Stay with me 完全版_7
第6章 君の存在
初めての異国
初めての街
毎日が、冒険であり
毎日が、戦争だ
私が編入した学校は、私と同じように母国を
離れて学びに来ている子と、現地在住の子が
混在する学校やった
日本の子も居ったけど、私の関西言葉をバカ
にしたような態度で、同じ日本人やと思わん
ように、とみんなの前で言われ
初日から厳しい洗礼を受けた
工藤くんに感謝や
事前に言われててん
留学先で、偏見や差別に遭う事もある
みんな友達や、と言うような甘い考えは最初
から持つなって
同じ国出身の奴らから攻撃される事だってあ
るんだ、と
「みんな、高い学費を払って学びに来ている
国によっては、一族の期待を背負って学びに
来ていて、生命がけの人も本当に居るんだ」
だから、みんな必死なんだよ、って
想い出作り、友達作り、観光気分で乗り込む
と、痛い目を見る事もある、と
せやから、最初から覚悟はしとった
私が編入した学校は、それなりのレベルらし
く、競争もそれなりに厳しいって聞いてたし
それでも、やっぱり辛かった
とにかく、1日も早う、私が何をしたくてこ
こに来たんか、私、と言う存在を認めて貰う
事に最初は必死になった
人一倍以上の努力をして、試験で上位になる
ようになって、
私と同じように母国を離れて来ている子には
母国語を教えあうようになって、
漸く、友達やライバル、と言う子が出来始め
てから、少し呼吸が出来るようになったんや
初日に、私に厳しい事を言うた子も、ちゃん
と認めてくれたんよ
ごめんねって
彼女は両親の仕事の都合で英国に滞在中やっ
て言うてて
今まで、短期で来た子に親切にしたら、留学
の間中、おんぶに抱っこ状態で散々甘えられ
た挙句、帰国後は知らんぷり、メールすら来
ないと言う態度を取られて、嫌になったって
私は、今回の短期留学を足掛かりに、大学は
こっちに来る予定やって言うて、それから仲
良うなって、彼女の家族やお友達もたくさん
紹介してもろうたんや
色々な出身の子らと仲良うなれたきっかけは
もう一つ
合気道や剣道が出来た事
お茶やお華の簡単な所作が出来た事
おばちゃんが持たせてくれた浴衣や着物や
「いやぁ、まさかこの国で娘に振袖、着せら
れるとは思ってなかったよ!」
遥ちゃんのご両親は、私が遥ちゃんに着付け
た振袖や浴衣を殊の外喜び、知り合いにお披
露目したり、写真を撮ったり、楽しんでくれ
てん
私も着てみたい、言う子らも多くて、私は毎
週末、レクチャーして歩きながら、みんなか
らは言葉や風習を教えてもろうたり、料理や
パーティの楽しみ方も教えてもろうた
彼氏が居る、言う事は、必ず言えと平次に言
われたし、指輪も外すなと言われとったから
みんな、私が大学で平次と一緒に必ず来い、
と言うて、楽しみにしてくれてん
平次に持たされた小さなアルバムには、幼な
じみの頃から、恋人になれた直後までの写真
があって
イケメンや、と、実物に会いたい、と言われ
恥ずかしいような、嬉しいような気持ちにな
った私
生活に慣れると、勉強も自然と慣れて来て、
私はひとつでも多く学びたい、と、みんなと
めっちゃ勉強もしたし、色々な大学を見学し
て、その情報を日本に居る平次にも報せた
平次との約束は、週に一度のメールのやり取
りだけ
それ以上は、私が里心がついたらアカンから
言うて、せん約束やってん
平次がサプライズでくれた指輪は、効果絶大
やった
精神的にも、体力的にもキツイなぁ、思う時
も、ホームシックで泣きだす夜も、指輪を見
て、アルバム見て、平次からの、平次にして
はめっちゃ長いメールを読んで
それを心の支えにして、頑張る事が出来た
離れてみて、改めて思う
平次の存在は、自分の中でとても大きいと言
う事を
そして、思う
私は、自分が思うてた以上に平次が好きやっ
て事も
早う帰って、飛びつきたい、と思うた
日本の友達から、色々な余計な情報も飛んで
来ていた
平次に告白ラッシュが、とか
紅葉ちゃんが顔を出した、とか
胸がチクリ、とせんワケでも無い
不安に思う事もある
でも
たった1週間だけやったけど、平次にしては
最大限甘やかしてくれた恋人期間の平次を何
度も思い出して耐えた
抱き締めてくれた事も、キスも
プロポーズしてくれた時の事も
