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Main2-2:異端者と光

2021.12.20 12:10

世界が分かたれる前、人を始めとする生命は星の為に生き星の為に還るということが理とされていた。

誰もそれを否定せず、[そうあるべきだ]と自然と結論付けて日々を過ごす。

そんな世を、世界を、旅する者がいた。

彼女たちの真名を知る者はいない…ただ誰かは彼たちをこう言った。

[双子のアゼム]だと。


古代人としては珍しく、手にも背にも荷物を持ち歩く。

アゼムとは、十四人委員会の座に就く者の事を指す。

アゼムの位置である第十四の座は少し他と違っており、[世界の今を知り、解決すべき問題が出た時…それらを拾い集める役目]だった。

故にアーモロートにいる日も少ない。

彼女が周りにどう写っているかは分からない、彼女自身も知ろうとはしない。

けれど[アゼム]の名とは別にこう言われる時もあった…[異端者]と。

生命は何れ星へ還ることを自然摂理とするこの世では、無闇にエーテルを吸い上げることもしない。

そもそも古代人は持っているエーテル量が多い。

もちろんアゼムも例外ではない。

だが彼女には自然摂理から外れた異能を持っていた。


これは彼女がアゼムとなるまでの話である。


─────


彼女は、無意識に、無自覚に、地脈や風脈、水脈からエーテルを吸い上げていた。

エーテルを吸い上げるということは、星から必要以上にエーテルを貰うということ。

それを良しとする者は居らず、アゼムでさえそう感じているほどだった。

それは彼女が産み落とされてから1度も改善できず、[理から外れた者][異端者]だと言われる理由となったのだ。


『おい』

『!?』

『なんだその膨大なエーテル量は』

『…僕が望んでこうしたわけではない…!』


1人でじっと還るのを待っていると、誰かが声をかけてきた。

彼は[エメトセルク]の座に就く者だと言った。

これがアゼムとエメトセルクが初めて出会った日となる。

エメトセルクが彼女の元へやって来たのは、アーモロート内で彼女の噂が出始めたからだった。

『近頃、ここから遠く離れた森の更に奥、拓けた野原から風脈が薄れて始めた。地脈もおかしく草木が育たない』とのことだった。

それは創造物管理局の局長であるヒュトロダエウスの耳にも届いており、あれよあれよと十四人委員会に議題が持ち込まれたのだ。

地脈や風脈が薄れることは、星としても宜しくない…そういうことで調査に出ることとなったのだが、案の定それはエメトセルクに矛が向く。

大きなため息をつきつつ、彼は腰を上げすぐさま現地へ赴いた。


『それで?

