レイフロ@台本師&声劇民☮

ボノム ドゥ ネージュ~bonhomme de neige~(3人台本)

2021.12.27 11:50

上記の素晴らしいイラストは、敬愛するREN's Jackson様に書いていただきました…!!家宝にします!!!(真顔)

【ジャンル:恋愛/サスペンス】

【所要時間:30分程度】


●台本をご使用の際は、利用規約をご一読下さい。

●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。(配役等の文字入れ可)


PV風動画作成しましたので、良ければぜひご覧ください。↓



【人物紹介】


藤平 冬霞(ふじひらふゆか)♀ 

フリーの画家。放浪癖がある。

実家はアキタだが、現在はトウキョウに移り住んでいる。



野城 巽(のしろたつみ)♂  

サラリーマン。優しく、真面目。

冬霞がトウキョウに越してきてから知り合った。



津々見 治輝(つつみはるき)♂ 

チャラいが、しっかりしていて頼りがいがある。

冬霞がアキタに居た頃から知っている。





↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

――――――――

ボノム ドゥ ネージュ~bonhomme de neige~

作:レイフロ

冬霞:

巽:

治輝:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/28561669

――――――――




以下、台本です。


※(間)となっているところは、シーンが切り替わるので、5秒くらい開けて下さい。


冬霞:

うーん、ないなぁ…


巽:

どうかしました?落とし物ですか?


冬霞:

あ、いえ、違うんです、あれを作っていて…


巽:

え、雪だるま?


冬霞:

「手」になるような丁度いい枝がないかなって。


巽:

枝、ですか…


冬霞:

あ、すみません…大丈夫ですので。気にしないで下さい。


巽:

うーんと…これなんかどうですか?


冬霞:

あの…スーツ来ていらっしゃるし、お仕事に行くところなのでは…?


巽:

はは、そうなんですが、朝起きたらこのドカ雪で電車も止まってるし、

タクシーもすごい行列で、遅刻確定なんです。

…あっ、もう一本見つけた!

これで雪だるまの両手になりませんかね?


冬霞:

ぷっ…あはは


巽:

あ、あの…?


冬霞:

あ、すみません、でもみんな私のこと「大(だい)の大人が朝から何してんだろう?」って

変な目で見ていくだけだったのに、手伝ってくれるなんて、なんていうか…


巽:

もしかして俺、今あなたに「変な人」って思われてます?

まいったな…はは。

あ、俺は、野城巽(のしろたつみ)って言います。

怪しい者じゃありません!


冬霞:

私は、藤平冬霞(ふじひらふゆか)。

私も怪しい者じゃありません!


二人で笑う:

あはは!



巽N:

その日は、予報にもない大雪が降り、あっという間に交通機関は麻痺した。

通勤通学が出来ずに人々が混乱する中、

彼女は街中にある小さな公園で一人、

まるで子供のように雪だるまを作っていた。

俺はそんな彼女に一目ぼれをして、やがて、付き合うことになった。

彼女との出会いから、三度目の冬を迎えていた。




(間)




【冬霞の夢】


治輝:

はぁ、はぁ…探したぞ冬霞(ふゆか)!何してんだ!


冬霞:

雪だるま作ってるの。


治輝:

雪だるまってお前…こんなデカいの一人で作ったのか?

しかもバカ、素手で作りやがって!

大事な指だろ!はぁ…(息を吹きかけて温める)


冬霞:

治輝(はるき)…ごめんね?

わざわざアキタまで車飛ばして応援しに来てくれたのに…


治輝:

コンテストはその…残念だったな。


冬霞:

また落ちちゃった。私、才能ないのかも。


治輝:

冬霞…


冬霞:

だって、作品を出した時はいい感触だなぁと思っても、いざ賞となると全然取れないんだよ?

悉(ことごと)く落ちて、審査員の人にどこがダメだったか聞いても言葉を濁されるの…。


治輝:

冬霞はどうして冬の絵ばかり描くんだ?

前に好きだって言ってたフランスの画家の影響か?

えーっと、なんて言ったっけ?


冬霞:

モネだよ。クロード・モネ。

彼が描いたアルジャントゥイユの雪の絵はホントにすごいの。

雪が作り出す陰影だったり、雪に反射する陽の光の絶妙な温かさだったり…。


治輝:

モネに憧れて絵を描き始めたってのは分かるけど、

たまには雰囲気を変えて、春とか夏の明るい絵も描けば…


冬霞:

描けるもんなら描いてるよ。どうしても私は冬の絵しか…雪の絵しか描けないの!

