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シナリオの海

Desire

2022.01.01 08:32

※タイトルのDesireは「欲望」という意味です

※♀︎2︰♂1の台本です

※種類の異なる3つの狂気を描きました

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<登場人物>

■白花(きよか)

 藤堂 恵梨香(とうどうえりか)…女優の時の芸名 

 金兎 心結(かなと みゆ)…作家名

→誰もが振り向く美女。自信家の女優兼ベストセラー作家。欲しいものは手に入れないと気が済まない性格。

一生働かずに済む様にビジネスの才がある虎白(こはく)と結婚する。

彼が仕事で忙しくほとんど家にいないのを利用し、たくさんの恋人との逢瀬を繰り返す。

基本的に自分以外の人間は見下しており、自分の望みは全て叶うと本気で思っている。


■莉碧(まりあ)

→姉の影響で容姿にコンプレックスを抱えているが実際はスタイルも顔もさほど悪くはない。

 基本的には自分の意志はなくほとんど姉の言いなり。

 物語を書く事が好きでライターをしている。

 過去の記憶が無い。

 自分に価値を感じられず自分は姉の為だけに存在していると本気で思っている。


■ 虎白(こはく)

→イケメンなベンチャー企業の社長。

  注目すべき日本人ベスト10に入るほどに有能で、雑誌やTV出演も多い。

  理系でロジカルに話すが無邪気で素直で子どもっぽい一面もある。

  多忙でほとんど家に帰らず、妻の白花とはすれ違いの生活をしている

  物腰が柔らかく優しいが野心家な一面も持っている。

  圧倒的な合理主義者で無駄な事が嫌い。

  白花の才能に惹かれ結婚したのだがある日真実を知ってしまい莉碧に惹かれていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

タイトル

「Desire」

白花…

莉碧…

虎白…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここから本編です

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【STORY】

<シーン:リビング>

■3人でTVを見ている

■画面にはインタビューに答えているこはくが映っている


虎白

「欲しいものを手に入れる方法…ですか?んー。そうですねー…

 何万通りとシュミレーションをして…一番効率的で確実に手に入れる方法を探しますかねー。人生は有限。無駄な事には、僕は1秒も時間を使いたくは無いんですよ。

チャンスなんて、いつどこに転がってるかわからない。

それにどんなチャンスだって、見つけても掴み取らなければただの道端の石ころと同じですから…

だから僕は貪欲に手を伸ばし続けますよ?

過去はどうやったって変えられない。でも、今と未来はいくらでもこの手で創っていける

それこそ自分次第なんです

自分の可能性を信じるのも、諦めるのも…


僕は変えられるし創っていけるって信じてる。その為に利用出来るものは、全て利用します。

逆に僕を利用して何かが叶うなら…どんどん利用してもらえれば(笑)」



■リモコンでTVを消す虎白(こはく)



白花

「あーちょっと。何で消しちゃうのよ、せっかく見てたのに」


虎白

「本人がいる前でよく見ようと思うよな?あー。ディレクターにカットしてって言ったとこ、結局全部使われてるし…」


白花

「えっ?いつもと変わらずイケメンだったけど?」


虎白

「そういう問題じゃない!妹ちゃんもなんとか言ってよ」


莉碧

「結婚して2年経ったのに、二人ともほんと仲良しだよねー」


虎白

「いや、そういう事でも無くてね?せめて妹ちゃんが作ってくれる料理を食べる時は、TVとか消して集中したいんだよ。それが作ってくれた人への当然の礼儀ってやつだろ?」


白花

「こはくってさ、ベンチャー企業の社長とかやってる割に、時々古風な事言うよねー」


虎白

「はっ?古風か?敬意とか、礼儀とか、大事な事だろ?ねえ、妹ちゃん」



莉碧M

女優であり有名小説家の私の双子の姉、きよかと。海外からも注目されてモデル並にイケメンなベンチャー企業のお義兄さんの結婚は、世紀のビッグカップル誕生として、当時ちょっとした騒ぎになったほどだった。


