「風っこ 夏休み号」乗車 2017年 盛夏
梅雨が明けたJR只見線の沿線の風景を楽しもうと「風っこ 只見線夏休み号」に乗車した。
「風っこ」(びゅうコースター風っこ)はJR東日本が所有する観光列車(ジョイフルトレイン)で管内のあちこちで運行されている。只見線では5月の「新緑号」、8月の「夏休み号」、11月の「紅葉号」と三季に運転日が設定されている。
「平成23年7月新潟・福島豪雨」被害による運休前には会津若松ー只見間を往復していたが、現在は会津若松ー会津川口間の運転となっている。
私は初めて「風っこ」に乗り、会津若松ー会津川口間を往復した。
*参考:
・福島県:只見線ポータルサイト
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」 (2013年5月22日)
・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」
・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー観光列車ー / ー只見線の夏ー
郡山駅上空には雲が広がっていた。天気予報では、ここ中通りより会津地方の方が晴れ間が多いという。
8:29、今日は始発ではなく、磐越西線の快速列車に乗車し、出発。車内は七割ほどの乗車率。
郡山富田、喜久田、磐梯熱海と郡山市内の駅に停車し、沼上トンネルを抜け会津地方に入る。天気予報通り、青空が広がっていた。
川桁付近で「磐梯山」が見えてきたが、ほとんどが雲に覆われていた。猪苗代を過ぎて正面に見るが、山の形状はほとんど分からない程だった。
まもなく終点の会津若松に到着するという時、シャンパンゴールドの車体が目に飛び込んできた。
クルーズトレイン「トランスイート四季島」だ。 “夏コース”になり会津若松には立ち寄らないとばかり思っていたが、違ったようだ。調べて見ると、今年5月6日に会津若松に初入線したのが土曜日だったが、現在は日曜日に変更された他は変わらず、1泊2日コースの中に会津若松観光が組み込まれていた。
列車は定刻に会津若松に到着。改札を抜け、駅舎を眺める。初めての夏を迎えた赤瓦の風の屋根は、強い陽射しに一層映えていた。
買い物を済ませ、再び改札に入る。電光掲示板にはこれから乗る「風っこ只見線夏休み号」が表示されていた。
磐越西線上りには「トランスイート四季島」の発車時刻の表示も。
連絡橋を渡り、4番線に向かう。「風っこ」は入線していた。
階段からホームを見下ろすと、この「風っこ」の乗客を歓迎する駅職員の一団の姿があった。
熱烈な歓迎を受けた後、ホームで列車の外観を眺めた。
「風っこ」はキハ48形を改造したもので、大型の窓を取り外し開放的な乗車空間となるのが特徴だ。悪天候時や秋冬季の運行の際は窓がはめられる。水郡線では「風っこストーブ号」が冬場に走る。
この「風っこ」は昨日も運行されたが、車体はよく洗車されているようで光沢を放っていた。
しばらくすると、先ほどの「四季島」が保守線を移動する姿が見られた。
車内に入る。写真で見たことがあったが、開放感は勿論のこと、木製のテーブルや椅子など、天井を含めて味わいがあり、これからこれに乗って只見線を走ると思うとワクワクした。
BOX席は四人掛けだが、狭いために、二人で予約するとA席とD席が割り振られてBOXを二人で占有することになるようだ。
今日の列車は空席もあったが、予約が殺到した場合、一人で予約した時はBOX席で対面という形で相席になるのだろうか。
私の乗った車両は7割方席が埋まったが、想像に反して、子供の姿が少なかった。男性二人というペアもいて、車内は騒々しくなく落ち着いた雰囲気だった。
10:15、「風っこ只見線夏休み号」は定刻に駅職員の見送りを受けて出発。列車は快速運転で、途中、西若松、会津坂下、会津柳津、会津宮下の4駅に停車し、終点の会津川口に向かうことになる。
走り出すと、車内には風が通り抜ける。冷房が入っているようだったが、天然の風量が圧倒し爽快だった。
列車は阿賀川(大川)で鮎釣りを楽しむ太公望を見下ろし、夏の太陽を浴び伸びた緑穂の田園を駆け抜ける。風が一層爽やかに感じた。
車内は、景色を見入る乗客の姿が目立つようになった。
窓はBOX席二つ分の大きさがあり、車窓から素晴らしい景色を楽しめた。
私はビールを取り出し、持参したコップに注ぐ。最高の“ビアホール”。
田園が広がり、向こうに霞んだ「磐梯山」が見えた。
会津坂下を発車して間もなく、列車は重厚なディーゼル音を響かせ、七折峠に向かう坂に入ってゆく。
塔寺を通過し、第一花笠トンネルに入ると、車内はいい雰囲気になった。
列車の通過音やディーゼル音が気になるが、この照明と壁などに使われた木材の反射具合がなんとも言えない空間を作り出していた。また、トンネル自体もレンガを積み上げたものなど“古さ”を感じるため、探検しているような感覚にもなる。例えば、列車をモーター仕様にしてスピードを落とせば、レールと車輪の摩擦音だけが響き、一層雰囲気がよくなるのではないか。
