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7th heaven side B

You're all surrounded [第5章−後編]

2017.08.27 06:30

第5章 事件発生・後編


[3]

**2017年8月某日 ~降谷零の記憶**


「零さん!鳥蓮が目を覚ましたそうよ」

梓の声に、漸くほっとしたオレ


あの日、に記憶が巻き戻る


梓とあの事件を洗い直し始めた途端、突然、

一課長が梓を誘い飲みに出た

謎かけだらけの飲みを終えて帰った来た梓は

ひとしきり泣いた

きっと、一課長は、自分達を巻き込まない気

でいると、そう言って


オレは梓とプライベートの時間を使って、捜

査に出ていた

梓の家に行く方が多かったのは、途中からど

うも誰かがオレの家に出入りしている気がし

たから


だから、オレの家で会う時は、梓にも誰かに

見られたとしてもかまわない程度で接するよ

うに伝えてあった


梓の家には、オレがちゃんと手を入れたから

気兼ねなく、一緒に眠り、もちろん夫婦とし

てすべきスキンシップも、した


「総てを片付けたら、再出発をしよう」


オレは梓に再度プロポーズをしていた

捨てずに護って来た指輪も在る


動けば動く程、新たに色々なトラブルが発生

するようになって、やっぱりあの事件はまだ

全然終わってなどなくて、生きていると言う

確信を持ち始めていたオレ達


そうなると、次なる課題は、おそらく標的に

なるであろう鳥蓮と遠山の身柄をどうやって

護るか、と言う事だった


風見も交えて散々考えて、とにかくオレに徹

底的にはむかう鳥蓮をどうすべきか、話しあ

っていた最中にあの襲撃事件が起きた


オレは、鳥蓮にあの鑑定結果を突き付ける事

にしたんだ

その鑑定書を持って、宿舎に向かった時、ド

アが半開きになって、何やら暗い部屋から何

か物音がした


「何やってんだ!!💢」


原型をとどめない程荒らされた室内

傷だらけで出血している鳥蓮が床に伸びてい

て、それに馬乗りになってナイフを振りかざ

そうとしている影を見つけた


飛び蹴りして、反撃されて、必死に鳥蓮から

距離を置かせながら、オレはやつを出入り口

へと誘導するように襲いかかった


ところが、途中、投げつけられた観葉植物の

土が目に入ってしまい、一瞬の隙をつかれて

犯人がドアから飛び出して行ってしまった


慌てて後を追いかけたが、視界がうまく利か

ずにいつもの半分の力でしか追えず、見失っ

てしまったのだ


オレの後を追いかけて来た沖田が、無線で誰

かに指示をして、至急周辺の監視カメラを確

認するようにと叫んだ


庁舎に戻り、目を洗い流して捜査に、と思っ

たオレは、自分のデスク周りを誰かが漁った

形跡捉えた


その手法に、思い当たる節があった


風見と梓に、オレの作戦を伝え、病院に収容

された鳥蓮の事は、元医師の冴島を中心に、

6係から工藤と毛利を借りて対応してもらえ

るように頼み、単独行動に出た


ハッキングの形跡が残るようにして、わざと

閲覧制限のかかったファイルにアクセスした

予想通り、察監がすぐにやって来て、オレは

聴取と言う名の下、隔離されたのだ


形式通りの聴取を受けて、同時にそいつから

その情報を引き出して、その攻防戦が始まる

オレの通信は総て傍受されている


監視も1人とか2人とか生易しい数ではなく

投入されていて、オレは自分と梓の考察が正

しい事を確信していた


梓や風見とは一切連絡を取らず、オレは変装

して時々現れる黒羽を介して連携を取った

性別も年齢も超えて変装出来る黒羽の協力が

無ければ、到底出来ない話だった


予想通り、6係と7係は鳥蓮襲撃の事件から

外すと一課長が言い出したらしく、梓は猛抗

議して、全責任は自分が執るから、自分が兼

任して、犯人を追うと宣言したと知らされる


そうならない事を、願っていたけれど、現実

はオレ達の予想を上回るスピードで違う方向

へと走っているようだった


意味の無い監察にならないように、在る程度

の犠牲は覚悟の上で、察監との攻防戦は続け

られていた


さすが、オレを警戒してか、送り込まれた担

当は優秀で、オレも中々苦労したけれど、所

詮オレの相手では無かった


そいつが後で自部署に戻って困らない程度の

土産を持たせ、その何倍もの情報を本人にも

録画している映像にも残さない手口で引き出

す作業は、公安時代の苦労を思い出して、中

々キツいものがあった


それでも、やるしかない