何度も、何遍も思い出して、涙を拭うて耐え
抜いた
私は、帰国後、ホンマは受けんでもええと言
われたんやけど、学年末試験を追試組と一緒
に受験する予定
帰国後1週間しか時間が無いんやけど、受ける予定やって平次に言うたら、ほな補講はオレ
がしたるって
せやから、帰国後1週間は覚悟せえやと言わ
れた
平次に全面的に迷惑をかけるワケにもいかん
から、私も頑張らなアカンね、と思いながら
「かるた?」
学校の先生から、こちらにも競技かるたを熱
心に勉強している生徒がたくさん居る、と言
われて、デモンストレーションに協力してく
れへんか、と言われた
どうやら、改方学園の先生の方から余計な情
報を得たらしい
私は素人で、どこの流派に所属しとるワケで
も無いし、と言うたんやけど、是非にと言わ
れて、私は悩んだ挙句、日本の紅葉ちゃんに
SOSを出した
「そう言うお話でしたら」
そう言うて、あのお嬢様、わざわざ来てくれ
てん、英国まで
「ライバルの様子も、見ておかなあきません
しな」
そう言うて、伊織さんまで引き連れて来てん
久しぶりの紅葉ちゃんとの対決
事前の練習まで付き合うてもろうて、当日、
現地の人に質問された場合も想定して、色々
私の知らんかるたの裏話も教えてくれた
「ホンマにおおきに」
紅葉ちゃんの提案で、ちゃんと袴姿でデモン
ストレーションもして、大盛況に終わった
「いえ、これも私なりのお詫びやし」
「?」
自分の得意分野で勝負を挑んでしもうた事は
コレでちゃらにしてください、と言う
「何の話??」
「まぁ、ええです
帰国したら、日本でも一度お手合わせ、して
ください」
それまでに、圧倒的大差で勝てるよう、私も
修行、やり直しておきます、と言うて優雅に
帰って行った
私と紅葉ちゃんのデモンストレーションは、
現地の新聞にも掲載されて、ホームステイ先
の家族は大喜びしてくれた
うちの娘やって言うて自慢してくれた家族は
工藤くんのお父さんの知り合いの刑事さんの
家で、刑事の旦那さんと、元刑事の奥さん、
2歳の双子ちゃんが居る家族
双子ちゃん家族には、現地に慣れるまでの間
ホンマに色々助けられた
日常会話が、想うようなテンポで出来んと悩
む私に、ママが言うたんや
「和葉と、この子らは同じくらい
言葉を覚え始めたばかりなんだから、毎日1つ
ずつ、覚えて行けたら、それでOK」
そう言って、背中をばんばん叩かれて、ほっ
として、泣いたし
出来ん事を数えるより、出来た事を数えなさ
いってパパには言われたし
双子ちゃんには、毎日、遊んでもろうたし
色々な人の協力で、私の留学生活は順調に進
んでいた
もう、後1週間で帰国、と言う段階になって
突然、お父ちゃんから電話が入った
お金がかかるなら、出すから、帰国を少し、
早めてくれへんか、と言う事やった
「どんな事件やったん?」
「オマエ、鋭いな」
せやかて、平次が怪我したとかやったら、き
っとおばちゃんがそう言うはずやし
お父ちゃんも、今すぐ帰れって言うやろうし
お父ちゃんが説明してくれた、平次と遭遇し
てしもうた事件を聞いて、あぁ、と思うた
多分、付き合い始めたばかりの私らと、その
被害者カップルを重ねてしもうたんやろう
平次も、お父ちゃんらも
「わかった、もう学校も昨日で終わったし
お土産も買うたから大丈夫や」
ホストファミリーが、事情を聞いて、それは
早く帰ってやれと言うて色々手配を手伝って
くれて、翌日急きょ帰国する事になった私
遥ちゃんの家に行って、事情があって帰国が
前倒しになってしもうた事と、お世話になっ
たお礼にと、浴衣一式を遥ちゃんにあげた
「ごめんな、色々案内してもらう約束、しと
ったんに」
一時帰国する時があったら、必ず連絡してや
東京でもどこでも、必ず逢いに行くさかい、
と言うて約束した
遥ちゃんの家族は、わざわざ空港まで見送り
に来てくれて、1年後、今度は大学生の姿で
再会しようと言うてくれた
遥ちゃんには、こっそり服部邸の住所も渡し
てある
忙しいお父ちゃんの都合で、預けられる事も
多いと話してあったから
「どっちの住所でも、郵便物、ちゃんと届く
から」
遥ちゃんには、日本に到着したら、必ず連絡
すると約束して、別れた
「浴衣、ちゃんと大事にして、こっちでも、