双子とはいえ、2卵性。私達は全く似ていない…

いや、きっと神様は、きよかだけを愛したに違いない…


何よりも先に「諦める」という事を覚えた

私が選べる選択肢は「はい」と「YES」だけ…

私という存在は白花の為にだけある…

何かを欲するという感情はもうとっくに凍らせた

もしも欲して必死に手を伸ばした所で手に入らないなら…ただ、虚しいだけ…

愛して欲しい…認めて欲しい…

ありとあらゆる「欲」を閉じ込め、私は自ら鍵をかけた。とても強固な鍵を…

その鍵の在り方(ありか)は私でさえ…もう忘れてしまった…



白花

「そうだ!明日からまたしばらく撮影入るから」


虎白

「今度はどれぐらい?」


白花

「んー。ドラマだからこの前ほどでは無いと思うけど、しばらく家には帰って来れないと思う」


虎白

「そっか。まあこっちは気にしなくていいから。体調とケガだけは気をつけろよ?」


白花

「うん。ありがとう。準備したらすぐ出るわね」


虎白

「ああ。僕ちょっと仕事の連絡してくるよ」


白花

「行ってらっしゃい」


虎白

「ああ。行ってくる。見送り出来なくてごめんな?きよかも気をつけて。またな」



■虎白、白花にキスをする

■虎白の姿が完全に見えなくなって



莉碧

(あくび)

「じゃあ。私はそろそろ寝ようか…」

(被せて)



白花

「まりあ?」


莉碧

「なに?」


白花

「出かけるから準備して?」


莉碧

「えっ、今から?私しばらく寝てないから…今日はさすがに寝ようと思ったんだけど…」


白花

「ふーん。あなたの選択肢にNOは存在しないはずよ?ほら、さっさとして」


莉碧

「…はい」


■二人、家を出てホテルへ向かう


~間~


■こはく、リビングに戻ってくる


虎白

「ただいまー

って…あれ?いない。


まーた、きよかのやつ妹ちゃん連れてったのかー

まあ、妹ちゃん腕良いからな、身体のメンテナンスに連れ回したくなる気持ちはわからなくもないけど…


ん?あれ?確かあの子、ここしばらく寝てないはず…身体、大丈夫か?」




<シーン:ラブホテルの一室>

■下着姿の二人

■白花、仰向けの莉碧の上に乗り首を絞めている



白花

「私に口ごたえするなんて良い度胸じゃない。ねえ?苦しい?苦しいわよね?それが生きているって事よ?ほら、もっと命を存分に味わうといいわ?さあ…さあ!」


莉碧

「ぐっ。ごめんなさい。苦しい…助…けて…」



莉碧M

きよかは時々こうやって私を抱き、首を絞める

もう幾度めだろう

苦しいけど絶対に殺されない事を、私は経験で知っている

首を絞められた所で、もう、とうに何も感じない。だけど、少し苦しいフリをする。嫌がるお芝居をする

それが彼女の望みだから…



白花

「あなたは生きてるだけで罪深い悪魔の子。だからこうしてその狂気を抑えてあげてるの。だって私はあなたの姉だもの。

だから…あなたの持っているものは全て私のもの。その手で喜んで差し出しなさい?いいわね?まりあ」


莉碧

「ごめんなさい…生きていて、生まれてきてごめんなさい。私の全ては、白花(きよか)、あなたのもの。あなただけのもの。だから、どうか許して…お願い…お願いします」



莉碧M

涙ながらに許しを乞えば、満足そうに微笑み、今首を絞めていたのと同じ手で、柔らかく抱き締められる

彼女の腕に抱かれる前に見えるのは、見たものを一瞬で魅了する、聖女の微笑み



白花

「ああ。かわいそうなまりあ。私がいないと生きていけないまりあ。あなたは何も考えなくて良いの。

身も心も全て委ねて?

