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シナリオの海

心の声は何を語るか

2022.01.01 17:24

<はじめに>

※男2:女:1の台本ですが台詞比率がかなり違いますのでご了承ください

(女性のセリフかなり少ないです)


※心を読める男性と多重人格の男性と女性のお話です 


※上演は約2時間ぐらいです


※作中に実在する「刑法」の内容に触れますが一個人の意見であり、刑法への批判では無い事をご理解ください



<あらすじ>

人の心が脳内に流れこんでくる。つまり人の心が読める能力を持った青年、ショウ。

そんな彼の前に1人の男が現れる。 

青年の名は直人。彼ははじめて会う、全く心が読めない人間だった。

ショウが直人を助けた事をきっかけに二人は友情を育んでいく。

そんなある日、一つの事件が起きる。

それはショウと直人が互いに知らずに持っていたある共通点に繋がっていて

その時直人の心が読めない、驚きの理由が判明する…

※枠で上演する際にお使いください

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

心の声は何を語るか

作:七海あお

ショウ:

直人 :

冬華 :

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ここから本編です

【STORY】

ショウ(モノローグ)

人はみな嘘つきだ。一見反省してます、もうしません!みたいな顔して謝っていても、心の中では真っ赤な舌を出していたり


一見、天使の様に見える笑みの裏側に

実は凶暴な悪意が隠れていたり…


大半の人間は社会で生きていく為に表と裏の顔を持つ…

きっとそうだろうな。と思う人間はいても、それは本来ならば確証を持って知る事は無い。


ただ俺には、全て分かってしまう。

やっかいな能力?そんな事は無い。慣れてしまえば本当に信頼できる人間を見極め付き合える。それにこの能力は圧倒的に金になる。


使えるものはなんでも使う。あっちは利用しているつもりだろうが、利用してやってるのはむしろ…俺の方だ


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【公園】

■男2人組に声をかけられる直人


直人

「えっ?財布を落としたんですか?それは大変ですね…はい。もちろん。一緒に探しましょう!あっ…でもそのスーツ汚れてしまいますよね…

あの茂みの奥ですか?

わかりました。僕、探してくるので、ここで待っててください!」


SE:TELの音


■かかってきた電話に出るショウ

ショウ

「はーい。あー先日はどうも。

はい!依頼ですか?

あーいいですよ。ただし、1日3人まで。報酬は倍にしてください。

じゃなきゃもう引き受けません。

あなた達には分からないかもしれないですけど、読むとすんげー体力奪われて半日使い物にならないんですよー。

もしこの条件を飲んで頂けないのでしたら今回の件はお断りさせていただきます。

他にもたくさんクライアントはおりますので、では…」



■切ろうとするショウに慌てて引き止めるクライアント


ショウ

「わかりました。13時に署の方へ伺います…それではまた」 


■電話を切って



ショウ(心の声)

『 ったく!私利私欲の塊だな…電話からも心の声だだ漏れるとか、どんだけ卑しいんだよこいつ!』


■茂みで財布を探す直人それをベンチから見守るショウ


直人

「んー。思ったよりも草が伸びてるなー。

これはもう少し時間がかかりそうだ」


■少し遠くで見守る2人組に呼びかける直人



直人

「あのー?確かにここで落としたんですよねー?

はい。だったら、きっと見つかりますから!もう少しそこで待っててくださーい!!!」


■必死に探す直人



直人

「あったー!!!!!

 ありましたよー!!!

 これですよね?探してた財布!ん?あれ?」


ショウ

「あいつらならとっくに逃げてったぜ?」


直人

「あなたは?ん?逃げる?どうして?」


ショウ

「あいつらの手口なんだよ。空の財布を探させてる間に、その持ち主の財布を盗むっていう。最近流行ってるらしいぜ?お前が財布探しに夢中になってる間にあいつらおまえの財布漁ってた」


直人

「あのっ!僕の財布はどこですか??あいつらが持っていっちゃいましたか?

あいつらどっちに向かって行きましたか?」


ショウ

「い、いや…財布ならここに…」


直人

「取り返してくださったんですか?!」


ショウ

「えっ?まあ…そういう事になるのか?でも、財布に入ってる金は間に合わなかったぞ?」


直人

「お金なんてたいして入ってません!それよりも、この財布が大切なんです!!!!

僕にとってはこの財布、命の次に大切なものなんです!本当に、本当にありがとうございました!」


ショウ

「なあ?あんたよく人に騙されんだろ?気をつけた方がいいぜ?

誰でも簡単に信用すると痛い目にあう。

人は平気で自分の為に嘘をつく、結局正直者がバカを見るようにこの世の中は出来てんだ」


直人

「そうかもしれないけど…あなたはこうやって僕の財布を守ってくれたじゃないですか!」


ショウ

「どうかなー?本当に信じて良いのか?

もしかしたら俺は、金を盗んだあいつらの仲間かもしれねーぞ?」


直人

「あなたはそんな人じゃありません!」


ショウ

「おい。お前言ったそばから…」


直人

「疑ったってキリが無いんです。

人の心なんて読める訳ないんだから。本心なんて、確かめようも無いんだから。

だったら僕は、自分が信じたい事だけを信じる!

あなたは僕の財布をこうやって守ってくれた。僕は大切な財布を無くさずに助かった。だから僕にとってあなたは、間違いなく良い人なんです!!」


ショウ

「呆れたな…お前は本物のバカか?

ああもう!好きにしろっ…」


直人

「はい。好きにします。

あっ、そこのワゴンのコーヒーおいしいんですよ?お礼にごちそうします」


ショウ

「お礼って、俺はなにも…」


直人

「だって、あの人達から僕の大切な財布、取り返してくれたじゃないですか」


ショウ

「本当に信じるのか?会ったばかりの何の証拠も無い俺の言葉を…」


■直人、ショウの目を覗き込み


ショウ

「ちょっ、なんだよいきなり顔近づけてきて…おまえ近いって…おいっ。俺そっちの趣味は…」


直人

「やっぱり!思った通りだ!

あなたの瞳は嘘がつけない輝きをしている…

だから大丈夫!僕、そういうのわかるんです。ここにいてください!

今すぐ買ってきますから!あっ、砂糖とミルクは入れますか?」 


ショウ

「いやほんとに俺は…」


直人

「砂糖とミルクは入れますか?入れませんか?」


ショウ

(爆笑)

「あーもう降参。おまえ面白れーな。

じゃあ今日はごちそうになるかな。

俺はコーヒーは苦手で…もし飲むなら、出来れば紅茶がいいんだけど…」


直人

「ほんとですか?良かった!

