歳旦帳
http://kobahiro962hk.jugem.jp/?eid=200 【与謝蕪村 と 宇都宮歳旦帳(さいたんちょう)】より
与謝蕪村について
烏山出身の早野巴人(はやのはじん)は江戸にでて,其角(きかく)・嵐雪に学び、後上京し京都俳壇で重きをなしたが、元文二年(1737)江戸に戻り、日本橋石町鐘楼(しょうろう)のほとりに住まいを定めた。翌年、内弟子の与謝蕪村にその夜半亭(やはんてい)を譲った。寛保(かんぽう)二年((1742)蕪村は師を失い、結城の砂岡雁宕(いさおかがんとう)※のもとに身を寄せた。
※結城市観光協会発行 パンフレットより 砂岡は「いさおか」と読む
宇都宮ではじめて蕪村の俳号が使われた
翌三年、蕪村は芭蕉の足跡を尋ねて、奥羽の旅に出た。翌四年、29歳の春を雁宕(がんとう)の娘婿(むすめむこ)である宇都宮の佐藤露鳩(ろきゅう)方で迎えた。ここで初めて「歳旦帳(さいたんちょう)」を編集した。歳旦帳というのは、歳旦(元日のこと)開きに連歌師(れんがし)や俳諧師(はいかいし)が、自分や門弟の発句(ほっく)を集めて刷ったもので、宗匠(そうしょう)として初めて一家を成したことの宣言になる。この歳旦帳は「宇都宮歳旦帳」と呼ばれ、初めて蕪村の俳号(はいごう)が使われている。露鳩邸(ろきゅうてい)で編まれたともいい、二荒山神社にこもり露鳩一派の後援により撰したものともいわれる。
https://sengohaiku.blogspot.com/2013/05/saitanchohyo1.html 【「歳旦帖」を読む ~貫く棒の如きもの~ / 中山奈々】より
さて問題。歳旦の句といえば?
「去年今年貫く棒の如きもの」答えた人が多いのではないだろうか。そういえば、Yahooの知恵袋か、何かに、中国人の友達に「貫く棒」って何?と聞かれたがこれはどういう意味か?という質問を見たことがある。何なんだろう、「貫く棒」って。
まずこんな風に思った。貫く棒。それは真っ直ぐに貫き刺さっている棒。
破魔矢さす活断層のど真ん中 羽村美和子
セーターを脱いでしまわぬ射的かな 岡村知昭
ああ、こんなところに刺さっていた、棒。棒というより矢。地震大国の日本の鎮めるように刺された破魔矢。その活断層のおかげか、温泉だらけの日本。温泉地で愉しむ射的。この射的、もちろん銃型のやつでもいいのだが、昔ながらの弓矢の射的を思い浮かべた。
これは多分、この前、「テルマエ•ロマエ」という映画を見たから。主人公がバナナを盗んだ猿に射的屋の矢を向けるシーンがあった。古代ローマのお風呂技師の話なんですけど。日本人がローマ人をやっている。ええ、日本人にも濃い顔がいて、例えば、砲丸投げの室伏広治とか。
室伏が振り回してもS字型 北村虻曳
貫くどころか、棒になり損ねてしまった。棒になることは難しいよう。あれ?そもそもそも棒ってどんな棒なんだろう。先ほどは「矢」とは違う棒もあるはず。そうそう。「矢」とは限らない。ではどんな棒があるのか。
死刑ある国に生まれて雑煮餅 仲寒蝉
おしぼりが正位置にある福寿草 上田信治
死刑があるということは、その刑が施行されるのを待つ人がいる。その人はたくさんの棒に囲まれた部屋にいる。その部屋で餅を食べるのだろうか。その一方で、料亭で食べる食事。新年の料理は、それは贅沢の極みだろう。だから最初は畏まっているのですが、段々酒が入ると、ふざけが入る。その中で、またにおしぼりをある形にして愉しむ者が出てくる。まあ、何の形かは言わないが、これも所謂、棒。
福寿草宦官の沓滑らかに 飯田冬眞
ああ、ここに棒を失くした方が。棒を失くすと、何だか艶めかしくなるのだとか。この沓の滑らかさもそこからきているのだろう。男性の頭脳に、女性の仕草。
黒松や箒に雌も雄もなく 山田耕司
しまった。変な方向に話が進んだ。棒は棒。雌も雄もない。箒のように。「婦」という字を思い浮かべれば、女性的な感じもするが、ああ、これをまた掘り下げると、深みはまりそうだ。よし、そんな時は
車線変更して新年に入りにけり 池田澄子
閑話休題。となったが、棒どころか、貫くこともやめてしまった。すいすい進む方に行くわ、とばかりに。私の道は私が決めるわ、とばかりに。なるほど。貫く棒には、人生観もある。
嫌はれず好かれず舌を出し新年 野口る理
本人には喜怒哀楽があるだろうが、総まとめすると、あっけらかんとした生き方。幸せ。昔「嫌われ松子の一生」という映画があったが、その主人公のよう。主人公の松子はとにかく、愛されることを望み、それを貫く。ああ、貫く人生。一見して不幸なんだが、何か惹かれる。
炬燵寝の母や身体をねじりつつ 松本てふこ
惹かれる生き方でいえば、このような生き方もある。ねじってはいるが、炬燵を貫く母さんの身体はまさしく棒だ。この人はどんな生き方して来たんだろう。なんて、自分の母なのに思う。
何だかんだ貫く棒を追ってきたが、さてはて、何だったのだろう。思わせぶりなこの棒をもう少し追うことにしよう。
【執筆者紹介】
中山奈々(なかやま・なな)
1986生。吹田東高校在学時に作句開始。2003年俳句甲子園出場。
現在「百鳥」「里」所属。