デタラメ映画と徴用工のウソ
予想できたことだが、韓国はあのデタラメ映画「軍艦島」を使って、日本を貶める外交工作に余念がない。
映画の特別試写会が7月28日、パリで開催され、ユネスコ本部の関係者やパリ駐在の外交官など30人が出席したらしい。その前の25日には、ソウル駐在の各国外交官160人を集め、同じく特別試写会を開催したという。
聯合ニュースによると出席者からは「デリケートな素材をパワフルな映画にした勇気を尊敬する」(タイ大使)とか、「全世界で公開し、多くの人にこのような強制徴用の事実があったことを広めてほしい」(イラク大使館書記官)などの反応があったという。
(朝鮮日報「韓国映画「軍艦島」 パリで外交官向け試写会=国際的関心訴え」)
この映画は韓国国内に留まらず、すでに155カ国・地域に販売され上映されることが決まり、北米や東南アジア各国、香港、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスなどでの8月の封切りが確定したという。さらにニューヨーク・タイムズスクウェアに設置された大型スクリーンでは、映画の公開に合わせて「軍艦島の真実」というタイトルの15秒スポットの広告映像が7月初旬の一週間、7000回流されたのに続き、今度は同じ映像が30秒に再編集された上、SNSを通じて流されるという。英語、中国語、日本語、韓国語の4カ国語で流されるSNSでは「軍艦島には600人の朝鮮半島出身者が強制徴用され、120人が命を失った。しかし日本政府はこれを認めず、歴史の歪曲を続けている」というメッセージが流されるという。
(聯合ニュース2017/07/13「軍艦島の真実」を世界に広報 SNSキャンペーン開始)
この120人という数字は、長崎の市民団体が端島で発見した「死亡診断書」に基づく1925 年~1945 年まで20年間の数字で、国家総動員法に基づく動員が始まった1939年以降に限っていえば朝鮮人死亡者は48人だった。しかもこの20年間の日本人を含めた死亡者総数は1,295 人で、日本人は朝鮮人の10倍もの犠牲者を出している。歴史を歪曲しているのはどちらなのか。
「軍艦島」特別試写会の開催には、韓国の特別の目的もあった。ユネスコ世界遺産委員会の委員国であるクウェートやトルコの代表など関係国の外交官を集め、日本政府がユネスコの世界遺産委員会に対して「約束」したことを、いまだに実行していないことを訴えることだった。
「約束」とは何か。2年前に遡って、「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録への経緯を振り返ってみよう。
韓国は、端島炭鉱(軍艦島)など「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産登録を申請した23施設のうち7施設で「戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働があった」とし、世界遺産登録を強硬に反対し続けた。2015年5月、ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)によって、8県にまたがる産業遺産23施設すべての登録を認める勧告が出された。ところが、桜井よしこ氏によると、韓国に気兼ねした外務省が「韓国の意向も尋ねなければ」と言い始めたのだという。
世界遺産委員会開催半月前の6月21日、日韓外相会談で「日韓両国は,世界遺産委員会の責任あるメンバーとして,同委員会の成功に向けて協調し,「明治日本の産業革命遺産」と「百済歴史地区」という両国の推薦案件が共に登録されるよう協力していくことで,完全に一致した」(外務省広報資料)とし、韓国側は反対姿勢を撤回した。
この合意は、その年11月にようやく実現した日韓首脳会談に向けて「雪解け」を演出する意味もあったといわれる。
ところが、7月5日、ドイツ・ボンで開かれたユネスコ世界遺産委員会で、韓国側は登録に協力するとした前言を翻し、展示資料などに「強制労働」の文言を入れるよう強く要求、議論は紛糾した。そのため、登録決定は一日、先送りされた。韓国との協議で日本側は、登録施設の一部において「意思に反して」連れてこられた朝鮮半島出身者がいたことを認めた上で、「情報センター」の設置など、犠牲者を記憶にとどめる措置を行うこととした。これについて、韓国メディアは一斉に凱歌(がいか)を上げ、「日本、国際社会で初めて強制労働認める」などと報じた。日韓外相会談での合意とは何だったのか。完全な騙まし討ちだった。