何でかなんてわかんないよ!

雪の絵しか描けないから私はダメなの?!ねぇ、治輝、教えてよ!


治輝:

冬霞は何もダメじゃないよ…。


冬霞:(泣きながら)

うぅ…もうヤダ…真っ白になりたい…

嫌なこと全部全部忘れて、雪みたいに真っ白になっちゃいたいよぉ…


治輝:

そんなこと言うな!

俺は絵のこととかよくわかんねぇけど、でもお前の絵を初めて見た時、俺は心を掴まれたんだ。


冬霞:

そうなの…?


治輝:

冬霞の絵は何て言うか…

いま冬霞が作ってるそのデカい雪だるまみたいな…


冬霞:

この子…?


治輝:

いくらデカくて頑丈に作ったって、春が近づけばどんどん溶けちまうけど…

その時にしかない一瞬の「はかなさ」みたいな?


冬霞:

ふふっ、治輝から「儚い」なんて言葉が聞ける日が来るなんて思わなかった…

「はかない」って漢字で書ける?


治輝:

ムッ…!どうせ馬鹿な俺には書けねぇよ!

あぁもう!俺が必死にお前の絵の良さを言葉にしようとしてんのに!


冬霞:

えへへ…ありがとう…


治輝:

お、おい…抱きつくなよ!誰かに見られたらどうすんだ。


冬霞:

いいの。大好き、治輝。


治輝:

…ばーか。



【冬霞の夢 終了】





(間)





巽:

おはよう、冬霞。


冬霞:

ん…おはよぉ。

昔の夢見ちゃった…トウキョウに越してくる前の…

あっ、そう言えば雪は積もってる?!


巽:

昨日の夜、急に降り始めたから驚いたけど、

積もる前に止んじゃったみたいだよ。


冬霞:

巽と出会った日以来、雪積もらないね。

トウキョウってつまんない。


巽:

あれから3年積もってないんだなぁ。

でもそれがトウキョウだよ。


冬霞:(独り言のように)

…朝起きたら真っ白になってたらよかったのに。


巽:

俺は嫌だよ、雪が積もったらまた交通機関が麻痺するし、歩くのも危ないよ?


冬霞:

そうじゃなくてさ…


巽:

ん?


冬霞:

私たちの頭の中が真っ白になってたらいいのにな、って。


巽:(笑いながら)

何だよそれ。


冬霞:

真面目な話だよ…?


巽:

…何もかも全部忘れたいってことか?

俺のことも?


冬霞:

そうだよ、何もかも。ぜーんぶ。


巽:

冬霞…これって別れ話じゃないよな…?

遠回しに言わないでハッキリ言ってくれよ。

ていうか、昨日は泊って、あ、アレもしたのに、どうして今そんなこと…っ!


冬霞:

ふふ…


巽:

笑い事じゃないだろう?!


冬霞:(笑いながら)

ごめん…ほんとに違うの。


巽:

はぁ…驚かせないでくれ。

別れ話じゃないなら、どういう意味なんだ?


冬霞:

私たちの出会いって、なんか印象的だったじゃん?

雪だるまの手になりそうな枝を巽が拾ってくれて、そこから恋が始まって…。

もし私たちの記憶がなくなって、次は普通に出会ったとしても、

巽はまた私のこと好きになってくれるのかなぁって思ったの。


巽:

冬霞はもっと自分に自信を持った方がいい。

どうしてすぐ不安になってしまうんだ?


冬霞:

んー?巽が「好き」ってあんまり言ってくれないから?

私はたくさん言ってるのになぁ?


巽:

それは…!なんというかその…


冬霞:

あれ?巽、テレてる~?


巽:

そうやって茶化すならもう話は終わりだっ!ったく…。


冬霞:

ふふ、ごめんごめん。


巽:

休みもう1日あるんだろう?今日も泊っていくよな?


冬霞:

ううん、今日は行くとこあるから帰る。


巽:

どこ行くんだ?


冬霞:

…気になる~?


巽:

気にはなるよ。冬霞は辛いことがあると、画材だけ持ってすぐ行方不明になるんだから。


冬霞:

そんな徘徊するみたいに言わないでよぅ!一人旅だもん!

それにほら、絵の題材を探す旅でもあるから、仕事の一環みたいなものだよ?