これは一体なんなんだ?』

『視た通りだよ、僕では制御が難しい。

だから僕はここで静かに還ることを望んでいる』

『だがそれだけエーテルを抱えているとなると、還ることもできないだろう』

『そうだね、悪循環だ』

『お前のその行動は対処する必要がある、大人しく我々の元に来てもらうぞ』

『……』


彼女は大人しく従った。

逆らう必要性がなかったからだ、寧ろ従うことで解決できるのであればとさえ思う。

だが問題が着手されるまでにここから数十年、解決するまでにまた数十年かかるとは誰も予想していなかった。


─────


まず手始めに、調停者である[エリディブス]の元へ通される。

彼を始めとする十四人委員会によって、彼女の処遇を決めることとなったのだ。

市民からは『異端者はすぐさま星へ還すべきだ』という意見が多い。

十四人委員会からは『例外的な問題の為、まずはどういう原理でそうなったかを調べ議論する必要がある』と言われる。

当時、アゼムの座にいた者も『彼女には何かがある』と言う。


『貴女はどうしたいのだ?』


そう、委員会の誰かが問うてきた気がする。

彼女は答え語らず、ただ静かに議論が終えるのを待っていた。


─────


長い、永い時だった。

現代に生きる者とは違い、古代人は長く時を過ごす。

それでも老いは来るもので、気づけばラハブレアは[爺さん]と呼ばれることも増えつつあった。

異端者も歳を重ねるが、それでも未だ現役と言える程の実力はあった。

見た目もそこまで老いてはおらず、せいぜい20歳過ぎほどの姿である。


『お前の処遇が決まった』

『……もうあまり、期待はしていないのだが』

『知らん、だが悪いようにはならないとだけ伝えておこう』

『………』


変わったことといえば、この風格だろうか。

エメトセルクはそう思いつつ、彼女を連れ委員会の元へ訪れた。


『[調停者]の名において、君の処遇を伝える。

[当代アゼムの意向にて、君をアゼムの座に就かせ委員会の元で監視する。

それと並行し、君の異能について調べる。

更にはその異能の対処方法を模索する]』

『……は?』

『アゼムがどうやら君を気に入ったそうだ。

ここに至るまで、あの方と何度か面識を得ていたのだろう?

面識の後に、あの方はいつも笑顔でこう言うのだ。

[彼女はとても優しく、勇気のある者]だと』

『買い被りすぎではないかね?』


そう言って同じく出席していたアゼムの方を向く異端者。

アゼムは静かに微笑みこう語った。


『確かに生命は星へ還ることを自然摂理と考えています。

けれどそこに感情がないわけではない…還るということは[もう何もできなくなる]こと。

貴女はいつも夢を語ってくれる…けれど最後には必ず[還るべきだ]と言う。

夢があるにもかかわらず、それ程までに[還ること]を結論として出すには、勇気がいるでしょう』

『…どうだか。

僕は異端者だ、星の理から外れた者は、星にとっても異物でしかない。

僕はその異物であることが嫌なだけだよ』

『私はそうは見えませんでしたよ?』

『…………』


仮面越しでも伝わるほどの不機嫌さを出す異端者。

対してアゼムは微笑んでいるように思える。


『では、以上の結論で事を進める。

監視はエメトセルク、君に任せていいだろうか?』

『!?

……分かった』

『アゼムは最後の責務として彼女に[アゼムについて、十四人委員会について]説明を』

『分かりました』

『君は……名がないと困るな…』

『僕に名前なんてないよ』

『……』

『あぁでもそうだね…[ハイレシス]と、呼ばれることは多かったから、それを名としていた時期はあったよ』

『ハイレシス…[異端]の意味を持つ…、皮肉だな』

『何とでも呼ぶといい』


素っ気ない態度のハイレシスを見て、[こんな奴だったか?]とアゼムもエメトセルクも感じた。

だがエメトセルクには視えている…年を経て尚膨張していく彼女のエーテル量が、限界を超えようとしていることを。


『エリディブス、もういいか?

私はコイツを早急にどうにかしたいのだが?』

『あぁすまない。

では任せるよ、ハイレシスもこれからよろしく頼むよ』

『…分かりました』


─────


『おいヒュトロダエウス、居るか!?』

『おやおやなんだい?

なんだか物騒で面白い者を連れてきたね?』

『だれ?』

『ワタシはヒュトロダエウス、ここ創造物管理局の局長を務めているのさ。

君は?』

『ハイレシス』

『わお、例の子かい!?

会ってみたかったんだぁ、よろしくねー?』

『……』

『コイツはいつもこれだ、慣れろ。

…ってそうじゃなくてだな?』

『なになに?イデアならワタシに伝えてくれれば用意するよ?』

『違う!

