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とある冒険者の手記

Another HERA━挨拶━[前編]

2021.05.01 02:33

アリスとヘラが恋人になり、1年が経過した。

1年目を機に、アリスは改めてプロポーズをし、ヘラはそれを受け入れた。

そして、今2人は黒衣森の最奥へと向かっていた。

エタバンをするなら、ヘラの両親に挨拶をしたいとアリスが言い出し、ヘラの故郷へ案内してもらっていた。


「もう少しで着くよ、アリス」

「そっか。なんか緊張してきた…」


表情が強ばるアリスに、小さく笑うヘラ。


「僕の両親はそんな怖くないよ?」

「いや、ほら。よくお父さんが"お前なんかに娘はやらん!"みたいなのをよく聞くからさ…」

「ふふっ、アリスは心配性だね。そういう所、父さんとそっくり」


笑うヘラの表情に、少し緊張が和らぐアリス。

すると、ヘラは前方を指さした。


「あそこだよ!僕の故郷!」


久しぶりの帰省のせいか、いつもよりテンションが高めのヘラ。

故郷の中に入ると、そこにはヘラと同じような色白の肌に白い髪の人達が、こちらを一斉に見ていた。


「ヘラじゃないか!」

「ただいま!」


皆、ヘラを囲むように集まってくる。

その中で、人混みを掻き分け、ヘラへと向かうヴィエラ族がいた。


「ヘラ!おかえりー!」

「ナキちゃん!ただいま!」


熱く抱擁を交わす2人。

それだけで仲の良さが伝わる。


「今日はどうしたの?」

「えっとね、あの、父さんと母さんに紹介したい人が居て…」

「紹介したい人?」


少し照れくさそうに言うヘラに、首を傾げるナキ。

すると、ヘラは「みんなにも紹介するね」とアリスの元へと戻ってくる。


「えっと、僕の…恋人です」

「どうも、はじめまして。フ·アリス·ティアと言います」


紹介され、お辞儀をするアリス。

暫く沈黙が続いた後。


「えぇぇぇええええっ!!」


驚きに声を上げるナキ。

周りの人達は口をあんぐりしている。

そして、1部数人は、アリスに対して明らかに敵意の視線を向けていた。

その敵意の視線に、一瞬顔が引き攣るアリス。

そんな事には気づかず、ナキとヘラは話をしている。


「イケメンで優しそう!ヘラにお似合いだね!」

「そ、そうかな…」


ナキに言われ、照れ笑いをしながら答えるヘラ。


「ねぇねぇ!どこで知り合ったの?告白はどっちから?キスはしたの?」

「え、ええっ!」


ナキの質問攻めに、慌てるヘラ。


「ぼ、僕、アリスを紹介しないといけないからっ!行こうアリス!」

「えっ!あっ、うん!」


顔を真っ赤にし、アリスの手を引き、その場から逃げるヘラ。

手を引っ張られながら、その場にいた人達に頭を下げるアリスだった。



************



「ご、ごめんね、アリス」


走って辿り着いた家の前で、息を切らしながら言うヘラ。


「いや、大丈夫だよ。ヘラこそ大丈夫?」

「う、うん」


アリスが優しくそう言うと、ヘラは申し訳なさそうに返事をした。


「それで、ここは?」

「えっと、ここが僕の実家なんだ…」

「ここが…」


家の前に来ると、改めて緊張するアリス。

すると、そこに洗濯物を抱えた女性が現れた。


「おや、ヘラかい?」

「母さん!ただいま!」

「おかえり」


ヘラの母親はアリスを見て驚いた顔をした。


「ヘラ、その人は?」

「えっとね…、僕の恋人…なんだ」

「は、はじめまして!フ·アリス·ティアと言います!」


緊張でガチガチになりながら、お辞儀をするアリス。

娘が恋人を連れてくるとは思っていなかったのか、母親は目を見開いたが、直ぐに笑顔になった。


「そうかい、ヘラがついに恋人をねぇ」

「うん…、でね、母さんと父さんに大事な話があって…」


そのヘラの言葉に何かを察したのか、母親は意味深な笑みを浮かべた。


「父さんは家にいるよ、2人とも家に入りなさい」

「うん」

「お、お邪魔しますっ」


緊張しているアリスを見て、ふふっと笑う母親。

室内に入ると、母親は「今、呼んでくるから」と、奥の部屋に入って行った。

すると、直ぐに母親と一緒に父親と思われる人物が姿を現した。


「ヘラ!おかえり!」

「ただいま、父さん」


ヘラに近寄ろうとして動きが止まる父親。


「ヘラ、その男性は誰だい?」

「え、えっと…」


さすがに父親には言い出しづらいのか、口篭るヘラ。

アリスは意を決して口を開いた。


「はじめまして。俺はフ·アリス·ティアと言います。娘さんとお付き合いをさせていただいてます」


お付き合いの言葉に、完全に固まった父親。

それを見て苦笑する母親。


「ヘ、ヘラや…お付き合いって…ほ、本当なのかい?」

「う、うん…アリスは僕の恋人…」


父親にとって衝撃の言葉だったのか、一瞬ふらついた。

慌ててそれを支える母親。

何とか父親を椅子に座らせた母親は、ヘラとアリスに座るように促し、自分も椅子に座った。

全員が席に着いたところで改めて自己紹介をする母親。

父親は集落の族長で、母親はジシャと名乗った。

父親が落ち着くのを待っている間、重苦しい空気が4人を包んでいた。

緊張で強ばっているアリスの顔。

空気の重さに、戸惑いながら俯いているヘラ。

片手で顔を覆っている父親の背中をさすっているジシャ。

永遠とも思える重苦しい時間。

何とか落ち着いた父親の様子を見て、ジシャが口を開いた。


「それで、今日ここに帰ってきたのは、恋人を紹介する為だけじゃないんだろう?」


室内が張り詰めた空気になる。

だが、その空気に圧されていては話が進まないと、アリスは顔を上げた。


「今日は、お2人に大事なお話があって、お伺いしました」

「…その、大事な話と言うのは?」


父親が緊張した面持ちで尋ねる。

アリスもまた、緊張した面持ちで、ハッキリと答えた。


「ヘラと…、娘さんと結婚させてくださいっ!!」

「っ!?」


結婚の言葉に、顔が引き攣る父親。

分かっていたかのように平然としているジシャ。

ヘラは顔を紅くして俯いている。

すると、父親はフラフラと席を立った。


「すまない…頭の整理がつかないから、少し失礼する…」


そう言って、奥の部屋へと引き篭ってしまった。

その様子に唖然とするアリスとヘラ。

苦笑いをしながら、ジシャは2人に言った。


「父さんを落ち着かせておくから、その間に2人は集落を見て回るといい。ヘラ、案内しておやり」

「う、うん。アリス、行こう?」

「うん…。あの、失礼します」


アリスはジシャにお辞儀をし、ヘラと共に家を出た。

それを見たジシャは夫を落ち着かせる為に、奥の部屋へと入っていった。