巽:

だとしても、ちゃんと計画を立てて何日間って決めて行くならいいけど、

思い立ったらすぐ旅立つ癖をどうにかしてくれと言っているんだ。

心配するだろう?


冬霞:

気をつけまぁす。


巽:

ほんとかなぁ。



巽N:

冬霞はとても傷つきやすく、繊細だった。

だが、そのことを自分でもきちんと理解していて、心が壊れてしまう前に防衛策を取っていた。

それが旅に出ることだ。

本人は絵の題材を探す旅と言っているが、実際は放浪癖に近く、何の連絡もせず、

リュック一つでどこへでも行ってしまう癖があった。

その芸術家肌の性格と比例して、彼女はとても素晴らしい雪の絵を描くのだが、

なかなか世に認められず、絵だけでは生計を立てられずにいた。





(間)





治輝:

よっ、冬霞!来てやったぞ?


冬霞:

治輝(はるき)!久しぶりっ。会いたかったー!


治輝:

ん、俺も。元気だったか?


冬霞:

うん、元気だよ。


治輝:

ホントか?ちょっと痩せたんじゃないか?


冬霞:

そんなことないって。


治輝:

何かあったら俺に言えよ?

お前のことは絶対俺が守ってやるから。


冬霞:

もう、そんなセリフ真顔で言えるのは治輝くらいだよ?


治輝:

茶化すなよ。本気で言ってんだぞ?

遠距離でなかなか会えないんだしよ。


冬霞:

ん、分かってる。ありがとう、治輝。大好き。


治輝:

お前も、そういう事をすぐ言うな!

本命の彼氏がいるんだろ?

もし聞かれたりしたらどうする?!


冬霞:

彼氏は彼氏だよ。

治輝のこともちゃーんと好きだから妬かないで?


治輝:

お前なぁ…。

まぁいいや。今日はお前ん家泊っていいんだろ?


冬霞:

うん、いいよ。部屋狭いし、ベッド一つしかないけどいいよね?


治輝:

彼氏は来ないだろうなぁ?俺は嫌だかんな?


冬霞:

ふふ。修羅場になっちゃうね?


治輝:

笑えねぇっつーの!

とりあえず早く行こうぜ?トウキョウ久しぶりに来たけどすげーさみぃじゃん?!

雪降るんじゃねぇか?


冬霞:

確かに今日は寒いけど、めったに雪なんて積もらないよ。ほんとつまんない街。


治輝:

お前がアキタに居た頃は、よく公園で雪だるま作ってたよなぁ。

こっちに引っ越して3年?くらいになるか?


冬霞:

うん、治輝もこっちに引っ越して来ない?

そしたらもっと会えるのにぃ…。


治輝:(茶化すように)

ははーん、俺がいないと寂しいんだな~?

可愛いとこあんじゃん?


冬霞:

ん…治輝がいないと寂しいよ。


治輝:

ばっか!本気で答えるやつがあるか!

ほら行くぞ!


冬霞:

へへへ。





【冬霞のアパート】



冬霞:

治輝、いつまでこっちに居れるの?


治輝:

1週間くらいかなぁ。それ以上は仕事が休めん。

お前は?絵の方はどうだ?


冬霞:

…うん、まぁ月に1枚売れたらいいかなってとこ…?


治輝:

そっか…。

あっ!俺さ、今模様替えしてて、壁が寂しいからなんか飾ろうかな~と思ってたんだよ!

一枚売ってくれ。


冬霞:

そんな気使わないで?アルバイトもしてるから生活はちゃんと出来てるよ。


治輝:

別に気なんて使ってねぇよ。ほんとに絵が欲しいだけだ。


冬霞:

だったらあげるよ。なんてったって治輝の頼みだもん!


治輝:

ダーメーだ!絵の代金はちゃんと払うよ。

その代わり、1週間の宿泊料はタダにしてくれよな?


冬霞:

ふふ。わかったよ。治輝のそういうとこ大好き。


治輝:

ばーか!


冬霞:

あ、でもちょいちょい彼のところに泊りに行っちゃうけどいい?

この部屋は自由に使ってくれていいから。


治輝:(耳元で囁く)

なぁんだ、せっかく俺が来たのに、ずっと一緒にいてくんねぇの…?


冬霞:

ちょっとぉ!くすぐったいよもうっ!


治輝:(嘘泣きしながら)

いいんだいいんだー!俺はどうせ「2番目」の男なんだぁ!


