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富士の高嶺から見渡せば

劉暁波が残した足跡を消し去ることはできない

2017.07.24 04:57

2017年7月13日、劉暁波氏の命の火が消えた。中共政府による治療拒否か、不作為による死刑宣告か。何よりも病状の進み具合が信じられないほどの急展開だった。収監中の錦州監獄で末期の肝臓がんだと診断されたのが5月末、病院への移送が認められ瀋陽市の中国医科大付属第1病院で治療が始まったのが一ヵ月後の6月末、危篤と伝えられたのがその1週間あまり後の7月の第2週に入ってからだ。いずれにしても劉暁波という存在をこの世から抹殺したかった中共政府とその中央指導部に責任はある。

中国人は、かけがえのない民族の知性を無様に失い、永遠に葬り去ったことを、これから未来永劫、深い後悔の念とともに、心に刻みつけていかなければならない。未来の中国人たちは、劉暁波という知性を同胞に持ったことを誇りに思うと同時に、そうした知性に思う存分、語らせることなく、その貴重な思考、言葉、行動を記録に残すことを禁じ、彼の思想の表現、発表を制限し、その才能を中国の発展・進化のために活用しなかったことを、未来の中国人たちは悔悟と反省をもって振り返り続けることになるだろう。劉暁波という知識人が生きた証を、永遠に葬り去ることができたなどと思ってはならない。ノーベル平和賞を受賞した唯一の中国人であるという人類の記録は決して消すことはできない。中国人が忘れたいと思っても、われわれ中国の外の人間が忘れさせることはないだろう。

彼が私たちに残したかったメッセージと逮捕・拘束の原因となった「08憲章」の要旨をここに再録しておく。1989年6月4日、あの天安門広場の近くにいて悲劇を目撃した一人として、メッセージを伝え続けていかなければならない。

以下の「私に敵はいない 最後の陳述」は、2009年12月23日、北京市中級法院の法廷で行われた彼の「最後の陳述」であり、その二日後に、国家政権転覆扇動罪により懲役11年の判決を言い渡された。また、この「私に敵はいない」は2010年12月10日ノーベル平和賞授賞式でも代読された。以下はその一部であり、「チベットNOW @ルンタ ダラムサラ通信」2012年12月12日掲載の@yuntaitai(雲南太郎)さんによる日本語全訳から引用させていただいた。

「私に敵はいない 最後の陳述」

<私の自由を奪った政権に言いたい。(天安門事件の際の)20年前にハンスト宣言で表明した「私に敵はいない、憎しみの気持ちもない」という信念に変わりはないと。私を監視し、逮捕し、尋問してきた警察、起訴した検察官、判決を下した裁判官はすべて私の敵ではない。監視や逮捕、起訴、判決は受け入れられないが、当局を代表して私を起訴した検察官も含め、あなた達の職業と人格を私は尊重する。>

<憎しみは知恵や良識をむしばみ、敵意は民族精神を害し、生きるか死ぬかの残酷な闘争をあおり、社会の寛容と人間性を破壊し、自由と民主に向かう国家の道のりを阻む。だから私は個人の境遇を超え、国家の発展と社会の変化を見渡し、最大の善意で政権の敵意に向き合い、愛で憎しみを解かしたいと思う。>

<これらの信念と体験により、私は中国の政治の進歩は止められないと堅く信じているし、将来の自由な中国の誕生にも楽観的な期待が満ちあふれている。自由へと向かう人間の欲求はどんな力でも止めらないのだから、中国は人権を至上とする法治国家になるだろう。>

<私は望む。私の国が自由に表現できる場所となり、すべての国民の発言が同等に扱われるようになることを。ここでは異なる価値や思想、信仰、政治的見解が互いに競い合い、平和的に共存する。ここでは多数の意見と少数の意見が平等に保障され、特に権力者と異なる政治的見解が十分に尊重され、保護される。ここではあらゆる政治的見解が太陽の下で民衆に選ばれ、すべての国民が何も恐れずに政治的見解を発表し、異なる見解によって政治的な迫害を受けることがない。>

<私は望む。私が中国で綿々と続いてきた言論弾圧の最後の被害者になることを。今後、言論で罪に問われる人が二度と現れないことを。表現の自由は人権の基礎で、人間性の根源で、真理の母だ。言論の自由を封殺するのは、人権を踏みにじり、人間性を窒息させ、真理を抑圧することだ。

憲法が与える言論の自由を実践するためには、公民としての社会的責任を果たさなければいけない。私がしてきたあらゆる事に罪はない。たとえ罪に問われても、恨みはない。皆さんに感謝する!

