愛と哀しみの傑作(マスターピース)「オーランドー」
ヴァージニア・ウルフ
「オーランドー」
1922年12月、ヴァージニア・ウルフは友人との食事会で一人の女性作家と出会います。ヴィタ・サックヴィル=ウェスト。ウィリアム一世*まで遡る名門貴族です。
当時、ヴィタは著名な作家でしたが、それ以上にある事件で知られていました。彼女は外交官の妻で、二人の息子を持つ母にもかかわらず、1920年に配偶者のいる貴族女性とフランスに駆け落ちし、夫により連れ戻されます。英国全土を揺るがすスキャンダルでした。
1924年7月、ウルフはヴィタに誘われ、彼女の生家を訪れます。そこは1566年にエリザベス一世*から与えられた邸で、122万坪超の敷地に一年の月・日・週の数、週の日数を表す12の塔、365部屋、52の階段、7つの中庭を有する一つの宇宙でした。ホルバイン、ヴァン・ダイクといった巨匠たちの筆による軍人や貴婦人姿の一族歴代の肖像画が壁を飾り、何世紀にもわたり同一人物が仕事や性別を変えながら生きてきたかのような錯覚をウルフは憶えます。
その年の12月、ウルフとヴィタは特別な関係となります。それぞれの夫公認の仲でした。
1928年、ウルフは小説「オーランドー」を発表します。主人公オーランドーは、エリザベス一世の寵愛を受ける貴族の美少年。17世紀後半にトルコで昏睡状態となり、肉体は女性に変身します。その後300年を生き、結婚・出産。4世紀に渡って書き続けた詩を完成させ、詩人としての名声を獲得するというエリザベス朝から20世紀にわたる一大歴史ファンタジーです。
ウルフは各時代に変身して現れるオーランドーの挿絵として、サックヴィル一族の肖像画やヴィタの写真を掲載し、出版日には特別に装丁した一冊をヴィタに送ります。「オーランドー」は「文学史上最も長く最も魅惑的なラヴ・レター」といわれています。
KAAT神奈川芸術劇場では2017年9月23日(土)~10月09日(月) KAAT × PARCOプロデュース「オーランドー」を上演します。
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf(1882~1941)
20世紀モダニズム文学を代表する英国女性作家。小説執筆、評論活動のかたわら出版社を夫レナードと経営し、T.S.エリオットの著作などを出版した。代表作は小説「ダロウェイ夫人」「波」、エッセイ「自分自身の部屋」など。
*ウィリアム一世:イングランド王(在位1066〜1087)。通称は征服王。イングランドを征服し、現在の英国王室の開祖となる。
*エリザベス一世:イングランドとアイルランドの女王(在位1558〜1603)。通称は処女王。スペイン無敵艦隊を破り、英国史上最も偉大な勝利者といわれる。
イラスト:遠藤裕喜奈