シマクチ(奄美の方言)
「シマクチ」とは
奄美・沖縄の人々が,自分たちの使う方言のことを「シマクチ」といっている。つまり,一般的には奄美や沖縄の方言=シマクチということになるのだが,この「シマクチ」,なかなか奥が深い。
同じ「シマクチ」といっても,奄美と沖縄とでは随分言葉が違うし,同じ奄美諸島,沖縄諸島でも各島々によって言葉が違う。たとえば「いらっしゃい」という言葉の場合,沖縄では「めんそーれ」,奄美大島では「いもーれ」,大島隣の喜界島では「うもーり」という。さらに同じ島の中でもシマ(集落)によって言葉のアクセント,イントネーション,のばす音などが違うのである。これは日本の方言や島唄の場合と同様,海や山といった自然が人や言葉の往来を遮っていたからで,実際の「シマクチ」の意味は「集落の言葉」ということになるだろう。
「シマクチ」と「トン普通語」
しかし数十年前,学校で方言を使った者には方言札を掛けさせるなどといった方言排斥運動の影響を受けて,純粋なシマクチを話せる人は極端に減ってしまった。昔から島に住んでいる人でも,40,50代よりも下の世代の人たちは,いわゆる「トン普通語」を使う。「トン普通語」とは島尾敏雄氏による言葉で「トン」とは「芋」を表す。この「トン普通語」は「ワン(私)」「ヤー(お前)」「~ちば(引用・強調)」「~かい(疑問の「か」)」「~だが(ね)(断定・確認)」などのシマクチと共通語を合体させたような新しい方言である。例えばこのようにつかう。
「ヤーは今日,仕事かい?」(お前は今日,仕事か?)
「ワンは休みよ」(俺は休みだよ)
「ヤー,休み?」(お前,休み?)
「休みっちば」(休みだって)
「アッゲー,羨ましいよやー」(うわぁ,羨ましいよなぁ)
どこの方言もそうだが,イントネーションの違いもあり,始めは何を言っているのか全くわからなかった。そのうち「トン普通語」に関しては何となく意味がわかるようにはなるのだが,純粋な「シマクチ」を使われると未だ全く理解できない。奄美や沖縄の方言は奈良時代に日本でつかわれていた言葉が残っていたり,東南アジア諸国や中国語に似ている言葉があったりと,研究するにはなかなかに面白い方言だ。
詳しくは奄美方言を紹介したHPがいくつかあるので,そちらをみてもらいたい。