あのお店、紅茶も凄くおいしいんですよ?じゃあ、すぐ買ってくるんでちゃんとここで待っててくださいねー」


■直人、走ってワゴンの方へ行ってしまう


ショウ

「ちょっと!おいっ!

あー…行っちまった。ほんと変なやつ…」


ショウ(心の声)

『 こんなのはじめてだ。あの男、全く心が読めなかった。俺がこの能力を身に着けてから、声の大小はあっても、政治家だろうが犯罪者だろうが、どんな人間の心も全て読めたのに…

なんであいつだけ…

まさか実際に話してる気持ちと心の声が一致した裏表の無い人間がこの世に存在するっていうのか?それとも俺の能力に気づいて意図的に心を閉じているのか…

いや、まさか…なっ…』


■直人二つのカップを持って戻ってくる


直人

「お待たせしましたー。

ここの紅茶、近くの喫茶店のものをオーナーが気まぐれに持ってくるんで毎回味が変わるんですけどねー。どれも茶葉にも淹れ方にもこだわってて、とってもおいしいんですよ。あっ、熱いから気をつけてくださいね」


■ショウ、直人が買ってきた紅茶を飲む


ショウ

「うまっ!!」


直人

「でしょー!うわー嬉しいなー!お口に合って良かったー。

僕、ここの紅茶の大ファンで、ここのカフェによくいるんです。

あっ、僕、櫻葉直人(さくらばなおと)って言います。直人って気軽に呼んでください」


ショウ

「俺はショウだ。みんなそう呼ぶからお前もそう呼んでくれ」


直人

「わかりました。ショウさんですね」


ショウ

「さん付けはやめてくれ。ただ、ショウで良い」


直人

(少し照れくさそうに)

「ショ…ショウ…」


ショウ

「なんでそんな付き合い立ての恋人みたいなたどたどしい呼び方なんだよ!」


直人

「すみません!

 僕、人を名前で呼び捨てにする事ってほとんど無くて…」


ショウ

「はっ?友人にさえ苗字にさんとかつけるのか?

それとも名前にさん付けか?まさかお前、実はみかけによらず上流階級のおぼっちゃまとか?」


直人

「いえ。上流階級なんてそんなとんでもない!…今は塾の講師をやっています」


ショウ

「ああ。なるほど…確かに子供とかに好かれそうだな」


直人

「子供は純真無垢で良いですよー。まー、純真無垢ゆえに、時にどストレートに言葉の刃物飛んできますけどっ…

そういう時は、きちんと叱ります!そうやって傷つけたり、時に傷つけられながら、人はきっと人と生きていく事を学ぶんです。僕は勉強だけじゃなくて、そういういろんな事を彼らに教えたいんです!まあ、出来ているかはわかりませんけど…」


ショウ

「お前みたいな教師だったら、俺も少しはマシな人間になってたかもしれねーなー。

 やっべ。もうこんな時間だ。紅茶うまかったよ。ごちそうさん」


直人

「ショウさんは…とっても優しくて素敵な人だと思いますよ。だから、いつかまたお茶しましょうね」


ショウ

「まだ会って数分だろうが…ほんとお前って変なやつ。

そうだな。まあ、またどっかで偶然会いでもしたら、そん時は考えてやるよ」


SE:扉が開き、閉まる音

■帰宅するショウ


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【ショウの部屋】

■帰宅後、棚に財布やキーケースを置く

■タバコを口にくわえ、紫煙をくゆらせる

ショウ

(独り言の様に)

『もう少し…もう少しだ…もう少しで全てが終わる…

ずいぶん長い間待たせてごめん…でも…あと少しだ…あと少し…

あと少しで…全部終わるよ…

いや、必ず終わらせてやる…

だから頼む。

必ず逢いに行くから…

あと少し、あと少しだけ、そこで待ってろ…』


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

数日後…

【警察署にて】

■警察署から出てくるショウ

■ショウを見つけ、声をかけてくる直人


直人

「あれ?ショウ?さん?ショウさんですよね?」 


ショウ

「はっ?あん時の紅茶?なんでここにいんだ?」


直人

(苦笑)

「紅茶って…僕は、ほら、たまたま道で財布を拾ったので、届けにきました」


ショウ

「マジか。わかりやすくテンプレなやつだなお前。ってか、財布拾ってわざわざ届けに来る奴って、今どき本当にいるんだな」


直人

「ん?そうですか?普通だと思いますけど?

ショウさんこそ、警察署にいるなんてどうされたんですか?」


ショウ

「俺は、まー…ちょっとな…」


直人

「あっ!もしかして!

この前僕を助けてくれたみたいに、またどなたかを助けてたんですか?」


ショウ

「はっ?なんでそうなるんだよ!

 なあ?お前の俺の印象マジでどうなってんだ?」


直人

「ん?」


ショウ

「ん?じゃなくて。まー、いっか。じゃあなー」


直人

「ショウさん!」


ショウ

「だからそのさん付けくすぐってーからやめろって…」


直人

(被せて)

「僕ら、また偶然に再会しましたね」


ショウ

「あ?まぁ…そうだな」


直人

「これって運命だと思いません?」


ショウ

「は?」


直人

「って事で今から僕と付き合ってください」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【喫茶店】

SE:JAZZのBGM

ショウ

「へー。こんなとこにこんな空間が広がってるとは…すげーな」 


直人

「地下にあるし、この喫茶店は会員制でホームページにも載って無いんです。

ここに入るにはマスターに声をかけられるか、すでに会員になった人間と一緒に来るしか入ることが出来なくて。もし気に入ったなら、ぜひ会員になる事をおすすめします。もちろん僕を呼んでいただいても構いませんよ?

さっき開けた入り口の暗号は、毎日変わっていて、会員にだけ知らされるようになってるんです」


ショウ

「へー。確かにここには無駄な雑音が1つも無い」


直人

「ん?雑音?」


ショウ

「あー、こっちの話だから気にすんな」


直人

「ショウさんは紅茶、何がお好きですか?

