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【インタビュー】深見泰範さん - 金魚養殖場経営

2017.07.11 21:00

愛知県弥富市は「金魚と芝桜の町」を掲げているとおり、古くから金魚を名産品にしています。


市内に多く存在する金魚業者の中でも「深見ブランド」を確立されており、日本全国、いや世界の金魚愛好家から認識されている「深見養魚場」。

深見養魚場を経営されている深見泰範さんと深見有記枝さんにインタビュー取材をしてきました。


塩害の農地から偶然始まった養魚場

- 最初に深見養魚場の成り立ちを教えて下さい

この深見養魚場は、私の父である深見光春が昭和42年に始めました。

もう50周年になりますね。


深見養魚場がある弥富市鍋田のあたりは、農業をするために、農地として開拓されたエリアです。

しかし、海に浸かっていたことが影響して塩害が酷くて米や野菜の育ちが悪かったんです。


そこで、農業と兼業で何か商売をしないとと考えて始めたのが魚の養殖だったようです。


愛知の三河一色地方を参考にして、金魚養殖を始めました。


これがヒットして、農業をしなくても金魚養殖だけで生きていけるようになったんです。

最初は一坪池(3平米)が17面で始まりましたが、今は140面あります。


- 最初は狙わずして始め、養魚場として拡大してきたのですね。養魚場の特徴を教えて下さい

池が三種類あります。

ビニールが張られた池、コンクリート池、土壁の池。


実は金魚と言うのは、育つ環境によって品質やスタイルが変わってきます。

例えるなら、「田舎っぽい健康的なタイプ」だったり「都会的なスマートで綺麗なタイプ」だったり。


私の養魚場では、環境は恵まれていて品の良い「都会的なタイプ」がよく育ちますね。


- 環境によって金魚の質が変わるのですね

そうです。

環境や、育てた農家によって変わりますね。

同じ種類の金魚でも、見た目だけで誰の作品か分かりますね。

特徴が出ます。


鍋田地区は地下水を汲み上げられない地域で、木曽川から水を引いてコンクリート池を作るしかなかった。

それが結果的には功を奏し、良い水の環境を整えられました。


-養魚場の苦労はどんなことがありますか

まずは鳥害がありますね。

しっかりと対策しておかないと、鳥が金魚を食べに来ます。

食べ損なっても、くちばしで金魚に傷が付いてしまうので売り物にならなくなります。


昔は金魚農家が多く、池が分散していたので一つひとつの養魚場としては鳥害が深刻ではなかった。

しかし今は養魚場が減り、ひとつの養魚場に来る鳥の数が増えてしまいました。

より一層、鳥害対策が重要になりましたね。



また、金魚ヘルペス(疫病)も毎年の悩みの種です。

原因はハッキリしていないのですが、私は水から媒介されていると考えていて、水質や水温の管理を徹底しています。

たった2℃だけ水温が足りず、大事な金魚を亡くしたと言う苦い経験がありますね。

親子二代で守る深見ブランド

- 深見ブランドについて教えて下さい

深見養魚場で生まれた「桜錦(さくらにしき)」「青らんちゅう」「青秋錦(あおしゅうきん)」が有名で、深見ブランドや深見らんちゅうと呼ばれています。


- 桜錦とは?

桜錦は、父の光春が開発しました。


金魚の種類の中でも「らんちゅう」と呼ばれる、頭にコブがある丸っこい種類を父は好んで扱っていました。


当時、東京の秋山氏が「江戸錦」と呼ばれる赤、白、黒が斑に入った錦鯉のような見た目の種類を開発しました。

江戸錦には頭のコブがありません。


父は、この江戸錦にらんちゅうを交配させ、コブを作ることを目指して掛け合わせを始めました。

結果、頭のコブを作る事には成功しましたが、体の色から黒がなくなり、赤と白のらんちゅうができました。


狙いとは少し違ったものの、その綺麗な見た目から日本的な桜をイメージし、「桜錦」と名付けて新種として出荷したのです。

- 青らんちゅう、青秋錦について教えて下さい

これは、私が開発しました。

もともとは父の頭に構想があり、私が担当して育てたものです。


「青文魚」と言うコバルトブルーの色をした種類の金魚にらんちゅうを掛け合わせ、青いらんちゅうを作ったと言うものですね。


秋錦は、当時絶えつつあったのですが、こちらも青い種類を掛け合わせて固定化し、青秋錦として確立しました。

- 金魚の新しい種類を作ることとは?

