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空想都市一番街

銀の子羊と、優しい獣⑨ ☆BL ※トラウマ表現あり

2021.12.14 13:51

「でも今となっては、特に悲しいとかそういうの不思議とないんですよね。この跡消えないかなぁって思うくらいで」


悠斗は胸の火傷の跡を見ながら笑っているけど、時々見せるあの「空虚な目」をしていた。


「そっか。」


タバコにしては広い跡だ。かなり何度もされたのかもしれない。


「俺熱くなってきちゃった。もう出ますね」


「おう、俺も出よ」


2人は風呂から上がると麦茶を飲んで、拓也のベッドに寝転んだ。


大きめのセミダブルなので、男2人でも広くはないがまあまあ余裕がある。


悠斗には深い傷や闇があるのだろう。きっとこの前のも、さっきしてた時に出てたのも、それが関係している。


拓也はそう分かってきていた。


「拓也さん、引いてないですよね」


「引くわけないだろ。大丈夫だよ」


悠斗はホッとしたように微笑んだ。


「こういうこと言うと、メンヘラだとか言うやついるから。俺、そういう風思われたくないし。依存体質とか思われるのも嫌だし」


「悠斗は人に依存するタイプじゃないの、分かってるよ」


「へへ、よかった」


悠斗は嬉しそうに笑って、さっきの話の続きをポツリと話し出した。


「俺、前にも話ししましたけど、小学校入る前に相談所の人が来て、施設に入ったんです。母親もかなり精神的に弱っていて、養育は無理だろうってなったんだって。後で施設の人に聞きました。」


拓也はうなづきながら聞いていた。


「しばらくいたんですけど、ある時また家に戻されたんですよ。母親が再婚して、落ち着いたから、また一緒に暮らしたいって。新しい父も何度も面会に来て。一緒に住むことになった」


悠斗は今誰にも話ししたことがないことを話ししている。


拓也に借りたTシャツは拓也の洗濯洗剤の香りがして、なんだか肩を抱かれているような、そんな安心感を感じていた。


「…まあ、色々あって最後は施設入り直して、18になるまでいました。

別にシリアスにもなってないんです。俺にとって単なる事実だし、特に感慨もない。」


拓也は悠斗を見つめ、うなづくと、悠斗を抱き寄せた。


「勘違いすんな、お前をかわいそうとか思ってこうしてるわけじゃねぇからな。お前の悲しみはお前にしかわからないし、ただ」


拓也はくしゃっと悠斗の頭を撫でた。


「シリアスじゃねぇってのは嘘だな。また怯えてる」


話をしながら震えてきていることは自分でも気づいていた。


「ハハ…やっぱダメですね。大丈夫だと思ったんですけど。話ししてたら怖くなってきちゃった。ごめんなさい。」


「謝んなくていいよ。そんなに怯えてんだ、何かあったんだろ。言いたくないならいいけど、言えるなら言っていいんだよ」


拓也は、大丈夫だから、というように悠斗の背中を撫でていた。


「……」


悠斗は声を出すまで時間がかかった。胸に込み上げてきて、声を出そうと思っても出せなかった。


「誰にも話ししたことないんです」


やがて悠斗は小さく声に出した。


「俺を軽蔑するかもしれないけど」


「しないよ」


拓也は優しく悠斗を抱いていた。


「……俺は義父を刺したんです。殺そうとして。」


拓也は悠斗を抱いたまま黙って聞いていた。


「義父は、最初は優しかった。母親も落ち着いてるように見えた。俺たちはちゃんと家族として仲良くやってたんだ。でも…ある時義父が急に、変わった」


ドクドクと、悠斗の鼓動が聞こえた。


「俺は義父を信頼してた。毎日、夜、窓の外に帰ってくる義父の姿が見えると手を振ってた。あの日もそうだった。母はその日飲みに行ってていなかった」