Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

長屋を「ヨリドコ大正メイキン」へと再生するのは、古いまま放置した罪滅ぼしの気持ちが大きいです。 ———小川オーナーの話

2017.07.27 14:52

−−小川オーナーに、なぜ今回、小川文化北棟を再生しようとしたのか、改めて聞いてみた。


川幡:今日は、「ヨリドコ大正メイキン」の現場に菓子パン・・いえ、スポーツ飲料の差し入れをしてくださったんですよね。ありがとうございます!

小川:いえいえ。

工事が始まって、初めて現場に行ってきました。

なんだろ、とても不思議な感覚です。建物の様子がすでにガラッと変わっていますね。

川幡:はい。昔の荷物も出され、壁や増築部が撤去され、随分見通しが良くなりました。8月からは、イベントやDIYをして、工事期間中から、新しい人がどんどんコミットしていきます。


ーところで、今日はそもそも、どうしてリノベーションをしたかったのか、改めて教えていただきたいです。


小川:最初、再生したいと考えたのは築65年という長い期間、私たちが放置に近い形で貸していたことに対する罪滅ぼしに近いかもしれません。

大きな改修もせず、ほとんど入居者さんにお任せ。

よくここまで持ったもんです。


しかし自分はこの物件が、こうして残ったのには何か理由があるのかな、と考えたんです。

「取り壊ししろ」と周りから言われ続けて意固地になってるだけかなとも思いました。

でも、この物件には未来があるってなぜか勝手に思い込んでいたんです。

しかし、周りからは「ただリノベーションして若い人に住んでもらっても、利益はさほど出ないし無理がある。だから、取り壊しが得策だ」と言われてました。


川幡:最初、相談を受けた時には、小川さんは「周りからリノベーションなんてありえないと言われている」と。

小川:かなり無謀ですよね(笑)。そうなると改修もせず現状のままで「DIYはご自由にどうぞ」として、入居者を募集することも考えました。

しかし立地も良いとは言えず、これもなかなか難しい。

そんなときに神吉さんがいたんです。


川幡:今回、リノベーションをする北棟の隣の南棟に住む神吉さんですね。

(写真:左が神吉さんの住む南棟。隣が今回リノベーションをする北棟。)


(写真:真ん中が神吉奈桜さん。左が筋原港区長(当時大正区長)、右が細川裕之さん(デザイナー))

小川:はい。南棟に住む神吉さんです。彼女は自分の住む南棟の一画を勝手に「人魚棟」と名付けてますが(笑)。

神吉さんは、ここに住む前には、兵庫県のたつの市に住んでいました。たつのでは、真冬に家の中で寒すぎて寝袋で寝るという経験をしていて、神吉さんなら、大正のこの場所で現状のままで暮らせるかも。しかもたつのより暮らしやすいはず!ってことで、大阪に仕事などで通っていた神吉さんを口説いて、大正に住んでもらうことにしました。この辺りはご存知だとは思います。

川幡:はい。神吉さんが住み始めた時はまだ、北棟はリノベーションの案も建替えの案も出ていませんでした。



神吉さんが小川さんに口説かれ大正で住み始めたがいいが、それでもやっぱり部屋の中は住める状態になかったそう。困り果てた神吉さんは、冬のある日、フェイスブックで「help me !」と記事を挙げました。

すると、たまたま筋原港区長(当時大正区長)が見かけて、「これは助けねば」と。そこから、区長がいろんな人に声をかけて、多くの人がDIYに参加して、なんとか住めるように。



川幡:その後、神吉さんは、昔から住む方々(多くがご高齢です)とも仲良くなって、おかずのおすそ分けをしてもらったり、逆に銭湯の付き添いをしたりしているらしいです。

神吉さんが企画するいろんなイベントを通じて、住人だけでなく地域のこどもとも大人ともおつきあいが始まり、地域で人魚棟が認知されるようになってきたんですよね。

小川:はい、その様子を神吉さんから色々聞かされました。

(写真:神吉さんはイラストレーター。作品の販売会、お絵かき教室、ライブイベントなどを人魚棟で開催している)


小川:それから一気に大正のことを前向きに考えれるようになりました。

そうしてるうちに色々と自分なりの夢がでてきて、「若い人と高齢者とのコミュニケーションがとれる場所にならないかな?」

「その高齢者から若い人に引き継げるものはないかな?」と考えるようになりました。


(写真:住人に北棟のリノベーション工事の説明をする小川オーナー)


小川:縫製はまさにそれでした。

川幡:北棟の用途を検討するときに、縫製の場にしたいというのはそういう流れだったのですね。「昔の大阪は繊維のまち、それに関連して洋裁工場もたくさんあった。縫製は工場の縫い子さんだけでなく、地域で内職をしていた方もたくさんいたらしい。その方たちは今、ご高齢になっているから、もし縫製の技術を教えてもらうとしたら、今が最後のチャンスかもしれない。「技」を通じて高齢者と若い人が集えるスペースを作りたい」というような話でしたね。


小川:はい、でも縫製だけではないと思います。

まだまだ引き継いでいかなくてはいけない「コト」「モノ」はたくさんあるように感じます。

それが自然と生まれるんじゃないかな?

それがこの大正の泉尾という街で可能なんじゃないかな?

そう思うんです。


小川:どんな人が「ヨリドコ大正メイキン」に入るかわかりません。

でも高齢者と若者が混在して、お互いを尊重しあえる場所になれたらなって、こっそり思ってます。

どちらにせよ、場所が必要なんですね。

そのための受け皿を小川が作る。

それがせめての罪滅ぼしになったらなと思っています。

(話し手:小川拓史、聞き手・文章:川幡祐子WeCompass、写真:神吉奈桜)