私は、お前本人の、力を借りに来ただけだ!』

『おおう、猛烈。

…大方察しはついているよ、彼女のエーテル量が爆発しそうだもの』

『お前たち、視える部類だったのか』

『うん、そうだよ。

それじゃぁ出発しようか、ここで作業をすると大惨事になりかねない。

ワタシはイデアを1つ持っていくよ、君たちは風脈の穏やかな場所に行っておいて』

『助かる』


彼女の素っ気ない態度は、彼女自身が離れようとする証。

離れようとするということは、持っているエーテル量が限界を迎え、今すぐにでも放出したいと願うこと。

もちろん、還す方法もあるのだが、これだけの量を一気に還すとそれはそれで地脈や風脈に影響が出る。

…それは彼女がエメトセルクに拾われた日の時点で結論が出ていたものである。

最初に出会った野原で作業をすることにする。

あの時の静けさと違い、緩やかに風脈が流れているので、丁度いいと判断した。


『おまたせ』

『やっと来たか、そのイデアは?』

『これは一時的にエーテルを込められるものだよ。

ハイレシスの放出したエーテルをこれに吸収させ、ここから星へ還してあげるのさ』

『……!』

『といってもこのイデアは1回きりだけどね。

媒介がまだそこまで耐久が高くないんだ』


それは今までアーモロートに寄り付こうとしなかったハイレシスにとって、転機となる言葉とイデアだった。

本体と脈の間に媒介を入れることで、安全に還すことができる…もしそれを更なるイデアとして改良できれば、常に対処できるかもしれないからだ。


『それじゃぁ始めようか』

『媒介を僕に』

『お願いするよ』

『……ふぅ…。

[力をあるべき場所へ

超える力は星へ

巡り巡って星界へ]』


ハイレシスは歌うように唱えた。

媒介は淡く光り彼女の溢れたエーテルを吸収していく。

唱は見える波紋となり風脈へ、媒介からは地脈へ放たれたエーテルによって野原を撫でる。

それらが調和し、野原には小さな花々を咲かせていった。

無表情で静かに見守るエメトセルクと、目を輝かせ見入るヒュトロダエウス。

しばらくするとエーテルも還し終え、ハイレシスの表情も穏やかになっていた。


─────


そこからまた幾数年。

アゼムの座に就いたハイレシスは、ついに常に連れ出せる媒介を造り上げた。

そのイデアに命を吹き込む。

目を開け動き始めたそれは未だ無表情だがどことなく感情を感じた。


『…喋らせることはできなかったけど、これで僕も皆と同じ世界に立てる気がするんだ。

君は僕のフォス(光)だ』

《…………》


フォスと呼ばれたイデアは、ゆっくりと瞬きをし頷いた。


─────


フォスは後にイデアに登録されることとなった。

安全の確認済、市民への使用可能化、何よりアゼムが[自身とおなじ境遇の者の為]と言ったからだ。

フォスは最初、ただのクリスタルだ。

フォスは主の意思を感じ取り、そこから形作る。

もちろん形だけが具現化されるので、主が悪事を伝達することは不可能である。

ただし形次第では使い魔と同じように扱えるだろう。

そんなフォスは語ることは不可能で、ただただ主と脈の間に立ちエーテルを循環させる。

けれど時々『フォスが喋る』だなんて報告が来る、詳細は不明である。


アゼムのフォスは、彼女と瓜二つの形をしている。

それは女性にも見えるし、男性にも見えたそうだ。


『よし、じゃぁ今日はここにしよう。

フォス、僕の持ちすぎた力を星へ還してあげてくれ』


そう伝えるとフォスは目を瞑り祈るように手を合わせる。

アゼムは唱い、エーテルを還していく。

その歌は響き、遠くまで伝わった。


《ぼくもうたいたい》


そう静かな声が聞こえたのは、この場にいるアゼムただ1人だけだった。


─────


また更に時が過ぎ、星は恐怖と絶望に溢れた終末となった。

アゼムは既にアーモロートにはいない。

だがフォスは留まった。

『僕の代わりに、皆を助けるんだ』と約束されたから。


《……》

『え?あ、ありがとうございます…』


フォスは声を持っていない。

だが手を差し伸べる。

約束を1つでも果たすため、アゼムが望んだ未来のため。


《……》

『君は逃げないの!?』


先程逃げたはずの助けた男が駆け寄って問う。

フォスは首を振り否定し、自身の胸にそっと手を当てる。


《……ぼくは、まもると、やくそくした》

『え?』

《ぼくは、フォス…アゼムのフォス》

『アゼムって、あの十四人委員会の!?』

《ぼくは…フォス(光)》


不器用で、それでも何かを伝えようとするフォスに、男は耳を傾ける。


《ぼくは、あきらめない

きみも、あきらめないで

さぁ、いって

きみが、みらいを─》


そこまでしか聞き取れなかった。

背を向けたフォスは近づく獣を創造魔法で抑えてゆく。

男はそれをしばらく見ていたが、意を決したのか強く頷き逃げるために走り出した。

それぞれが願う未来のために…。