私がずーっと護ってあげる。永遠に…

良いわね?まりあ」


莉碧

「はい。きよかお姉様」


白花

「ふふっ。良い子。じゃあ、続き、しましょ?」



数日後

<シーン:リビング>

■電話対応中のまりあとそれを見ているこはく


莉碧

「はい。はい。えっ?ほんとですか?ほんとにほんと?ええ。はい。ありがとうございます。では、失礼します」


虎白

「どうしたの?なんか嬉しそうだね」


莉碧

「きよかの。あっ!金兎 心結(かなと みゆ)先生の本が、賞を取ったって」


虎白

「えっ?ほんとに?」


莉碧

「うん!あんな凄い賞取れるなんて…まさか…ほんと夢みたい」


虎白

「ん?妹ちゃん?泣いてるの?」


莉碧

「あっ。ごめんなさい。ほんと夢見てるみたいで…なんか自分の事の様に嬉しくて」


虎白

「そっか。妹ちゃんは本当にきよかの事が好きなんだな」


莉碧

「うん。きよかがいないと私、生きて来れなかったから」


虎白

「そんな大袈裟な…」


莉碧

「急に泣いたりしてごめんなさい」


虎白

「いや。大丈夫だよ。感情があるのは良い事だ」


莉碧

「メイク落ちちゃった。顔、洗ってくるね」


■虎白かかってきた電話を取る


虎白

「そっちからかけてくるの珍しいじゃん。どうした?」


白花

「私の小説、賞取って明日授賞式なの。エスコートしてくれるでしょ?」


虎白

「ああ。聞いた。妹ちゃんも大喜びだったよ、おめでとう。もちろん。エスコートさせてもらうよ。なんか用意するものある?」


白花

「んー。ドレスも髪型もまだスタイリストさんと相談しないと。こはくの服衣装もこっちで揃えるから何も準備しなくて大丈夫よ。

あっ。スピーチの内容考えないと…」


虎白

「そこからそのまま行く?こっち戻ってくる?」


白花

「んー。ここからのが会場近いし、そのまま行くわ。あとで場所送るから現地集合で」


虎白

「ああ。わかった。じゃあ、明日な」



<シーン:ホテルの一室>

◾︎虎白では無い裸の男性が横たわっている


白花

「おまたせ。ええ。電話終わったわよ。えっ?欲しいもの?そうねー」


■白花、大声で笑いだす


白花

「ああ。ごめんなさい。純粋って愚かだけど美しいなーって。

おかげでまた1つ欲しいものが手に入ったわ。

すごいわよねー。ある意味才能なのかしら…


自分がやってもいない罪をあの子は一生背負っていくのね。ほんと馬鹿な子…


まあ、おかげで私の人生に新たな宝石が加わったんだけど…

私が手に入れられないものなんて何も無い

欲しいものはどんな事をしても手に入れてみせる

誰にも邪魔なんてさせない


いいえ。それも少し違うわね。

私が欲しいものはみんな喜んで自ら差し出すのよ。今のあなたみたいに…ね?


さあて…今日は何して遊んで欲しい?今日は気分が良いから、たっぷり遊んであげるわよ?」


<シーン:リビング>

虎白M

凄い温度差だったなー

なるほど…

やっぱり…そういう事…か



翌日

<シーン:授賞式の会場>



白花

「うん。今日も素敵よ。こはく」


虎白

「ありがとう。緊張してる?」


白花

「うーん。あんまり?制作発表会とかそういう方が緊張するかも」


虎白

「こんなすごい賞でもそういうものか。さすが大女優だな」


白花

「ふふっ。それより、そのあとサプライズで私の誕生日のお祝いしてくれるみたいなのよね…気持ちは嬉しいんだけどもうバレバレで…その時のリアクションがわざとらしくならない様に気をつけなきゃって

そっちのが心配」


虎白

「トロフィーはどうするの?」


白花

「もちろんうちに飾るわよ?だって私の物だから当然でしょ?んー。どこに飾ろうかしら」


虎白

「そっか。お前はそうだよな、やっぱり」


白花

「ん?なんか言った?」

 

虎白

「ううん。ねえ?もう、僕帰っても良い?こういう人が大勢いるところ、あんまり好きじゃなくて」


白花

「ええ。良いわよ。今日はありがとうね、こはく」


<シーン:家>

■帰宅し、莉碧を探して慌ててリビングに入っていく虎白


虎白

(激しく息を切らして)

「妹ちゃん?いる?」


莉碧

「え?お兄義さん、授賞式は?」


虎白

「僕の役目はもう終わった。

なあ?なんで君はこんな日にここに1人でいるんだよ…」


莉碧

「?」


虎白

「本当はたくさんの人に囲まれて祝福と称賛を浴びてスポットライトを浴びてるのは君のはずなのに…」


莉碧

「お義兄…さん?」


虎白

「ずっと思ってた。なにかが違うって、妹ちゃんに会って、それがなんなのか少しずつわかった。知りたくない様な、でも、そうであって欲しい様な…そして、昨日の妹ちゃんの涙を見て、ようやく真実に辿り着いた…」


莉碧

「真実?私の涙?え?なに?どうしたの?言ってる意味がよくわからな…」


虎白

(被せて)

「ベストセラー作家の金兎 心結(かなと みゆ)にはゴーストライターがいる。そしてそれは君だね?妹ちゃん」


莉碧

「何言ってるの?あれはきよかが」


虎白

「この前対談した監督が言ってたよ?創作ってね、一種の自分との対話なんだって。だからどんなに隠そうとしても、否が応でも無意識が投影される。本人の意志とは関係無くね…」


莉碧

「あの…言ってる意味がよく…」


虎白

「2年一緒に暮らしてるんだよ?隠し通せると思った?