冬霞:

言い方に悪意があるぅ!


治輝:

はは!まぁ、俺のことは気にすんな。

お前が元気なら、俺は…満足だよ。


冬霞:

ごめんね。ありがとう。



治輝N:

冬霞はとても傷つきやすく、繊細だった。

放浪癖の方は相変わらずのようだが、それでも昔よりずっと落ち着いているように見えた。

彼女には幸せになって欲しい。

俺の想いは……それだけだ。





(間)





巽:

昨日、何してた…?


冬霞:

んー?友達とご飯食べたよ。


巽:

友達と?


冬霞:

うん。


巽:

本当に友達と?


冬霞:

え?そうだよ?


巽:

男?


冬霞:

え?


巽:

男?


冬霞:

ちょっと、なんか言い方怖いよ?どうしたの?


巽:

あぁ、ごめん。別に男友達とご飯行くな、なんていうつもりはないよ。

束縛したくないし、冬霞の好きにしていい。

でも行く時は一言言って欲しいな。心配だからさ。


冬霞:

うん…そだね。


巽:

今日は泊って行けるんだろう?


冬霞:

うん。でも明日はまた帰らなきゃ。バイトだから。


巽:

…そうか。


冬霞:

今日は何食べたい?私作るよ。


巽:

今日はいらない。


冬霞:

じゃあどっか食べにいく?


巽:

行かない。

…明日までこの部屋から出さないから、覚悟して?


冬霞:

ちょ…っ



巽N:

俺たちは気がつかなかった。

外ではだんだんと気温が下がり、雪が舞い始めていたことに。

彼女の好きな、雪が。

しんしんと音もなく、一粒一粒が積み重なって、全ての色を消していく。

何もかも。真っ白に。

この狭いベッドルームだけを残して、全て、真っ白に。





(間)





治輝:

雪、やっぱり降って来たなぁ。

つーか、もううっすら積もって来てんじゃん!

「ここじゃ全然積もらない」って冬霞のやつ愚痴ってたけど、

雪だるまが作れるくらいまで積もってくれりゃあ、アイツ喜ぶな!





(間)





巽:

冬霞ってほんと、色が白くて、雪みたいだ…


冬霞:

そう?雪国育ちだからかな?


巽:

付き合ってから一年くらいか…突然冬霞が、携帯さえ持たずに放浪の旅に出たことがあっただろう?


冬霞:

一人旅ね?

でもあの時は巽、心配して警察に捜索願い出しちゃったんだよね。


巽:

書き置きの一つもなかったから。ほんとに心配した。


冬霞:

急に雪が見たくなって…雪深いアキタの方に行ったの。


巽:

去年なんて冬の時期に2回も行ったろ?またなんの前触れもなく。


冬霞:

うぅ…ごめんなさい…。


巽:

言っても直らないし、帰ってきてからは順調に絵を描いてたから、

冬霞はきっと芸術家肌で、しょうがないことなんだと思ってた。


冬霞:

芸術家肌だなんて大げさだよ。

その芸術で食べていけてないし。


巽:

…でも、違ったんだな。


冬霞:

え?


巽:

冬霞の地元もアキタだったよな?

地元に男残してきたから、会いに行ってたんだろう?


冬霞:

え…?ちょっと待って?

どうしたのいきなり…


巽:

どんな奴なんだ?俺より年上?年下?


冬霞:

巽、聞いて! 地元に男なんていない!


巽:

顔は良い?背は高い?学歴は?性格はどう?優しい?


冬霞:

わ、私が寒い地方に行くのは、絵の題材を見つけるためで…!


巽:

仕事は何してる?ギャンブル癖はない?酒癖は?


冬霞:

巽!私は浮気なんてしてない!


巽:

じゃあこれは何なんだい?



冬霞N:

巽は、ポケットから小さな機械を取り出し、何やら操作すると、

ザーッという雑音と共に、男女の会話が聞こえてきた。




(SE:ザーっという短い雑音)


治輝:

彼氏に聞かれたりしたらどうする?!

俺たちの関係はもちろん言ってないんだろ?


冬霞:

彼氏は彼氏だよ。治輝のこともちゃーんと好きだから妬かないで?


治輝:

お前なぁ…。



(SE:ザーっという短い雑音)


治輝:(囁くように)

なぁんだ、せっかく来たのに俺とはずっと一緒にいてくんねぇの…?


