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陽は中天を過ぎて 2nd season

風のなか

2017.08.07 14:20

台風が来る。

といって準備をしても、いつもだいたい空振りなのだけれど、やはりベランダの鉢植えくらいは部屋に取り込んでやらないわけにはいかない。夜中に、あるいは会社に行っている間に、予想もしなかったような強風が吹いて枝がぽきりと折れたりでもしたら。

それはなんだか可哀想というものだ。自分のほんの少しの怠慢でこの緑の繁る枝葉をだめにするのは。


新しい週の始まりは、本格的に夏休みのシーズンに入って社内のあちこちに空席が目立ち始めたこともあってか、身体も頭も鈍重で回転が遅い。へばりつくように席に座り込み、ノートPCの画面を覗き込んでいると、今日から配属になった人が出社してきた。

立ち上がって挨拶を交わしながら、妙な感慨を味わう。

同じ課の女の子が辞めていったのはついこの間、先週の今日のことで、それからたったの一週間でもう次の人が来た。

会社員のことをよく歯車に例えたりするけれど、歯車というよりは細胞のようだ。絶えず退場と登場を繰り返し、総体としては変わらぬ外面を保ち続ける。個々の細胞のことなど、いったい誰がいつまで覚えているだろう。私もあと数年経つうちには、辞めていった彼女の名前を思い出せなくなりそうな気がする。


それでもしばらく強烈に記憶に残るだろうことがあって、それは彼女が「選ぶ」強さをもっていたということだ。

仕事を辞めると聞いて、まだ20代だしどこかに転職するのだろうと勝手に思い込んでいたら、寿退社して転勤する旦那さんについていくのだという。なるほどそれはいいきっかけで、とはいえ仕事を辞める決心をするからにはそれなりに長い付き合いなのだろうと、これまた勝手に思い込んでいたら、まだ付き合いはじめて半年にもなっていないという。

20数年の人生の中のたった半年。

その半年で彼女は、この先の人生をどう生きるかを選び取った。

強いな、と思う。

自分だったらたぶん、二の足を踏む。

結婚に限ったことではなく、大きななにごとかを選ぶには、自分には自信と潔さとが足りない。

けれどそうして一歩退いているばかりでは、目の前の景色はいつまで経っても変わらないのだ…


外は静かで、いったい台風は来るのか来ないのか、窓を叩く雨音すらしない。

風は、吹くのだろうか。

吹き渡る風のなか、自分はしゃんと立てるのだろうか。