登録決定の翌日、日本側代表団が出した声明では、多数の韓国人が「その意思に反して(against their will)連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた(forced to work)」という表現は、「強制労働(forced labor)を意味するのではない」と苦しい弁明をし、岸田外相も「こうした措置が、日本企業への賠償請求訴訟に使われることはないと信じる」と表明したが、すべては「あとの祭り」だった。「やはり」というべきか、その後の展開は韓国側の思惑どおりで、日本は「してやられた」というしかない。
櫻井よしこ氏は「慰安婦と徴用工、すべて日本外交の国益なき敗北主義から生まれている」という。(「でたらめ映画「軍艦島」と徴用工の嘘を否定せよ 日本政府は慰安婦問題の失敗を繰り返すつもりか」産経新聞8月7日)
実際に、韓国政府はさまざまなルートを駆使して、徴用工の強制労働、非人道的な扱いに関する非を認めよという日本への要求を繰り返している。外務省への直接の申し入れにとどまらず、長崎市長に対しても、韓国総領事らが2016年4月「情報センター設置などの約束は、目に見える進展がない」として、政府への働きかけを要求し、韓国のメディアを通じても圧力をかけ続けている。(聯合ニュース2017年7月23日「強制徴用伝える情報センター設置 長崎市「年内に計画ない」」
さらに今年7月、ポーランドで開かれたユネスコ世界遺産委員会でも、「世界遺産登録の条件だったはずの約束は、何ら後続措置がとられていない」と非難し、今年12月までに世界遺産委員会に対して「強制徴用の事実明示」に関する措置履行の経過報告の提出が求められているにもかかわらず、日本政府はいまだ適切な措置を取っていないと非難している。
映画「軍艦島」のエンドロールでも「日本政府は朝鮮人への強制的な労務があったことを、2017年12月までに報告すると約束したが、現在それが履行される様子がない」という字幕が現われる。歴史を都合よく弄び、空想を膨らますだけ膨らませた超ファンタジー娯楽巨編、演出過剰の集団暴力活劇にもかかわらず、いかにも取ってつけたような政治的メッセージで終わる。フィクションと歴史的事実の境界を初めからあいまいにし、観客を感情的に揺さぶり、「日本許すまじ」の思いを植えつけることさえできればいいのだ。
慰安婦問題に関する2015年12月の日韓合意では、「国連など国際社会において慰安婦問題に対する相互非難、批判を自制する」という合意事項があったはずだが、慰安婦問題でも徴用工問題でももはやそんな合意は関係なくなっている。「約束」を云々するなら、日韓合意に基づく慰安婦少女像の撤去という国際的な約束を果たすほうが先だが、そんなことは期待するのも無駄だ。
長崎市の公式観光サイト「軍艦島 日本の近代化を支えた産業遺産」は、以下のように紹介している。
<小さな海底炭坑の島は、岸壁が島全体を囲い、高層鉄筋コンクリートが立ち並ぶその外観が軍艦「土佐」に似ているところから「軍艦島」と呼ばれるようになりました。
最盛期の昭和35年(1960)年には約5300人もの人が住み、当時の東京都区部の9倍もの人口密度に達し、島内には小中学校や病院など生活は全て島内で賄えるようになり、映画館やパチンコホールなどの娯楽施設もそろっていました。
端島炭坑の石炭はとても良質で、隣接する高島炭坑とともに日本の近代化を支えましたが、主要エネルギーが石炭から石油へと移行したことにより昭和49(1974)年に閉山、島は無人となりました>
ここには、日本の近代化を支え、日本の炭鉱産業の最先端を担った端島炭鉱の誇らしい姿があるだけだ。2009年4月より一般観光客の上陸が可能となった。訪れる観光客に島を案内し、その歴史を紹介するコンシェルジェが活躍しているという(軍艦島コンシェルジェ)。コンシェルジェの皆さんにとって、端島炭鉱の廃墟は、日本の近代化を担った象徴であり、当時の最先端を行く誇らしい場所であった。歴史的な事実の説明としては、それ以上でもそれ以下でもない。
端島炭鉱における強制労働も朝鮮人徴用工の虐待や虐殺も史実ではない。「情報センター」の設置で、朝鮮人労働者の何をどう記録し、何を伝えよというのか。歴史の真実を何より大切にする日本人が、何の根拠もなく徴用工の強制連行や強制労働があったなどと記録するわけがない。
ありもしなかった戦前の上海臨時亡命政府や正規軍だと主張する光復軍の存在など、歴史を好き勝手に改竄し、「親日派」とレッテルをつけられるだけですべての財産が没収されてしまうような、恐ろしい事後法(「親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法」)を持つ国とは違うのだ。慰安婦像撤去の約束を守らないのであれば、情報センター設置の約束など永遠に無視すればいい。