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7th heaven side B

You're all surrounded [第4章−後編]

2017.08.27 06:40

第4章 訪問者・後編


[3]

**2017年7月某日 ~降谷零の記憶**


大阪と京都への出張を終えて戻って来た梓

風見からの報告書を持って、オレは梓に招

かれて、梓の済むマンションに居た


1LDKのシンプルな部屋は、相変わらず整

頓されていた

空の写真の隣に、懐かしい大尉の写真もちゃ

んと飾ってあった


大尉は空の後を追うようにして亡くなった

大尉が残した子供は、梓の両親の家で大切に

養育されていて、もうじきその子供が生まれ

るらしい事をオレは知っている


梓との離婚を最後まで反対したのは梓の両親

とその兄夫婦だった

待ってくれ、と言われたんだ


でも、出してもオレの気持ちは梓と一緒に在

るし、今は梓の意思を尊重したいと言うオレ

の我儘を聞いてくれたのも、梓の家族だった


離婚後も交流は切れずにあって、空のお墓の

事とか、法事とかちゃんとみんなでやって、

オレの事は伏せて、梓には伝えてもらってい

たのだ


とりあえず、梓の部屋に他の男の匂いが無い

事にほっとしたのは内緒


ダイニングテーブルに向かいあって座って、

10年振りに梓の手料理を食べて、一緒に片

付けをしてから、そのテーブルに書類を広げ

話をした


10年前、オレと風見は、ある特命を受けて

内偵調査に取り組んでいた


それは、同じ部署の他の署員にさえ内密にさ

れていて、オレと風見は、他の事案をこなし

ながら、その内偵調査にも従事していた


「その事を知っているのは、上層部でもほ

んの一握りの人物だけで、殆ど、当時の警察

庁長官の直属と言ってもいいプロジェクトだ

ったんだ」


日本版FBI、日本版CIAの設立

現行の警察組織の枠に囚われず、優秀な人材

を国内外から集結させて、国際テロ問題から

凶悪事件、巨額不正問題等を対応する特別捜

査班、捜査組織の設立を目指すと言う極秘プ

ロジェクトの準備がスタートしていた


「オレと風見は、試験的にそこに召集される

べき人材適性を見る素材として呼ばれた」


ある種、モルモットのようなものだった

お題を渡されて、期日までにそのお題を解消

する


「オレと風見には、24時間体制で監視が付

いていたし、梓や、梓の家族、もちろん空に

も、監視が付いていたんだ」

「そんな!」

「あぁ、オレもそう思ったさ」


監視は、園を飛び出した空を助けなかった

あくまでも、そいつの業務は監視だったから

酷い、と呟いた梓から、涙が溢れた


「オレと風見には、その国家プロジェクト

への参画を要求されていたんだが、あの事件

が発生して、空の事故もあって」


そうこうしている間に、そのプロジェクトそ

のものが、立ち消えになったのだ


「雲の上の人達は、鬼籍に入った人が半分、

悠々自適な第二の人生に向かった人が少数で

残りは全員、行方不明だ」


真っ青な顔の梓の手を握った

空には、とても申し訳無いと今でも思ってる

でも、こうも思ってるんだ

空が、オレと梓を護ってくれたんじゃないか

って


「空が?」

「あぁ、だってあの日が無ければ、オレは家

族を人質に取られて、あの組織で捜査と言う

名の元に何をさせられたかわからないし」


やつらの思うような成果を上げられなければ

オレも風見も、身元不明遺体としてどこかに

打ち上げられているか、永久に発見されない

遺体として隠されたままだったろう

それくらいの事は、平気でするような人物が

集まっていた


「…零さん」

「梓」


ぽすん、と寄りかかって来た梓の身体を抱き

締めた

ごめんなさい、と呟く梓に、本当だよ、と言

ってやった


「空の事は、本当に悪いと思ってる」


