You're all surrounded [第6章−前編]
第6章 逮捕・前編
[1]
**2017年8月某日 ~服部平次の記憶**
会議が終わって、オレと降谷だけが残った
「すまなかった」
「謝罪は受け付けん、オレはまだ怒ってる」
「だろうな」
許されるとは、思って無いと言う降谷係長
「オレの事は置いておいて、とにかくあと
数日後に控えている遠山の事の方が先だ」
自席に戻り、書類やら何やらの山を整理して
いると、和葉からのメッセージに気がつく
オレの所有するマンションの方にも、捜索の
手が入った、とあって、和葉もその波に紛れ
オレ的に護りたいものはこれかな、と思うの
は隠した、とあった
詳細は見てへんから、とあった
「オマエ、証拠隠滅って言われるぞ」
取りあえず、ヤバいモノをどちらにも置いて
無いし処分後で良かった、と安堵する
和葉の暗号メモを解いて、隣の和葉の机をそ
っと鍵を開けて中からバックパックを取り出
した
「バッグはアンタに譲る」
ポストイットに、思わず笑いそうになる
「おおきに」
濃紺のリュックを開くと、何やら厳重に封印
されとる紙袋やらが在った
明日の朝10:00に、宿舎へ集合とされてい
た冴島達とオレは、宿舎にはまだ入れないの
で、冴島の本来の家の方に世話になる事にな
った
シンプルな部屋やったけど、調度品を見れば
わかる、かなりええもんやって
「鳥蓮は、まず寝ろ」
それが仕事だと言う冴島に、薬を渡されて、
オレは寝室を借りた
沖田と冴島は、報告書の山をこの隙に作成し
ておかないと、後が面倒だとリビングに端末
を広げて何やら始めている
オレは、和葉からもらったリュックを開いた
厳重に封印されていた袋を外し、中から出て
来た箱に、思わず頬が緩む
オレが、誰にも見られたくないモノを、瞬時
に判断して持ち出してくれた和葉に感謝した
後見人とオレがやり取りした手紙やカードの
山やった
和葉が手をつけてへんのは、すぐにわかった
オレが並べた順番がなにひとつ狂ってへんか
ったから
別に和葉やったら見せても良かったんやけど
その箱の中に、和葉の文字が並ぶ付箋が貼ら
れたUSBメモリを見つけた
自分の端末に繋いで、中のファイルを確認し
ていった
正直、自分が集めたどの資料よりもデータが
揃っている事に驚いて、更に色々な技術を駆
使して検証されているのを見て、猛省した
和葉は、幼い頃にオカンや自分の母から遊び
を通して学んだ技術を、ひとつも無駄にして
へんかった
その総てを投じて、調べ挙げて、検証し、そ
れを立証すべく動いていたんや
オレは、情報収集に必死になるあまり、自分
のそっち方面の知識や能力を伸ばす事を放棄
して、力で解決しようとばかりいた
「オレの完敗や、和葉」
しかも、ちゃんと自分が証言した内容も、し
っかりと残してあった
あの日、和葉は廊下であの男とすれ違ってい
て、その男の身体的特徴や横顔、そしてその
男から嗅ぎ取った匂い、歩き方や走り方のク
セまで詳細に書いてあったんや
そして、再び現れたあの男の映像から、その
男と同一人物と特定するために必要なモノも
ちゃんと用意してあった
つまり、犯人であると断定するだけの証拠を
全部揃えたって事やねん
ずっと、ひとりであの事件を追いかけて来た
後見人である、一課長の助言を受けながらで
はあるけれど、ひとりやと思うてた
でも、それは違ったんやな、和葉
離れた場所で、時にはオレよりも苦労しなが
らホンマにひとりで事件を追っていたんは、
オマエの方やってんな
どうしても、和葉に逢いたい
そう思うたオレは、眠っていてもええから
どうしても、顔が見たい、と思うた
ダメ元で、電話しようかと思うたオレの携帯
が震えた
「非通知?」
取りあえず、通話録音状態にして、電話に出
る事にした
「坊やか?」
「!!!」
くっくっくっと笑う声が響く
間違い無い、
「松萩研二こと、原田陣平、39歳
元公安警察官」
「よく辿りついたな、と言いたいけれど、坊
やはまだ、真相の半分にも辿りついてはいな
いってとこだな」
(どう言う事だ??)