君の選び取る言葉が、リズムが、温度が…全部言ってるよ。

君が金兎 心結(かなと みゆ)だって。

それに何より昨日泣いてただろ?」


莉碧

「……」


虎白

「感情を滅多にあらわさない妹ちゃんのあの涙。あれが何よりの証拠だ」


莉碧

「……」


虎白

「はじめてだったんだ。人に、他人が作ったものにこんなにも心を動かされたのは

たった一行、それだけで身体に衝撃が走った

泣く準備も無く、僕の目からは涙が溢れて止まらなくなった

それからずっと、僕の大切な一部みたいになっていった…


いつか会えた時に、絶対言おうって決めてたんだ

苦しい時、悲しい時、いつも心を支えてもらった

金兎 心結(かなと みゆ)という作家が紡ぐ言葉に!物語に!

先生、あなたの作品が、僕は世界で一番大好きです。素敵な作品を生み出してくれてありがとうって」


莉碧

「あっ…私…なんで泣いて…」


虎白

「やっぱり。金兎 心結(かなと みゆ)先生は妹ちゃん、君だったんだね」


莉碧

「違う…違う…そんな事あっちゃいけない。だって…女優、藤堂 恵梨香が金兎 心結(かなとみゆ)って事に価値があるの。今までもこれからも、作品の為に、そうあり続けるべきなの!」


虎白

「そうやって、ずっと隠してきたの?

大丈夫。誰にも言わないって約束する」


莉碧

「でも…」


虎白

「僕の胸にだけ閉まっておくから。お願い。本当の事を教えて…頼む」


莉碧

「そっか。言ったところで、こんな話誰も信じるわけ無い」


虎白

(遮る様に)

「僕は信じるよ!教えて?君が本物の金兎 心結(かなと みゆ)先生なんだろ?そうなんだろ?そうだと言って…お願い」


莉碧

「お義兄さん…なんでそんな必死に…

  (言うか迷って)

(ためいき)

私の負けです

思っても見なかった、私を見つけてくれる人がいるなんて…」


虎白

「やっぱりな。はい、これ」


莉碧

「え?」


虎白

「いつか先生に会ったら渡そうって思ってた」


莉碧

「?」


虎白

「開けてみて?」


莉碧

「!?」


虎白

「インタビューで言ってたでしょ?」


莉碧

「嘘…これ…」


虎白

「いつかもし賞を取る事が出来たら、トロフィーは出版社に置いていただきたいんです

そんな凄い賞は一人では絶対取れないから支えてくれたみなさんへの感謝をこめて


その代わり、ガラスの靴を買ってそこに名前と日付を入れてもらうの

壊れやすいものに刻めば、より大切にするでしょ?夢は叶うって喜びに浸りつつ、その気持ちを忘れず、壊れない様に抱えてずっと大事にしたいなって」


莉碧

「まさか覚えてる人がいるなんて…

何年も前のインタビューでたった一度言っただけなのに…」


虎白

「僕にとってはすごく印象的だったんだ。トロフィーを自分の家に置かないって事も、受賞の気持ちを大事にしたいから、より壊れやすいガラスの靴に名前を刻みたいっていう発想も。なんか、全部、金兎 心結(かなと みゆ)先生らしいなって」


莉碧

「先生は照れるからやめて…///」


虎白

「ふふっ。どう?気にいった?」


莉碧

「うん!すっごく嬉しい!ありがとう」


虎白

「良かった。じゃあこっちも受け取ってくれるかな?」


莉碧

「?」


虎白

「それは先生じゃなくて…妹ちゃん。君に」


莉碧

「?」


虎白

「1年に1度。せめて今日ぐらいはさ、主役でいてよ」


莉碧

「えっ?あっ…私、今日、誕生日…」


虎白

「もしかして忘れてた?」


莉碧

「うん。そういえば誕生日を誰かにお祝いされた事…なかったかも…」


虎白

「……」


莉碧

「開けて見ても良い?」


虎白

「ん?ああ。もちろん」


莉碧

「うわあ。綺麗な腕時計。星がキラキラしてる。素敵…」


虎白

「これからは妹ちゃん。いや、まりあちゃん自身の人生の時をきちんと刻んで、君らしく輝いて欲しくて」


莉碧

「お義兄さん…」


虎白

「はじめて会った時、私にはふさわしくないから名前で呼ばないで欲しいって言われて、それでずっと妹ちゃんて呼んできたけどさ…勿体無いよ。せっかくかわいい名前なのに…」


莉碧

「……」


虎白

「ねえ?金兎 心結(かなと みゆ)ってさ、どっちがつけたの?」


莉碧

「金兎(かなと)はきよかが、金は光り輝く色だから栄光を取るって意味で。あとは金運に恵まれる様に。それと兎の様に目標に向かって高くジャンプ出来る様にって」


虎白

「きよからしいな」


莉碧

「心結(みゆ)は…私が…」


虎白

「うん。なんとなくそんな気がした。漢字だと心を結ぶって書くだろ?どんな意味を込めたの?」


莉碧

「人の心や思いが繋がって行きますようにって。読んだ人がね?面白かったって思って、作品をきっかけに繋がれたり、プレゼントして喜んでくれたり。そうやって、誰かの心と心を柔らかく結べる様な、そんな作品が書けたらなって思ったの」


