選考、銓衡、詮衡
武漢ウイルス禍により2年ぶりに某市役所へ出講することになったので、某市役所の例規集を見ていたら、「詮衡」(せんこう)という表記を見つけた。う〜ん、これって誤用なんだけど。。。
まず、現在の国の法令では、「選考」が用いられている。唯一の例外は、国家公務員法の第一次改正法律附則第12条だ。戦前の法令の題名として2つ「銓衡」(せんこう)が出てくる。
cf.国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)の第一次改正法律附則(昭和二三年一二月三日法律第二二二号)
第十二条 官吏懲戒令(明治三十二年勅令第六十三号)、高等試験委員及び普通試験委員官制(大正七年勅令第九号)、高等試験令(昭和四年勅令第十五号)、一級官吏銓衡委員会官制(昭和十六年勅令第四号)、昭和二十年勅令第七十七号(二級事務官吏の任用資格の特例に関する件)、二級事務官吏銓衡委員会官制(昭和二十年勅令第七十八号)及び高等試験委員及び普通試験委員臨時措置法(昭和二十三年法律第五十三号)並びにこれらに基く命令は、この法律施行の日から廃止する。但し、高等試験令は、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)、第六十六条及び弁護士法(昭和八年法律第五十三号)第三条の試験に関する限り、又、高等試験委員会は、その第三部に関する限り、昭和二十三年十二月三十一日までは、従前の法律に定めた条件の下に存続するものとする。
2 この法律施行の際、現に前項に規定する法令によつて設置された委員会の事務にもつぱら従事している職員は、その日において、辞令を用いることなく、その職を免ぜられるものとする。
ここに「選考」とは、「公務員の任用等を行う場合に、一定の基準によってその者がその官職についての職務遂行能力を有するか否かを判定すること」をいう(内閣法制局法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典』)。
本来、「選考」は、「銓衡」(せんこう)と書く。「銓」は、分銅を意味し、「衡」は、はかりのさおを意味する。
したがって、「銓衡」は、人物・才能をはかり調べることを意味するわけだ。
某市役所の例規集に載っている「詮衡」(せんこう)は、誤用だ(『新漢語林第二版』大修館書店)。
ところが、「銓」も「衡」も、常用漢字表に載っていない。
そこで、全体の意味をくんで作った代用表記が「選考」だ(『明鏡国語辞典』大修館書店)。
国の行政機関は、平成22年内閣訓令第1号により、常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)に従わなければならないのに対して、自治体は、これに従う義務がないので、「銓衡」と表記しても構わないのだが、気になったので、条例Webアーカイブデータベースで検索してみた。
まず、「銓衡」を検索したら、10件ヒットした。
ex.御浜町職員任(採)用試験銓衡に関する規則 (昭和47年3月18日規則第2号)
(根本基準)
第1条 御浜町職員(町職員及び雇員をいう。以下「職員」という。)の任用及び採用は法令その他別段の定めあるもののほかこの規則の定めるところにより、その者の受験成績又はその他の能力の実証に基づく銓衡により行う。
(任用及び採用の方法)
第2条 職員の任用及び採用は競争試験による。ただし競争試験以外に能力の実証に基づく判定(以下「銓衡」という。)の方法によることがある。
次に、「銓衡」の誤用である「詮衡」を検索したら、50件もヒットした!
私も偉そうなことは言えないのだが、「漢和辞典ぐらい引こうよ♪」と思わなくもない。
ex.増毛町立小中学校給食調理員就業規則 (令和2年3月16日教育委員会規則第3号)
(表彰)
第18条 調理員が次の各号の一に該当する場合には詮衡の上表彰する。
(1) 災害を未然に防止し、又は災害の際特に功労のあつた場合
(2) 業務上有益な発明、改良又は工夫、考案のあつた場合
(3) 業務成績が優良で15年以上無事故で継続勤務した場合
(4) 前各号に準ずる程度に善行又は功労があると認められる場合
(5) 業務成績が優良で20年以上勤務して退職した場合
2 前項の表彰は、賞状のほか賞品又は賞金、前項第5号の場合にあつては感謝状並びに記念品を授与してこれを行う。
3 第1項の表彰については学校長の具申に基づき委員会が行う。