#139.ホールや狭い部屋で演奏するといつも通り吹けない場合の対処法
みなさんは音を出す場所によってコンディションが変化してしまったり、いつも通り演奏できなくなった経験はありますか?
例えば、狭く響きのない練習室で音を出していたら、自分の音が全然鳴っていないように感じ、妙に力が入って無意識に大きな音で吹いて短時間でバテたりヘトヘトになったとか、いつもは狭い音楽室でギュウギュウになって合奏をしていて、本番やリハーサルでコンサートホールで吹いたら自分の音がいつもより鳴っていないように感じ、吹きすぎてコンディションが崩れてしまったとか。壁がまったくない外で吹く場合も、ホールと似ている感覚に陥る場合があります。
これらに共通するのは「自分の音がいつもより鳴っていない」と感じる点です。
「いつもより」とは、いつも練習している場所で音を出している時に比べて、の意味です。
耳が何を捉えているか
冷静に考えて、自分の体と楽器が変わっていないのであれば、どこで演奏しようが何も変わるはずがありません。いつも通りの自分の音であり、それを生み出している自分の使い方も同じなずなのです。
しかし、とても狭い部屋やよく響くホールでコンディションに変化を起こしてしまうのは外的要因による「違和感」が原因です。まとめるとこのような傾向になりがちです。
狭く響きのない部屋の場合:
いつもはもっと鳴っているはずなのに!→もっと鳴らそう→吹き込みすぎ、圧力高めすぎ
コンサートホールの場合:
自分の音の「返し」を感じられない→聞こえていないのでは?という不安→吹き込みすぎ、圧力高めすぎ
どちらにも共通するのは、いつもあった「音の返し」の感覚が違うという点です。「いつも通り」耳で聞こえてくる自分の音の響きを求めて吹き込んでしまうわけです。この傾向が強い方は、自身の音の「外で響いている部分」を強く捉えているのです。
モニター
音を出す環境だけでなく、楽器やマウスピースが変わると、それだけで自分の音を捉える感覚の距離感や演奏をしている実感の強さが変わる、という経験をしたことはあるでしょうか。
例えば、いつもよりカップが浅かったりスロートが小さいマウスピースを使って音を出すと、空気の抵抗感が強くなります。抵抗感が強いと体はそれとバランスを保つため、しっかりした支える力 = キープするための力が必要になります。
一方で、フリューゲルホルンをVカップのような深いマウスピースで音を出すと、抵抗感が感じられないために自分の生み出した空気圧が全部楽器の中へと流れ込んでしまう感覚に陥りがちです。
この感覚の違い、これを自分の演奏している実感という意味で、モニターと呼ぶことがあります。
では、いつもあなたが使っている楽器とマウスピースで生み出している抵抗感や吹き心地はどのような感じですか?ベストバランスで演奏できている時の体の状態をインプットしてみましょう。
演奏する場所をいろいろ変えてみましょう
「自分はいつもこんな体の使い方、バランスで音を出している」と自覚できれば、どこで演奏していても変わることなく一定のレベルをキープすることができるはずです。
試しに、(できるなら短時間で)いろいろな空間で音を出してみましょう。同じ場所でも方向や遮られるものがあると感覚は変わります。ぜひ様々な条件下で同じ曲を演奏してください。空間の響きを耳で捉えるのではなく、自分のいつもの吹き方を貫いて演奏できますか?
これができると、「この空間では自分の音はこんな感じで聴こえるのか(でも自分はいつも通り吹いている)」と客観的に、そして冷静に捉えられるようになります。
少し乱暴な言い方かもしれませんが、演奏する空間に関して無関心でいられること、これがまず最初に手に入れたいスキルです。
最終的には、本番に向けてのコンサートホールでのリハーサル時にはその空間の響きに合わせて演奏スタイルを若干変化させる必要は出てきますが、それはモニターのスキルを手に入れてからの話です。
「吹き込む」意識に注意!
いろいろな場所でお話ししていますが、トランペットを演奏する際に「吹く」という動詞を使うのが日本語です。しかし「吹く」には吹き込む、吹き付ける、吹き消すなど、体を絞って体内の空気を外に送り出すイメージを持ってしまう可能性が高いです。ですので、私はレッスンなどで奏法面のお話しをする際は「吹く」ではなく「体の中に空気を溜める」と解説しています。
そもそも、トランペットのマウスピースにも楽器本体にも空気を流したところで音が発生する部分などどこにもありませんね。ですから、一生懸命吹き込んだところで疲れるばかりで何も得るものはないのです。音を発生させているのは唇であり、その唇は、体の中に空気の圧力が発生して、その圧力によって唇の隙間から漏れ出た少しの空気の流れが振動を発生させているだけで、トランペット本体はその唇の振動を共鳴させ、音楽的な音に変換するために存在している(+ ヴァルブで音の高さを変える機能)だけなのです。
ですから、練習環境の変化で「もっと吹き込もう」と思うことは絶対にNGですし、吹き込んでいる実感を覚えたら一旦リセットして冷静にもう一度音を出してみましょう。
ということで、今回はここまでです。
また次回!
荻原明(おぎわらあきら)
[今週末!まだ間に合います]
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