知りたければ、30分後、××ホテル地下駐車
場へひとりで来い、と言うと電話は切れてし
まった
オレはトイレに行く振りをして冴島達を巻い
て向かった
拳銃は所持していない
でも、警棒は隠し持って向かう
駐車場内は、ひんやりとしていて、まだチェ
ックインするには半端な時間やと言う事もあ
ってか、人気は少なかった
全神経を研ぎ澄まして、犯人の位置を確認し
ながら、オレは接近戦に備えた
肩を吊るす器具は外してある
来る
そう思った瞬間、男が飛びかかって来た
それを必死に応戦しながら、今日は絶対に勝
ってみせると意気込んだオレ
隠し持っていた警棒で応戦し、取っ組み合い
蹴り飛ばした男と、距離が出来た
その瞬間、男がいきなり現れた黒塗りの車に
はねられたのだ
それだけではない
その中から現れた男たちに、殴られ、拳銃を
つきつけられたんや
オレは車の下に隠れていた
あの日の、オカンが殺されていく姿と、その
男の姿が重なる
男がオレに向かって手を伸ばし、笑った
一瞬だけ迷ったけれど、オレはかくしていた
警報ブザーを鳴らし、飛び出した
男の手から拳銃を叩き落して、蹴り飛ばす
騒ぎを聞きつけて、警備員が駆け付ける様子
を察すると、黒塗りの車と男は走り去った
かちゃり、と言う音を聞いて、振り返る
拳銃をオレに向ける傷だらけの男
「残念だったな、坊や
悪い事は言わねえ、おとなしくママのところ
に行くんだ」
もうアカンか、と思うた時、男の肩が揺れた
その一瞬をついて、オレは警棒を振りおろし
たんや
倒れ込んだ男を抑え込む
走って来た和葉が投げた手錠で、男を逮捕し
たオレ
男の肩にぶつけられたんは、和葉の靴やった
片足裸足の和葉が、落ちた拳銃を拾い上げ、
ハンカチに包んだ
駆け付けた警官達に連行されていく犯人は、
黙ってオレと和葉を見ていた
「大丈夫か?鳥蓮、遠山」
そう言って駆けつけて来たのは、冴島らや
「あぁ、大丈夫や」
「いや、傷、少し開いたな、遠山もその足、
病院送りだな、二人とも」
オレも和葉も治療を受けてから庁舎に戻った
病院から庁舎に戻る車の中で、何故和葉があ
の場所に現れたかを教えられた
オレの脱走に気が付いた冴島らが、和葉に電
話を入れたらしい
和葉は、あのホテルで監視下に置かれていた
らしく、部屋に上がろうとした時に、駐車場
で誰かが騒いでいると言うクレームを耳にし
たと言い
「そこへ、冴島くんが、アンタが消えたって
言うから、調べたんや」
「何を」
「コレ」
和葉は、首にかげた鎖をちらりと見せた
?
あ、と思うた
先日、おばちゃんがオレによこしたあのペン
ダントやねん
携帯で、GPSを検索したんや、とわかった
「そらどうも」
「どういたしまして」
オレらの会話を聞いていた冴島らは、ところ
どころ?となりながらも、苦笑していた
「あのさ、もうちょっと何かないわけ?」
「何がや」
ほら、感動の再会とか?抱擁とか?と言う沖
田に、和葉が冷たく一言、言い放った
「これからお仕置きは当然、あるで?💕」
「えっ((((;゚Д゚)))))))」
「当たり前やんか、冴島さんらに迷惑かけた
んや、しばき倒すに決まっとるやろ?💢」
怒りを秘めた和葉に、呆れて笑う沖田達
(なんだよ、ご褒美じゃなくて説教って💢)
オレはひとり、ふてくされていた
「よくやった」
降谷は、オレと駆け付けた和葉を褒めたけど
オレはふてくされているし、和葉は怒ってる
しで、さすがの降谷も苦笑していた
犯人の取り調べは、初日、オレが担当したが
そのすぐ後、お偉方が続々と現れて、その後
は一切出来んかった
初日、奴はオレを見て不敵な笑みを浮かべる
と一言だけ言った
オレと出逢った事が、不運の始まりやったと
その後は、一貫して黙秘を貫いたんや
そして、一斉に新聞報道がされて、オレが服
部平次やと言う事がバレてしもうた
「母の事件の真犯人を、実の息子が逮捕」
10年を超えて、追い続けた成果やとして、
大々的に報道されてしもうたんや
府警の失態をもみ消すかのように、美談とし
て流れる報道に、オレは庁舎から一歩も出ら
れんようになった
(オレの、と言うより和葉や、協力してくれ
た人のおかげやねんけど)
予定より前倒しで、府警から大滝本部長が単
身でやって来た
「ようやった、平ちゃん」
「大滝ハン」
嬢ちゃんの執念やな、と笑って、和葉を褒め
て、オレを労わってくれた大滝ハン
和葉は、申し訳ない、と泣いた
かまへんよ、と言うたけど、大滝ハンにはこ
れから厳しい責任が課される
初動捜査に大きなミスがあった事
そして、内部に証言を改ざんして残した奴が
居った犯人捜しもせなアカン立場やねん
いくら当時、捜査員として府警には居らんか
ったとはいえ、現在のトップとして果たすべ
き責任は重い
