凸と凹「登録先の志」No.14:月東佳寿美さん(NPO法人葵風 理事長)
行政でも入ることができない、手の届かない子どもたちへの支援を
旦那の実家の家業が掛け軸や屏風をつくる表具屋で、職業訓練校の指導員を4年前までやっていました。昔のものを大事にしながら保存していく難しさを教えていたのですが、職業訓練校も年々減っていて、現在は大工と石屋くらいしか職業訓練校として成り立たない時代になりつつあります。子どもたちがものづくりをほとんど経験していないことに気づいて、子どもと一緒に考えて活動できる場をつくろうと、子どもたちが自ら運営する仮想のまちで働き、遊びながら社会の仕組みを学ぶプログラムの「こどものまち」を始めました。
その頃、障がい児の支援のあり方が変わってきていて、学校生活の中で集団行動になじめない子どもたちは障がい特性があるという認識になり、大変な子を排除する動きが進んでいました。まともな生活ができない、食事がとれていないような子たちを見て、何かやらないといけないと思っていた時に、障がい児施設の方から声をかけてもらい、そういった子どもたちの支援ができると思って働き始めました。
施設で働く中で、児童虐待が疑われる家庭に行ってほしいと行政から言われた時に、施設から「見に行くのはやめてほしい」と言われました。理由としては「手間がかかるし、何かあったらこちらに責任が発生するから」とのことでした。「この子を見ないで何をめざすんだろう…」という気持ちになり、行政が動けないところに動けると思っていたのに、動けなかったことがすごく嫌でした。ただ、行政から連絡がくるのはわかったので、支援が必要とされていることはわかりました。このままでは、自分のめざす支援が実現できないと思ったことがきっかけで、自分で団体を立ち上げることにしました。
何があっても必ず味方だから。私たちも努力するからがんばろうね
子どもが泣いていたり、大きな声が聴こえてきたら、どうしようと思いますよね。なんとなく気にしながら、あれはなんだったのかなと、地域の方には「アンテナを広げてほしい」と伝えています。「いち早く連絡を」とも言いますが、いざ目の前にしたら戸惑って、どうしたらいいかわからず不安な人も多いと思います。そういう人たちと一緒に考えながら、何か変だなと思った時に相談できる場になればと考えています。
見て見ないふりをしてしまう人が多いと思いますが、自分ごととして置き換えて、気にかける時代にしていきたい。今、おせっかいな人が減っている印象があるので、おせっかいを焼く人を地域に増やしていきたいです。
ごみ屋敷に暮らす子どもがいますが、親御さんも子どもに愛情がないわけではないけれど、どうしたらよいかわからない。プライドがあるので自分で何とかしたいという気持ちもありますが、やり方がわからなくて、自分の親との関係も悪くて…という家庭があります。ごみ屋敷の問題もすぐ解決するわけではないですが、かかわる中でこちらの話を聴いてくれるようになり「子どもの靴、そろそろ変え時じゃない?」といったこちらからの声かけに耳を傾けてくれるようになりました。
お母さんが「子どものために」という気持ちがあるうちに、手を打ちたいと考えています。児童相談所が引き取ることになるかもしれないとなった時に、お母さんがすごく心配していたので、「養護施設に行っても私たちはずっと見ていけるよ」と話したりしています。
他の人だったら「もういいわ」とあきらめてしまうような時も、親御さんや子どもの気持ちをくみ取ることを大切にして、距離感を大事にしながら「何があっても必ず味方だから。私たちも努力するからがんばろうね」と伝えるようにしています。
子どもたちを誰かが大事にしてあげないといけない
「相対的貧困」という言葉がありますが、親御さんの収入がないわけではないけれど、お金の使われ方等に問題があって困難な状況にある子どもたちがいます。中には、幼くして家族の世話をする「ヤングケアラ―」と言われる子もいます。子どもたちは親のためにがんばりたい気持ちを持っていますが、「自分のことも大事にしてほしい」と伝えていきたいです。子どもたちは自分が大事という気持ちを忘れてしまっているので、誰かが大事にしてあげないといけないと思っています。
大人になっても今の生活を維持するために、どうしたら今の生活保護を受けられるのかを親から教わり、大人になってからも親から教わった行動をとる子どももいます。その時の損得だけで得がどうかを判断するように親から教えられて、自分自身に問うということがないため、他の人が言っていかないといけない時代なのかなと感じています。
こどものまちでやっていたようなことを子ども食堂で実施していて、子どもたちがものづくりをして、その商品を販売したりしています。誰かのために何かするという体験が、自分の居場所をつくることにつながります。また、毎週木曜日には学習支援と駄菓子屋さんもスタートしています。そこで働いて得たお金が使えるようになっているので、これらの取り組みを通して子どもたちの自主性や自立心を伸ばしていきたいです。
子どもたちが自分の気持ちを言えたり、頼ることができる場所をつくるためには、ものづくりなら材料、居場所づくりには場所が必要なので、今後は大人の手をもっと借りる必要があると考えています。そこで親御さんの気持ちも聴きながら、自然な形で継続的に支援ができるとよいなと思っています。
子どもたちがいろいろなものをつくれるようになったり、自主的にこれをやりたいと言ってくれるようになったりしているので、その変化を支援者のみなさんにも伝えていきたいです。
取材者の感想
他の施設が避けてしまうような困難な家庭に寄り添うために、自ら団体を立ち上げて活動を続けている月東さん。「何があっても必ず味方だから。私たちも努力するからがんばろうね」の言葉に励まされているたくさんの親子の姿が目に浮かびました。
子どもたちが作った商品を販売する等、自分の居場所をつくることにつなげることで、子どもたちの自主性や自立心を伸ばしていくサポートをされているのが印象的でした。
葵風の活動を通じて、地域におせっかいを焼く人が増えていったら、一昔前の「地域みんなで子どもを育てる」環境をつくることも夢ではないんじゃないかなと感じました。そのための居場所づくりの活動を応援していきたいです。(長谷川)
月東佳寿美さん:プロフィール
NPO法人葵風 理事長
愛知県岡崎市出身。地元病院勤務後、結婚、出産。子育てをしながらものづくりの経験を経て、職業訓練校の指導員として職人を育成するが、障がい特性とこだわりのあり方の違いを考える。地元の子どもたちと子どもがつくる「こどものまちづくり」の中で、子どもたちのものづくりの経験不足や食育の必要性を感じた体験から、こどものまちでの食堂開催やものづくりイベント等を行う。子どもたちに「なんでもやってみよう!!」と言いながら、大人の自分には何ができるか? できることからやろう!! と子どもたちの笑顔が活力に。保健所での食育教育などにもかかわり、食の大切さを伝える活動や障がい児療育施設に携わるうちに、すべての子どもが笑顔で幸せを感じられる場所をつくりたい、寄り添う支援がしたいと思い、法人を設立。
NPO法人葵風は、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。