まあどれも本当においしいんですけど、

特にこだわりが無ければ、ここのロイヤルミルクティーが、ほんとめちゃめちゃ最高なんですよ!!!」


ショウ

「そっか。じゃあ、それもらおうかな」


直人

「マスター!ロイヤルミルクティー2つお願いします」


ショウ

「へー。ここ、まるで隠れ家みたいだなー。何か懐かしい様な、不思議な居心地の良さがある」


直人

「でしょ?店内にかかってるジャズもお洒落ですよねー」


ショウ

「お前ってなんか面白いな?」


直人

「ん?面白い?どこがですか?」


ショウ

「なんかすげー大人しそうな…一見好青年みたいな感じで、物腰も言葉も柔らかいのに、あの日も今日も、突然強引になる…」


直人

「あー、よく言われます。なんだろう?多分、実際の自分と社会に適用する為の仮面みたいな物が、僕の場合かけ離れてるんじゃないですかねー」  


ショウ

「ふーん。そういうもんかねー。で?お前はどっちが自分だと思う?」


直人

「んー。そうですねー。きっとどちらも自分なんじゃないですかね?」


ショウ

「どちらも?」


直人

「はい。善悪併せ持つのが人間だと思ってます。基本的に人の構成要素なんてどれもみんな同じで、そのバランスとか割合とかで個人が出来上がってると思ってるんで」


ショウ

「まあ、確かにな…」


直人

「どんな良い人に見えても、その人にだって悪な部分は必ずある。そう思ってると楽ですよ?色々と…」


ショウ

「お前にも悪があるって事か?」


直人

「はい。きっと…」


ショウ

「はっ。ほんと面白ぇわお前」


直人

「ショウさんこそ。僕にとってはとても興味深いですけど…」


ショウ

「俺?」


直人

「あっ。来ましたね。

店長いつもありがとうございます。さあ、ショウさん?どうぞ」


■ショウが飲むのを見守って


直人

「どう…ですか?」


ショウ

「うまい…」


直人

「良かったー」


ショウ

「えっ?これほんとに紅茶か?」


直人

「はい。紅茶ですよ。紅茶って本来、フレーバーが無くてもこれだけしっかり紅茶の茶葉自体が香るんですって。僕もここに来て初めて知りました。結局どんなに着飾ってごまかしても直球の魅力には敵わないって事ですかね…」


ショウ

「いや、マジ上手い。ありがとな。良い店見つけた」


直人

「気にいっていただけて何よりです。あっ!ショウ…さん」


ショウ

「だからショウで良いって…」


直人

「ショウ!連絡先教えてください!」


ショウ

「んー。お前になら教えてやっても良いが…3つ条件がある」


直人

「条件?」


ショウ

「1つ、俺の事は呼び捨てにする事。

2つ、その硬っ苦しい敬語を今すぐやめる事。最後3つめ、俺の詮索は今後一切しない事。この条件が守れるなら…」


■ショウから出された条件に安堵し笑ってしまう直人


直人

(被せて)

「なーんだ。そんな事か。

うん!分かった!よろしく…ショウ!」 


ショウ

「えっ?良い…のか?わかった。

よろしくな。えっと…悪ぃ…お前の名前、なんだっけ?」


直人

「良いよ。覚えてくれるまで何度でも名乗るよ?僕は…直人だよ。ショウ」


ショウ

「ナオト。漢字ではどう書くんだ?」


直人

「素直の直に人」


ショウ

「真っ直ぐでバカ正直なお前にピッタリな名前だな」


直人

「そう…かな?ありがとう。ショウは?

本名とかは…聞かない方が良いのかな?」


ショウ

「まーそうだなー。いつかお前のこと、本当に心から信じたその時にでも教えてやるよ」


直人

「なるほどー。じゃあその日が来るのを楽しみにしてるよ」


ショウ

「誘ってくれてありがとな。ほんと美味かった。俺、このあと用あるからこれで行くわ」


直人

「あっ、伝票」

ショウ

「この前のお返しだ。俺は人に借りは作らない主義でな」

直人

「あれは借りじゃなくてお礼だって…」

ショウ

(被せて)

「俺にとっては貰いっぱなしって意味では同じなんだよ」

直人

「じゃあ、もっと仲良くなって、僕の事友達ぐらいに思ってくれたら改めて何かプレゼントする!その時はちゃんと受け取って!」

ショウ

「おー。楽しみにしとくわ。直人!」

直人

「なあに?ショウ?」

ショウ

「またな」

直人

「うん!またね!」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【警察署】

ショウ

「さてと…わざわざあなたから依頼してくるなんて珍しいじゃないですか…

悪いけど、あなたが俺の能力疑ってんのなんて全部バレてますからね?

で、状況は?」


■説明を求めても答えない刑事

■そんな刑事に構わず刑事の心を読むショウ

ショウ

「ふーん。

時効間近で証拠も0。

焦ってこの前の冤罪みたいなバカを上司が繰り返しそうになったから…それで慌てて俺を呼んだと…

へー。あんたやっぱり賢いなー」


■しゃべっていないのに自分の心を読まれた事に驚く刑事


ショウ

(苦笑)

「何驚いてんだよ?

心の声が読めるって、俺は最初から言ってんだろ?

で?どうすんだ?

今日は契約通り…俺は3人の心の声しか読みませんけど?」


■またもふてぶてしい態度のまま無言の刑事

■構わずに刑事の心を読むショウ


ショウ

「なるほどねー。

時効までの2週間、毎日容疑者の心を休みなく俺に読み続けろと?

へえー

あんた見た目を気持ちよく裏切るぐらいのとんだドSだなー。

で、報酬は?」


■刑事、ショウに向かって封筒を差し出す

■ショウ、中身を確認し、相手が自分好みの報酬を持ってきたので

爆笑して


ショウ

「あんた気に入ったよ。

確かにあんたからの依頼、引き受けた。

さっさと取り調べ室に容疑者候補連れて来い。安心しろ。これでこの事件、全部終わらせてやる


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【塾にて】

SE:電話の呼び出し音

直人

「んー。ダメか。あれから2週間、

全く電話かかんないなー。ちゃんとご飯食べてんのかなー」


■塾の生徒にからかわれる直人


直人

「はっ?彼女じゃない。こら!そんな事言ってないで手を動かせ手を!

それと、直人じゃない。

櫻庭(さくらば)先生、だろ?

まあ、そうだよなー。

勉強って人にやらされてるって思ったらすごくつまんないよな。

よし!じゃあ今度は、君が先生に何か問題を作って出してくれ!

何問でもいいぞ?

その代わり…

僕が全部答えられたら、大人しく勉強すること。良いね?


櫻庭先生大好きって…

(笑)

ほんと君のそういう素直なとこ良いよねー

はい!いつでもどうぞ?」


■嬉しそうに問題を考える生徒


直人(心の声)

『ショウ…本当に大丈夫かなー。なんかほっとけないんだよなー。

誰も自分のテリトリーには入れません。誰も信じてません。みたいな、あの強く、冷たい瞳…

でもどこかで何かを信じようとしてるみたいな…

強く見えてどこか繊細にも見えるひどくアンバランスな…どうしようも無く惹かれてしまう…

あの瞳に映りたい…

その心に触れたい…

抑えきれない衝動…

まだ出会ったばかりなのに…どうしちゃったんだろう…僕』


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【警察署】

■隣の刑事に向かって慌てながら

ショウ

「なあ?今日調べた容疑者候補の一人に精神科医が付き添ってたろ?まだいるよな?

