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Main2-4 始まりの地、始まりの書

2021.12.24 09:30

白き月は白き蕾

黒き蝶は夢を見る

蕾が開く その時を

夢が叶う時

蝶は白く染まるであろう


『武力を持つ側は、何か魔力を使えなくなる枷が掛けられてるんじゃないかって思ってさ』

『仮説が本当なら枷を外すことで、義姉さんの体調が安定するんじゃないかってさ』


ヘリオがオールド・シャーレアンに向かう前に、アリスから聞いた言葉だ。

魔力を扱える白き一族には武力に枷を、武力を扱える黒き一族には魔力に枷を。

それが事実なら、ヘリオの武力が停滞し魔力が上がり始めたことも、ガウラがエーテルを失ったことも重なり魔力が停滞した分武力が上がっていることも、ヴァルが魔法を扱えない代わりに武力に長けてることも納得はできる。

だがそうなる理由が分からない。

しかも例外としてアリスのように武力と魔力両方に長けている者もいる、ヘラとして生きていれば彼女もその例外になるはずだった。

例外となる条件はなんなのか。

それも疑問になる…。


「はぁ…」

「行き詰まってしまいましたか?」

「教授」

「賢学は高難度の学問の1つ。

シャーレアンの外で生きていた者が学びに来ることも想定外でしたが、この短期間で身につけるべきものを身につけている貴方にも驚く日々です。

ですが休むことも大事…一息入れることで見える解決法もありますよ」

「……では、言葉に甘えて」

「えぇ、では茶を用意しましょう」


ここはオールド・シャーレアン。

ヘリオは賢学を学びに暁の血盟よりも早くこの場所に来ていた。

賢学を教えてくれる教授を見つけれたのは幸いだ、ガウラが暁の血盟に相談してくれた結果アルフィノが探し出してくれたのだそうだ。

賢学を学びつつ、エーテル学も深堀りする毎日。

元々魔力の高いヘリオは、術式と知識さえ正しく理解できれば実践は何ら問題なくこなすことができていた。

休憩ということで本を閉じ、教授と共に茶の用意をすることにした。


「でもまさか、リガンの者だとは思いませんでしたよ」

「え?」

「おや、ご存知でない?」

「…何がです?」

「ここシャーレアンにも、昔はリガンの苗字を持つ者がいたのですよ」

「!?」


─────


時はニュンクレフによりシャーレアンができた頃。

彼の舟にはリガンの苗字を持つ者ががいるとされていた。

その者の書いた詩集には魔力が宿っており、読めば声が魔法となり本を開けばカラクリの如く魔法で作られた文字が踊りだす。

その本は現在、大図書館に保管されている。

とても魔力の強い存在で、神童とも言われていた。


けれどその者は居なくなった。

罪を犯したという理由も記述も残っていない、理由が分からないのだ。

ただ保管されていた本の最後のページだけが破られていた…恐らくその者をよく思わない輩が記述の一部を取ってしまったのだろう。

その後その者がどうなったかは誰も知らない。

ここシャーレアンに居たという記録も、その本だけが語っているのみ。

どんな者か、どんな容姿か、どんな声か、どんな力の持ち主か…ニュンクレフから続く直系の者でさえ知らないとされている。


「……」

「私でさえ、知っているのはリガンという苗字のみ。

本には、かの者の名前は記載されていないのです。

…もし知りたいのであれば、大図書館へ行ってみますか?」

「…あぁ、俺も知りたいことが多いんです。

始祖であるニア・リガンから始まった俺たち一族には、謎が多すぎる…」

「ニア、というのですか」

「はい」

「…良い名前ですね。

名前にも力があるとされていますが…そうですね、とても、誇り高き力を感じます。

では明日、大図書館へ行きましょう。

私も久しぶりに、かの本を読みたくなりました」

「思い入れでもあるんですか?」

「そう大きな思い入れではないですよ。

ただ込められた魔法が、とても綺麗だということを記憶しているだけです」


そうして茶会も終え残りの作業をした後、ヘリオは明日の為にと早めに準備をし始めた。


─────


「出自によって閲覧可能なエリアが変わってきます。

私は教授として閲覧可能なエリアを見てきますので、ヘリオはこの階層で本を探してください。

記憶が正しければ、本の表紙は木目調だったかと思います」

「分かりました」


次の日となり、ヘリオと教授は大図書館へ足を運んでいた。

リガンの手記を探す為だ。

木目調の本を見つけては手に取ってみる。

知識の国だけあり、本の数が多すぎる…探し当てるには時間がかかりそうだと思っていた。


「……?」


不意に惹かれる感覚を覚えた。

振り返り正体を探すと、目線の先に木目調の本があったのだ。

ヘリオはそれを手に取り開けてみる。

本を開けると込められた魔法により文字が浮かび踊りだしたのだ。


「これだ」


そう直感が告げていた。


文字はとても綺麗で、昔に作られたという割には汚れも目立たない。

