台風
奄美の台風
九州や南西諸島では毎年よく台風が通るので「台風銀座」などと呼ばれているが,南西諸島の台風はひと味違う。私が内地に住んでいた頃は台風といっても,それほど深刻ではなかった。過去に大きな被害を残した台風は私の生まれる前の話であったり,私の記憶に残っていない稀(まれ)な存在であった。それに,もし台風がやってきたとしても,幸いにも私が住んでいたところにはそれほど被害を起こさなかったからだ。
しかし,奄美では毎年いくつかの台風が暴れ放題暴れて去っていく。内地のものとはひと味違うのである。
奄美の台風が内地の台風とひと味違う理由
1つは台風の規模である。太平洋で発生した台風は海水を巻き上げて大きく成長する。そして最大限に発達したところでちょうど南西諸島に上陸するのだ。そのため崖崩れや停電は台風が通るたびに起きている。名瀬のような街中ではさほどではないようだが,小さな集落ではそのさい道路の通行止めや2,3日の停電は毎回覚悟しなければならないのである。集落に通じる道は限られているので,集落はすぐに陸の孤島となる。また一度停電が起きてしまうと,なかなか復旧しない(ときには数十時間も回復しない)こともあるので,テレビ・パソコンが使えず,ランタンだけの淋しい生活となる。しかもクーラー・扇風機もダメ。非常に蒸し暑い。そんな停電に備えるため,発電機を持つ家庭もあるようだ。
2つめは台風の速度である。内地では台風が来たとしても偏西風に乗っているため,半日ほどで通り過ぎてくれる。しかし,南西諸島の場合,台風は非常にゆっくりした早さでしか進まない。時速10km以下なんてこともある。下手すれば停滞する場合だってある。また進行方向も不安定である。一度通り過ぎた台風が再び帰ってきたこともある。このために被害が増大するのである。
3つめは情報量の少なさである。南太平洋で発生した台風は何日もたたないうちに南西諸島にやってくる。あるいはかなり以前に発生したものであっても,内地中心の天気予報ではそれほど話題とならないうちに台風が来てしまうのである。どれほどなのかわからない台風に備え,急いで準備しなければいけない緊迫感がある。さらに上陸してしまうと私の家ではラジオすら聴くことができないので,台風の進路を知らせる集落放送が唯一の情報となる。
4つめは島という地理的なものである。ほとんどの村は海沿いにあるため,風や波の影響をもろに受ける。またたいていの食料品はフェリーで輸送されるため,台風でフェリーが止まってしまうと何日も店に食料品がならばない。食料品だけでなく人の移動もできない。上陸前から食料や乾電池などの買い出しが欠かせない。船は海から引き上げておかなければならない。漁にも出られない。台風は生活に直接影響を与えるのである。
しかしながら,奄美の人たち,台風に関してやっかいだとは考えつつも,さほど嫌がっていないようにみえる。数少ない台風情報もしっかりと把握しているし,台風が来る直前にはいつの間にか買い出しや船上げなどちゃっかり終わらせている。そこに「来るものは来るんだから仕方ないよ」といった潔さとたくましさを感じるのだ。