仕組みを知る。
僭越ながら丸編みの鬼と言われることもあるが、僕なんかはまだまだ未熟者で鬼どころか雑魚である。マリオで言えば、クリボーだ、いやクリボーに失礼か。
現場は知識の宝庫で、針の動き一つ、具体的にどうしてそれが作用して、どういうものを形成していくのか、知ってるつもりでも曖昧なことは非常に多い。
知らなくても生きていく上でなんら問題はないし、知ってたからなんだってことも多くあるけれども、知っていればできたこと、しなくてもよかったこと、すべきだったことなどが見えてくる。これは僕の中で無知の知の必要性を感じている大きなポイントだ。
商品説明で蘊蓄になりうるところを知りたがる方は多い。『〇〇だから良いんです』の〇〇に入る内容が専門的であればあるほど、それっぽく聞こえるものである。確かにそうだろうし、一方でだからと言ってそれが良いかどうかなんて受け手の価値観に依存するので、『良い』とうたうには少しだけ気がひけるのは、僕のひねくれた性格のせいだろうか。
服を作っていく上で考え出されているパターンや縫製使用、生地、糸または原料におけるそれぞれの持つ特性を理解しておくことは、結果的にどういった物を作りたいか?というゴールに向けて必要なピースを当て込んでいく作業の中で重要になってくる。
だから、最終的に出来上がった服そのものが語りうる良さみたいなのは、「全部最高の技術を詰め込みました」ではなかったりする。着る人にももちろん依存する。
思いつく限りの贅沢を詰め込んだ服ってのも、あってもいいとは思うけど、それが分からないからダメだってこともないし。
ただ生地ってのは、服を構成する部品の一つであるから、その部品自体が商品として成立している業界では、原料の成り立ちや生産背景の希少性などがセールスポイントになるのも理解はできる。川上に行けば行くほど、それが糸だったり、糸の作り方だったり、原料だったり栽培飼育方法だったり、土だったり。
様々な要素を一つ一つ選ぶことで生まれる違いや、分岐点その先の選択肢がどう作用するかを知っておくことで、イメージを実際のモノにしていく時の精度が上がる。出来上がった実際のモノが言葉以上に伝わる完成度バランスで喜んでいただけるのであれば、蘊蓄などはもう、いらないんじゃないかって思ったりもしてる。
その先に「どうしてこんな触り心地になるの?」といった興味を示してくださる稀有な方に向けて、「実はカクカクシカジカ・・・」と、しっかりとその成立背景を理論的にご説明できれば、より一層ご納得いただいた上で喜んでいただけるのではないかと思っている。
もちろん仕組みを知ることで、起こりうるトラブルだって想像できるようになる。これは以前『想像力。』の回でも書いた。
一人でものづくりはできない。でも人に依頼した時の完成度は高い方が良いに決まってる。とてもシンプルな理由で、仕組みは知っておきたい、それだけだ。
教えていただくということは、その方の知識のみならず、貴重なお時間も頂戴することになる。だから、先に疑問点を明確にしておき、教わった、理解できたなら、しっかりとお礼をした上で、実商売に繋げていけるよう動いていくのが僕ら中間業者の仕事でもある。
学んだら活かせ。以上。これは雑魚の僕に向けた自戒のポエム。