恐らく込められた魔力によって本の劣化が防がれているのだろう。

ヘリオはニア・リガンが書いたとされるその本を読むことにした。


─────


無垢なる者は何者でもある

無垢なる者は白く 無垢なる者は黒くある

無垢なる者は魔力となり

無垢なる者は武力となり

力ある者 その理を理解せよ


私の力は増える一方…

武力も高ければ魔力も高い。

私はこれを恐れた。

大きな力は戦の種となる。

この地に必要なのは、知識とそのための魔法のみ。

私は力を恐れたが、捨て切ることもできなかった。

だから、自身に宿る武力のみを削ることにした。


枷を作ることは簡単だ。

だが外すことは難しい。

けれど、この先の未来がどうなるかなど、私は知らない。

故にその時が来たれば、枷を外そう。


私はここには居られない。

私はここには残せない。

私は武力の枷を作ることで、魔力の増幅を許してしまった。

力は天秤だったのだ。

どちらかを軽くすれば、どちらかが重くなることは必然だった。

この能力は必要のないもの。

戦を喚びたくない。

私はここから──


「見つけたのですか?」

「教授。

…えぇ、これだと思います」

「あぁ、これですね。

やはり何年経っても汚れない上に、魔法も綺麗に残っている…。

リガンは魔法を得意としていたが、これほど綺麗な魔法と術式は今生きる者でも真似することは難しいと言われているのですよ」

「そう、なんですか」

「武力を抑えることで魔力の増幅を手助けする形となったことを、悔やんでいるという記述ですね。

かの者が力を手放そうとした理由は、純粋に必要ではないと判断したから。

けれど、先への不安もあり全てを手放せず、結果的にこのような後悔に繋がった…」

「…ニアの術式は、とても力強いものだったんでしょう。

一族みんなを巻き込める程の力強さ…。

俺も同じように、武力が停滞してしまったところに魔力の増幅を感じたんです」

「そうだったのですね」

「……この本、借りることはできますか?」

「管理者に聞いてみましょうか。

…それにもしかすると、貴方が真に直系の者であれば頂くことも可能だと思いますよ」

「え…!?」


そうして管理者による審議の元、ヘリオをリガンの直系の者と判断された。

頂くまでには手続きもあり時間が必要となるが、借りることはすぐにできたため、一度持ち帰り更に調べることとした。


─────


「ニアも魔力と武力を持っていた…。

そしてそれは俺たち2つの一族と同じように衰えを知らなかった」


本を捲りつつ考えを口にするヘリオ。

外は既に暗く、月明かりとロウソクの灯りが冷静さを保たせてくれる。


「力を恐れたが捨て切れなかった結果、シャーレアンには必要のないであろう武力の方に枷をつけた。

だが力は天秤…武力を抑えた分、魔力に増幅が偏り始めた。

その力が戦に繋がることを恐れて、ニアはここから出ていったのか…?」


彼女の最後の結末は、誰かが破っている為確認する術がない。


「アリスの仮説は、正しかった」


その結論だけが明確に理解できるものだった。

アリスは時々鋭い勘を見せる。

ガウラとはまた違う勘の強さだ。

彼の父が唱う詩の意味は分からなかったが、一族間の武力と魔力については真実が見えたように思えた。


「だが、なぜニアは力の増幅を止められなかった?

エーテルか?環境か?それとも彼女血筋をもっと遡る必要があるのか?

……疑問は減らない、か…」


これを理解することができれば、ガウラの力の調整も、ヘリオに現れた武力の停滞も解決できるだろうに。


ぐるぐると考えていると、トームストーンが鳴る。

誰からのメッセージだろう…見てみると姉であるガウラからだった。

[暁の血盟の皆と近々オールド・シャーレアンに向かうことになった。

アリスも無事に加入した上に即戦力になりうると判断されたから、彼も一緒だ。

コイツの行動力は舐められないな、私より冒険者してるんじゃないか?

ヘリオの方はどうだ?

賢学はシャーレアンの中でも高難度と聞いた気がするが…まぁ、お前なら大丈夫だろう。

そっちに着いたら、色々と名所を教えてくれ]


「もうこっちに来れるようになったのか、バルデシオン委員会もすごい行動力だな。

にしても、そうか…アリスも……」


[また会えるのを楽しみにしている。

しばらくはアリスの面倒を任せるが、2人揃って無茶をするんじゃないぞ]

手短にメッセージを書き送ると、ヘリオは本を閉じ賢具の手入れをし始めた。

還ることもできなくなった者が、せめて主を守れるように…彼は新たに知識を身につける日々を過ごす。

賢学を熟知する日はそう遠くないだろう。


─────


ニア・リガン

彼女は賢く誇り高き者。

それ故に原因不明の力の増幅を恐れた。

全ての力を捨て切ることもできなかった故に、武力には枷をつけたが反動で魔力の増幅は急激に上がった。

その力と能力が戦を喚ぶことを考え、彼女はシャーレアンから出ていった。


衰えない力、増幅する力の理由を探すこと。

枷の外し方。

例外となる条件。

これらの模索が次の課題となった。