和葉の心労はピークやった
必死に隠してはいるけれど、肉体的にも、精神的にも、限界やろ、と
この一件で、府警で一緒に働いた刑事課にも
大きな重荷を負わせる事になるからや
捜査もしずらくなるやろうし、何の責任も無
い、その当時担当や無かった人らにも、冷た
い視線が浴びせられる事は間違いないからや
せやから、オレも手放しで喜べず、落ち込む
和葉に、どうしてやる事も出来んかった
「鳥蓮、ちょっと」
オレは、人事と係長に呼び出された
鳥蓮英治として、警察官になったオレ
でも、オレの戸籍を復活させる以上、色々と
手続きをせなアカンと
「こんなことは前代未聞です」
まぁ、そうやろな、と思う
オレの記録は、次々と鳥蓮英治から、服部
平次へと書き換えられていく事になった
「服部、1日だけ時間をやる」
遠山を連れて、今すぐ姿を消せ、と言われた
「マスコミがうるさくて仕事になんないし、
この事件、まだこれで全部が解決したとはオ
マエだって思って無いんだろ?」
頷いたオレに、今すぐ庁舎を出ろ、と言うの
で、オレは急ぎ和葉を捜した
「服部」
振り返ると、工藤やった
「英治ってもう呼べなくなるのかー、それは
ちょっと残念だけど」
まさか、10数年超えて、オマエと遭遇出来
るとはねぇと笑う工藤
おそらく、子供の頃、姉ちゃんが和葉の所に
泊まりに来た時、一緒に来る言うてて来られ
んかった時の事を言うてるんやろな
「そんな事より、コレ、うちの母親から」
鍵だった
「和葉ちゃんに、って」
「?」
英国で、和葉に貸していたバイクを持って来
てあるから、使え、と言う事のようやった
休憩室で端末に向かっていた和葉に、声をか
けて連れ出して、2人で庁舎をこっそり抜け
出した
工藤からもらった連絡先に向かって、工藤の
両親と対面した
「服部平次です」
そう言うたオレに、笑顔を見せてくれた夫妻
「ゆっくり話したいところだが、君たちには
まだやるべき事があるだろうから」
取り急ぎ、少しだけ2人で休んでおいで、 と
言うて、送り出された
バイクはちゃんとメンテナンスされとって、
走れる状態なのを確認した
「和葉、オレの家までコレ、運べるか?」
もちろんや、と言う和葉に、オレのマンショ
ンに迎えに来い、と言うた
その前に、1泊分の着替えとか必要なもんを
背負える程度にまとめて持って来い、と
「当然やけど、バイクに乗れる恰好やで」
あと、刑事やってばれる格好もすんなよ、と
言うて、オレは急ぎ交通機関を乗り継いで、
マンションへ向かった
1時間後、和葉はちゃんと言うた通りの恰好
で迎えに来た
「オマエ、タンデムした事あるか?」
「うん、黒羽くんに乗せてもろうた時にな!
でも、自分で後ろに人乗せて運転した事は無
いで?」
オレは、和葉にリュックを背負わせて、後ろ
に乗せた
エンジンかけて、出す前に、和葉の手をしっ
かり自分の腹に回させる
「長時間やし、色々荒っぽい運転せなアカン
ポイントもあるから、絶対、離すなや」
「わかった」
和葉のメットもちゃんと被ってるのを確認し
て、上着の襟もしっかり締めてやって、オレ
は和葉の愛車を走らせた
「私も運転したい!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」
「アホか?オマエはオレの体重コントロール
出来んのか?」
休憩に立ち寄ったSAで、仕方が無いので和
葉の後ろにオレが乗って練習させた
いきなり高速、ってのが怖いんやけどなぁ
「アンタ、私はアンタに生命預けてここまで
ついて来たんに、アンタは私に預けられんっ
て事なん?💢」
そう言うてキレた和葉の方が怖くて、とはと
ても言いだせる状況やなくて、結局、オレが
折れた
「次の休憩ポイントで交代やで?」
目的地を知っているのはオレやからな
渋々承諾させて、オレは和葉の後ろに乗った
「しっかりつかまっとき?せやないと、手錠
かけるでー💕」
そう言うと、薄い身体にオレの腕をしっかり
巻かせた
ほな、GO!と言うと、走り出す和葉は、めっ
ちゃ楽しそうや
オレは本気で抱き締めたらコイツ、折れるん
ちゃうかな、と不安を覚えたけれど、頼れる
薄い身体を抱き締めるようにして、背中につ
いて行った
とても遠い昔、背負われた事も背負った事も
あったなー、和葉はオレを支えきれんで、あ
の時は転んだんやけどな💢
(頼むで、今日は転んだら2人ともお陀仏確
定やでー((((;゚Д゚))))))))
色っぽい感情よりも、恐怖の方が勝る凄まじ
い時間を超えて、次の休憩ポイントで、オレ
の方がダウン寸前やった
「どないした、大丈夫?」
「大丈夫?やあらへんわ」
ブラックコーヒーを流し込んで、和葉に言う
「オマエ、もう少しウエイト増やしてくれへ
んと、オレ、めっちゃ怖いわ」
?