だからこそ、服部平次は、助けたかったんだ


梓を膝に乗せたまま、オレはひとつの調査結

果報告書を梓に手渡した


オレが保管していた、13歳の失踪当時の服

部平次の指紋やらDNA情報と、先日、宿舎か

ら持ち出した歯ブラシから採取した情報の調

査結果だ

先日、宮野志保科学捜査研究所所長から直接

手渡されたレポートだ


「…やっぱり」

梓はそう言った


鳥蓮英治24歳は、服部平次であると断定され

た鑑定書だ


そして、その鑑定書を受け取った数日後、オ

レは宮野所長にもう一度呼び出された

遠山が作成したツールに、宮野所長が改良を

加えた最新の顔認証システム

取り込んだ写真から、その人の過去、未来の

顔を予測する事も出来るプログラムだと言っ

ていた


そのテスト版を遠山に貸していたのだが、ど

うもその後の彼女の様子がおかしい、と


「余計なお世話だとは思ったんだけど」

服部平次(当時13歳)の顔写真をスキャン

してみて、24歳現在の予想を出して見たと

言う


「それで、何の気無しに、警察のデータベー

スと認証をかけちゃったら…」

鳥蓮英治の警察手帳に貼られている制服姿の

写真と一致したと言うのだ


「おそらく、和葉さんはこの事実をもう既に

掴んでいるはずよ」


お姉ちゃんには、まだ言って無いけど、そろ

そろ言うべきよね、と言う彼女に、少しだけ

待って、と告げた


「今、捜査の事とか色々あって、鳥蓮と遠山

のペアを解消させるワケにもいかない」

気を乱すワケにはいかないんだ、大詰めでね

と言うと、渋々了承してくれた


「零さん、そろそろ鳥蓮と遠山にもこの話、

私たちが掴んだ情報を開示すべきよ」

梓は、鳥蓮のと言うよりも、服部平次を消し

たくて、遺体が未だに上がらない彼を殺した

くて捜しまわってる連中が居るはずだと言う


「あの事件、どう考えてもおかしいわ」


おそらく、その謎の鍵を握るのは服部平次そ

の存在だと言う梓


「本人に自覚がある、無し、関係なく彼はき

っと危険な目に遭う」

「そうだな」

「零さん、今から空を助ける事は出来ない

でも、鳥蓮は、彼はまだ間に合う

そうでしょう?」


私も、私のチームのメンバーも投入して良い

から、必ず、助けましょう

そう言った梓と、誓いのキスをした


今度は、必ず

そして、今度は、2人で、この拗れに拗れた

事件に、終止符を打とう、と


風見からの報告書も、梓と一緒に目を通した

寄り添いながらも、お互い書類を手放さない

何だか付き合い始めの頃に戻ったみたなオレ

と梓だった


「零さん、どこから調べる?」

「んー、一回、今までの捜査は全部無かった

事として、スタートして見るか」

「了解」


梓とオレは、リビングのソファに寄りかかり

床に並んで座って、テーブルに資料をぶちま

けた

梓の手前には、キーボードがあり、テレビ画

面には端末の画面を表示させた


「まず、事件当日の朝からの服部邸の様子に

ついて、整理しよう」


後からこの資料を鳥蓮と遠山にも展開するか

ら、正確にね、と言うと、了解、と言って、

調書やら何やらから、オレが拾って読み上げ

る内容を、梓がタイムラインにして画面に表

示させて行く


遠山の証言、近隣の人らの証言、遠山所長の

証言、当日荷物を届けに来た運送屋やら何や

らの証言から、事件発生の日の様子が浮かぶ


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2006年04月**日(金)台風○号大阪来襲

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04:30 新聞配達

06:30 和葉訪問

07:00 平次・和葉登校

10:00 静華外出

11:30 宅配便不在配達票

(同時刻、大阪梅田付近で、買い物をする

静華の目撃証言多数あり、防犯カメラ映像

もあり)

