ハラキリ…じゃなくてギロチン
京都市交響楽団第616回定期演奏会、無事終演いたしました。
すっかり秋の風とはいえ、ひと夏の疲れがドッと出る頃、また、新学期や下半期が始まったばかりで色々と慌ただしいこの時期に、貴重なお時間割いて駆けつけてくださいました皆々様に心より感謝申し上げます。
幻想はもう特にどうということもなく吹けると思っていたけど、微妙なテンポ感の違いに慣れたり対応したりするのに心砕いたり、細かいニュアンスを狙い始めればキリがなかったりもして、リハーサルから含めて計5日間、ギロチン刑に遭い続けたらドッと疲れがきました(*´꒳`*)
ハァハァするのも体力が要りますね^^;。狂気を演じるのは物凄いエネルギーを要するんだなと、改めて思いました。でも、ベルリオーズは普通じゃダメだから。振り切れてないと!笑。人を好きになって気が狂いそうになったこと、ありますか?私はあります笑。芸の肥やしです✌︎('ω')✌︎
幻想に出てくる数々のクラリネットソロの中で、どう吹くか議論の余地が最もあるのが、4楽章『断頭台への行進』の最終盤、ギロチンが落ちる直前に過(よ)ぎる固定楽想だと思います。首を斬られる直前にふっと思い出す麗しい恋人の姿、または、麗しい恋人との甘やかな記憶、あるいは、恋人への未練、もしくは、断頭台の露と消える一瞬前の断末魔の叫び…吹き手または指揮者がどう捉えるかによって、吹き方が全く違ってきます。前者であればあるほどdolceの純度は高くなり、後者になるほどにappassionatoあるいは狂乱の風情が強く支配することになると思います。そっち(気狂い案)のほうが加減(と羞恥心を捨てるの)が難しいので、リハーサルの1発目、つまりマエストロのプランが分からない段階ではひとまず気狂い案のほうで行ってみました。そしたら、ロマンあふれるマエストロは
「ハラキリに遭う寸前に、君なら何を思う?」
…と言いながら恍惚の表情をなさるマエストロと、リハーサルを見学されていた麗しいフィアンセさんのお姿を両方確認して、
(あ、ソッチですね。)
となりました笑。
だけど、あの固定楽想は、美しいんだけど、細かいcrescが乱打されていて、あれはただ美しいだけではない、多少なりとも狂気の匂いのする旋律でなければならないと思うので、それと、ただ美しく回想するだけではまだ余るほどたっぷりとした時間をマエストロから与えられたので、今回は、リハーサル中いろいろやってみながら、甘く切なく美しい恋人を歌いつつ、最後の大きなcrescの頂点に至る寸前に惜別の無念を滲ませてみようと思いました。C管は音程を取るのが難しくて指いろいろでワチャワチャしましたが笑、Bb管だとただノーマルに美しいだけになってしまいそうだったので、やっぱりここはC管で。や、まぁ、今回は、デス笑。C管のあの不安定で不完全な感じが、たまらんです。
(左から、Bb管、C管、A管、Es管。C管は団所有楽器。)
3楽章中盤のソロについては、当初マエストロから
「もっと失恋全開でいってほしい」
というようなオーダーがあったのですが、私の希望で少し変更していただきました。この楽章全体には確かに《喪失》の空気が色濃く漂いますが、かと言って、このクラリネットのソロまで憂いに沈んでしまってはとても浮かばれないと思ったのです。確かに、下降型の音並びが目立つ旋律です。下降というのは諦めや喪失やそのようなアレだとします。だけど、下降しながら上っていくのは、これは失いたくない熱望としか私には感じられなかった。失いたくないものがあるから、どうしても得たいものがあったから、それを得られなかったとき、失ったときの喪失感が胸をえぐるのだと思います。マエストロは気さくな方なのでこんな私の願いにも快く賛同してくださり、そんなマエストロのお気持ちにこたえたくて、3楽章のこのソロは最後の本番まで自分への挑戦で、今回とても緊張しました。
…次のラフマニノフもまた、広上マエストロの失恋の記憶を受け止めたり振り払ったりしながらガンバラないといけないんだな〜ひーふー、と、思いました笑。
男の人って、ほんとに、《失恋した俺》が好きですよね。
はぁ(о´∀`о)
幻想が終わって、いよいよ夏がほんとに終わったような、秋がいよいよ始まったような、そんな気持ちです。私たちの業務日程表では、今日から3日間の“夏休み”。お盆に公演が続いていたのでこんな変な時期になっています。ま、好きを仕事にしてるんだから、年中夏休みみたいな仕事といえばそうですが(^^)。
今月後半はいよいよ大仕事。またリフレッシュして頑張ります!!
夏の疲れがお身体に障りませんように、皆さま良い秋を☆☆☆
(幻想交響曲に関するいろいろは、私の非常に個人的な思い込みや考えであり、事実や皆様のお考えとは異なる場合が多々あります。ご了承ください。)