虎白

「ちゃんとあるんじゃん、こんな大切な意味が。名前ってさ、そういうもんなんだよ。知ってんじゃん。名前が大切なものだって事…」


莉碧

「でも…」


虎白

「僕の名前、呼んでくれる?」


莉碧

「えっ?…こはく…さん?」


虎白

「うん。やっぱりお義兄さんて呼ばれるより、すっごく嬉しいし、心の距離が近くなった気がする。

まりあちゃん?」


莉碧

「…はい」


虎白

「どんな感じした?」


莉碧

「うん。ちょっと照れくさいけど…嬉しい…心の中があったかくなって、なんか……なんでだろう…ごめん…ごめんなさい…」


虎白

「謝らなくて良い。

いいんだよ、それで…

前、言ってたろ?私には欲が無いって。

何かプレゼントしたいって僕が言ったら、欲しいものは何も無いって。望んでも叶わないなら虚しいだけ。なら、最初から何も望まないって」


莉碧

「……」


虎白

「誰かに認めて欲しいとか、愛して欲しいとか、そういう感覚はとうにどこかに無くなったって…」


莉碧

「うん」


虎白

「確かにさ、まりあちゃんは色んな事諦めて、心凍らせて、自分を隠して、ずっと偽って生きてきたのかもしれない。でもさ、決して無くなったわけじゃない。封じ込めて、鍵をかけて閉じ込めて、無くなったふりしてもさ。心が跡形も無く無くなったりなんて、きっとしないんだ…


人は、多かれ少なかれ何かしら足りなくて、欠けてて、どこか満たされなくて

たぶん、そういう風に出来ていて

それを埋めたり満たす為に、誰かと繋がろうとする

繋がりたい、愛されたい、愛して欲しい、認めて欲しい…

人が生きるって、きっとそういう事なんじゃないかな?」


莉碧

「こはくさん…」


虎白

「もう、限界だよ、まりあちゃん。君の心の鍵はとうに開いてる。心はずっと叫んでるよ?私はここにいるって。誰か見つけて、誰か愛して、誰か、私を認めて欲しいって…

君も、本当は気づいてるんじゃないの?」


莉碧

「……」


虎白

「あの作品は君が産み出した!あの賞も、名誉も称賛もトロフィーも!全部全部。

全てはまりあちゃん、君のものだ!」


莉碧

「私の…もの?」


虎白

「悔しいって思って当たり前なんだよ!悲しいって思って、認めて欲しい、愛して欲しいって思って当たり前なんだよ!もう隠すな!必死に出ようとしてる自分の心を無理やり閉じ込め押し戻すな!作品には、ずっとあったよ?まりあちゃん、君の心が…」


莉碧

「心?私の?」


虎白

「じゃなきゃ、そもそも僕がこんなに心動かされる事なんて無かった。馬鹿みたいだろ?まだ会えるかなんてわかんない。賞を取ってさえいなかったのにインタビュー記事読んで、そっこう買いに行ったんだ。そのガラスの靴」


莉碧

「嘘…そんな前から」


虎白

「このままじゃいつか壊れるぞ?それがわかってて見過ごすなんて、僕には出来ない


今の気持ち言って?素直な気持ちを全部吐き出して?僕に、聞かせて?」



~間~



莉碧

「なんかたぶん、私、何かが欠けてるの。仲良くなったと思ってもいつの間にか周りの人はいなくなっちゃって…

きよかが仕事をし始めてからはいつも家で1人だった」


虎白

「学校は?」


莉碧

「行ってたと思う…たぶん」


虎白

「たぶん?」


莉碧

「覚えてないんだ。私、過去の記憶、ほとんど無いの…」


虎白

「そう…だったんだ」


莉碧

「唯一覚えてるのは…燃えてる自分の家を見ながら泣き叫んでる事ぐらいかな」


虎白

「.........」


莉碧

「気づいたら大人になってて、さびしくて仕方なくて、でもきよかはお仕事しないとだからわがまま言えなくて…


ある日ノートを開いたらなんか頭の中にぐわぁぁって浮かんできて、何かに突き動かされる様に気づいたら何十ページにも渡って文字を書き殴ってた。帰ってきてそれを見たきよかがパソコンを買ってくれて、紙は燃えて無くなってしまうから、燃えない様にここに書いてねって」


虎白

「……」


莉碧

「それから毎日パソコンに向かって、浮かんでくる文字達を寝るのも食べるのも忘れて無我夢中で打ち込み続けた。寂しいとか感じる隙も無いぐらい毎日時間があっという間だったなぁ