※帰宅時間不明

 服部邸の出入り口監視カメラは、13:00

 から16:00までの映像が偽装工作されて

 いる痕跡あり

14:00 真向かいの家の主婦が、服部邸横の

空き地に、黒塗りの外車が横付けされていた

と証言

14:45 留守電に、これから帰ると平次の声

が残されていた

15:45 家から飛び出して来た男と、念のた

め再配達に立ち寄った宅配業者の職員が、

服部邸前でぶつかる

15:48 110番入電

  宅配業者担当者と、真向かいの家の

主婦が、第一発見者

15:58 派出所警官と機捜担当者現着

捜査、現場検証開始

16:15 和葉到着、現場検証立ち会い

~以下省略

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「司法解剖の結果って、どうなってたんだ

っけ?」

「それが、最初の解剖所見では、13:00から

15:00の間とされていて」

追加調査の結果として、修正された解剖所見

では、14:00から16:00の間とされたんだ


「最初は、平次くんの留守電の時にはもう死

んでいる事になっていて…」

「あぁ、追加訂正された報告書では、平次く

んが帰宅したであろう時間帯には、まだ存命

だったと言う事になった」


だから、当初は、息子が殺して逃げたのでは

無いかと言う憶測も飛んだと言う

でも、それを真っ向から否定したのが遠山だ

った


「おばちゃんの首に残されとった手の跡をち

ゃんと見たらわかる」


平次は、普段は右利きや

でも、とっさに出る利き腕は左やねん、と

証言したらしい


遺体に残された扼殺の跡が、大きさもあわな

いやろ、と鑑識らを一喝したらしい話も証言

にあったのだ


平次の手の大きさや足の大きさもちゃんと把

握していて、平次以外の男の人の足跡がある

とまで指摘したとあった


「もし、内部に犯人と通じているモノが居た

としたら、失踪した息子犯人説でクローズし

たかった事件をひっくり返されて、それはさ

ぞかし邪魔に思ったでしょうね」


「あぁ、それはそうみたいだ

身内の事件捜査への関与はタブーだって事で

それから暫くして、遠山に余計な情報を渡す

なって緘口令が敷かれたみたいだ」


まぁ、中にはそれをかいくぐり、彼女に情報

を与えていた大滝本部長のようなモノも多数

存在したみたいだけどな


「まずは、司法解剖の結果が、何故訂正され

たのか、からスタート?」

「そうだな、その辺りから整理するか」

タイムラインを書きだして、いくつかの疑問

も新たに生まれた

そもそも、服部邸の監視システムにハッキン

グして、データ改ざんまでやらかした奴は誰

なのか

そして、息子犯人説を囁いたのは誰なのか

さらに、現在も特定されていない黒塗りの外

車の件

まだ埋められていない、時間帯の服部邸の人

々の動向

着手すべきポイントはたくさんある様子だ


「忙しくなるけど、ちゃんと食べてね」

「梓もだよ」


オレ達が元気じゃないと、空が哀しむから

とにかく、お互い元気で頑張ろう

うん、と言う梓と、オレは、資料整理と、問

題点整理を急いだ


遠山と鳥蓮に説明を急いだ方が良いと判断し

たからだ


その勘は正しかった


突然、出張ついでに遠山所長が庁舎に現れて

帰宅する途中、新幹線が爆破される事故に遭

い、一気に加速度を増して、過去の事件が息

を吹き返し始めたからだ


[4]

**2017年7月某日 ~榎本梓の記憶**


零さんと、あの事件に蹴りをつけようと動き

出す事に決めた


庁舎内であまり親密にしていると、余計な騒

ぎになるので、私は零さんと事件の話は私の

家でする事にした


夜通し事件を整理して、私も零さんも朝陽を

見るまでディスカッションを続けた

付き合い始めの頃に戻ったみたいな私達


「零さん、今日の予定は?」

「捜査」


「バカ、それはわかってるけど、非番よね?