着るようにする」
遥ちゃんはそう言うてくれてん
最初からおばちゃんに言われててん
浴衣は、お世話になった人にあげて来てええ
って
かんざしは私のお気に入りやったんやけど、
遥ちゃんによう似合うてたからあげて来た
遥ちゃんのご家族も気に入ってたし、彼女の
成人式には、時期がずれても振り袖を着せた
いとご家族も言うてたから
その時に、必ず、付ける、と言うてくれた
「目指す学部が違うから、同じ大学になるか
はわからんけど、待ってるから」
私も受験生、こっちで頑張るから、和葉もち
ゃんと初志貫徹で頑張ってと言うて見送って
くれてん
日本に到着して、大阪に着いてすぐに、私は
ちゃんとメールを送った
空港の写真付きで
お父ちゃんが迎えに来る、言うてたんやけど
おばちゃんが来て
「ちょお事件が起きてしもうたみたいでな」
「あぁ、かまへんよ
おばちゃん、ただいま!」
「おかえりなさい、和葉ちゃん」
おばちゃんにぎゅっと飛びついて、漸く日本
に帰って来た気になった
おばちゃんは、池波家(おばちゃんの実家)
の用事で出先から直接来た、言うてて、車や
ったから、服部邸に到着するまでの間、私は
ひたすらおばちゃん相手に喋り倒した
「何や、平次、和葉ちゃん居らんと勢いがつ
かんみたいでなぁ」
でも、何でかめっちゃ勉強してたで?珍しく
と笑うおばちゃん
遥ちゃんの事とか、他にも仰山出来た友達の
事とか、事前に工藤くんが細かくアドバイス
をくれたから、慌てんで済んだ事とか
ずっと、支えにしとったアルバムの事とか
シンプルな小さいファイルをおばちゃんに手
渡した
「いやぁ、懐かしいなぁ」
和葉ちゃんも、平次も小っちゃいわ、と笑う
おばちゃん
お昼寝しとる小さな私達
服部邸の中庭で過ごす私達
少しずつ成長する様子がちゃんとまとめられ
とるんよ
「あら、ええ写真やね」
恋人1日目の私達の写真
平次が、縁側で自撮りした2人の写真や
普段着で、穏やかな笑み
ええ日差しなんも判るし
向こうでも人気やった写真やねん
「これ、携帯?」
「せや、平次の携帯で撮ったんよ」
へぇ、あの子も上手に撮れるようになったん
やなぁ、と笑うおばちゃん
うん、それは私もびっくりした
普段、平次が自らシャッターを押す事は殆ど
無いんよ
おばちゃんに撮られまくってるし、取材も多
いしで、撮られる方は慣れとるんやけどな
おばちゃんが言うには、私が今日帰国する事
は、平次には言うてへんらしい
今日は学年末試験最終日やし、ちょうどええ
やろ、と笑うおばちゃん
久しぶりによう勉強しとったみたいやし、少
しくらいご褒美や、と笑って、和葉ちゃんに
リボンくくってあげたらええご褒美やな、と
笑った
(おばちゃん、それ、冗談にならへんよ
私のポニテには確かにリボン、ついとるし)
服部邸に到着すると、玄関に平次の靴があっ
て、あら、随分早いご帰宅やなぁ、とおばち
ゃん
「あらあら」
平次は、縁側に座布団を敷いて爆睡しとった
もう私服に着替えて、近くには平次が大好き
な作家さんの新刊本も伏せて置いてあった
おばちゃんは、ご近所さんにお届けモノして
来ると言うんで、私は寝てる平次の頭合わせ
の反対側に寝転んで、眠る平次の額にキスを
した
んー、とは言うものの、目が開く雰囲気は無
く、仕方が無いので、平次の顔を両手で挟む
むずがる平次の大事な指に、ちゃんと揃いの
リングが光るのを確認して、ふっと頬が緩む
「へーじ、へーじくん」
起きてや、つまらん!
可愛ええ和葉ちゃんのお帰りやでー!
ふぇ?と言うて、焦点の合わん瞳が覗きこん
でた私を捉える
「起きた?」
ぼーっとしとる平次の唇に、ちゅっ、とした
「…かずは?」
めっちゃ舌ったらずな声
ホンマに眠たそうやな、と思う
「積もる話は後や、もう少しだけ眠ろう」
平次にそう言うて、平次の瞳を手で塞ぐと、
すうすう寝息が聞こえてくる
自分も長旅の疲れがどっと出て、頭合わせに
横になった
寝ぼけた平次の手が、私の手を離してくれへ
んので、そのまま眠ってしもうた私
柔らかい春の日差しが心地良く、眠りに落ち
た私やった
ただいま、平次
おやすみ、平次
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to be continued