸隠キャンプ場の駐車場をスタートしてから3時間が経過していました。
五地蔵山の山頂から東側に見えるのは、左側から新潟焼山、火打山、妙高山です。この3つの共通点は活火山であることです。新潟焼山は日本三百名山で、火打山と妙高山は日本百名山になります。火打山と妙高山は山小屋宿またはテントを利用すれば、二つの日本百名山を2日間で縦走できることになっています。
五地蔵山の山頂から南側は、そのまま雲の上を歩いて向側に歩いていけそうな景色が観れました。
次のポイントは「六弥勒(ろくみろく)」です。一不動避難小屋の通過以降は、ここが2つ目のコース分岐地点となります。左を選ぶことで高妻山への山頂ルートとなり、右を選ぶと市営戸隠キャンプ場まで難易度を下げて下山できる弥勒尾根新道となります。こちらは2001年10月に新しく開通したルートであり、それによって高妻山を訪れる年齢層の幅が広くなっています。
「六弥勒」を越えるとコース上に残雪が多くなってきました。
次のポイントは「七薬師(しちやくし)」です。後ろ見ると、朝から歩いてきた稜線が見ました。
「六弥勒」、「七薬師」を通過すると、ルートの方向は北西から西にカーブし、高妻山の姿を真正面で確認できます。本来は、標高が高くなると生物が生息しづらくなる環境になります。富士山でも6合目を過ぎると植物がなくなるため、昆虫や動物も生存できない環境になっているのです。高妻山は隣の百名山妙高山との標高差がほとんどありませんが、山頂付近までしっかりと植物が生えていることです。そのため、植物に溢れた高妻山は、周囲の山よりも綺麗な紅葉が期待できると考えられます。
目の前に見える山は長野県長野市にある黒鼻山と東山で、どちらも標高は1800mになります。
次のポイントは「八観音(はちかんのん)」ここを過ぎるとコース上に鎖やロープが設置されています。腕を組んで歩いていた人も両手をフル活用させて高い段差をひとつずつ登っていきました。この山の特徴として、後半からストックをリュックに収納してよじ登る場面が何度も出てきます。後半はほとんどストックを使用せずに周りの岩や枝につかまって登ります。
次のポイントは「九勢至(きゅうせいし)」です。頂上が近くに見えてきました。高妻山は植物が多いため、標高が高くても昆虫が生息しています。小さな蝿や蚊のような虫が顔の周りを飛び交ってきます。前の方で帽子やタオルをバタバタさせながら虫を追い払う人が多くいました。
次のポイントは「十阿弥陀(じゅうあみだ)」です。十阿弥陀周辺はごつごつとした岩の上を歩くことがほとんど。足の裏全体を着いて歩けないため、バランスの保持が困難な場所になります。
ここまで、1から10まで一不動(不動明王)→二釈迦(釈迦如来)→三文殊(文殊菩薩)→四普賢(普賢菩薩)→五地蔵(地蔵菩薩)→六弥勒(弥勒菩薩)→七薬師(薬師如来)→八観音(観音菩薩)→九勢至(勢至菩薩)→十阿弥陀(阿弥陀如来)という仏様が並んでいます。
仏様は十三仏いるとされ、高妻山頂上までは10の仏が並んでいます。高妻山頂上から隣の乙妻山頂上までは、ー十一阿閦(阿閦如来)→ー十二大日(大日如来)→ー十三虚空蔵(虚空蔵菩薩)が並んでいます。海よりも山の方が修験の場が多いため、お坊さんたちの多くは登山が得意だったことも想像できます。
朝6:50に出発し、11:50に山頂へ到着しました。よって、山頂までの所要時間は5時間となります。この写真の靴に泥がついてたり、汚れているのは分かるでしょうか。渓流や雪の上、それが溶けた跡を歩くことで靴が汚くなってしまいました。
これは、信濃富士と言われる2053mの黒姫山。高妻山頂上から東側に見えます。
西側は雪倉岳、白馬岳が見え、南側にかけて立山、剱岳、鹿島槍ヶ岳が広がって見えます。
北側は目の前が乙妻山で、向側に日本百名山の妙高山と火打山が見えます。
山頂付近では大きな岩がたくさんあるため、その上で休憩をとりました。しかし、下を見ると少し震えが出てきてしまうような場所になっています。
6月に山桜を見ることもできました。頂上にしっかりと立っていますので、ぜひ山桜も確認してみてください。下りは今まで手足をフル活用して登ってきた場所を降りて行くことになるため、登山者も一人ずつ慎重に降りて行くルートになっています。大きな石が落ちても当たらないように、前後の間隔をしっかりとあけて降りていかなければなりません。
自分の身体に石を落されたくなければ、自分も下の人たちに落とさないような歩き方をしなければなりません。「自分がされたくないことは相手にもやらない。」子供の頃は素直にできたはずが、成人を越えるとできなくなる場面が出てきます。そういったとき、登山は社会人としてのマナーを身に着け直せる素晴らしい運動だと考えられます。そのため、登山は自分を見つめ直したり、変える鍵をもっているのかもしれません。