って確認」

「うん、捜査だけど非番

違う、非番だけど捜査?かな」


零さんも眠気最高潮よね


「取り敢えず、一旦、寝よう」

「えっ!」


ば、バカっ!そっちの意味じゃない💢

頭を整理するためにも、睡眠をとろうって意

味よっ (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾


「ちっ」

「ちっ?」


取り敢えず、零さんをベッドに押し込み、無

理矢理寝かせて、自分も目を伏せた


どれくらい時間が過ぎたのか、息苦しさに目

を覚ますと、零さんが胸元に顔を埋めて爆睡

していた

がっちりホールドされていて、身動きが取れ

ない


はぁ、とため息を吐いて、柔らかく芯のある

キレイな色の髪を指先で梳いた


公安時代から、不安になったり、何か迷いが

あったりすると、よくこうして私にしがみつ

いて爆睡していた零さん


丁度良い位置に抱え直して、私ももう一度目

を伏せた


空に助けられた気がしている、と零さん

零さんの話を聞いて、私もそう信じてみよう

と思う


ここ最近の疲れからか、グッスリと眠ってし

まった私は、目を覚ました零さんと、10年

振りに抱きしめあった


「紙は出したけど、オレはまだ別れたつもり

も無いし、忘れたつもりも無いから」


そう言った零さんと私は、その日以降、休日

は2人で街に捜査に出た

関係者をひとりずつ、改めて訪ねて歩く事に

したのだ


零さんの家か、私の家か

どちらかの家に集まって、一緒に食事をして

事件を整理して、集めた証言を検証したりも

して、と

時には地方に行ったりもした


そんな時だった


「最近、降谷くんとよりを戻したって噂に

なってるけど?」


久しぶりに飲みに行こう、と宮野捜査一課長

に誘われた私

あはは、戻すよりなんてありませんよ、私と

零さんには、と切り返した


零さんにキツく言われているのだ


捜査一課長を疑いたくは無いが、自分達に何

かを隠しているのは間違い無い、と

だから、自分達の事やあの事件の事はもう少

し伏せた方が良い、と


「一度聞いてみたかったんですけど」

「なあに?」


私は、思い切って何も知らない振りをして、

一課長に聞いて見た

普段は、人事に口をはさまないのに、どうし

て今年は自ら乗り込んでまで口を出したのか

と言う事を


どう考えても不自然だったからだ

いくら優秀だとはいえ、府警が手放したくな

いと言う人材を、無理矢理浚うようにして連

れて来たり、

私と零さんを隣合わせのチームにしたり


「ノーコメント、って言ったら許してくれる

のかしら?」

「いいえ、今日は許しませんよ

私たち以外、ここには誰も居ませんからね」

「そっかー、ダメかー」


困ったなー、今日は志保も居ないし、誰も私

を庇ってくれないなー

マスターにおかわりを要求しながら、天井を

仰ぎ見る一課長


誰も、彼女が警察官だとも、刑事の頂点に立

っている事も、想像さえしないだろう

ごく普通のキレイなお姉さんだからだ


でも、武術も凄いし、PCスキルも半端では

ないし、統率力もある


「未来をね、考えてみたの」

「未来?」

「ええ、未来」


「捜査一課長を拝命した時、決めたの

1年目は現状を知る、2年目は改革を始めよ

うって」

「改革?」

「そう、改革」


梓さんも、色々あったと思うけど、警察って

まだまだ男社会でしょ?その上、男社会と言

っても、上層部と現場には相当な温度差があ

ったりするじゃない?


「ええ、確かに、無いとは言えませんね」

「それを変えたいと言うのが、最終目標だけ

ど、その準備として、まずは若い刑事が絶望

しないような環境を作りたかったの」


え?


「理不尽な命令で、捜査を諦めるとか、そう

言う事は極力なくして行きたいって

被害者も、刑事も、絶望するような捜査は、

無くそうって」


そう言うと、燃えるような瞳で、遠くを見て

いた

宮野さんの視線の先には、本当は誰が、何が

見えているのだろうか?


「そのためには、優秀な若手を集めたかった

優秀な、信頼する指導者を集めて、その人達

に若手刑事を育成してもらおうって」

「それで、色々な機関を視察して歩いたんで

すか??」

「そうよ、自分の目で見て決めたかったから」


書類だけじゃ判らないこと、たくさんあるで

しょう?現場に出て、初めて判る事とか


「そうですね」

「だから、人事と何度もかけあったし、色々

な部署を巡って、色々な人を見て来やたわ」


「確かに、問題は個々に少しずつあるけれ

ど、良い人材が集まったと思っています」

「でしょう?」


嬉しそうな顔をする宮野一課長はどこかまだ

少女の面影を少し残しているように見えた


「遠山刑事はね、私の尊敬する刑事さんの

お嬢さんで、その刑事さんの優れていた個性

をちゃんと正しく引き継いでいたから、どう

しても、欲しかったの」


大阪を離れたくないと言う彼女と、手放した

くないと言う府警から奪うのは大変だったわ、と言う


「警察官って、2世とか3世とかざらに存在

してるじゃない?でも、優秀な才能を正しく

受け継いでいる事ってそうそう無いのよね

残念だけど、ばらつきはどうしても、ね」


奇跡だと思ったわ、と言う


正義感の強さとかその性格、身体能力、頭脳

どれを取っても、父親に全く引けを取らない

そればかりか、人徳もある


「だから手元に?」

ええ、でも、と言う


「でも?」

「贖罪の意味も無かったとは言い切れない」

そう言うと、ぎりっ、と前方を睨みつけて、

グラスを一気に煽った


「一課長が、贖罪、ですか?」

「ええ」

「何か、あったのですか?」


「…ごめんなさい、それだけは貴方にも言

えないわ」

「あったんですね?」


「あったか、なかったか、と言われれば、あ

った、でも、何がと言う問いには絶対に応え

られない」


たとえ、死んだとしても、それは墓場まで私

が持っていくと言った

「一課長、私も、降谷刑事も、貴方にとても

恩義を感じています

そして、再会出来るきっかけをいただけた事

は今も感謝しています」


だから、何かあったら言ってください

私たちに出来る事なら、何でもします


「ありがとう、梓さん」


貴方達にお願いしたい事は2つよ

絶対に、2人には復縁して欲しい

それと、若手の育成をよろしく


「みんな、私が見つけた宝物達よ?大事に、

育ててね」

そう言うと、その後は他愛の無い女子トーク

ばかりで、とりとめもない対話をしている間

に、無粋な無線が鳴り出してしまった


宮野一課長の実妹である志保ちゃんに連絡を

して、逢いに行く事にした

何か、とても嫌な予感がしたからだ


そして、その予感は、その後暫くして現実の

モノとなる事を、この夜の私はまだ知らない


第5章へ、

to be continued