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浮世絵

034猿わか町よるの景

2017.09.05 02:45

「猿わか町よるの景」 

(安政四年(1857)十二月 秋の部)

  

満月に照らされた猿若町は、すでに芝居が跳ねたあとの景色である。

広重の絵は北から 南を見ている。

右側、手前から森田座、市村座、中村座が櫓を上げている。

左側は芝居茶 屋が並び、帰り支度をした客は今、駕籠に乗ろうとしている。

茶屋の女が送りに出ている ところをみると、上客であろうか。   

暮れ六つ過ぎともなれば秋の猿若町はもう暗く、南の空には満月が出ている。

茶屋には まだ明々と明かりがついているが、芝居客たちは提灯を下げた案内の男に従って足早に帰 路に着くところである。屋台の寿司屋も店終いを始めている。

山の手の女たちはこの時間 から帰路につくのは難しく、芝居見物というと三日がかりの往復になったという。   

絵は絵師の視点を低く設定し、白い月を上空に夜空を広くとらえた透視法の構図、月影 をくっきりと描く陰影法を用いることによって、月明かりによる猿若町の情景を強く引き 出している。

また江戸三座の櫓が遠近法のアクセントになっているといえる。   

天ぼかしと濃紺の、ふきぼかしに挟まれた夜空には、板目摺りが、月にかかる横雲にはゴ マ摺りが使われている。   

この絵はヴァン・ゴッホの所有した「名所江戸百景」13点(注)の一つであり、名作「夜 のカフェテラス」はこの絵を参照することなしには生れなかった、とする研究(新関公子 「歌川広重〈名所江戸百景〉のすべて」図録東京芸術大学美術館2.07)が発表されている。 


「東京シティガイド江戸百景グループ」による