初代 神武天皇 7.兄宇迦斯・弟宇迦斯
前回は、サブタイトルに「八咫烏」と付けておきながら、肝心の解説のところで先送りしてしまいました。
なぜかって...??
だって、実はここを解き明かしてしまうと、この先の「神武東征」と言われている部分が全部わかってしまうのですよ??
そうなんです。
大体、筆者の年代は、みな、このヤタガラスに惑わされてしまっているのですね。
はい。これは三本足のカラスではないのですね。
まったく違います。
なので、いまのこの段階で、その種明かしをしてしまったら、この先、暫くは古事記を読まなくてもよくなってしまうので。
苦肉の策なんです... ※これも正しくは苦肉計でしたね...
ということで、八咫烏の謎解きは暫くあとにさせて頂くことで、こちらは先に進みます。
宇陀に到着したところから再開いたします。
(現代語訳)
ところが、この宇陀の地に兄宇迦斯(エウカシ)・弟宇迦斯(オトウカシ)という二人がいました。
そこでまず八咫烏を派遣して、二人に尋ねました。
「今、天津神の皇子がおいでになりました。あなたたちは従いますか??」
エウカシは鳴鏑(ナリカブラ)の矢でその使いを待ち伏せして射ち、追い返してしまいました。その鳴鏑が落ちた土地を訶夫羅前(カブラサキ)といいます。
※兄宇迦斯・弟宇迦斯について
ウカシ(宇迦斯)とは地名です。エウカシ・オトウカシは兄弟という表記になっておりますが実際はどうだったかは分かりません。むしろこの後の展開を考えれば宇陀地方の豪族のふたり(いうなれば、兄貴分、弟分みたいな)だと思われます。
※鳴鏑とは
鳴鏑が出てきました。
思い出しますね。オオクニヌシさまがスサノオさまに与えられた試練の中にも出てきましたね(「スサノオさまとオオクニヌシさま」参照)。
鳴鏑というのは、射出すると空気が通って音が出るものです。つまり、八咫烏を射殺そうとしたのではなく、信号のような回答を送り返したと考えるのが正しいです。
そうです。ずっと一貫して言ってますが、戦なんてしていないのですよ...
(現代語訳)
ヤタガラスを追い返したエウカシは、イワレビコを待ち伏せして撃とうと、兵を集めようとしたのですが、集められなかったので、従うフリをして、御殿を作って、そこに罠を作ってイワレビコを待っていました。
そのとき、弟宇迦斯がイワレビコのところに来て言いました。
「私の兄である兄宇迦斯は天津神の皇子の使いであるヤタガラスを撃って返し、待ち伏せして皇子を攻めようと、兵を集めたのですが、うまく集まりませんでした。そこで御殿を作って、押機(=罠の一種)を張り、待っています。それで、こうして皇子の前に参上して、すっかり説明しているのです」
大伴連(オオトモノムラジ)の祖先の道臣命(ミチノオミノ命)と久米直(クメノアタイ)の祖先の大久米命(オオクメノ命)の二人が兄宇迦斯を呼びつけて罵りました。
「あなたが作った御殿の中にまずあなたが入って、イワレビコに仕える気持ちを示しなさい」
と言い、すぐに横刀の柄を握り、矛を向け、矢を向けて、追い立てて御殿に追い込みました。
するとエウカシは自分が作った罠に掛かって死んでしまいました。
エウカシをすぐに罠から引き出して、斬り散らしました。
それでこの土地を宇陀の血原(ウダノチハラ)といいます。
そうして弟宇迦斯が献上した大饗(=ご馳走)は、すべてイワレビコの軍に与えました。
※押機について
「バネ仕掛けのねずみ捕りのように、踏めば打たれて圧死する仕掛け」と、大辞林には記載があります。大きなネズミ捕りにかかったという感じでしょうか??
自分の仕掛けた罠に自分で掛かる。まさにこれはイワレビコ側の調略ですね。
しかも、筆者が着目したのは、イワレビコの周りにはいつの間にか大勢の参謀が揃っておりますよね。
恐らくこの調略は、参謀が考え出したのでしょう。
古事記はこのスタンスをずっと崩していません。
必要なときに、大事な人材が集まって知恵を出すというのは「天の岩屋戸」からなんら変わっていないのです。
そしてポイントは、天津神の偉大な力がイワレビコを助けているということです。
冒頭に書いた八咫烏もその象徴なんですね。
※大伴連の祖先として「道臣命(ミチノオミ命)」が出てきました。
ニニギさまの天孫降臨の際に登場した天忍日命が大伴氏の祖先とされていますので、道臣命は天忍日命の子孫ということになります(日本書紀では天忍日命の曾孫とされています)。また、久米直もニニギさまと一緒に天孫降臨した天津久米命の子孫であり、大久米命(オオクメノ命)も天津久米命の子孫とされます。
天皇という血統に、この2氏族の関係は非常に重要です。
ただ、ここで疑問がひとつ出ます。
そう、この本来であれば、ニニギと一緒に天孫降臨した筈の氏族の子孫が、なぜ、この地にいたのか??
ここは、そもそも神武「東征」の大事なポイントですので、チェックしておいてください。
つづく...