派遣社員で働くということ。
派遣社員をしながら派遣社員の働き方や存在意義を考えてみた。
派遣社員という働き方は、本来『スペシャリスト』として高額な給料を貰い、専門的分野で一つの企業に縛られず活躍するものとして米国を中心に利用されてきた制度である。
しかし現在の日本では残念ながら『企業がローコストで人材を利用する』という面しか目立たず、派遣社員として働く人間は生活や雇用の不安定さに喘いでいる。
期間の定めなく『契約』という雇用形態を続けていると、いつまで経っても労働者の雇用の安定に結び付かないと2015年に改正された派遣法では、業種問わず契約期間を最長3年とすることで『直雇用を促し雇用の安定化を促進する』とした。
しかし、実際には派遣社員を全員直雇用できるほど企業には体力がなく、『3年満期で直雇用切り替えはナシ』と条件を先につけて派遣社員を募集する企業が後を絶たない。
直雇用については、あくまで『3年を超える契約を結ぶ場合は企業・派遣社員双方の意思が一致すれば直雇用契約を取り交わす』とされているのみで、直雇用をしなかったからといって罰則などがあるわけではない。
むろん、企業側の経営状況が常に一定とは限らず、また派遣社員の中には直雇用を希望しない人間もいるため、この点で法律が強制性を持っていないのは当然といえる。
しかし一方で『期間を定めた契約は3年まで』という部分は強制性を持っている。ちなみに、3年といえば日本の企業の場合、新人教育を卒業してやっと仕事を覚えて一人前に活躍できるようになる頃だ。
契約期間3年で雇われた派遣社員にも結局は同じことが言え、長く働けば働くほど活躍する場面は増えていく。
人が育てば企業は自ずと育っていくはずなのだが、派遣社員を米国などの『スペシャリスト』として利用する方法でなく、『ローコストで利用できる、必要なくなればいつでも使い捨てしたり交換して良い人材』といった扱いをしてきた結果、人が育たなくなっている。
『契約期間3年以上は延長不可』というこの法律は完全に現場を鑑みない発想で作られたといって過言ではないだろう。
永続的に『契約』という形態で働く=雇用が不安定、という視点で捉えるならば、逆に『3年以上働けない』=雇用が安定するとでも考えたのだろうか。
たとえば直雇用のパートやアルバイト、契約社員などが『契約更新を重ねて5年を超えると労働者の意思によって無期限雇用に切り替えられる』という労働法の基準に乗っ取って、派遣法についても『3年以上の契約は労働者・企業双方の合意があれば無期限にするか直雇用に切り替える』といった内容に変更すれば、少なくとも直雇用されない派遣社員の全員が3年未満の期間で職を失うという不安定さに身をさらさずに済んだのではないだろうか。
自分自身が一般派遣社員として働いてみて気づいたことがある。それは『どうせ3年しか働けないなら積極的に仕事をする必要はない』という意識が派遣社員だけでなく、派遣先企業にも蔓延しているという点である。
よく『派遣社員は責任がなくて良い』と言われるが、その理由は派遣社員自身が重責を負いたくないというだけではなく、企業側も最長3年以上働けない派遣社員に責任ある仕事を任せない、というかそもそも任せられるはずもなく、その結果派遣社員は単純作業や『誰でもできる簡単なお仕事』ばかりをやらされることになり、スキルや経験を積む機会を奪われる。
このデメリットは派遣社員側だけではなく、企業側にも『仕事を教えられない』『任せられない』という弊害をもたらす。
それでは企業にとって派遣社員はどんな場面で活躍するのか。考えてみると、単純作業、ルーチンワーク、1ヶ月あれば出来る業務、大量に人が必要な仕事内容、などくらいしかない。
教育があまり長時間必要なく責任もそこまで重たくない、大量募集の仕事といえば思いつくのがコールセンターや工場のライン作業だ。誰でもできる仕事を期間限定でサクッとこなす、このような働き方は学生や主婦に向いているといえるが、長期間安定して働きたい人にはお勧めできない。