冬霞:

ちょっとぉ!くすぐったいよもうっ!


(SE:ザーっという短い雑音)




冬霞:

なに…これ…


巽:

盗聴器だよ。冬霞の鞄に付けてたんだ。

コイツがアキタに残してきた男か?

冬霞に会いに今こっちに来てるんだろう?


冬霞:

と、盗聴器って…


巽:

冬霞がまた衝動的に旅に出ても安心なように付けてただけなんだ。

心配だったんだ、本当に他意なんてなかった。

それなのに…どうしてだよ…?


冬霞:

巽、違うの!この人はね…!


巽:

大丈夫だよ冬霞、俺は怒ってない。全然怒ってないよ。

むしろこれは、冬霞の願いを叶えてあげられるチャンスなんだ。


冬霞:

私の、願い…?





(間)





治輝:

明日は雪ん中歩いて、冬霞と外食でも行くかー。

近くに公園もあったし、昔みたいにそこで雪だるまでも作って…

って、ガキじゃあるまいしな。はは。





(間)





巽:(以降、両手に力を入れながら)

冬霞…この間…『真っ白になりたい』って言ってたよな?


冬霞:

ぐっ…あ…ッ…


巽:

大丈夫だよ…その願い…叶えてあげるから…


冬霞:

あ゛…っ…が…


巽:

ほら、窓を見てくれ…!冬霞の好きな雪が降ってるよ…!

まるで、神様も…「真っ白になれ」って言ってるみたいだ…


冬霞:

た…つみ…っ


巽:

真っ白になって…全部忘れて…それで…

雪の日に、またイチから、俺と出会い直そう…!

そうだ…っ今度は俺が大きな雪だるまを作るから…!

人がすっぽり入れるくらい、大きな大きな…!!

それで、

また、

俺たちは、

もう一回、

恋に、

落ちよう…ッ!


冬霞:

…まっ…し…ろ…


巽:

そう!真っ白だ!

全部リセットして!

今度は!

俺だけを好きな君に!

なってくれッッ!!!





(間)





治輝N:

冬霞が彼氏の家に泊ると言ってから、連絡が取れなくなった。

3年ぶりに降り積もった雪は、人々を混乱させ、あっという間に交通は麻痺した。

俺は冬霞の部屋を探し回り、とりあえず彼氏の連絡先を探すことにした。

確か名前は…「巽」と呼んでいたのを以前聞いたことがある。



治輝:

あっ!この宅急便の控え…宛名は、「野城巽(のしろたつみ)」…!これだ!





(間)





(SE:雪の上を歩く足音)


治輝:

あの…すみません…


巽:

…ん?


治輝:

あの、こちらは野城(のしろ)さんのお宅ですか?


巽:

そう、ですけど…。


治輝:

よかったー!この辺りすごいわかりにくいですね。

でも雪だるま作ってるから、もしかしたらと思って!

冬霞の彼氏さんでしょう?


巽:(ぼそっと)

…貴方の声…録音の…


治輝:

久しぶりに雪が降ったから、アイツまた雪だるま作るんだろうなって思ってたんすよ!

この大きな雪だるま、冬霞と作ってるんでしょう?アイツはどこですか?


巽:

…貴方は誰なんですか?


治輝:

あぁ、すみません!

俺は津々見治輝(つつみはるき)と言います。

冬霞の兄です。


巽:

兄…?冬霞にお兄さんがいたなんて聞いたことがありませんし、

名字も違いますよね?


治輝:

俺と冬霞はその、腹違いの兄妹(きょうだい)なんです。

ちょっと事情が複雑で、大っぴらに兄妹とも名乗れないと言いますか…。


巽:

俄(にわ)かには信じられませんね。

本当は冬霞を取り返しにきたんじゃないんですか?


治輝:

取り返しに、って何のことですか?

俺が兄だってことは、冬霞にも聞いてもらえばわかります。

冬霞はどこです?


巽:

今はいません。


治輝:

え?!彼氏の家に泊まるって言ってから、ここ数日連絡が取れなくて、

冬霞の手帳に宅急便の控えがあったから、それを見て来たんですけど…。

じゃあ一体どこに…


巽:

彼女は…旅に出てしまったんです。


治輝:

もしかしてアイツまた一人旅に…?!

あちゃー嘘だろぉ…


巽:

朝起きたらもう居なくて。

去年の冬に旅に出て行った時も同じような状況だったので。


治輝:

また連絡の一つも入れないでアイツは…!