「タンデム走行っちゅうのは、後ろの奴の体
重の掛け方とか身体の動きとかで調節せなア
カンから、運転技術が必要やろ?」
「せや」
「せや、や無いわ
オマエの体重で、身長が20センチ近くも違
うオレの体重支えるの、大変やろ?」
「でも平次、そんな重くないやん!
投げ飛ばす犯人とか先輩の中には、平次より
めっちゃ重い人、仰山居るやんか」
「合気道とバイク、一緒にすんな、アホ和葉💢」
オレは薄い身体に全力でしがみつくワケにも
行かず、めっちゃ苦労したんや、ボケ💢
「でも、やっぱりバイクは単独走行か、アン
タの後ろ乗ってる方が楽やわー💕」
ほわわん、とした笑顔で平然とそう言うた和
葉に、オレはこけるかと思うた
(コイツ、絶対、オレの事、男として見てへ
んよな…💢襲うで?マジで💢)
「あぁ、さいでっかー、そらよかったわ」
そう言うて、オレは和葉を背中に乗せて目的
地へと走らせた
「お久しぶりです」
「おぉ、英治、いや、平次くん、やな」
神戸のホテルで待っていてくれたんは、京極
家の当主であり、オレを拾ってくれた真氏の
実父
「スマンな、真のやつ、嫁の園子連れて、海
外転戦中なんや」
で、こちらが?もしかして
「初めまして、遠山和葉、言います」
「ほう、これまたど偉い別嬪さんやな!」
ご機嫌な当主に、無事自分を取り戻せた事の
お礼と、コレがオレが言うてたオンナですと
言うと、ほう、そうか、と喜んでくれた
和葉は、?と言うた顔をしとったけど、当主
の手前、特に突っ込まず、愛想ようしとって
くれた
園を卒園して上京した時、当主が言うた約束を果たしに来たんや
一生を添い遂げたい相手が出来たら、会わせろっちゅう約束
「真が戻って来たら、また一緒に食事でも
しような?」
そう言うてくれた当主に言った
オレの事で、みんなに迷惑をかける事になる
かも知れへん、申し訳ない、と
「なぁ、平次」
オマエは、オレに何か迷惑、かけたんか?と
園では、優秀なオマエを見習って、みんなが
真面目に勉強に取り組むようになった
オマエが立派な刑事になれたって知って、自
分も夢が叶えられるかも知れんと頑張る子も
増えたんや
道場かてそうやで?
オマエが剣道で全国大会で優勝したんを、次
は自分やって、猛稽古しとる奴は多い
「ええ影響はたくさんばらまいてもろうたけ
ど、悪い影響は、ひとつも無い」
「真がオマエを拾って来た時、言うてたわ」
この子には、自分の手で未来を拓いて行って
欲しい、それだけの力は、根性はある子やと
思うから、助けてやりたい、と
「オレと真は、オマエにきっかけをあげた
オマエは、それに見事に応えた
オレらの期待以上の結果を、学業でも、剣道
でも、仕事でも挙げた」
ただ、それだけやろ?違うのか?
オレは何も言えなかった
「まぁ、マスコミとかが来たら適当にあしら
うのくらい、お手の物や
心配する事はあらへん、まずはオマエは、オ
マエがちゃんと報告すべき人に、一刻も早う
逢いに行け」
それと、たまには道場に顔出してやってや?