今すぐそいつを入れてくれ!

そう!容疑者の方じゃなくて精神科医の方だ。

帰られたら終わりだ!


はっ?そんなの聞き忘れた事があったとかなんとか適当な理由つけてさっさと呼び戻せ!」


■動かない刑事


ショウ

「おい!何突っ立ってんだ!犯人逮捕してぇならさっさと動け!!!」

◾︎舌打ちをしながら慌てて出ていく刑事


SE:扉が開き、閉まる

■取調室に入った精神科医を観察しながら心の声を聞くショウ


ショウ(心の声)

『おー!優秀。ちゃんと連れてきたな。どれどれ·····

緊張感0。とても落ち着いている。

さっきから全て、予め用意してきたかの様なテンプレな回答。取調べ室に呼ばれたのは予想外のはずなのに、落ち着き過ぎている。まるで呼ばれる事を分かって準備でもしていたかの様に…


準備?なんの為に?本当に関係ないのならそんな準備いらないはずだ…


思い出せ、何か大事な事を見逃しているんだ…

!?

そうか…やっぱり間違いない。

これは全部繋がってるんだ…こいつのこの余裕。100%逮捕されない自信がある。

こいつが関わっていて、本当に知られたくないのは、今言われている事件では無いんだ…

なんだこの悪びれの無い悪意…

反吐が出る…


ダメだ!閉じるな!逃げるな!

ちゃんと聞くんだ…

あいつの心の声を.......これは俺にしか出来ないこと…

悪意を野放しにするな!真実から目を背けるな!!!』


■決定的な証拠が犯人の心の声として聞こえ


ショウ(心の声)

『 !?

聞こえたぜ!今、ハッキリとなっ…

なるほどそういう事か…だからあんなに余裕でいられたのか…

かなりやっかいな事しやがって…

でも残念だったな…俺に見つかったのが運のつき…


お前の悪運も、これで終わりだ』


■ショウ、紙にどこかの住所を書きなぐり、自分に依頼をしてきた刑事に渡す


ショウ

「ほらよ!

この場所、今立ち入り禁止だろ?そこに鑑識連れてってひたすら四方八方掘ってみろ!

今の技術ならあるいは、あいつを捕まえられる決定的証拠が出るかもしれねーぜ。


はっ?知らねーよ!それは俺が考える事じゃない。

本気でこいつを逮捕したいなら、せいぜい無い頭絞って考えるんだな?」


■睨んでくる刑事


ショウ

「お前がどんなに疑おうが、俺に心の声が聞こえるのは覆しようも無い事実だ。

でも、信じられないっていうお前の気持ちも分からなくもない。

まあ、信じるか信じないかはあんたに任せるよ…


ただし、俺はあんたの依頼をきちんとやり遂げた。よって、あんたは俺に依頼通りに依頼料を支払う義務がある。反論は?」


■悔しそうに首を振る刑事


ショウ

「よし!納得したみたいだな。ちゃんと依頼料振り込んどけよー」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【ショウの家】

ショウ

「ただいまー

あー。ようやく家帰ってこれた…

うぁー。頭いってぇー。身体だるっ。さすがに2週間連続で読み続けるのは、無茶し過ぎたか…


にしてもあいつ、まじで鬼畜すぎる!!!

俺が逃げねぇようにって手錠かけて牢屋ぶち込むか普通?はぁー、マジで気分悪ぃ…

なんの罪も犯してなくても、手錠に牢屋はあまり気分良いもんじゃねぇなー」


■疲れ果て、ベッドに倒れこむショウ


SE:スマホの呼び出し音

ショウ

「ああ!もう!!!ようやく家に帰ってきたっつーのに一体こんな時間にどこのどいつだよっ!」

■スマホの画面を見て、相手に驚く

ショウ

「マジか…」


■気持ちを落ち着け、電話に出るショウ


ショウ

「はい。もしもし。はい。えぇ。おひさしぶりです。今…ですか?

ええ。もちろん大丈夫ですよ。

どうなされたんですか?

はい。そう、みたいですね。俺にも情報がありました。

いえ!早まらないでください!

本当にあと少しなんです!あいつの場所も名前も連絡先もわかりました。あとは証拠さえ揃えば…


いえ!それがベストな選択だとはどうしても思えません。考え直してください!

あなたには守るべき大切な人がいるじゃないですか…

だから、そんな事絶対にやめてください!

大切な人が悲しむ顔を、俺はもうこれ以上見たくありません!


もし…

もしどうしてもやらなきゃいけないなら…その時は俺がやります!

だからもう少しだけ…もう少しだけ俺を信じて待ってくれませんか?

お願いします!お願いします!!!


はい。はい。本当ですか?ありがとうございます!

ええ。今年中には必ず。

では、またご連絡します…」


■声にならない叫びをあげるショウ


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【ボウリング場】

直人

「久しぶりだねー。元気でなにより。まさかショウから誘ってくれるなんて、

嬉し過ぎて危うくスマホ落とすとこだったよ」

ショウ

「なんか、思い切り身体動かしたくてさっ!」


SE:ストライクの音


ショウ

「っしゃあっ!ストライクー!!うぇぃ」


■ハイタッチする2人


直人

「よし、次は僕だね。にしてもショウがこんなにボウリング上手いなんてねー」

ショウ

「んー。特別上手いとは思わないけど、昔からボールを使うもんはたいてい人並み以上には出来る」

直人

「なるほどね。なんかその言い方ショウらしくて良いね。僕も負けないぞっ!」


■ストライクの音


直人

「よし!ストライク!」

ショウ

「ウェイ」


■ハイタッチの音


ショウ

「直人も充分上手いと思うけど?」

直人

「目の前で余裕でパーフェクトゲームしてる奴に言われてもねー」

ショウ

「こんなに調子良いのは…俺も久しぶりかもな」

直人

「あっ、そうだショウ。ちょっと良いかな?」

ショウ

「ん?なんだ?」

直人

「あのさ…ずっと考えてたんだ…で、この方法しか無いって思った。

だから…

改めてちゃんと自己紹介するから聞いてくれ!」

ショウ

「はっ?自己紹介?えっ?なんで?」

直人

「はい!櫻庭直人(さくらばなおと)。

両親健在。一人っ子。現在は塾の講師をしています。B型。

好きな言葉はローマは1日にして成らず!」

ショウ

「直人?おい…いきなりどうした?」

直人

「趣味は読書と映画鑑賞。あと、こうやって身体動かすのもすっごく好き!周りからはバカ正直って言われる。割と忘れっぽくて仲間うちではいじられる事が多い」

ショウ

「ついでに天然も加えとけ?

ってかここボウリング場だからなっ?他のやつも聞いてるからな?

