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富士の高嶺から見渡せば

米中駆け引きの中での米台関係の急展開

2017.07.06 08:06

北朝鮮をめぐる米中の外交的駆け引きの陰に隠れて、ひょっとしたら見過ごされているかもしれないが、台湾をめぐっても、米中の間で重要な動き、攻防が続いている。

一つは、米国務省が6月29日、総額14億2000万ドルの台湾向け武器売却計画を決定し、議会に通知したこと。二つ目は、その前日、米上院軍事委員会で米海軍の艦船による台湾への寄港を認める法案(国防権限法案)が可決されたこと。そして三つ目は、6月15日、米下院外交委員会アジア太平洋小委員会で「台湾旅行法(Taiwan Travel Act)」が、全会一致で可決され、台湾と米国の全ての政府関係者の相互訪問が実現できる見通しになったことである。

この直前の6月12日には、パナマが突然、中国との国交樹立と台湾との断交を発表した。台湾と国交のある国はこれで20カ国となり、中国の攻勢と圧力の前に、「一つの中国」を認めない蔡英文政権の外交空間はますます狭められることになった。そうしたなかでの、米台関係をめぐる動きは、北朝鮮への圧力をめぐって態度をはっきりさせない中国に対する、米国の台湾を利用した巧妙な駆け引きと揺さぶりとして注目される。

台湾に対する武器売却は、トランプ政権では初めてのことで、2015年12月オバマ政権がフリゲート艦2隻や対戦車ミサイルなど総額18億3000万ドルの台湾向け武器売却を発表して以来となる。今回、計画されているのは、早期警戒レーダーへの技術支援や対レーダーミサイル、魚雷、ミサイル部品などが含まれ、国務省当局者によると「長年使われてきたシステムをアナログからデジタルに換えて、自衛能力の改修・更新を行う」のが狙いだという。実は米政権内では、ことし3月の段階で、台湾への大規模な武器売却が検討されていたが、北朝鮮の核・ミサイル問題を解決するためには、中国の協力と役割が重要だとするトランプ大統領の対中国政策もあって、協議は立ち消えになっていた。

台湾への米海軍艦船の寄港が実現すれば、1979年の米台断交以来のタブーが破られることになる。中国政府は、台湾への武器売却と艦船の台湾寄港について、「中国の政府と人民は、激怒する十分な権利がある」とする声明を発表。「台湾独立」を目指す勢力に非常に誤ったメッセージを発信するものだと非難した。

米下院外交委員会アジア太平洋小委員会で可決された「台湾旅行法(Taiwan Travel Act)」は、

一、米国の全てのレベルの政府関係者による台湾訪問、および対等な行政レベルにある台湾の政府関係者への訪問を解禁する。

二、台湾の政府関係者の尊厳を守る原則の下、台湾の政府高官の訪米、および国務省や国防総省を含む米政府高官との対面を解禁する。

三、米駐在の台湾の代表機関、駐米台北経済文化代表処、および台湾が設置した全ての機関による米での正式な活動を奨励する。

何と、トランプ大統領をはじめとする全てのレベルの政府関係者の台湾訪問も実現可能ということになる。

実は、去年12月23日には、オバマ前大統領が「2017国防授権法案」(NDAA: National Defense Authorization Act)に署名し、現役の軍の将官や国防総省の次官級以上の高官が台湾を訪問し、台湾軍の高官と相互交流することを可能にした法案が成立している。

日本でも、今年3月25日、赤間二郎総務副大臣が公務で台湾を訪問し、1972年の日台断交後、公務で訪台した最高位の政府高官となったが、米国は遥かにその先を行っているのである。

ところで「一つの中国」をめぐって、トランプ大統領は就任前の去年12月11日、米フォックス・ニュースとのインタビューで、「通商を含めて色々なことについて中国と取り引きして合意しない限り、どうして『一つの中国』政策に縛られなきゃならないのか分からない」と述べ、「一つの中国政策の見直しか」と大きな波紋を呼んだ。しかしその後、2月9日に行われた習近平との電話会談では、トランプ大統領は一転して「中国と台湾は不可分の領土だとする「一つの中国」原則の尊重に同意した」などと報道され、中国に屈してそれまでの発言を「撤回」したとか「前言を翻した」などと指摘されたこともあった。

しかし、このときのホワイトハウスのプレスリリースによれば、President Trump agreed, at the request of President Xi, to honor our "one China" policy. であり、つまり、トランプ大統領は、習近平の要請を受け、「our」(我々)米国の「一つの中国」政策を「honor」(尊重する)ことに同意した、だけなのである。

Readout of the President’s Call with President Xi Jinping of China【February 09, 2017】

東京外語大学総合国際学研究院で台湾政治を専門とする小笠原欣幸准教授によれば、「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違いについては誤解が多く、日本のマスコミもしばしば間違った伝え方をしているという。簡単にいえば、米国政府の立場を表現したものが「一つの中国政策」 ‘One China’policyであり、中国政府の立場を表現したのが「一つの中国原則」‘One China principle’というわけだが、この二つは全くの別物だという。 

そのアメリカの「一つの中国政策」とは,1)「1972年,78年,82年の三つの米中コミュニケ」,2)1979年制定の「台湾関係法」,3)1982年にレーガン大統領が台湾に対して表明した「六つの保証」から成り立っている。

そして台湾への「6つの保証」(Six Assurances)とは以下の通り。

1.台湾への武器提供に停止日限を付けない。

2.台湾と中華人民共和国間の仲裁をしない。

3.台湾に対し中台交渉に圧力を加えない。

4.米国の長期にわたる台湾の主権問題に変わりはない。

5.米国は「台湾関係法」の改訂をしない。

6.台湾への武器提供について北京と事前協商しない。

要するに2月9日のトランプ発言は、米国の「一つの中国」政策というスタートラインに戻っただけであり、中国政府が主張する「一つの中国」原則に同意したわけではないことは明らかだ。そして今回の台湾への武器売却や「国防権限法」、「台湾旅行法」も、米国の「一つの中国」政策の一環、延長として行われる政策に過ぎない。

米国の対台湾政策は日本の国防、日米安保体制にも直結する。北朝鮮情勢を注視することはもちろん、隣国・台湾への目配り、気配りも大切にしていきたい。