しばらくして

きよかが言ったの。出版しようって

それで名前決めて、今…みたいな


きよかは本を売る為だって

段々関係ない仕事バンバン受けてきて

そのせいで締切に追われたりほとんど何日も眠る時間無いのとか

ずっとベストセラー取り続けないとっていうプレッシャーとか正直何度も押しつぶされそうになるほど結構しんどかったな…

何度か逃げ出したくなった」


虎白

「まりあちゃん。そのプレッシャーは…正直僕の想像を絶するな…」


莉碧

「でも、やっぱりね本屋さんで本を手に取って嬉しい感想を友達に言ってくれる人とかね、

本を大切そうに抱きしめてくれる人がいたりね

ファンレターとかも嬉しかったなあ

こんなすごい賞本当に取れるなんて思わなくて正直まだ夢なんじゃないかって思うぐらいビックリしてる」


虎白

「大丈夫。夢じゃないよ」


莉碧

「きよかの金兎 心結(かなと みゆ)としてのインタビュー記事とかコメントは全部私が考えてるんだけど…

やっぱり得意げに答えてるの見るとね、ちょっと心がチリチリした

それがもしかしたら悔しいってきもち、だったのかな?


本屋さんのサイン会とか

直接感想言われるの良いな

羨ましいなって

本当は嘘ついてるのも苦しいし


でも何よりね?

直接、私の物語が好きって言ってくれる人達にありがとうって言えないのが残念だなって」


虎白

「……」


莉碧

「あなた達の言葉が私に生きる力を与えてくれてます

みんなの言葉に触れてるその瞬間だけは生まれてきて良かったのかも、生きてて良いのかもって、そう思えるって」


虎白

「まりあちゃん。なんで…なんでそんな良い子なんだよ…もっと、もっとさぁ、もっと色々あるだろ…なんかこうさ…なんか…」


莉碧

「こはくさん、泣いてるの?」


虎白

「まりあちゃんが泣かないから…」


莉碧

「私の為に泣いてくれるの?優しいんだね、こはくさん。ありがとう」


虎白

「僕は別に優しくなんか…」


莉碧

「こはくさん」


虎白

「ん?」


莉碧

「私の物語を好きになってくれてありがとう。私の言葉を思いを、感じて、受け取ってくれてありがとう。

あなたの好きが私を今日まで生かしてくれました。

もっともっと成長して、あなたの心を動かせる様な物語を書いて行きます。だからこれからも応援してくれたら嬉しいです。

いつも、本当にありがとう」


虎白

「まりあちゃん…」


莉碧

「やったぁ。ようやくちゃんとファンの人にありがとうって、直接伝えられた

うぁっ」


◾︎こはく、まりあの手を引き、泣きながらまりあを抱きしめる


莉碧

「こはく…さん?」


虎白

「生まれて来てくれて、今日まで生きててくれてありがとう。僕はあなたの命を祝福します。

金兎 心結(かなと みゆ)先生という素敵な作家と、そしてまりあちゃんと出逢えたこの奇跡に、神様、僕は心から感謝します

その思いをこめて…もう少しだけこのまま抱きしめさせて」


莉碧

「こはくさん。ありがとう。本当にありがとう。私も今日まで生きてきてくれた事。こうやってこはくさんに出逢えた事に心から感謝します」



■目が合い笑いあう二人



莉碧

「こはくさん。素敵なプレゼント、ほんとにありがとう」


虎白

「喜んでくれて良かった。

こちらこそ、僕の想いをきちんと受け取ってくれてありがとう」


莉碧

「一生大切にするね。ガラスの靴も、時計も私の宝物だよ。絶対手離さない。

腕時計は毎日肌身離さず付けるんだ

これだけは誰にもあげない。私のもの。私だけのもの

あっ…私…」


虎白

「素直な心が還ってきたね。どうした?怖い?」


莉碧

「少し…」


虎白

「大丈夫。。認めてしまえば楽になる。もっと心のままに、欲望のままに生きて良いんだ。欲しいものには全力で手を伸ばして掴みとれ。君の心はそうしたいと叫んでる。ずっとファンで君の作品を何度も読んでる僕にはわかる