個人情報さっきからダダ漏れだぞ?せめてもう少し声おさえろ?なっ?」

直人

「恋人はしばらくいません!好きになった人はその人の全部、弱い所とか、ダメな所も全部丸ごと愛したいタイプです!

初めて会った時から、なんかすっごくカッコイイなって運命感じて、僕には無いものいっぱい持ってて、本当に心から尊敬してます!

こんな僕ですが…ショウともっと仲良くなりたい!

僕と…もっともっと深い関係になってください!よろしくお願いします!!!!!」

ショウ

「お前はバカなのか?

こんな所でそういう誤解を生む様な言い方…」


■周りからはお幸せにーの冷やかしの声が多数聞こえている


直人

「ん?お幸せに?え?えー!!!

これ、あれかな?もしかして僕がショウに告白したみたいになってる?」

ショウ

「もしかしなくてももうなってる…」

直人

「み、みなさん誤解です!

僕がショウを好きなのは事実だけど、まずはお友達からと思ってて…

あの!僕達はとっても清い関係であの…そういうんじゃないんです!

誤解しないでください!!!

正真正銘、プラトニックな関係なんです!!!!」

ショウ

「お前!とりあえずいいから黙れ!

お前が喋れば喋るほどなんか話がどんどんややこしくなってんじゃねぇか!

(ため息)

なんで急に自己紹介なんてしてんだよ…」

直人

「だって…ショウと仲良くなりたくて…

友達って思ってもらえる様に距離感を縮めるには、まずは僕自身の事を知ってもらうのが1番手っ取り早いかな?って思って…」

ショウ

「ふーん。その結果が、腐女子のみなさん大喜びの公開告白か?」

直人

「告白?いや、確かにショウの事は好きだけど…あくまでも僕の恋愛対象は女性で…悪いけどショウの気持ちには答えられないよ?ごめんね?」

ショウ

「なんで俺が告ってもねぇのにお前にフラレたみたいになってんだよ!

俺が好きなのは男じゃねぇ!俺は、女が好きなんだ!!!」

直人

「ショウ、それ大声でわざわざ言う事じゃなくね?あのね?ここ、ボウリング場だから」

ショウ

「お前が言わせたんだろうが!!!」

直人

「ん?」

ショウ

「ん?じゃなくて…」


■ショウ、状況が分かっていない直人の様子に爆笑する


ショウ

「あーもうお前マジか?やっべ涙出てきた。天然ってすげーなー」

直人

「天然?天然記念物といえばオオサンショウウオとかかな?他にもコウノトリとかトキとか…あっ!イリオモテヤマネコなんかも有名だよね?他にも…」

ショウ

「その天然じゃねーよ!突然教師っぽい知識を披露するな!」

直人

「だって僕、塾の講師だし…」

ショウ

「いいから今はとにかく場所変えるぞ!来い!」

直人

「えっ?なんで?ちょっと…ショウ!」

ショウ

「はいはいみなさん!

冷やかすならお好きにどうぞ?俺は今からこいつと二人きりになれる場所に行くから…

あっ

二人きりで楽しみたいから…くれぐれもこの先は邪魔すんなよ?」


■周りが騒ぎ始めて


ショウ

「直人、今だ!走るぞ!」

直人

「えっ?なに?」

ショウ

「いいから早く、走れ!」


■直人の手を取って、慌てて走り出すショウ

■ショウに引っ張られ強制的に走り出す直人


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【近くの公園にて】

■公園に辿り着き息を切らしている2人

■顔を見合わせ

■直人の手を掴んだままな事に気づき慌てて離すショウ


ショウ

「あっ…悪ぃ…逃げるのに必死過ぎて、お前の手掴んだままだった…」

直人

「あー。いや…別に謝ることじゃないって…それにここまで走らせるきっかけを作ったのはたぶん.......僕なんだろうし…」

ショウ

「まあ…それもそっか」

直人

「あー…走り過ぎて喉カラカラ…ショウ何飲む?」

ショウ

「炭酸のやつならなんでも」

直人

「了解!ちょっと待ってて!」


■自販機まで走る直人。やがてペットボトルを2つ持って勢いよく走って戻ってくる


直人

「ショウ!お待たせ!これで良いかな?」

ショウ

「直人…お前、今それ手に持って走ってきた?」

直人

「ん?そうだけど…どうかした?」

ショウ

「いや。いいや、それくれ」

直人

「はい!どうぞ」

ショウ

「サンキュ」

直人

「どういたしまして」

ショウ

「直人?」

直人

「ん?」


■コーラのペットボトルの口を直人に向けて開けるショウ

◾勢いよく直人めがけて飛び出すコーラ


直人

「うわっ…ちょっ…ショウ何すんだよ!」

ショウ

(笑)

「炭酸を持ったまま走るとこういう事になるんだよ、よく覚えとけ」

直人

「やったなー」

■炭酸のペットボトルの口をショウに向けて開ける直人

■炭酸が勢いよくショウめがけて飛び出す

ショウ

「うわっ…ちょっ…お前何すんだよ!」

直人

「ショウが先にやったんだろ?これでおあいこだ」

ショウ

「うわっ、最悪…

身体中ベタベタ…なんでよりにもよってどっちも炭酸買ってくるかなー」

直人

「ショウが炭酸が良いって言ったんだろ?」

ショウ

「いや、片方別の飲み物買ってもいいだろ!それに…炭酸振ったらこうなる事ぐらい、ちょっと頭使えばわかるだろ!」

直人

「だからって…わざわざ炭酸かける事無いだろ?」


■顔を見合わせて爆笑する2人


ショウ

「マジ俺ら何やってんだよほんと」

直人

「ほんとに…何やってんだろ…

あーこんなに声出して笑ったの久しぶりかも。

あっ!僕の家こっから歩いて行ける距離なんだ。そのままじゃ気持ち悪いだろ?風呂入ってってよ、ショウ」




ショウ(モノローグ)

この日をきっかけに、頻繁に直人と話したり出かける事が増えていった。

心の声が聞こえない直人と過ごす時間はとても心地が良くて、自分が普通の人間になったかの様なそんな喜びを感じていた。だから俺は、なぜ直人の心の声が聞こえないのか、その理由を突き止め様など微塵も思ってもいなかった。あの日の出来事があるまでは…



SE:電話がかかってくる音

ショウ

「おー直人どうした?」

(直人)

「…………」

ショウ

「直人?おーい!聞こえてるか?」

(直人)

「39…」

ショウ

「えっ?」

(直人)

「39の恨みを忘れるな…」

ショウ

「おい!おい、直人!おい!なんだよそれ…39の恨みってなんだよ?おい!」

(直人)