オレ達の読みが正しければ、これから相手に

しなければならない相手は巨大で、闘った末

にどうなるかといった保障は何一つ無かった


「空に、恥ずかしく無い方法で仕事しよう」


最悪、公安時代に使った手法もやむなし、と

言ったオレに、梓がそう言ったんだ

風見にも、陽香ちゃんに恥じない方法で仕事

をしよう、と


「正々堂々とやりましょう

だって、私たちは悪くないし、鳥蓮達だって

何の落ち度も無い」


やってダメなら、みんな一緒にお陀仏になる

だけよ、と言った梓に、風見は引き攣った笑

いをしたけれど、この仕事をしている以上、

覚悟は出来ている、と言ったのだ


鳥蓮は大丈夫だったと訊いた

ケガは負ったが、生命は取りとめたと

ならば良かった

生命がある限り、まだオレ達は負けない


そして、オレの予想に反する形で、爆弾を投

下してくれたのが、遠山だった


それは、とてつもなく大きな風穴になった


オレ達にしたら、千載一遇の機会


でも、その分だけ、鳥蓮と遠山の生命は、本

人達が知ってか知らずか、かなり危険に晒さ

れる事となった


10年前の自分の証言が、改ざんされているとして指摘したのだから

ちゃんと「証拠」を提示して


これで、誰しもが、当時の捜査に裏切り者の

手が内部から入った事が曝け出されてしまっ

たのだ


当然、府警や当時の捜査員の間には激震が走

ったのは言うまでもない


一発触発の雰囲気になるかと思われたが、現

大阪本部長自ら、担当を引き連れて東京に来

ると言う異例の提案で、落ち着いた

1週間後、大滝本部長と担当者2名が庁舎に

来る事になった


「一番危険なのは、証言聴取の時」

梓達には事前にそう言ってある


警察内部の裏切り者の特定はまだ完全には終

わっていない

そいつはきっと、遠山が所有していると言う

「証拠」の原本を狙って来るはずだ


「証言」よりも、「証拠」を狙いに来ると、

オレ達は読んでいた


実は、遠山が所有していると言う「証拠」を

まだオレ達も誰もその実物は見ていないのだ


「あります、大丈夫です、私を信じてください」

遠山はそう言って、まだコピーしか開示して

はいない


でも、遠山の発言の翌日、大阪の遠山家でボヤ騒ぎが起きた

警邏中の警官によって消火され、大事には至

らなかったらしいが、これで、確実にその証

拠を巡る戦いが始まった事を意味していた


遠山の母親には、ちゃんとガードを付けてあ

るし、まだ大阪の病院に入院中で、必要があ

る時だけ、科捜研に出勤している状況だった


大阪の遠山家、服部家は、現在厳重警戒対象

として、扱われている

どちらも住人が居ないとは思えない程の、警

戒振りだった


冴島から、回復が早いのと、あまり長期間、

遠山から遠ざけてしまうと、何をするかわか

らないから、と言う謎の忠告が入る


当初、冴島が医師から聴取した内容だと、目

を覚ましてから2-3週間は入院加療が必要と

言う話だった


冴島が、目を覚ました鳥蓮を確認して、せい

ぜいベッドにくくりつけられるのは3日、と

言い切り、4日目に退院させる事で納得させ

たと言っていた


その代わり、当面庁舎内での事務作業に限定

すると言う事で医師は納得させた、と

その報告を黒羽経由で確認して、黒羽にも、

実際に鳥蓮と対面してもらって、時は満ちた

と判断した


オレは一気に監察を終えるためのクロージン

グに入り、監査を終えさせた


察監チームに相当なお土産を持たせたので、

オレのお咎めは、3カ月間の給与減額で済ん

で、無罪放免とされた


オレが部屋に戻ると、何だか良くわからない

けれど変な空気が流れていた


突っ込みたい気持ちはたくさんあったけれど

遠山を見てほっとした顔をしている様子に、

思わず自分も梓を見てしまいそうで焦った


梓と風見と最後の打ち合わせをして、オレは

鳥蓮達を別室へと呼んだ

会議室は事前にクリーニングをして、盗聴器

等の類が無い事を確認してもらってある


「では、会議を始める」


鳥蓮、黒羽

沖田、冴島、風見

5人を前に、オレと梓で話を進めた


「まず、最初に言っておく」

これから話す事は、当面ここに居るメンバー

だけに限る、と


相手が警察庁長官だろうと、捜査一課長であ

ろうと、他言無用だとした


「ちょっと待てや、何で、一課長もアカンの

や?」

想定通り、鳥蓮が喰いついて来た


「その理由は、これから話を訊いてから、判

断するように」


その約束が出来ないモノには、ここから退出

させるし、事件捜査も許さない、と言うと、

悔しそうな顔をして鳥蓮も承諾した

 