一方、派遣後1ヶ月もしないうちに自らの業務を把握し、直雇用社員達よりスムーズにスピーディーに仕事を片付ける、教育のまったく必要ないスペシャリスト達ならば仕事に慣れるのも早く、企業側もあまり負担を感じず派遣社員達に働いてもらえるが、本来の欧米型派遣社員に近いこのタイプは残念ながら今の日本の社会システムでは現れにくい。
そのような現状はわたし自身、派遣社員として働きながら常々肌で感じている。楽といえば楽だが、仕事をあまり任せられないため『この企業に私は必要なのか』と存在意義の有無について考え込み、やがて『契約を打ち切られるのではないか』という不安に苛まれる。さらに、雇用形態が不安定であるにも関わらず『35歳限界説』や『新婚(特に30代)は妊娠・出産で早期に退職する可能性が高いため派遣ですら仕事が見つかりにくい』などアラフォーには厳しい事情をこの身で体験してきたのだ。
それでもまだ、わたしは生計の中心が派遣社員としての収入にあるわけではないため気楽なものである。紹介予定派遣などではなく一般の派遣社員として働くなら、少なくとも『派遣社員の給与が生計の中心でないこと』が大前提になるといえるだろう。
そのうえで、以下の条件を満たす場合のみ、派遣社員として働くのもひとつの道だとおススメできるが、いかに恵まれた立場であっても派遣社員の給与を生計の中心としてはいけない。
生計の中心を担うのであれば、どれだけ仕事がきつくてもやはり直雇用で働くべきであるし、また、『仕事をするために生きる』ようなタイプなら派遣社員での仕事にはやりがいを求めることが難しいため、長く責任ある仕事を任せられていく可能性の高い直雇用を探すべきだ。
それでは、どんなタイプなら一般派遣社員生活を満喫することができるのか、ここでいくつか紹介しよう。
1.夫の転勤などの関係で期間限定でしか働くことができない
短期派遣であれば1日、1週間、1ヶ月などから3ヶ月程度のものまであり、家庭の事情で長くは勤められない人でも仕事に就くことができる。また、転勤といえど1年程度は勤められる、といった場合、どうせ長く続けられても3年なので「長期」と付けられた仕事(3ヶ月以上は長期に分類されている)に就いても問題ない。
また、健康上の問題などで長期的に働けるかどうか不安な方にもオススメだ。
ただし、ここで気をつけておきたい点はひとつ。
企業側も派遣会社側も、どうせ最長で3年しか働けないくせに長期の仕事だと「長く働ける人を好む」傾向にあり、夫が転勤族であることのほか「2〜3年続けられそうにない事情」があることを知らせると採用されなくなる可能性が高い。長期の派遣を希望する場合、たとえば転勤族であることを伏せたり「お子さんを作る予定は?」と派遣会社に聞かれても「今のところ2〜3年はありません」と答えておくのがベストなのである。
健康上の問題に関しても、よっぽどでなければ最初から言う必要はない。単発でしか働くことができないならそのような派遣の仕事を選べば良いし、長期的に働きたいが不安だ、というときはそのときになってから言えば良い。
派遣社員は仕事に対して大きな責任を負わない、負えない。その分、企業や派遣会社に忠誠を誓う必要も全くなくて、どうせ雇う側もコストダウンや必要がなくなればいつでも都合良く契約を打ち切れる、という部分を重視して派遣社員を雇うのだから、派遣社員側も「自分からもいつでも都合良く契約を切れる」と意識しておくぐらいが丁度良い。
入るときにさえ長く働けることをアピールしておけば、後は野となれ山となれ。どうせ長くて3年しか働けないのでもちろん私生活を優先させるべきだ。
2.他にやりたいことがある、または副業を持っている
趣味を優先させたい、副業を充実させたい、そんな方だと派遣社員という働き方はメリットが大きい。
まずコストダウンのために派遣社員を雇い入れている企業が多い昨今、残業代を支払わなければならない派遣社員に対しては特に大手であればあるほど残業避ける傾向だ。
つまり定時で帰ることが出来る可能性が高く、副業や趣味にアフター5を思いっきり充てられる。