vol.2 ひろみ(47)【食のマイスター兼主婦】
◯ひろみさんってどんな人?
—デザイナーを目指して夢を叶えた20代
「マルタン・マルジェラみたいなデザイナーになりたい!って20歳の時は思ってたかな〜。かなりとんがってたと思う」
確かにすごいトンガってますね。ちなみにこの服は手作りだそう。若干20歳。
そう話すのは今年で48歳の誕生日を迎える、ひろみさん。
彼女が10代後半の頃といえば時代はそう、バブルの時代。
この時代はとにかくDCブランド(デザイナーズ&キャラクターズ・ブランド)全盛期で、自分たちがイイと思う服をつくる、面白くて刺激的なデザイナーがたくさんいたという。
彼らに刺激を受けていたひろみさんは、高校卒業後、デザイナーを目指すことを決め、文化服装学院に入学する。
進学を決めた服装科では2年間、パターンの引き方から製図の仕方、縫い方、生地の勉強など、服を作ることの基本を一から学んだ。
入学当初から文化服装学院の文化祭で行われるファッションショーにも興味があり、一年生から仲の良かった三人組で服の製作を担当し始める。
二、三年生になると照明も担当し、舞台裏から衣装を魅力的に魅せることにも挑戦した。
照明を担当していた時の写真
「ファッションショーには積極的な学生が出入りしていたし、そういう人たちと知り合えることはすごく刺激的でいい体験だったし、何よりイベントが成功するとめっちゃ感動するんだよね〜」
そう彼女は当時のことを振り返る。
2年次の終わりになると、就職する仲間も多い中、彼女はデザイナーになる夢を少しでも近づけるためにデザイン専攻科に1年間通うことに決め、デザインの基礎を勉強した。
自分で作った服でタバコをふかしてイキなフリ
「デザイナーになるためには何でもするって結構 貪欲に生きてたな〜」
彼女の貪欲さはすごい。あるアパレルメーカーでの販売のアルバイトにどうしても潜り込みたくて、募集を締め切っていたのにもかかわらず、自力で電話番号を調べて仕事を勝ち取ったんだ、と言う。
しかも販売のアルバイトよりも自分の希望に近い、
本社でブランドのファッションショーの手伝いや材料の調達など、よりデザイナーの近くで働くチャンスを得たというから、彼女の貪欲さには脱帽してしまう。
卒業後は同社の面接を受け(全身真緑のスーツを着ていったらしい!)、アルバイト時代の先輩のお墨付きがあってか合格。
念願のデザイナーとしてのキャリアを歩み始めた彼女がぶつかったのは、デザイナーの華やかさの裏に隠された激務、激務、激務…。
「あの頃は、パソコンなんかないから、デザインの配色を決めるときにもデータに頼れない。」
「以前に染めた布を色見本帳に残しておいて、その中の布から配色を決めるからから、ものすっごい時間がかかるの(笑)」
「刺繍とかプリントも全部手書き。今ならパソコンでチャチャっと出来ちゃうかもしれないけど、2、3時間は優にかかってたな。」
その分、完成系を見たときの感動は底知れないと彼女は笑いながら話す。
ー興味は食へ…
バブルが崩壊した後は、好きなものを作って売るデザイナーメインのアパレル業界は経営が難しくなっていった。
「どうしても、世の中に売れるものを作るためにデザインをしなければいけなくなっちゃったの。」
「だから元々その会社の作る服が好きだったのに、そこのブランドらしくない服を作るようになったとき、方向性に納得できなくて、悔しいけど退社することを選んだの。」
そのあとは大好きなフランスの言語を学びたいと思ってフランス語学学校に通いながら、デザイン事務所でアルバイトをし始める。
のちに結婚、
子供が生まれ、子育てに専念するため退社を決める。
子育てがひと段落したときに、
食に関する仕事がしたいと、ここで大きく舵を取り方向を転換して、イタリアンのお店で働くことに。
「やっぱり美味しいご飯はどんな人も笑顔にすることができる」ということに気がつき、食の魅力にはまっていく。
将来は、あったかい食事をお客さんに提供できるような環境が作れればいいかな、と彼女は話す。学生時代からちょっぴり変わった彼女は、
動く食堂、つまり自転車で美味しいお惣菜を売って回るお店を開くことを密かに目論んでいるようだ…。
◯20歳の時、何してた?
20歳の時は、デザイン活動を頑張ってた。色々な展示会とか展覧会を見て回って、自分の感性を磨いてたし、自分の力を試すためにコンペにもよく出してた。
斬新なデザインを作りたいと思って自分なりに全速力で頑張ってたよ。
ネクタイを組み合わせて作った服は、新聞にも載ったんだよ
◯オススメの映画は?
かもめ食堂
あったかくておいしそうな料理がたくさん出てくるから好き。
ああいう、食べた人の気持ちがほっこりするような料理を作っていきたいと思う。
◯今、人生はズバリ、何点?
「うーん…難しい。50点くらいかな」
彼女は納得のいかない面持ちを浮かべて話す。まだまだ、人生で何かをやりきった感じがしないそうだ。
これから、食に関することで、大好きなこと、動くお惣菜屋さんなどを通して、彼女の貪欲さで人生を楽しいものにしてほしいと思う。