[4]

**2017年8月某日 ~榎本梓の記憶**


「いい、絶対にうちのチームで犯人、捕まえ

るわよ、いいわね?」

「はい」


捜査本部に、私たち6係も7係同様、最初は

外されたのだ

ふざけるな、と言って乗り込んで、絶対に犯

人は挙げてみせると啖呵を切って、6、7係まとめて私が責任を執ると言って無理矢理、

捜査本部にねじ込んだ


何故か、上層部よりも一課長が最後までそれ

を反対して、良しとはしてくれなかった

その理由については、私も零さんももう理解

していたので、敢えて今回は徹底的に、反抗

したのだ


零さんは、自ら察監の目に留まるような行動

をして、自らを隔離されるようにして、監視

下に入ったのだ


私と風見くんは、それには一切関係が無いと

言う事で、通常任務を遂行した


6、7係が抱えていた事案は、風見くんにさばいてもらって、零さんとの連携は黒羽に一

任した


工藤と毛利、冴島と沖田の4人には捜査本部

と入院中の鳥蓮の警護の往復をお願いした


本当は、警邏の警官が24時間交代で病室の

前を護っているので、必要は無かったのだが

どこに裏切り者が居るか不明だったので、敢

えてそうしたのだ


目が回るどころか、もっと大変な日々だった

けれど、確実に事件の真相を掴み始めている

事は感じていた


「空、ごめんね、もう少しだから」


零さんと、この事件が終わったら、やり直す

事と、初めて一緒に、空のお墓参りをしよう

と約束している


私たちなりに、10年前の事件や事故の決着

をつけるけじめをしようと決めた事だ


零さんが、お守りの代わりに、と言ってあの

時私が置いて行った結婚指輪と婚約指輪を返

してくれた


だから、私は大阪、京都出張の時、お土産に

と遠山所長から貰った匂い袋に、それをしま

って持ち歩いている


零さんの分も貰ったので、それは零さんに預

けてあるのだ

伽羅のほんのり甘い香りがするそれは、とて

も優しい香りで、特別に配合したものだと言

っていた


「榎本係長」

黒羽くんが、零さんからのメッセージを受け

戻って来た


どうやら向こうは問題なく、零さんのペースで話は進んでいるらしい

問題はこちら、と言う事だ


捜査本部は何かおかしかった

上層部の面々も、珍しく意見が割れている様

子で、とにかく足並みが悪い


そこへ来て、別の大きな事案が出来ると、突

然主要メンバーはそちらに回されてしまい、

引き継ぎもままならず、寄せ集められたメン

バーは更に混乱を招いたのだ


「遠山を投入します」

私はそう言って、科捜研の手伝いなど内勤に

あてていた遠山を本部に引き上げた


犯人追跡をまかれる失態はあったものの、さ

すが彼女はタダでは転ばなかった


自身の追跡を邪魔した車を特定するだけでは

なくて、その車の人物と、10年前の捜査で

得た資料に在った人物が一致する事をちゃん

と証拠として見つけ出したのだ


遠山に、ある作戦を持ちかけて、それをもみ

消されない方法で、本部でぶちまけさせた私

どうせ危険にさらされるなら、こちらから仕

掛けましょう、と言う私に、遠山はすかさず

反応したのだ


危険は更に増すけれど、その分、多くの人が

知る事で、犯人側は動きにくくなったはず

おまけに、遠山に煽られて、本部の捜査員の

意識も一気に犯人逮捕に向けて高まり、自ら

現場に駆け出す刑事も増えた


そんな時、病院に居た工藤と毛利から、電話

が入った

鳥蓮が意識を取り戻した、と


「ってか、自力で、目を覚ましたみたいですよ」


工藤はそう言って笑っていた

ケガはあるけど、意識はしっかりしているみたいなんで、大丈夫です、と


それを訊いて、一番ほっとした顔をしたのは

遠山だった

でも、一番困った顔もしていた


「英治が目を覚ますまでに、犯人挙げるつも

りでいたのに、取り逃がしてしもうた」

「何を言ってるの、まだあきらめたらダメ

絶対に、私たちで捕まえるわよ」


はい、と言った遠山が、数日後とんでもない

事を始めた


「梓さん、ちょっといい?」

志保さんに呼ばれた科捜研で、私は志保さん

と遠山が連名で作成したレポート2通を突き

付けられたのだ


「私が知らない何かがあるとは思っていたけ

れど、これってもしかして」


志保さんは、言った

もしかして、姉はこの事件にかかわっている

の?と