2009年12月23日 劉暁波 >

以下は読売新聞7月14日に掲載された「08憲章」の要旨

 2008年12月10日にネット上で公開された「08憲章」の要旨は次の通り。

 ◆まえがき

 1949年建国の「新中国」は、名義上は「人民共和国」だが、実際は「党の天下」だ。党が政治、経済、社会の資源を独占し、大躍進や文化大革命、天安門事件を生み出し、民間の宗教活動や人権擁護運動の弾圧など一連の人権災難を引き起こし、国民と国家が極めて大きな代価を払った。

 ◆我々の基本理念

 自由は普遍的価値の核心である。言論、出版、信仰、集会、結社、移動、ストライキ・デモなどの権利は自由の具体的体現である。自由が盛んでなければ現代文明とは言えない。

 民主において最も基本的な意味は、主権在民と国民に選ばれた政府である。〈1〉政府の合法性は人民に由来し、政治権力の源は人民である〈2〉政治的統治は人民の選択を経てなされる〈3〉公民は真の選挙権を持ち、各級政府の政務にあたる主要な官僚は必ず定期的な選挙で選ばれなければならない〈4〉多数者の決定を尊重し、同時に少数者の基本的人権を守る――が基本的特徴となる。

 ◆我々の基本的主張

 〈1〉憲法の中の主権在民の原則にそぐわない条文を削除する

 〈2〉立法、司法、行政の三権分立を保障する

 〈3〉各級立法機関は直接選挙で選出され、立法は公平正義の原則を持つ

 〈4〉司法は党派を超越し、いかなる干渉も受けず、司法の独立を実行しなければならない

 〈5〉軍隊の国家化を実現する。警察を含むすべての公務員は政治的中立を守らなければならない

 〈6〉人権を保障し、何人も不法な逮捕、拘禁、召喚、尋問、処罰を受けない。労働矯正制度を廃止する

 〈7〉全面的に民主選挙制度を実施し、一人一票の平等選挙を実現する

 〈8〉現行の都市と農村の二元戸籍制度を廃止し、移動の自由の権利を保障する

 〈9〉結社の自由を保障し、現行の登録許可制度を届け出制に改める

 〈10〉平和的集会、デモ、示威行動と表現の自由は、憲法が規定する公民の基本的自由であり、政権党と政府の不法な干渉や違憲の制限を受けるべきではない

 〈11〉言論、出版、学術研究の自由を実現する。刑法の「国家政権転覆扇動罪」の条項を廃止し、言論に対する処罰を根絶する

 〈12〉政教分離を実施し、宗教活動が政府の干渉を受けないようにする

 〈13〉一党統治への奉仕やイデオロギー色が濃厚な政治教育と政治試験を廃止する

 〈14〉自由で開かれた市場経済制度を行い、行政による独占を排除する

 〈15〉民主的財政を確立し、納税者の権利を保障する

 〈16〉教育、医療、養老、就職などの面で誰もが最も基本的な保障を得られるようにする

 〈17〉生態環境を保護し、持続可能な発展を提唱し、子孫と全人類に責任を果たす

 〈18〉香港・マカオの自由な制度を維持し、自由民主の前提の下、台湾との和解案を追求する。立憲民主制の枠組みの下で中華連邦共和国を樹立する

 〈19〉政治的迫害を受けた人々とその家族の名誉を回復し、国家賠償を行う。すべての政治犯らを釈放する。歴史的事件の真相を解明し、責任を明らかにする