「39の恨みを忘れるな!」

ショウ

「おい!なんだよ!だから、39の恨みだけじゃわかんねぇよ!おい!おい!!!!」

SE:電話が切れる音

ショウ

「はっ?電話切った?マジで何考えてんだよ?訳わかんねぇ…」


■スマホの時間を見て


ショウ

「うわっやっべ!もう時間か…そろそろ行きますかねー…」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【警察署】

ショウ

「なんか俺最近毎日ここに来てる様な…ってかほぼ警察署に住んでねぇ?」

あまりに来過ぎて、備品の位置まで鮮明に絵に描けるレベルで覚え始めてるわ…

 

はいはいいつでもどうぞ?今日俺が心の声を読む犯罪者はいったいどなたなんでしょうかねー…


■取調室に一人の男が通される


って…うっわ。久しぶりにエグいの来たな」



■刑事が何も伝えていないのに分かるのかと聞いてきて


ショウ

「ああ。まだ声は聞こえてねぇけど、放つ空気のピリつき方でとにかくやべぇ奴だって事だけはわかる。なんなんだこいつ?」


■今、目の前の男が犯人と疑われている事件の概要を依頼者の刑事が説明する


ショウ

「ふーん。なるほど…通りで…

要するに、今目の前にいるあいつは、最近巷を騒がせてるあの連続猟奇殺人事件の容疑者候補ってわけか…

そりゃさすがのあんたも俺に必死に連絡してくる訳だ…

ネットで叩かれまくってたもんなー。現場に多くの痕跡が残っているのに犯人を捕まえられない無能な警察って…」


■恐怖のあまり大声で叫び、その場に座り込む。肩を上下しながら激しく呼吸を乱すショウ


ショウ(モノローグ)

脳にダイレクトに途切れる事なく注ぎ込まれる静かな殺意

あまりのドス黒い圧に、俺は立っている事が出来ず、その場に座り込んだ

ドクン…ドクン…ドクン…自分の心臓の音が、うるさいぐらいに聞こえてくる

身体中の細胞があわだち、最大級に警戒しているのがわかる

そして、突然その声がピタリと聞こえなくなる


ショウ(心の声)

『こいつは間違いなく黒だ…が、きっとこいつを捕まえる事は出来ない…

目の前にいるのに…

くそっ!

またか!

俺はまたあの日を繰り返すのか…』



ショウ(モノローグ)

!?

その時、俺の中ですべてが繋がった

知りたくは無かった様な…でも全てはこの結末に導かれていた気さえする様な…

考えたくは無い、考えうる限りの中で最悪のシナリオ…


■立ち上がるショウ


ショウ

「依頼料は要らない。今日は終了。急ぎの用が出来た」


■文句を言いながら引きとめてくる刑事


ショウ

「どうせこいつは捕まえられない…それよりも俺にはこっちのが大事なんだ。わかったらさっさと退け」


■なおも食い下がってくる刑事


ショウ

「人の命がかかってんだよ!さっさと退け!!!!!」


■刑事はショウの迫力に、掴んでいた手を離す

■ある目的地に走っていくショウ



ショウ

(走りながら)

『頼む…間に合ってくれ…頼む…』



【イベント広場】

■イベント広場に辿り着き、一人のよく知った人間を見つけ、声をかけるショウ

ショウ

「よう!奇遇だなー!こんな所で何してんだ?」

直人()

「……」


■ショウを無視して歩きだす直人()


ショウ

「待てよ!無視すんなよ直人!」


■黙ったままショウを見る直人()


ショウ

「あー悪かった…直人、じゃなかったな…39の恨みを忘れるなだったっけか?あの電話かけてきたの…お前だろ?」

直人()

「何言ってんだよショウ?言ってる意味が、俺にはよくわかんないな…」

ショウ

(笑)

「やっぱり…お前は直人じゃない。なあ?お前は一体誰だ?」

直人()

「ショウ?さっきから何言ってんの?もしかして、頭でも打ったのか?」

ショウ

「へぇー。勉強になった。人格が違うとどんなにとり繕っても一人称って変わっちまうもんなんだなー」

直人()

「はっ?」

ショウ

「普段は知らねぇよ…けどな…直人は俺の前では、自分の事を俺なんて言わねぇんだ…」

直人()

「!? ちっ!」

ショウ

「すげーなー。声も姿かたちも全く同じなのに、本当に別人なんだな…なぁ?お前は誰だ?」


■直人()狂った様に笑いだす


直人()

「人の名前を聞くならまずは自分から名乗る。子どもの頃習わなかったか?」

ショウ

「さぁ?どうだったかなー」

直人()

(ためいき)

「やっぱり思った通りだったなー。

あの日。直人がお前に初めて会った日、

予感がした。

もし俺の計画を邪魔するとしたらお前だけだろうと…

だから牽制(けんせい)のつもりの電話だったのに…むしろ俺に辿り着くとはな?


で?解けたか?39の謎は?

まぁ、解けたからここにいる訳か…」

ショウ

「ああ。解けたよ。お望みならこの場で今すぐ説明してやる。

だがその前に…

とりあえず会話しづらいから、名前教えろよ…お前だって自分以外の名前で呼ばれるのは気分が悪いだろう?俺はショウだ」

叶人

「ふーん。一応は俺の存在を一個人として尊重してくれるって訳だ?

お優しいねー。

いいぜ?教えてやる。俺の名前はかなと。櫻庭(さくらば)かなとだ」

ショウ

「かなと…約束通り今から推理ショーと行こうじゃねぇか」

叶人

「ほぉ?お前がどこまでたどり着けたか、ぜひ聞かせてもらおうか?」

ショウ

「39の恨み…

39は一部の人間にとってはサンキュー。ありがとうの意味を持つ明るい言葉と捉えるのが一般的だろう。

だが…ある条件下におかれた人間にとっては、恨んでも恨みきれない数字だ。

刑法第39条、心身喪失者の行為は罰しない。

心神耗弱者(しんしんこうじゃくしゃ)の行為は、その刑を減軽する。


つまり…どんなに無数の命を自らの快楽の為に奪った残虐な殺人者でも、犯行時に精神を病んでいる、もしくは狂っていたと証明された場合、そいつを死刑台に送ることは出来ない」

叶人

「へー。知ってたか」

ショウ

「ググればこれぐらい誰でも調べられるだろ」

叶人

「で?まさかそれで終わりなんて興醒めする様なつまらねぇ事、言わねえよな?」

ショウ

「ああ。

この39条の基準は曖昧で、39条を悪用している犯罪もあとをたたない。

実際に、この39条が適用された犯罪で、限りなく黒に近いのに犯人が捕まらない事件も多数存在している。お前の恋人が殺された、あの、事件も…」

叶人

「へぇー。ちゃんと調べてんじゃん?