金魚の掛け合わせと言うのは、すぐに結果が分からない、とても時間がかかることです。


第1世代だけでは思ったように結果が得られなくても、劣勢遺伝などの関係で、第2世代、第3世代まで育ててやっと結果が現れてきたりする。


深見らんちゅうは10年は掛かりましたよ。


新しい種類を作ると言うのはとても大変で、奇跡のようなことです。


私たち生産者が良いと思った品種が、市場の仲買さんや買い手(最終消費者)にも気に入ってもらえるとは限りませんから、生産者だけが良いと思っているかもしれない構想に10年以上の取り組みをするわけにはいきません。


生産者、仲買さん、買い手のニーズが一致した品種構想があり、実績や認知度もあり、なおかつ自分の代でたどり着ける交配でないといけない。


また、固定化させるのも難しいです。

1回きりであれば、比較的すぐ結果が得られることもあります。

しかし、それを固定化し、作り続けられると言うのは、かなりの実力、環境、運に恵まれないといけない。


深見らんちゅうとして親子二代、新品種を出荷すると言うのは奇跡のようなことなんです。


- 新品種開発では失敗もあるのでしょうか

失敗ではありませんが、ある構想を持って掛け合わせに数代でトライした結果、上手くは行きそうなものの、完成するまでには何十年も要しそうだと分かり、自分の代だけでは完成しないので辞めたと言うのはあります。

F1レーサーの夢から金魚養殖の道へ

-泰範さんご自身の成り立ちについて教えて下さい

父が経営していた深見養魚場で育ちましたから、幼少期から金魚養殖の手伝いはしていましたよ。

周りからも実家はすごい金魚屋だと言うのはなんとなく聞いて知っていました。

ただ、中学〜高校の時はF1レーサーになりたくて、すぐに継ぐ気にはならず「いつか結婚する時に継ぐかどうか考えようか」くらいに思っていました。


しかし、高校卒業時に父に選択を迫られました。

選択肢は継ぐか一生継がないか。

いつか継ぐという選択肢が無かったんです。


それで決心して継ぐことにしました。

昭和59年の話ですね。

もう30年以上前。

-修行もあったのですか?

ありましたよ。

継ぐと決めたら、次は父から「広島か新潟のどちらで修行するか」迫られました。

寒いのが苦手だなと言うくらいの理由で広島を選び、広島市で修行を積みましたね。


修行期間は人によって様々です。

早いと3年で終わる人もいる。


今は息子が修行中です。

次の代をしっかり育てて一人前にしたいです。


金魚養殖は、養殖の知識があるだけではできません。

金魚が質良く育つ土地・環境がまず必要で、そこにやる気と吸収する気持ち、情熱がいる。

金魚の背びれと尾びれを見て、良い金魚を選ぶ作業を「選別」と言いますが、それを一日中するのも苦じゃないくらい情熱がいる。


妻(深見有記枝さん)は一日中、選別していますよ。

この情熱と集中力は本当にすごいなと思っています。

弥富金魚を団結して守りたい

-弥富の金魚についてどうお考えですか

全盛期は弥富の中で金魚業者がたくさんいて、互いに競争しながら個々で努力・工夫をして成長してきました。

しかし、最近は業者が減り、2〜3代目に代がわりした所が多く、業者同士の競争心よりも団結してまとまって盛り上げていこうとする流れを感じます。

ここ3年くらいですね。何かを変えようと言う機運が高まっていて、団結しています。


なかなか後継ぎがいなくて、金魚組合で20〜30代は数えるほどしかいません。

自然と向き合う仕事ですから決して綺麗な仕事ではないのですが、若いときからしっかりと目標のある方には継いでほしいですね。

-深見養魚場のこれからは

一時、インターネットでの直接販売も検討したことはありますが、やはり先代が長くやってきた昔ながらのやり方を大切にしたかったのでやめました。

市場があって、仲買さんを立てて、人と人との関係を大事にして売る。

それが弥富金魚のためになると考えています。


せりに出したら、自分の予想外に高値で取引されることもあります。

まだまだ面白いですよ。


-最後に、深見さんにとって金魚とは?

難しいですね。

かっこいい言葉はありませんよ。

金魚が生活の糧であるし、仕事そのものです。

特別な存在ではないし、当たり前にある。


眺めていれば癒されるし、心が洗われます。

でももちろん育てるのは大変だし、苦労します。

忙しい時期は金魚のために何もかもを注ぐ、まさに「金魚様!」ですよ。


-ありがとうございました。
弥富市の大切な金魚を守る深見さん。

深見ブランドを作り上げ、長年守られてきた苦労や楽しみをお話していただけました。


深見らんちゅうは、深見養魚場から直接購入は基本的にできませんが、市内の金魚店の他、東京、大阪、広島などに流通されているそうです。


養魚場見学には事前の連絡と調整が必要ですが、時期としては閑散期にあたる9月以降が良いそうです。



■外部リンク

取材日は台風が接近しており、金魚の撮影ができませんでした。

深見ブランドの金魚写真はリンク先のサイトをご覧下さい。