銀の子羊と、優しい獣⑧ ☆BL ※18禁 ※トラウマ表現あり
「顔よく見せて」
拓也は悠斗の顔を覗き込んだ。
「お前って、ほんとにキレーな顔してるよな。」
「そうかな?」
「うん。綺麗だよ。」
拓也はそう言うと起き上がってTシャツを脱ぎ捨ててベットの下に放り、悠斗に馬乗りになって見下ろした。
半乾きの長い前髪の間から、見たこともない野生の獣みたいな目が覗いている。
こんな顔の拓也さん知らない。
この顔、今俺しか見てないんだ。
悠斗はそう思ってゾクゾクした。
「んん、、」
拓也がキスをしながら服を脱がせてきて、悠斗はまた声が漏れてしまった。
拓也の長い指が、悠斗の体をまさぐる。
あのいつもドラムを叩いたり、パソコン打ち込んだり、伝票書いたりしてる手が、
チャーハン作ったりコーヒーを入れてくれる手が、
手を繋ぐと温かい手が、
今は、別の生き物みたいに艶かしく、滑る様に悠斗の体をはっている。
「っ、、あっ」
自分からこんな声が出るなんて。
悠斗は想像もしていなくて、恥ずかしさで声を噛み殺した。
拓也がそっと悠斗の体に舌を這わせる。
「あっ!拓也さん、ダメ」
悠斗は目を潤ませながら懇願するけれど、拓也は面白そうに笑った。
「ダメじゃないよな?」
今まで悠斗だって経験はたくさんして来たけど、こんなに主導権握られてするのは初めてだ。
何もかも予想外の自分に頭がついていかない。
「いいんだよ、声出して。」
拓也は胸から首筋、耳へと舌を這わせ、耳元で
「出せよ」
とかすれた声で囁いた。
「んう…」
その声は反則だ。
そんな拓也の声、知らない。
ヤラシイ時の拓也ってこんな風になるんだ…と悠斗は思った。
それから拓也は悠斗が恥ずかしがっても容赦なく手を止めずに悠斗を弄り続けた。
やめてって言っても、ホントに嫌?とか、意地悪なことばっかり言ってくる。めちゃくちゃ楽しそうな顔して。
このっ…ドSっ!!
悠斗はホントに嫌じゃないことが悔しかった…
そして、快感でもう溶けそうな悠斗の中に拓也が入った時。
「ーーーっ!!!っ、んあっ…!!たくやさ…!」
悠斗はもうとっくに声を我慢する余裕なんて無くなっていて、拓也に抱きついて何回も拓也の名前を呼んでいた。
「あー…超かわいい。それ、いいな。もっと呼んで。お前声で」
そんな言葉でさらにゾクゾクしてしまった。
その瞬間
悠斗の中で突然「あの時」の記憶が蘇った。
「ひ…あ、いや、嫌だ、嫌、やめて…」
目を見開いて空を見つめ、急に涙を流す悠斗。
その様子に拓也は察した。
「おい、悠斗、ここにいるのは俺だよ。こっち見て。ちゃんと見て。今ここにお前を痛めつける奴はいない。」
悠斗の顔を両手で包み、見つめながら拓也が言い聞かせる。
「…うん、拓也さん、今俺は拓也さんとしてる」
「そう。それが現実。怖かったら俺のことずっと見てて。」
いつも記憶が戻ると長くかかるのに、拓也の体温を感じて抱かれていたら、不思議と恐怖は波の様に引いていった。
「たくやさ…ありがとう、あ、もうダメ、ダメ」
「うん。俺も…」
果てる時、ぼんやりする視界の向こうに映る拓也は今まで見たことないくらい優しい顔をしていた。
悠斗の呼吸が収まるまで拓也は背中を優しく撫で、落ち着いてきたら2人でもう一度風呂に入った。
「…痛い」
湯船に浸からながら、悠斗はボソリと言った。
「だよなぁ」
シャンプーを流していた拓也は申し訳なさそうに言った。
「ごめんな、ちょっと激しくしすぎたかな」
湯船の端にもたれて悠斗はぼうっと頬を赤らめている。
「大丈夫だけど…拓也さんと、セックスするなんて思ってなかったなぁ」
「俺だってお前とするなんて思ってなかったよ。かわいいなぁとは思ってたけど。あ、変な意味じゃねえぞ、見た目の話で、ヤラシイ目で見てたわけじゃねぇから。」
「わかってますよ」
拓也の正直なところが、悠斗は好きだった。
「でも俺ちょっとびっくり。拓也さんて意外とドS。なんか知らない顔見たって感じ」
「なに、嫌だった?嫌だったら直す!」
拓也が焦ったように言ったのが悠斗はおかしくて、思わず笑ってしまった。
「アハハ!無自覚なんでしょ、拓也さんそういうの絶対直せなそう。」
「なんだよ、気をつけることくらいできるよ。ってお前、笑いすぎ」
拓也は湯船の悠斗に向かってシャワーをかけた。
「うわ、やめろよ!」
とか言いながら面白くて悠斗はアハハ、と笑った。
「バーカ」
拓也は思いっきりシャワーを悠斗にかけた後、ザブンと湯船に浸かった。
「ところでお前のこの傷跡、火傷の跡だろ」
拓也は、悠斗の胸にあるいくつかのやけどの跡に触れた。
「はい、子供んときのなんですけど、消えないんですよ。ちょっとエグいしびっくりしますよね」
「別にびっくりはしないけど、さっき目入ったから。あの時は聞く余裕なかったけど、どうしたのかなって思ってさ。」
悠斗はそっと傷跡に触れてくる拓也の手に自分の手を重ねた。
「母親にタバコの火を押し当てられたんです。」
ポツリと悠斗が言った。
「俺、結構そういう目にあってて。それで施設に入ったんです。」
チャプン、と湯船の湯が揺れる音が響いた。