優秀優秀。

まあ、あいつ馬鹿正直に本名名乗ってたし…当時ちょっとした有名人だったもんなー直人は…

ちょっと本気出せば、当時の資料が大量にあるか」

ショウ

「目的は復讐か?」

叶人

「だったら?」

ショウ

「それがわかってるのに見逃す事は出来ない」

叶人

「へー、意外。この世の人間誰も信じてませんーみたいなそのキャラで、今さら正義感とか振りかざしちゃう感じ?人の命はみな尊く、等しく大切とかって?

(笑)

(ため息)

そういう偽善者ぶったやつ…俺まじで嫌い…

あいつが何したか知ってんのかよ?

あいつはな?たくさんの命を弄んだ…

たくさんの命を奪ったんだ!

俺の恋人の命も!!!!!

そのあとわざと塀の中に入った

窃盗なんて簡単に出て来れる罪でな…

なんでかわかるか?

自分を殺しに来ようとする被害者遺族から自分を守る為だよ!!!!」

ショウ

「………」

叶人

「直人はな、モニター越しに泣き叫んでいる恋人が、生きたまま徐々に殺される所をただ黙って見ている事しか出来なかったんだ…


虫も殺せない様な優しくて弱いやつだからねー

直人は絶望したよ…

恋人を救えなかった自分に!

人が人を殺す事の出来る社会に!

そして…真実を明らかにして正しく罪を裁けないこの世界に!

…39条という馬鹿みたいな法律に!!!!!


誰も信じられなくなって

そして自ら命を絶とうとした…最愛の人の元へ逝こうと…

でもやっぱり臆病でねー…死ぬことを躊躇った…

その瞬間、俺が生まれたのさ…


どうせ死ぬなら…あいつを殺してから死にたい…

俺は、あいつの願いを叶える為だけに生まれたんだ…」

ショウ

「復讐して何になる?それで気が済むのか?お前の…直人の最愛の人はもう還って来ないぞ?」

叶人

「正論だなー。でも!そんな事俺には関係ない!

今でも夢に出てくるんだ!あの光景が!彼女の最後の叫び声が!

わかるか?終わってねえんだよ!

あの日から俺達の中ではずっと終わらねぇんだよ!

ただただあいつを殺すことだけを考えて今日まで生きてきた!

あの絶望を!地獄の日々を!お前なんかにわかってたまるか!」

ショウ

「だとしても!

お前があんなやつの為に手を汚して犯罪者になる必要なんか無い!どんなに憎くても、あいつを殺した時点で、お前はあいつと同じ犯罪者になるんだ!

お前が殺したいほど憎んでいるやつと同じ犯罪者になっちまうんだ!!!!」

叶人

「だから?関係無いねー。俺の目的はただ一つ…あいつをこの手で殺す!ただそれだけだ…」

ショウ

「だったら行かせる訳には行かない!」

叶人

「俺を止めるのか?俺の意志は揺らがないぜ?ケガする前に…さっさと失せろ!」

ショウ

「ならなんで俺に電話をかけてきた!!!」

叶人

「あれは牽制だ!お前に気づかれて邪魔されない為の…」

ショウ

「聞こえたんだ!あの時はっきりと…」

叶人

「はっ?何が?」

ショウ

「お前の心の声が…助けてくれって!何度も!何度も!そう叫んでた!」

叶人

「心の声?お前なに言ってるんだ?」

ショウ

「直人の心の声は全く聞こえ無かったのに…お前の声はあの瞬間だけ、はっきりと聞こえた!

なあ?かなと…お前、本当は俺に止めて欲しかったんじゃねえのか?」

叶人

「心の声だかなんだか知らねぇけどな?

ごちゃごちゃくだらねぇ事…」

ショウ

(被せて)

「お前は賢い。確かに出生(しゅっしょう)のきっかけは直人の復讐を叶える為だった。だが、お前はもうとうに気づいている…こんな事をした所でなんにもならない事を!直人の最愛の恋人の命は二度と還っては来ないのだと!」

叶人

「うるさい!」

ショウ

「復讐する為に色々な準備をして今日まで生きてきた…でも迷っているんだ…本当にそれで良いのか?本当にそれが直人の為になるのかと…」

叶人

「黙れ…」

ショウ

「あいつを殺した所で、その苦しみが終わらない事を知っているから…

殺すことで、むしろその悪夢が一生終わらない物になる事を、知っているから…」


■叶人、ジャケットのポケットから折りたたみ式のナイフを取り出しショウに向ける


叶人

(被せて)

「黙れと言ってるだろ!!!!

それ以上喋るな!俺の邪魔をするなら容赦しない!脅しじゃないぞ?これは、本物のナイフだ!」

ショウ

「叶人!お前だってわかってるんだろ?こんな事したって何にもならないって…本当は迷ってる…止めて欲しいって思ってる…だからあの日俺に電話してきたんだ!」

叶人

「五月蝿い…」

ショウ

「お前の事だ…本当に殺る気なら、最初から俺と話なんてしないでさっさと奴を殺しに行ったんじゃないのか?」

叶人

「そこを退け!」

ショウ

「どうしても行くなら俺を殺してから行けよ」

叶人

「はっ?何言って…」

ショウ

「行かせないぞ…あんな奴の為に、おまえが自分の人生を捨てる必要なんて無い」

叶人

「ほんとに刺すぞ?退け!」

ショウ

「だから刺せって!刺してみろよ!!!!」

叶人

「おまえ!頭おかしいんじゃねえのか?」

ショウ

「あいつを殺す事が間違いになっちまったら、お前は復讐に費やしてきた今までの日々を否定しないとならない…

自分の今まで生きてきた日々を全て…だから!戻りたくても戻れなくなっちまったんだよな…」

叶人

「さっさと退け!!!!」

■叶人、ショウの腹を刺しに行くが、ショウが素手でナイフを握って止める

■ナイフを握ったまま離さないショウ。大量の血がナイフを伝って地面に落ち、赤い水たまりを作っていく


ショウ

「っ…鎮痛薬飲んできて正解だったな…飲んでも意外と痛いわこれ…」

叶人

「!? お前!」

■ショウ、素手でナイフを受け止める

ショウ

「お前に…人は殺させない!あいつも…もちろん俺も!」

叶人

「おい!お前……」

ショウ

「俺も…あいつを殺そうと思った事があった…」

叶人

「はっ?」

ショウ

「あの日…モニター越しに見ていたんだ…愛する人が死ぬ、その瞬間まで…」

叶人

「お前も誰かを…」

ショウ

「叶人、そして直人も聞いてるか?