と言うと、次の予定があるので、と和葉に連 絡先を渡して去って行った
「めっちゃいかつい感じの人やけど、ええ人
やんか」
「せやから言うたやろ、困った事は何一つ、無かったってな」
オレと和葉が行くと言うたから、と部屋を押
えておいてくれたらしい
オレからの、事件解決祝いや、と笑っていた
理由を知ったのは、その夜の事やった
途中で花を買って、遠山家の墓と、オカンの
墓参りを2人でした
おばちゃんにも逢いたかったんやけど、今は
接触を禁じられとるから、また来ようと言う
事になった
神戸の街を、和葉とバイクで流して、食事を
してからホテルへと戻った
「めっちゃ張り込んだな、あの親父」
唖然、としたんは、和葉もやった
ずいぶん高層階やなあ、とは思うたんやけど
VIP専用フロアの1室やってん
「京極様よりお伺いしております」
そう言うて案内された部屋が凄い事になっ
てたんや
「なぁ、めちゃめちゃキレイやで!」
神戸の港と街並みの夜景が一望出来た
確かに、めっちゃキレイやし、雰囲気もあっ
てええけど
ちらり、と目の端でベッドルームを見たオレ
は、やっぱりな、とがっくりした
当たり前やんか
ベッドはどでかいのがどーんと1台、や
((((;゚Д゚)))))))
オレはええ、オレはええけど
ちらり、とはしゃいでる和葉を見て、オレは
どないしようか頭を抱えそうになった
(ま、なるようにしかならん、か)
明日の夜までには東京に戻らなアカンし、思
うてる程時間は無い
「ほれ、明日はまた移動やねんから、早めに
休まんとアカンやろ」
そう言うて、先に風呂入れ、オレが入れんよ
うになってまう、と言うて、バスルームに押
し込むようにした
ホンマは内心バクバクで、どないしようと言
う感じやったけど、平静を装わなアカンと思
うたし、和葉には、事件が終わったらちゃん
と告白しようと決めて、オレはテーブルに端
末を出して、気になる事を調べ始めた
「へーじ、ゴメンな、ええよ」
「ん」
思わず仕事に没頭出来たオレは偉いと思うた
振り返って、バスローブ姿の和葉を見て心臓
が跳ねる
何でも無い振りですれ違い風呂に入ったオレ
すっぴんの柔らかな頬、甘い香り
バスローブに包まれたしなやかな肢体
この夜を、どうやってやり過ごそうかふわふ
わした気持ちでバスルームに向かう
シャワーを浴びて、身支度を整えてバスルー
ムを後にした
(だよな…)
一気に現実に引き戻される
オレの端末の前で、完全にテーブルに突っ伏
して寝てる和葉
肩を揺すっても起きる気配は無い
放りだされた手が冷たいのに気が付いて、覚
悟を決めた
端末を閉じて、和葉を担いでベッドに入った
ホンマはお姫様抱っこくらいしてやった方が
ええんやろうけど、ケガ、まだ完全に治って
へんから、片側に担ぐのが限界やねん
いっくら和葉が軽い、言うても、人やしな
(すっかり冷房で冷えてるやんけ)
ベットの中に入れてやって、しっかり布団に
包んでやると、暖を取ろうとしたんか、オレ
の方へすり寄って来た
(あー、今夜は生殺し、確定やー💢)
どんな苦行よりツライ修行になりそうやと、
ひとり我慢大会がどこまで通用するか、オレ
は深いため息を吐いた
(キスくらいは許せ)
抱き寄せた身体の柔らかさに目も回りそうや
けど、そっと額と頬にキスをした
髪を撫でて、頬を撫でたりして眠る和葉を見
つめていた
おとんが居らん言うのに、オカンを取り上げ
られた
大好きやったおばちゃんや、和葉からも遠ざ
けられた
あの日から、何度おばちゃんや和葉の元に帰
りたい、そう思うたかわからん
何度も、オカンが生きていた時間に巻き戻し
たいと思うたかわからん
何遍願っても、何遍そう思うても
現実の時間は止まってくれへんまま流れ続け
犯人を捕まえる事だけに、全人生を賭けて来
たようなもんやった
おばちゃんや、和葉の傍に居りたかった
花が綻ぶように咲いて行く、和葉の隣に居た
かった
黒羽に貰うた写真、自分の目で見たかった
一緒に、祝ってやりたかった
何一つ、オレには許してもらえへんかった
何一つ、叶えてやれへんかった
反省はしても、後悔はするな
後悔するくらいなら、この世に生を受けたモ
ノとして、しっかり前を向いて歩いて行け、
何遍も、京極家の当主に言われた
丈夫な身体と賢い頭脳を授けて貰えた事に
感謝して、前だけを見ろ、と
ふぇ、と言う声に我に返った
「和葉?」
抱き寄せていた和葉の瞼から、透明な雫が滲
み零れ落ちて行く
ふぇと声が上がるたびに、ポロリ、ポロリと
溢れて行く
「かずは」
大丈夫や、和葉
何も、もう、怖い事なん無いで?
