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富士の高嶺から見渡せば

政策論争不在、魑魅魍魎が跋扈する韓国大統領選

2021.12.18 13:13

投票日まで残り80日に迫った韓国大統領選挙は、国のあり方や将来を問う政策論争はそっちのけで、互いに候補者の妻や家族の不祥事をあげつらうネガティブキャンペーンばかりで、それこそドロドロ状態だ。

左派系与党の李在明(イ・ジェミョン)候補は、29歳の長男がオンラインゲームの違法賭博を常習的に行っていた疑惑について、その事実を認め「親として申し訳ない」と謝罪した。この長男については、ほかに買春疑惑まで浮上している。

保守系野党の尹錫悦(ユン・ソニョル)候補は、妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏の学歴詐称疑惑で謝罪に追い込まれた。学歴詐称といっても、大学の非常勤講師に応募した際、履歴書に「水原女子大学美術大学院卒業」と書いたのが、本当は「教育大学院美術学科」だったとか、「ソウル大学経営学科専攻」と書いたものは、本当は「ソウル大学経営専門大学院経営専門修士」だったとか、あるいは、高校の「美術教師」を務めたというのは本当は「美術講師」だったなど、どっちでもいいような些細な問題ばかり。しかも、こうした経歴詐称は尹候補と結婚する以前の話で、尹氏の大統領候補としての適格性にはまったく関係ないことだ。

この程度のことに、韓国のテレビニュースは大騒ぎで、ここ数日この話題で持ちきりだった。それだけ有権者の関心も高いということなのだろうか。しかも李在明氏は息子の疑惑が報道されたその日のうちに謝罪したが、尹錫悦氏の場合は3日後だった。これについて李氏は「尹氏は誠実ではない」となじり、自分の得点に繋げようとした。

どっちもどっち、どうでもいいと呆れるしかないが、こんなことでしか自分の優位性を示せないという、レベルの低い選挙戦を演じていることがわかる。支持率調査は世論調査会社の各社合計で、今年はすでに330回を超えるそうだが、そのときどきの気分や印象だけで候補者選びをするより、まともな政策論争をしろと要求する声が国民から出ないのは何故なのか。

ところで、そうした候補者の人柄や能力を評価する上で欠かせないのは、その人の出自や経歴だが、韓国には歴代大統領のなかには誕生日や学歴が不明な人が多いという。本当だろうか?

以下は、龍谷大学教授の李相哲氏のYouTubeチャンネル<李相哲TV(12/15)「一発でわかる!今週の朝鮮半島」>で評論家・金文学氏を相手にした対談からの引用である。

<李相哲TV(2021.12.15)「一発で分かる!今週の朝鮮半島」>

実は、今の文在寅大統領の誕生日もはっきりしない。自叙伝では1953年になっているが、彼の受験票を写した写真では1952年生まれと書かれていた。彼の父親は朝鮮戦争で北朝鮮から逃れてきた避難民だが、その親の元で生まれた文大統領の出生についてはいろいろな説があるという。金大中大統領は誕生日が4つあったと言われる。タマネギ男で知られ、文在寅氏の後継候補だった曹国(チョ・グク)法務部長官も年齢詐称の疑惑があり、なぜか左派の人々には、生年月日について疑惑が伴うことが多いという。

そして李在明氏の場合だが、彼の生まれた年は1964年とされるが、それが確実ではないと本人も自叙伝に書いている。何故かというと、母親が自分を生んだ日を覚えていないからだという。その母親は戦後の混乱期でも小学校を卒業している。7人兄弟(男5人女2人)の5番目として李在明氏を出産しているが、貧しかったというのは関係なく、母親が自分の子を生んだ日を覚えていない、なんてありえるだろうか。

誰もが知る李在明氏のサクセスストーリーは、小学校を卒業後、中学校には行かず、少年工として工場で働きながら、独学で勉強して大学入学検定試験を受けて大学に入り、司法試験に合格し、人権派弁護士、市民活動家になったという輝かしい経歴だ。しかし、その小学校卒業から大学入学までの期間、実際にどこで何をしていたのか、よく分かっていない。彼の父親は大学中退という学歴の持ち主で、学校の先生や警察官も務めたことがあるという人物だが、そんな父親が子どもを中学校に通学させない、などということが考えられるだろうか?一家は、彼の小学校卒業と同時に慶尚北道安東から京畿道城南市に引っ越しをしているが、その後の数年は不明なことが多い。彼が少年工だったという1970年代、そのころの韓国でも13歳や14歳の子どもを工場がまともに雇うとは思えない。