お願いだから教えて、と言う志保さんを前にして困惑する私の元に、遠山が現れた

私が説明する、と言って


「お世話になったし、私もまだ信じられへん

気持ちでいっぱいやねん」


でも、自分が調べた事実だけを教えると言っ

て、判断は志保さんに任せる、と言った遠山


「判ってんのは、2点や」

「あの捜査本部に、宮野捜査一課長は参画し

ていたと言う事」


そして、もうひとつは、と言うと、遠山は一

瞬、顔を歪めた


「英治に、正体を隠して支援をし続けていたんは、一課長やって言う事や」


あの事件後、遠山は鳥蓮の本来の住居の方で

後見人とのやりとりの手紙の束を発見したと

言うのだ

混乱する現場で、それだけは護ろうと箱ごと

隠した、と言う遠山


「この事は、英治にはまだ伝えてへん

あの子にとって、絶対に誰にも知られたない

秘密やと思うから」


鳥蓮が退院するまでの間に、元に戻して、知

らんかったフリをするつもりだと言った


「つまり、鳥蓮刑事が、姉が弟として引き取

るかもしれないと言っていた少年だと言う事ね?」


ショックを受けていた志保ちゃんだったが、

顔を上げてそう言った


「他言無用よ」

そう言って、話し始めた


10年前、大阪の捜査現場から引き揚げて来た後、暫く姉の様子がおかしかったの

夜中は魘されるわ、何だか酷く怯えていたし

それが過ぎると、今度はがむしゃらに仕事を

始めたわ、と言う


「元々、仕事熱心だったけど、何て言うかちょっとおかしかったの」


少しすると、今度はちょくちょく私用で家を

空けるようになったらしい


「恋人でも出来たのかと思ったのよ」


まぁ、姉にはずっとパートナーが居るんだけ

ど、お互いめちゃくちゃ忙しい仕事だし

だから、新しい人でも見つけたのかなーって、その頃はのんきにそう思ってた


でもね、突然言い始めたの

直接引き取るのは難しいけれど、男の子をひ

とり、養子に迎えるかもしれないって


どういう事か、説明してって、何度も言った

し喧嘩もしたんだけど、今は事情を話せない

でも、ある事件の被害者の子だって


「ただ、その男の子の名前も年齢も教えられないって」


その子が狙われるからって言ってね、と言う

志保ちゃん


「だから、お姉ちゃんの好きにしてって、言って、その後、多分お姉ちゃん、その子の関係者を連れて庁舎内案内してたわ」


でもその後、養子の話は一端保留にするって

どうも、その子を保護している家から待った

がかかったみたいで


「京極家やと思います」

遠山が言った


「英治に訊いたんです

養護施設で養育されとる時、何か困った事と

かなかったん?って」

そうしたら、困った事が無くて困った、言う

たんです、と


「早い段階で、後見人がついて、学費も留学

費用も出してもらえて、園にも相当色々と、

金銭的な支援、してもろうたみたやって」


京極家からも、手厚い保護を受けたと言って

いるらしく、彼の所有する家は、大学進学を

機に園を出なければならない彼のために、現

京極家の主が用意した部屋らしい


「姉と私には亡くなった両親が残した資産がいくつかあるけれど、大きな金額を動かした形跡は無いわ」


ただ、恐らく鳥蓮の教育資金等に動かしたで

あろう金額は確かに動いていた、と言う


「わからんのです

どうして、英治はみんなに後見人が一課長で

ある事を公表してへんのか」

それと、一課長とも、初めて仕事上で会った

振りをしてんのかも、と言う遠山


「せやから、機会を見て、英治に訊いてみよ

うと思うてたんです」

ホンマの事を話してくれるかは、わからんのやけど、と言う


「姉は、もしかしたら事件の中で何らかの役割を演じさせられたのかもしれない」

志保ちゃんは、そう言うと、哀しそうな顔をして、窓の外を見た


「でも、真実を曲げる事は許されない

和葉さん、まずは第一弾として、連名でレポ

ート、公表しましょう」


それで、何か動きが出るなら、それしかない

私が訊いたところで、お姉ちゃんはきっと、

何も教えてはくれないから、と言った


「でも、それやと志保さんにも迷惑がかかってまう」

「いいのよ、もうこの事件は動き始めているし、誰も傍観者ではいられないから」


窓の外では、叩きつけるような雨が降っていて、あの事件の日みたいだと呟いた遠山が、哀しそうな顔をした


第6章へ、

to be continued