大丈夫やから
そっと抱き締めて、背中をぽんぽんと叩いて
やって、指先と唇で零れ落ちる涙を吸い上げ
てやった
「かずは、オマエも、よう、頑張りました」
ひとりで、ようあそこまで色々勉強して、モ
ノにして、やり遂げた
ホンマに、よう、頑張った
和葉の事、大好きやったオカンもきっと喜ん
でると、オレにはわかる
「かずは、おおきに」
最後まで諦めんで、捜してくれとった事
ホンマに、嬉しかったで
せやから、ここから先は、オレが
漸く温まって来た身体を、そっと抱え直して
目を伏せた
コレは、オレの大事な大事な生命や
誰の好きにもさせへんから
だから…
深く抱きしめた身体の震えが止まるように
溢れ落ちる涙が止まるように
祈るような気持ちでキスをした
[2]
**2017年8月某日 ~遠山和葉の記憶**
鳥蓮英治が、漸く、あの日の仇を討った
母を殺したあの犯人を、逮捕したのだ
10年経って、実の息子が刑事になってその犯人を自ら逮捕したとあって、物凄い事にな
った
広報が根を上げる程、取材が殺到して、私達
も家には帰れない状況だ
英治は、事情聴取を受けたり、人事に呼ばれ
たりと大忙し
私は・・・
「和葉ちゃん、大丈夫だった?怪我」
「うん、平気、ちょっと足の裏にかすり傷
負ったくらいだから」
蘭ちゃんは、いつも優しい
先日、工藤くんに正式に付き合ってくれと告
白された蘭ちゃん
まだ、お返事はしてへんって言うてたけど
「やっと事件が解決したと言うのに、浮かない顔してる」
「え?」
「内緒にしててあげるから、素直に言っちゃ
えば?」
うふふ、とウインクする蘭ちゃん
あんな、と私は蘭ちゃんにそっと打ち明けた
漸く、漸く、仇を討った英治を、誰よりも褒
めてあげたいし、嬉しく、誇らしく思うてる
「でもな、ちょっと寂しい」
「え?」
英治の秘密、もう、秘密でも何でもなくなっ
てしもうた
休憩室にあった、新聞を広げる
警察官の制服で、まっすぐ前を向いて映っている英治の写真と
その隣に、学ラン姿で映る、平次の事件当時
の写真が並ぶ
私の秘密は、もう、秘密では無い
まだ、明かされていない謎は残されてはいる
けれど、英治の、平次の秘密はもう秘密では
無いのだ
「和葉ちゃんの、寂しいって気持ちはさ、も
しかしたら、鳥蓮くんも、同じ、かも」
「え?」
「鳥蓮くんは多分、一課に来た時にはもう、
和葉ちゃんだって、わかってたんだよね?」
「うん、多分」
「ずっと、待っていたのかもよ
和葉ちゃんに、気づいて欲しい、でも気づい
て巻き込みたくはないって、そう思っていた
んじゃないかな」
「英治が?」
「そう」
知って欲しい、でも、知られたら困るって、
悩んでた事もあるんじゃ無いかなって
蘭ちゃんの言葉に、これまで一緒に捜査して
いた時の英治の態度を思い出していた
私が疑い始めてから、英治は思いっきり私を突き放そうとしていた
でも、私が困った時とかは、必ず傍に居て助
けてくれた
「だから、2人でバランス取りながらここまで来たのに、急に周りが変わってしまって、
彼もちょっと、寂しいなって、思ってるかも
よ?」
「蘭のその読みは、当たってるかもな」
「工藤くん」「新一?」
「多分、もう少ししたら、ここに来ると思う
ぜ?」
?
じゃ、と言うて、資料を持って去って行く
工藤くんが言うてた通り、そのすぐ後に休憩
室に英治が飛び込んで来た
庁舎を一緒に抜け出そうと言うんや
何で、と言うたら、時間が無いからグチャグ
チャ言わずについて来い、言われて、私は蘭
ちゃんに見送られて、英治と一緒に庁舎を飛
び出した
有希子さんが、向こうで私が乗り回していたあのバイクを持って来てくれとって、それ乗 ってええって、私が使うてたメットもちゃん
と持って来てくれてん
平次はそのバイクの調子を確認すると、私と
一緒にそれで都内を脱出する、言うてた
どうも、係長の指示らしいねんけど、私はと
りあえず、英治が言うように、1泊分の荷物
だけ用意して、英治とそのバイクと共に都内
を脱出したんや
英治の背中に乗って、走るんは気持ちよくてよかったんやけど、どうしても自分でも高速
飛ばしたい思うて、無理を言うて、嫌がる平
次を背中に乗せて走った
めっちゃ気持ち良かった、とはいかんかった
んや
英治、真っ青になってたしな
私も、英治に抱きしめられとるみたいな感じ
がして、ドキドキしてしもうて
結局、また英治に運転を代わって、たどり着
いたんは、神戸のあるホテルやった
京極家の現当主と対面させられて、これがオレのがどうのと言われ、挨拶して
今度は、英治を拾ってくれたと言う真さんと一緒にご飯しよう、言われて
英治が、墓参り行きたい、言うんで2人で一
緒にお父ちゃんと、おばちゃんが眠る場所に
挨拶に行ったんよ
途中、ご飯食べたり、港で風に吹かれたりと
のんびりしとったんやけど
京極家の当主が用意してくれた部屋が、どう見ても私らには合わん部屋やってん
VIP専用階で、めっちゃ景色もええ部屋で、
雰囲気、バリバリの部屋やねん
英治はちっとも慌ててへんし
夜景見てはしゃぐ私に、呆れ顔やし
チラリ、と見えたベッドは、大きいのが一つ
だけで
どないしよう、どうなってまうの?