この後、多くのトンネルを潜り抜けることになるため、トンネルを活かした“乗ると楽しい仕掛け”は一考の余地があると思った。
第一花笠から、第二花笠 - 元屋敷 - 大沢と四連のトンネルを抜け、会津坂本を通過。
11:33、列車は会津柳津に停車するため減速した。
列車が止まると、ホームで待機していた法被を着たスタッフがカートを押して列車に乗り込んだ。
只見線沿線4町(柳津・三島・金山・只見)1村(昭和)などでつくられる「只見川ライン観光協会」による地酒などの“ふるまい”だ。
列車が発車して間もなくすると、若いスタッフがカートを押して通路を歩き、全ての乗客に声掛けし始めた。三島町の法被を着たスタッフは、地酒などの飲み物の希望を聞いてから紙コップに注ぎ、笑顔で乗客に手渡していた。
あわせて柳津町名物「あわまんじゅう」と只見川電源流域振興協議会(5町2村)が発行している各地の観光情報などが記載された「奥会津アドベンチャー」の冊子を全ての乗客に配っていた。
私は、只見町のどぶろく「ぶなの泉」を頂いた。
そして「あわまんじゅう」。
列車は森の中を進んだ。乗客の多くは、夏の太陽に照らされた緑の木々を見つめていた。
滝谷を通過すると、間もなく滝谷川橋梁を渡る。眼下に滝谷川の渓谷を見ながら、緑に包まれた開放的な鉄橋をガタゴトと音を立てながら進んだ。*以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館「歴史的鋼橋集覧」
会津桧原を過ぎ、桧の原トンネルを抜けると間もなく、三島町の町花・桐の花の色である薄紫に塗られた「第一只見川橋梁」が現れる。車内がざわつき、乗客皆が外に目を向けだした。
「第一只見川橋梁」を渡る。柳津ダム(東北電力㈱柳津発電所)が創り出している只見川の水面は深い緑だった。
名入トンネルを抜け、会津西方を通過すると、次は「第二只見川橋梁」を渡る。
乗客はここでも外の景色に見入ったり、カメラのシャッターを切ったりしていた。
会津宮下で停発車し、東北電力㈱宮下発電所の背後を通り抜け宮下ダムにさしかかろうとするとき、手を振る男性の姿があった。
走行中の「風っこ」には沿線の多くの人が手を振っていた。窓が無く、乗客の姿が見える事もあって、手を振り方に力が入っていると見えたのは気のせいか。
列車は、宮下ダム湖(只見川)の脇を颯爽と駆け抜けた。気持ちが良かった。
一瞬、只見川と分かれるが、まもなく森の中を進むと前方に茶色い鉄橋が現れる。「第三只見川橋梁」だ。
川下(北側)を見る。川面を含め、多様な緑に包まれていた。
滝谷トンネル、早戸トンネルを抜け、早戸を通過。列車は左手に只見川を見ながら進む。乗客の視線は、自然と只見川の方に向いていた。
会津水沼を通過し、間もなく下路式の「第四只見川橋梁」を渡った。
眼下の川辺をよく見ると“撮り鉄”二人の姿があった。よい写真は撮れたのだろうか。
列車は真上からの太陽を受け、会津中川を通過し大志集落の脇を駆けた。
まもなく、前方に上井草橋が現れた。終点も近い。
11:28、列車は会津川口のホームに静かに入ってゆく。下流にある上田ダム(東北電力㈱上田発電所)の貯水量は十分で、鉄路と只見川の“湖面”を豊かな緑が包んでいた。
定刻をわずかに遅れ、終点の会津川口に到着。向かい側には12時32分発の会津若松行きの普通列車が停車していた。「風っこ」を降り、この列車に乗り込む人の姿も見られた。折り返し方式の観光列車の場合、このような乗り方もある。
「風っこ」と並ぶ、会津若松行きのキハ40形。兄弟列車で同じ二両編成ということで、ほぼ左右対称に停車していた。
ホームから駅舎に向かう途中で「風っこ」を眺めた。緑と青空に映える車両だと思った。
駅舎に入り、売店に置かれている「かぼまる」に挨拶。只見線の運休区間が開通し、全線再開となると「かぼまる」と会うのは必然ではなくなる。あと3年。この間にどのような衣装を身に纏ってゆくか楽しみだ。
駅舎の外に出て、昼食をと思い食堂「おふくろ」を目指すが、店は外まで客があふれていた。大半が「風っこ」の乗客だと思われるが、私は断念し、只見線の運休区間を見るため国道252号線沿いを歩く事にした。
道脇に咲くキキョウ。青紫の花はキレイだった。
15分ほどで、旧国道沿いの運休区間の線路脇に到着。鉄路は夏草に覆われていた。
全線復旧がほぼ確定した今、ここに列車が走る姿は容易に想像できる。錆びついたレールを見ても悲壮感は湧かなかった。
ここから只見川に向かってコンクリートの階段が伸び、浮橋に通じている。福島県立川口高校ボート部の練習場だ。関係者以外立入禁止の案内板等が見当たらず、ちょっと見学させてもらうことにした。
桟橋に立つと、只見川に浮かんでいるような感覚になり、素晴らしい景色を見る事ができた。
前方に目を凝らすと、会津川口駅のホームが見え、停車中の「風っこ」の姿を捉える事ができた。