巽:

あの、先ほど家庭の事情が入り組んでいるということでしたが…

聞かせてもらえませんか?

冬霞はあまり過去を語りたがらなかったから、俺、三年も付き合ってるのに何も知らないんです。


治輝:

どうしようもない話ですよ。

うちは親父が画家なんですが、中身は本当にろくでなしで…。

冬霞は、親父の愛人が勝手に産んだ子なんです。


巽:

だから、貴方とは腹違いの兄妹…


治輝:

冬霞が小学校の頃に、美術の先生が勝手に冬霞の絵を大きなコンクールに応募してしまって、

当時特別審査員だった親父がその絵を見てすぐに自分の子だと気づいたそうです。


巽:

小学生の絵を見ただけで…?


治輝:

突飛な話ですよね。でも実際に親父は気付いてしまったんですよ。

「自分の遺伝子を感じた」なんてぼやいてましたけどね。


巽:

でも、冬霞の絵は…


治輝:

売れないでしょう?

業界に力のある親父が全部手を回して、冬霞のチャンスを潰してるからですよ。


巽:

そんなまさか…!


治輝:

実子(じっし)である俺にも、落書きすら許さず、美術の授業は全て休みにさせられた。

アイツは、自分の才能を誰にもやりたくなくて、

自分が唯一無二の存在で無ければ気が済まない、とんだクソ野郎なんですよ。

それなのにそこら中に愛人作って、ガキが出来れば金を積んで堕ろさせて…。

冬霞の母親もそうなると分かってたから密かに産んだんです。


巽:

そうだったんですか…。


治輝:

俺は、冬霞の絵を初めて見た時から心を掴まれたんです。

痛いほどに寂しい気持ちが、真っ白な雪の絵から滲み出てた…!

何も悪くない妹を助けたくて、たまにこうして様子を見に来てはいたんですけど…。


巽:

貴方は、本当に冬霞のお兄さんだったんですね…。

そうか…

そう、だったんだ…良かった…


治輝:

え?


巽:

良かった…君は浮気なんかしてなかった…

そうか…良かった…


治輝:

えっと…野城(のしろ)さん?

雪だるまに話しかけて…どうしたんですか?


巽:

あぁ、すみません。

雪だるまは、俺と冬霞が出会ったきっかけでもあって、思い出のものなんです。

早く帰ってきて欲しいなと思って、今作っていたんですよ。


治輝:

そうなんですか、アイツ地元がアキタで雪深かったから、昔からよく雪だるま作ってたけど、

まさか都会に来てまでも作ってたとはなぁ。

いつまで経ってもガキみたいで、

ほんと危なっかしいっていうか、心配が絶えません。


巽:

優しいお兄さんがいて、冬霞も幸せでしょうね。


治輝:

あ、すみません長々と話してしまって。

アイツから何か連絡あったら教えて頂けますか?

これ、俺の連絡先です。


巽:

…えぇ。


治輝:

では、俺はこれで…


巽:

…そういえば、彼女、こんなことを言っていました。


治輝:

え…?


巽:

『真っ白になりたい』、と。


治輝:

あぁ、昔もよく言ってましたよ。

嫌なことがあると、すぐ「真っ白になって全部忘れたい」って。


巽:

トウキョウでは雪が降ったとしても滅多に積もりませんから、

もしかしたら今度も積もらないと思って、衝動的に、

もっと雪深い地に一人旅に出てしまったのかもしれませんね。


治輝:

それ、当たってると思います。全くアイツは、人に心配ばかりかけて…


巽:

お兄さん。大丈夫ですよ。


治輝:

え?


巽:

冬霞は、何事もなかったかのように、またひょっこり現れますよ。

…雪が溶ける頃にね。


治輝:

どうしてそんなことがわかるんですか?


巽:

…何故でしょうね…?



治輝N:

男は、俺の問いに答えなかった。ただ、とても穏やかな優しい表情で、

傍(かたわ)らにある雪だるまを愛おしそうに見つめ、指でそっと撫でていた。

まるで、恋人に触るかのような愛情深い仕草だった。


こんなにも優しい彼氏を放っておいて、俺の妹は一体どこに行ってしまったのだろう。


俺は、妹の彼氏が作ったどこか歪(いびつ)な、

人がすっぽり入れるほどの大きな雪だるまを見ながら、

雪解けの頃を待ち遠しく思った。









end.