さあ、怖がらないでその手を伸ばしてごらん?そしたら君は、自由になれる」


莉碧

「欲しいものに手を伸ばす…」


虎白

「そうだ」


莉碧

「私も、自分で考えて、決めて、自分の欲望のままに生きて良い」


虎白

「ああ」


莉碧

「私の人生は私が主役。私、幸せになって良いの?生まれてきて、良かったの?」


虎白

「当たり前だろ?これからは僕もまりあちゃんを護るよ、君が幸せになる為に」


莉碧

「ありがとう」



■虎白に抱きしめられながら声を出して泣き出す莉碧



莉碧M

堅くねじ込まれていた栓を失った私の涙腺は、涙を止める事が出来なくなってしまった

もしいつか記憶が無くなってしまう事があったとしても

このぬくもりだけは覚えていたいと、そう強く思った



虎白

「そう。そうだよ。それで良い。いつかまりあちゃんが本当に心から欲しいものをみつけたら、その時は絶対僕に教えてね」


莉碧

「うん。約束する。ありがとう、こはくさん」



<シーン:何か月後の深夜>



虎白M

あれから少しずつ彼女の笑顔が増えてきた事以外はいつも通りの日常が続いていた




白花

「いやぁぁぁぁぁ」




虎白M

この、断末魔の様な悲鳴を聞くまでは



<シーン:庭>

虎白

(息を切らして庭に駆けつける)

「きよか!どうした、何があった?」


白花

「まりあが…まりあが突然物置に閉じこもって火を点けたの。もう無理、もう書けない…もう限界…私は自由になりたいって…ひどく憔悴しきった様子で…

私、必死に止めたんだけど、間に合わなくて…」


虎白

「嘘だろ?まりあちゃん!聞こえてるなら返事をしろ!さっさと出て来い!」


白花

「まりあー!どうして…どうして…お願いだからここを開けて今すぐ出てきて!」


虎白

「まりあちゃん!なんで…なんでこんな事…

ようやく自分の人生を生きるってそう言ってたのに…

とりあえず今すぐ火を消さないと」


白花

「もう無理よ!こんな勢いで燃えたら火を消した所で助かりっこない!

こはくが危ないからそれ以上近づいちゃダメ…」


虎白

「でも!だからってこのまま何もしないわけにはいかないだろ !!!!!!

まりあちゃん!まりあちゃん!

お願いだから出てきて…

どうする…

どうすれば良い…

消防車呼ぶか…いやそれじゃ間に合わないな、せめて消火器で消して…えっ?」

 


虎白M

僕を制する為に伸ばされた腕

その白く細い手首には彼女が持っているはずの無い、あれがはまっていた


白花

「まりあ!お願いだから早く出てきて!」


虎白

「きよか?お前、その時計どうしたの?」


白花

「えっ?時計?…!?」


虎白

「それは僕がまりあちゃんにあげた物だ

なんでお前が持ってるんだ?」


白花

「これは…その…くれたのよ、あの子が」


虎白

「一生大切にする。宝物にするって彼女は言った

これだけは誰にも渡さないって

まりあちゃんがお前に渡すなんて考えられない。絶対に有り得ない」


白花

「それは…その…えっと…あの…」


虎白

「答えられないの?何そんな動揺して…」


白花

「今はそんな事より早く火を消さないと…」


虎白

「えっ?まさか…それ…嘘…だろ…そんな事が?いや…でも…そうとしか…」


白花

「こはく?」


虎白

「君、もしかして、まりあちゃんなの?」


白花

「!?

えっ?違う…私はきよかだよ?」


虎白

「きよかはこんな事でいちいち動揺したりしないよ。

それに…それ

首に跡…くっきり残ってるよ?またきよかにやられたの?」


莉碧

「またやられたの…か

 気づいてたんだね、やっぱり


ほんときよか、最後の最後まで余計な事を…

せっかく整形して声まで真似してたのになー


あーあ、思ったより案外早くばれちゃった

私がゴーストライターやってるの見破るぐらいだもんなー

さすがの洞察力と頭の回転の早さだわ


見た目変わってればわからないと思ったんだけど甘かったなー」


虎白

「本当に、まりあちゃんなの?」


莉碧

「そうだよ?


何驚いてんの?

こはくさんが教えてくれたんだよ?」


虎白

「えっ?」


莉碧

「自分の欲望に素直になれって…

自分の人生を生きろって

だからね、素直になったの

欲しいものに手を伸ばしたの

そしたらね?

私、本当に欲しいものみつけたよ?

そのためにはどうしてもきよかから自由になる必要があった

飼い主が付けた首輪をね?力づくで引きちぎる必要があった…


愛しいと思う人の心を手に入れるには

その人が好きな人の姿になるのが一番早い


だからね?私きよかになる事にしたの」


虎白

「はっ?何言って…」


莉碧

「演技は…んー。きよかみたいにはすぐにはうまく行かないと思うけど、頑張って上手くなる

小説書いてたのはそもそも私なわけだし、そこは問題ないでしょ?

見た目だってほら、ね?そっくりでしょ?