李相哲氏が疑っているのは、少年工をしていたというこの期間、実は何か悪いことをして捕まり、少年院に収容されていたのではないか、実際は少年院に入っていたのを、少年工をしていたという美談にすり替えたのではないかという疑いだという。李在明氏の名前も、小学校を卒業するまでと、少年工をしていた期間、そして現在と、名前を変えている疑いもあるという。

         (『李在明の 私の 少年工 ダイアリー』2018年10月)

彼の経歴を書いた本は今までに5冊出版されているが、その一つに『李在明の少年工ダイアリー』という当時の彼の日記を元にした本がある。その本には実際に日記の文面を写した写真は1枚しか出てこないが、李相哲氏によると、同じ年に書かれたといわれる日記の文面の筆跡がまったく異なり、一方は真面目な女性が細かい字でびっしり書いたような文面、もう一方はいい加減に書き殴ったようなページで、一目瞭然、別の人物が書いたことが分かるという。これについて李在明氏は「年月が経てば山も川も景色は変わる、それと同じで筆跡も変わる」とうそぶいているそうだが、『少年工日記』は創作ではないかという疑いは晴れない。

            (李在明氏18歳のときの日記の筆跡)

大統領になろうかという人物の、生年月日といい、学歴といい、さだかに確かめられないというのは、杜撰というか、魑魅魍魎というか、何か背景があるのではないか?真実を言えない何か事情があるのではないかと勘ぐるのは当然のことだと思う。しかし、不思議なのは、大手メディアをはじめ、韓国のジャーナリストには、この真相を探ろうという人が一人もいないことだ。韓国の国会には、現在、1000人を超える記者が登録して、政治家の一挙手一投足を細大漏らさず押さえようと追いかけ回しているが、李在明氏の故郷に行って、彼の小学校時代のことや小学校卒業と同時に一家が他所に引っ越した理由とかを、当時を知る人を探して取材しようという記者は現れない。まじめに記者の仕事をしているのだろうか?

本来は大統領選挙で与野党の大きな争点になるべきだったのは、北朝鮮が非核化を約束しないままで締結しようとしている朝鮮戦争の終戦宣言問題、米中対立が続くなかで米国が進める中国包囲網の一環としてのインド太平洋戦略に韓国はどういう立ち位置で関わるのか、米国の誘いを断って中国とのレッドチームに加わるのか、日本との関係が冷え込んでいるなかでCPTTP加盟について日本の了解をどう得るつもりなのか、いわゆる「徴用工」や慰安婦問題など今後も永遠に繰り返すつもりであろう歴史問題にどういうスタンスで臨むのか、などなど多くの課題を抱えている。

このうち終戦宣言については、李在明氏は「日本が終戦宣言に反対しているので、それに乗っかり同調するのは親日派であり『逆賊行為』だ」とまで非難し、保守派を牽制した。これに対して尹錫悦候補は、終戦宣言に慎重の立場であり、当事者の米国も時期尚早だとして距離を置いている。

そもそも終戦宣言について、文在寅大統領が南北会談で金正恩に提案し、米朝首脳会談前にトランプ大統領に進言する前に、韓国国内ではどれだけ議論が行われ、国民の間のコンセンサスはいかに図られたというのだろうか?文在寅政権になって、不動産政策でも雇用政策でもこんなはずではなかったと思う真逆の結果ばかりを見てきただけに、今回の大統領選でも、韓国の将来について何のコンセンサスもなしに大統領が選ばれれば、再び同じことが繰り返され、絶望が広がるだけだろう。

外交政策について、とりわけ日本との関係について、李在明氏は最近も「日本は右傾化が進んでいて再武装を図っている。だから日本は信用できない。日本との協力関係、日米韓同盟には反対だ」と発言している。日本の右傾化や再武装という彼の認識は、韓国のミサイル射程の長距離化や空母・原潜導入計画など自分たちの軍事力強化は棚に上げての偏った見方であり、「日本は信用できないから日本との協力関係は拒否する」というのは、そのまま韓国にお返ししたい言葉だ。日米韓同盟に反対ということは、バイデン政権の考え方とは相容れず、中国との二股外交に主軸を置くという考えを表明したようなものである。CPTPPへの加盟問題や歴史問題を含めて、日本との関係を立て直す以外に、懸案解決の方法はないのは明らかだ。李在明氏が仮に大統領に当選することになれば、朝鮮半島をめぐる国際関係、外交の構図も大きく変わり、それだけ危機も高まる可能性がある。