なんて、ドキドキした私をよそに、英治が言
うてん
明日も早いし、オレかて風呂入りたいんや
さっさとし、って
あぁ、私、もう完全に女として見られてへんやん、と思うて、風呂に入ったけど
ドライヤーかけながら、ふと思うてん
私、何をがっかりしてん????と
自分で、英治は、平次は自分の幼なじみやって、自分の好みは、年上やって言うてたはず
やのに、と
我ながら、アホやと思うたら、気が抜けて、
英治とお風呂を交代して、英治が使うてた端
末借りて、ちょっと仕事して
次の捜査に備えて色々資料を見返している間
に、眠ってしもうてん
そう、私はあのテーブルでうたた寝しとった
はずやねん
それやのに、どうしてこんなことに??
心地よい暖かさに包まれて、ぐっすり眠って
しもうてた
不意に、カーテンの隙間から漏れる陽の光に
気がついて、目を開けてん
最初に見えたんが、小麦色の人の肌
それも、私とは作りの違う、大人の男の人の
体やってん
自分の腕が、回されて、抱きしめとんのが、
英治やって気がついて、目が覚めるどころか
ひっくり返りそうな私やったんやけど、私の
体に回された英治の腕にがっちりホールドさ
れとって、動けへんのや
英治、英治、言うても、中々目を覚ましてく
れへんので、困ってしもうた私やった
「え?」
だった
目を覚ました英治の、最初の一言
それで、ベッドの上で大げんかや
どっちが、どうだの、何だの
売り言葉に、買い言葉で言うてしもうてん
アンタなん、タイプや無いもんって
その瞬間、英治の表情が変わった
だんっ、て音がするくらい、いきなり押し倒
された
「な、なに?」
「どんなんが、タイプやねん」
「はい?」
「せやから、オマエのタイプって、どんな男なんやって、聞いてんのや」
「聞いてんのやって、これ、人にモノを訊く体勢ちゃうやろ!」
「あ?返答次第では、オレの方がしばくつも
りやねんから、ええんや」
「はい???」
で、どんなんがタイプやねん
そう言うて、私を見る英治は、私の知らない
男の人の顔をしていた
めっちゃ色艶っぽい、男の人やと思うた
「で、どんなんがタイプやねん」
痛いくらいに握られた両手首
顔を背けたら、ごつん、とおでこをぶつけら れた
「こらっ、逃げるな」
「痛いっ!何すんのんっ」
言え、和葉
教えてくれや、頼むから
じっと私を見る瞳は、碧がかった漆黒の色
せやから。。。
観念して白状した私
「へ?」
私は盛大なため息を吐いた
「どいて」
ポカーンとしとる英治を、蹴っ飛ばして私は逃げた
バスルームに入って、シャワーを浴びて、しっかり着替えをして部屋に戻って、英治をバ
スルームに押し込んだ
(私のタイプは、。。。平次や)
自分ながら、素直や無いと思うた
でも
あの時の、平次の顔を思い出して、恥ずかしくなる
(めっちゃ、可愛ええ💕)
「何を一人でニヤニヤしとんのや?自分、変態か?」
「何やて!」
前言撤回、や
英治は、ちっとも可愛く無い
「あー、平次に会いたいなー」
どっちも、オレやがな
難しい事、言うな、とふてくされる英治
「で、どっちで呼んだらええの?
英治と、平次」
「好きにしたらええ、どっちにしても、
オレは、オレや」
わかった、平次
そう言うて笑った私を、驚いた顔で見た平次は、戸惑いながらも、恥ずかしそうな笑顔を
見せてくれた
「そんな平次に、お願いがあんねん」
「?」
ずっと、聞きたくて、聞けなかったことを、
私は訊いた
「堪忍してや、事件を完全に片付けるにはど
うしても、避けて通れへんのや」
「オレの、父親の事か?」
まっすぐに私を見る平次に頷いた
「それは、オレも考えた」
戸籍を見たが、父親の名前は無い
母の過去のアルバムをひっくり返した事もあ
るんや、と言う平次
でも、父親らしい人が映った写真は出ては来なかった、と言うた
「私も、あの事件の後、アンタの家と、自分の家を調べたんや」
最初は何もわからんかった
でも、関係者を一つずつ巡り、一つずつ調べ
て行くうちに、見つけたんや
「遠山家にも、服部家にも無かった写真
でも、英国の工藤家に、在ったんや」
「は?」
大学時代の写真やって、見せてもろうた中に
自分の知らん写真が大量に在ったんや
「どう言う事や?もしかして、おばちゃん、
オレの父親を知ってる言う事か?」
信じたくは無い
でも、結論は、YESやねん
「お母ちゃんは、きっと答えへん」
せやから、自分で調べる
この、おばちゃんの隣で笑ってる男の人を
「どこかで、見たような気がせえへんか?」
「うん、私もな、どっかで見たような気がすんねん」
一枚の写真を間に、私と平次は悩んでいた
どうしても、思い出せない
でも、私も平次も、一緒に目にしているハズやねん
「アンタのフォトグラフィックメモリー、こ
う言う時こそ、発揮、してやー!」
「そんな、オレをドラえもんの秘密道具みた
いに言うなやー」
オマエと一緒に見たって言う事は、オレ、一体何年分、記憶を遡らなアカンと思うてんの
や!