声だって、さっきまで私が真似してるなんてこはくさん全然気づかなかったもんね」


虎白

「待って…じゃあ…あそこで燃えてる火の中にいるのは…」


莉碧

「そう。さっきまでね、きよかだった物。


同じ人間はこの世界に二人も要らないの。

だからこの世からも葬った。永遠にね…


安心して?証拠は残らない

ちゃんと専門家に相談して入念に準備したから


ねえ、こはくさん。私はあなたが欲しいの

例えどんな事をしてでも

誰にも…あの温もりは渡さない」


虎白

「まりあちゃん。君はなんて事を…僕は、何てことを…」


莉碧

「だって、これしか方法が無かったんだもん

大丈夫。私が考えて全部私1人でやったの。こはくさんは何も悪くないよ?」


虎白

「まりあちゃん…君は自分が何をやったのか分かってるのか?」


莉碧

「うん。私はただ欲しいものに手を伸ばしただけ。それだけよ?」


虎白

「まりあちゃん…本当に…」


■手で顔を覆い絶望した風を装うこはく

やがてほくそ笑み、段々と声をあげ狂った様に笑い出す


莉碧

「こはく…さん?」


虎白

「お前、最高だな」


莉碧

「えっ?」


虎白

「ずっと思ってたんだよ…

白花(きよか)の容姿で、莉碧(まりあ)の性格と才能の人間がこの世に存在したら、それこそ俺の理想そのものだなって…」


莉碧

「えっ」


虎白

「なるほどー

それ、全部自分の意志でやってたと思ってたんだー?

そっかそっかー

へぇーそうなんだ〜


おまえってほんと健気でいじらしくてかわいいなー」


莉碧

「こはく…さん?」


虎白

「でもさ?

ざーんねん

全ては俺の思った通り♡

知らないうちにお前はずーっと俺の手の上で転がされてたに過ぎないんだよ


せっかく飼い主の首輪と鎖を引きちぎって自由になろうとしたのに可哀想にねー?」


莉碧

「……」


虎白

「いやー正直こんなにうまくいくなんて思わなかった

君は優秀だねー、まりあちゃん

とっても優秀な操り人形だ


言葉は時に人の心を変えて衝動的に動かしてしまう力さえ持っている


まりあ、君が教えてくれたんだ

おかげで俺が本当に欲しかった物がようやく手に入ったよ


本当にありがとうね?

まりあちゃん♡」



■不敵に笑う虎白

■驚きながら虎白を見つめるまりあ



莉碧M

さっきまで優しく微笑んでいた彼は

もうそこにはいなかった

いつから?どこから?

頭の奥で警鐘が鳴っている



虎白

「欲しいもの…ですか?そうですねー…

何百、何千、いや、何万通りとシュミレーションして…一番効率的で確実に手に入れる方法を探しますかねー。人生は有限。無駄な事には、俺は1秒も時間を使いたくは無いんですよ」



莉碧M

いつかの彼のインタビューを思い出す

どこからが彼の計画だったのか…

いつから…

彼の言葉の何が嘘で、何が真実なのか…

私にはもう、それを知るすべは無い…



ただ確かなのは

彼によって一つも…一欠片も残す事なく…私はすでに暴かれてしまっているという事

そしてそれさえもどこか心地好いとさえ感じている自分がいる事



虎白

「良いよ?ご褒美だ。君に俺をあげる

その代わり…俺も欲しいものをもらうよ?

さぁ…俺の手を取って?どうすれば良いかは…分かってるね?」



莉碧M

あの時彼がくれた温もり

それさえあればきっとこの先も私は生きていける

だから、喜んで差し出そう

彼が望むのなら、全てを…



※虎白役の演者様へ

虎白が本当に欲しかった物によって

〇〇〇の部分のセリフが変わります

3つのエンドからお選びください

A<名声と栄光>を望むエンド

◾︎彼女がまりあと知りながら女優の夫であり、ゴーストライターのきよかの名声や栄光を手に入れたい。まりあにこの先きよかとして生きる未来を望むなら

→「きよか」



B<憧れの成就と真実の愛情>を望むエンド

◾ずっと支えられてきた物語の本物の作者であるまりあの思いを受け入れ、

彼女が物語を書き続ける未来と彼女の愛を受け入れ、まりあとして生きてもらう事を望むなら

→「まりあ」



C<全てを手に入れる事>を望むエンド

◾︎まりあが持っているもの、きよかが持っているもの、その全てを望むなら

→「誰の名前も呼ばない」




虎白

「そう。良い子だそれで良い

これからもずっと一緒だ

愛してるよ…

〇〇〇」

※A,B,Cどれかお選びください

END