駅に戻る。改札を入り、ホームを見ると腰を下ろす女性の姿があった。ローカル線ならではの光景。駅員も咎める事はなかった。
「風っこ」の中に入り、誰も乗っていない車内を見て回った。
じっくり見ると、改めて良い内装だと思った。
前方に見える煙突は、ストーブのもの。この列車は「風っこストーブ号」として、女川号(石巻線・宮城)、湯けむり号(陸羽東線・宮城県)、奥久慈号(水郡線・茨城県)、日光号(日光線・栃木県)、など1・2月に運行されている。
しばらくすると乗客が次々と乗車したが往路よりわずかに空席を増やしていた。
13:56、列車は定時に出発。
上井草橋を潜ると、右前方に只見川沿いの大志集落が見えてきた。只見線の撮影対象としても人気のある風情ある集落だ。
私の席は往路とは反対。復路は違った景色を楽しめると思い、期待が膨らむ。山側の車窓からの風景も良い。緑の中を颯爽と進む様が実感できた。
ここでもビールを頂く。私の中では、「風っこ」車内がビアホールになっていた。
このビールは会津川口駅前の加藤商店で手に入れた。もちろん、キンキンに冷えていた。
会津中川を通過後に、「第四只見川橋梁」を渡った。
会津水沼を通過、“8連コンクリートアーチ橋”を渡った。
早戸を通過する直前の風景。緑が重なり、絵になる風景だと思った。
早戸トンネルと滝原トンネルの間、いわゆる“早戸俯瞰”を通過。前方上部に見える、コンクリート補強された崖下を通っている国道252号線沿いが撮影ポイントになっている。森の中から突然現れた列車を一瞬で撮影することになるが、まさに“俯瞰”で、見下ろす形で素晴らしい写真が数多い。
滝原トンネル通過直後に「第三只見川橋梁」を渡る。
列車は宮下ダム湖の脇を駆け抜け、会津宮下に到着。
すれ違い列車もなく、まもなく出発した後、「第二只見川橋梁」を渡った。
会津西方を通過し名入トンネルを抜け、「第一只見川橋梁」を渡る。
開放的な車内から見ても絵になる、“魅せられる”橋上からの風景だと思った。
会津桧原を通過し、原谷トンネルを抜け、滝谷川橋梁を渡る。緑に囲まれた景色を見下ろした。
滝谷、郷戸を通過し会津柳津に停車。往路で只見川ライン観光協会による地酒等の“ふるまい”があった事を思い出す。往路だけのサービスだったが、ありがたかった。
会津柳津を出発し、会津坂本を通過。広がる田園と、そのはるか向こうに立ち並ぶ飯豊連峰を北に見ながら列車は進んだ。
この後、列車は七折峠を上り塔寺を通過し、一転快調に下った。そして会津平野に入り、強い午後の陽射しを受けた緑稲の中を列車は進んだ。
窓の外を見やる大人の脇で、眠そうな目でぐったりとしていた、ちびっ子の姿があった。気持ち良い風や流れる風景より、眠気が勝ったのだろうと思った。
外には、真夏の田園の風景が広がり、開放的な車内と一体化していた。「風っこ」は宮城県の小牛田運輸区所属の臨時列車だが、国内屈指の景観美を走る只見線に常留することはできないだろうか、と思った。
会津本郷を通過し、阿賀川(大川)を渡る。アユ釣り人の姿はまだ見られた。
16:05、定刻に会津若松に到着。誰も居なくなった車内を見渡し、下車。「風っこ」初乗車が終わった。
改札を抜け、一旦外に出る。食べられなかった昼食を、駅構内の立ち食い蕎麦屋で摂る事にした。冷やしラーメンを注文。麺はしっかりと冷水で冷やされ、素早く作られた割には美味しかった。
17:10、会津若松を出発し、磐越西線の列車に乗り、郡山に戻った。駅前の地面は雨に濡れていた。聞けば、“ゲリラ豪雨”に見舞われたようで、会津との気候の違いを思った。
今回、初めて「風っこ」号に乗り、開放された車窓から、今までとは違った風に景色を楽しむ事ができた。天候に恵まれた事も幸いし、夏の只見線を心から楽しめた。
次は、秋の紅葉時、「風っこ只見線紅葉号」に乗りたいと思う。
(了)
・ ・ ・ ・ ・ ・
*参考:
・福島県 生活環境部 只見線再開準備室:「只見線の復旧・復興に関する取組みについて」
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(2017年6月19日)
【只見線への寄付案内】
福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。
①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金・只見線応援団加入申し込みの方法 *現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/
②福島県:企業版ふるさと納税
URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html
[寄付金の使途]
(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。
以上、よろしくお願い申し上げます。