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癌治療

2017.06.25 03:44

私は内科医9年目である。3次救急病院や、大学病院での勤務を経ている間に、数多くの担癌患者さんを見させていただく事があった。救急病院でや大学病院では、入院患者さんの多くが急性期疾患を抱えている。急性期疾患というのは、数日~数週間のうちに悪化してしまう様な急性進行の疾患である。ひらたく言えば、肺炎や尿路感染症などが代表的なものだ。こういった急性期疾患の多くはGOALがある。肺炎であれば、肺炎の治癒、尿路感染症であればこれらの症状の改善である。

 一方で、こういった急性期疾患ではなく、慢性期疾患の一つとして癌をわずらっていらっしゃる患者さんも病院には多く集まって来る。癌は大きく分類すると2つに分類できる。そうあまりにも単純な区切り方ではあるが、「治る」癌か、「治らない」癌であるかだ。例えば同じ胃癌であっても早期であれば、高い確率で根治が望めるし、晩期で見つかった場合は、どんなに治療方法を重ねて根治しない事も多い。つまり、癌の種類がどうかとう問題が一つと、「いつ」見つかるか、という点が非常に意義が大きいのだ。同じ癌でも、早期にみつかるのと、晩期にみつかるのでは全くその後の予後が変わってしまうのだ。そういった意味で我々医師はいかに早く、病気を見つけるかという所に神経をさいている。早すぎる検査では、あまりに変化が微小で病気が見つからないこともあるし、遅すぎれば上に書いた結果が待っている。そして、早期に発見する病気の多くが、症状があるかないかまたは微細な変化の時の検査でみつかるのだ。我々はこう言った疾患を、多くの風邪や下痢などの安定した患者さんの中に紛れ混んだ、少しだけ毛色の違う状態を時間制限のある外来の診察の中で見つけていかねばならないのだ。これは時に非常に困難な時もある。

 私はこの9年間内科医療に携わる中で、数多くの癌患者さんを担当して色々と考える事があった。早期でみつかった癌患者さんの多くは、根治を期待できるため、外科へ紹介して、手術をしてもらう事が多い。カルテで経過を追うと、その後再発もなく順調にすごされている方も多く私はいつも外科の先生方の治療に感謝しており、しきれない程だ。そういった意味で、完治ができる患者さんの多くは他の科に紹介となり、治療を受けられるため、内科のもとに残られる方はあまりいっらっしゃらない。これは総合的に考えると患者さんにとって良い経過であり、非常に喜ばしい。

 一方で、外科的治療、根治治療が難しい場合は我々内科で治療を行う事となる。これは、最初から根治が難しい状況であるため、こういった状況を説明した上で治療を行う事になる。こんにちははじめましてから、検査を行って、これから治療を行うぞというときに「完治は期待できない。」というセリフを言葉にだして説明して、納得して頂くのは非常に難しい。もちろん、何カ月と治療をしていく中で、心の距離が近くなり段々と理解を示してもらえることも多いが、やはり先が見えている中で、明日への希望を保って頂きながら前向きに治療を受け続けて頂く事は難しい。

 こういった、晩期でみつかった癌の治療は非常に難しい事が多いので、私はできる限り少しやりすぎな程、外来の患者さんには検査を行ってしまう傾向がある。早期に見つけて、完治を目指す事が、実際に外来で症例を拾い上げていく内科医師の領分であると考えているからだ。本当の癌患者や稀な疾患だけを拾いあげれる能力が誰にでも備わっていればよいが、なかなかその領域には達するのは難しい。なので、私は「むむ、あやしいな」と少しでもひっかかる事があれば、検査をすすめる事にしている。検査で何も見つからなければ、それはそれで喜ばしい事であるし、何かみつかったとしても、より早期で見つける事で早期治療、予後の改善が期待できるからだ。これは医療は一部健康保険でまかなわれているため、やりすぎは禁物であるが、目の前の患者がもし自分の身内であったらどうするか、なども常に自分に問いただし、答えを出すようにしている。

 こういった、少し網羅的な精査が実を結んで、良い結果が生まれると外来を担当した医師としては、喜ばしい事がある。一方で、上に書いた根治が目指せない癌患者さんの治療進行は難しい。2年以上抗癌剤治療を行って、時に良い経過、おだやかな時間が過ごせる事があるが、期限付きであるのだ。あれだけ、入院したり、合併症を起こしたりしながらも、少しでも良い時間を過ごせるようにと外来で相談して進めてきた治療をしたのではあるが、ついには時がきてしまうのだ。長い間、1か月に1回以上外来で顔を合わせてきて、入院した後は毎日顔を合わせていて、時には意見がぶつかったりしながら、過ごしてきた時間が頭をよぎる。つまらない外来にならないように時候の挨拶も交えながら、治療についてこちらの意見と、患者さんの意見とをすり合わせて過ごしてきた日々。状態が悪い時に説明を行わせて頂いたご家族様の表情。色々な記憶がめぐって来る。「担当が先生で良かった」こういってくれる患者さんもいらっしゃる。本当であれば、根治を目指したかったが・・・。

 3次救急病院や大学病院では、末期の状態で数か月入院を続ける事は許されていないため、緩和治療のために転院されていく患者さんも多い。もう2年も治療をしてきたが、ついに転院になってしまう事もある。そういった時はやりきれない思いを抱えて家路につく。他に方法はなかったか、やれる事はなかったか。常に自分に聞いてみる。癌治療は難しいもので、こういった緩和ケアを専門的にやりたいという緩和専門の先生もいらっしゃる。私にはまだまだしばらくその境地にはおいつかない状況だ。今年の春にも2年治療をした患者さんでついに転院になった方がいた。まだ歩けるくらいの元気な状況で、笑顔で転院されていった。「先生も元気でな。お世話になったよ。」私も笑顔で送り出したのであるが、心には残るものがあった。癌治療はここ最近は進歩が目覚ましく、治療現場でも変化が起こっており今までと比べて圧倒的に予後が伸びる治療方法も確立されてきている。ただし、この患者さんの癌は、分子標的薬などの新薬が効果のないタイプの癌であったため、使用はできなかった。また、何十年後、新しい薬が開発されていればこの患者さんの未来も変えられたかもしれない。担当した医師としてはせめて、治療をさせてもらったこの数年間の時間が、患者さんにとってかけがえのない良い時間であった事を祈るのみである。

 これから先、新しい治療方法が多くの病気にとってかけがえのない未来を生み出す可能性があることを願って筆をおかせて頂く。