「そ、そやね」
「そやねや無いわ、いや、ちょっと待てや」
?
「せや、オマエと見たって、何も古い記憶ば
っかり言う訳や無いんや!」
「あ、そうか、ここ数ヶ月???」
「「美容クリニックの事件や!!」」
私と平次は、ほぼ同時に思い出した
私達が、配属されて初めて任された事件
とは言うても、私達やなくて、冴島さんと沖田くんが扱っていた事件
急ぎ、冴島さんに電話して、資料を転送してもらった
「何や、オマエら、明日から復帰じゃなかったのか?」
そう苦笑しながらも、沖田くんと一緒に関係 資料をすぐに出してくれてん
「この記事や!」
華麗なる一族を追う、として、セレブの家庭
を取材した記事やった
特集されとったのは、池波ホールディングス
の会長、社長、副社長や
会長の池波源太郎は、元警察官僚でもあり、
現在は現職の衆議院議員
次期総裁選に出馬するのではと言う噂もある
社長の池波平蔵は、元大阪府警本部長で、私
のお父ちゃんの前任者やった
現在は、実質上、池波ホールディングスの実
務を握る
そして、副社長は平蔵の妻、池波瑠花
池波一族直系の生粋のお嬢様
今回は、海外留学中の平蔵と瑠花の一人息子
である池波春人(20歳)を中心にした記事
やった
「この、池波瑠花ってのが、あの美容クリニックに関係しとって、確かめっちゃ感じの悪
いオンナやったよな?」
「あぁ、オマエの事、すっごい訊いて来たの
は覚えてる」
冴島さんは、そう平次に言うた
そう、だから印象に残ったんや
転送されて来た記事と、私が英国で工藤家からコピーさせてもろうて来た記事を重ねソフ
トにかけて見た
予想通り、一致したその結果に、私達は思わ
ず沈黙した
「何で、オカン、オレの親父は死んだ、言う
たんや?」
オマケに、おばちゃんや和葉にまで内緒にし
たなんて、と呟く平次
「お母ちゃんがあそこまで知らんと言うのも
きっと何か事情があるはずや」
「おばちゃんが、あそこまで沈黙する理由は
ひとつしかあらへん」
和葉と、オレに危害を加えられるリスクが考
えられる、それだけや
「平次」
「おばちゃんが、愛してんのは、おっちゃん
と和葉、そしてオレとオカンや
自惚れでも何でもない、ガキやったオレでも
愛されとる事くらい、わかってた」
平次の思案顔を見ていた
「せやからな、思うたんや
もし、オレの親父が生きとったらって
おばちゃんの事やから、親父の事も、護った
んちゃうかなって思うんや」
「でも、どうしてそこまで隠さなアカンのや
ろ?その、隠し子とかって、そんなに珍しい
事や無いやんか」
「あぁ、オレもそう思うてんのやけど
何か、あんのかも知れんな
オレが、存在してはアカン、その理由が」
平次は、そう言うと、窓の外をじっと見て黙
ってしまった
「平次、でも一つだけ、おかしく無い?
平次の出生の秘密があったとしても、どうし
て、私まで危険な目に遭うん?」
幼なじみ、言うて、隣に暮らしているだけや
ってんで?
うちと、平次の家が仲がええのはみんなが知っていたけれど、絆の深さの実際なところは
うちらの家族だけやんか、知ってんのは
「ああ、それはオレもちょっと考えた
何で和葉までって」
でもな、今ならちょっとわかると言う平次
「オレ、金とか何とか奪われても何でもええ
んやけど、和葉に手を出す言われたら、それ
だけはアカン、思うてまうから」
…平次?
「おばちゃんと、オマエだけは取られたくな い、もう、絶対に、嫌や」
ソファの隣に座っていた平次が、私の事をぎ ゅっと抱きしめた
「もう、嫌や
離れるのも嫌やし、邪魔されんのも嫌や
もう、たくさんや・・・」
せやね、確かに、そうや
私も、もう嫌や
離れるんも、邪魔されるんも
俯いてしがみついとる平次を、そっと抱きし
め返した
平次が私の身体に回した腕が震えていて
より一層、深く抱きしめられて
ドキドキするシチュエーションやのに、私の
心を占拠しとったんは、恐怖やった
もう、奪われたくない
もう、離されたくない
誰も邪魔して欲しくない
私の平次や
誰にも勝手な真似はさせへん
必ず、必ず、護ってみせる
私の首筋に顔を埋めたまんま、微かに震えとる平次も同じなんやろな、と思う
大丈夫や、平次
絶対に、今度は傍に居るから
離れたりはせえへん
強く、強く、そう誓った
第6章後編へ、
to be continued