いつかお前に聞かれた事、教えてやるよ。樋浦 翔希(ひうらしょうき)。これがお前が知りたがってた俺の本名だ」

叶人

「樋浦…それってまさか…」

ショウ

「調べて驚いたよ。直人が愛していた恋人、樋浦冬華(ひうらふゆか)は俺の姉だ…双子のな…」

叶人

(突然の頭痛に頭を抱え叫びながら)

「冬華?冬華.......うっ·····頭が·····頭が····」

ショウ

「叶人!しっかりしろ!おい!

ん?もしかして直人か?おい!直人聞こえるか?」

直人

「その声は…ショウ?」

ショウ

「直人?直人か?」

叶人

「頭がっ!うぁっ!やめろ!直人!邪魔するな!お前の願いだろ?

あいつに!お前の最愛の人を殺された事恨んでたんじゃないのかよ?だから命を絶とうとした!その時に俺が生まれたんだろ?お前の…あいつを殺したい!復讐したい!その願いを叶える為に!それがお前の願いだろ?違うのか?」

直人(うわごとの様に)

「うっ…復讐?復讐…確かに僕は殺したいほど憎んでいた…裁判の時、僕の顔を見て勝ち誇った様に笑ったんだ…許せない…」

叶人

「そうだ!あいつは人間のクズだ!精神異常者のフリをして…自らが償わなければいけない罪をずっと逃れてきたんだ!たくさんの命を弄んで、奪って

たくさんの人の心をズタズタに傷つけてきた!

俺たちがやらないと、次の犠牲者が出る!」

ショウ

「だからって…お前らが犯罪者になるのは違うだろ!あんなやつの為に…その手を血に染める事は無い!」

直人

「復讐…復讐…あいつがいなくなって…あいつがいないと僕は…僕は…願い?

僕の…願い…?僕の願いは…ただ…もっと一緒にいたかった…冬華に…生きていて欲しかった…まだまだ一緒に行きたい場所もたくさんあったし…あったかい家庭を築こうねって…約束したのに…」

叶人

「そうだ!それをあいつが奪ったんだ!幸せな日常を一瞬で奪い去った!

お前の世界で1番愛しい人をこれから訪れるはずだった未来ごと·····

許せるはずないだろ!!!!!」

ショウ

「聞いてくれ直人!叶人!あいつはもうじき法で裁かれる!」

叶人

「なにデタラメな事言ってるんだ?」

ショウ

「本当だ!何年もかけて証拠を集めた!

あいつが犯行時、善悪の判断がつく正気だったという動かぬ証拠を!そしてあいつの罪の数々も!

金をもらって偽の診断書を書いた精神科医も捕まえた!

だから.......お前らが殺らなくてもあいつは法で裁かれる!

あんなやつの為にお前らの手を汚さなくて良いんだ·····

なあ?あいつを殺した後、お前ら…死ぬつもりだろ?」

叶人

「..............」

直人

「死…」

ショウ

「冬華は、こんな事絶対に望まない!」

直人

「冬華.......」

ショウ

「直人か?」

直人

「ショ.......ウ」

ショウ

「遅くなっちまって悪かった.......これ」

直人

「これは.......ICレコーダー?」

ショウ

「日付はあの日。たぶんお前へのメッセージだ」

直人

「僕への.......?」

ショウ

「冬華から」

直人

「!?」


■慌ててICレコーダーを再生する直人

■流れてくる冬華の声


直人

「こ、この声.......冬華.......」



冬華

『ハル?ハル?

んー。これ、聞こえてるのかな?

えっと·····

どうしてもハルに伝えておきたくて、万が一の時の為にこのメッセージを録ってます。

今、ハルはどこでどんな想いでこれを聞いてるのかな?

ハルの事だからさ、私を救えなかったーとかって思ってたりするのかな?

だとしたら。本当にごめん.......

いつも冗談で言ってたけど

実は本当に私、人の心の声が聞こえるんだ


それで悲しい思いもたくさんしてた。

人間不信にもなった·····

でもね?ハルと出逢った

ハルの声はね?いつもちょっぴり恥ずかしがりであったかいの

怒っててもね?心の中ではどうやって謝ろうって考えてるのとかね

いっつも私の事考えてくれてるのとかね

たくさんたくさん愛してもらってるの、全部伝わってたよ…


今ね…声が聞こえたの…


ハル?ごめんね…私…無視出来ないや…だって知っちゃったから…

もし今無視して·····いつかハルとの子供が生まれたら…私その子に胸張ってママだよ。なんて言えない…


馬鹿だよね?自分でもわかってる…

正直怖いよ?今も手、震えてる…でもごめん。見殺しには出来ないや…


私と出逢ってくれてありがとう…

私を好きになってくれてありがとう…

私の恋人になってくれてありがとう…

普段は照れくさくて言えないけど、もしかしたら最後になるかもだから.......

思い切って言うね?

ハル…世界で一番…大好きだよ!

じゃあ…行ってきます』

直人

「こ…これって…」

ショウ

「遺品整理してた時に、冬華のカバンの中に入ってた……」

直人

「これじゃまるで…嘘だろ?そんな…冬華が自分で行く事を選んだっていうのか?」

ショウ

「たぶん…声が聞こえたんだ…あいつの…

目の前にいる子供を殺そうとしているあいつの声が…

それできっと…その子がこれから生まれてくる自分の子どもだったらって…思っちまったんだろうな…」

直人

「そんな…あいつが、自ら選んで?死ぬ事を…自分で決めたのか…でも…でも…

冬華なら…確かにやりそうだな…

自分の事を犠牲にしても大切な人の事守りたいって。そういうやつだったから…」

ショウ

「違う!死ぬ事を選んだんじゃない!

目の前のその女の子をただ救いたい!助けたい!って思ったんだ

ただそれだけだ!」

叶人

「直人!こいつの言葉を信じるのか?お前を足どめする為のでたらめかもしれないぞ?」

直人

「だって間違いない!これは冬華の声だった。冬華なら…やりかねないよ…

あいつ…

考えるよりさ、身体が、心が反射的に動くんだ。裏表が無くて…人の痛みがわかって…

僕が一人になろうとしても…絶対に一人にはさせてくれなかった…


そう…だよね…

僕の痛みさえ…自分の痛みみたいに感じる冬華が…

そうだよね…望むはずないよね…

人殺しなんて…復讐なんて…」

叶人

「直人!本当にそれで良いんだな?後悔…しないんだな?」

直人

「後悔は…するかも知れない。でも…もし、今あいつを殺したとして…その原因が冬華だとしたら…

冬華は言うよ…

私と出逢ってごめんって…

そんな風に思わせたくない…

そんな事…絶対に…言わせたくない……」

叶人

「わかったよ。なら…好きにしろっ!俺はもうお前にはついていけねえ…じゃあな」

ショウ

「ああ…叶人。じゃあな…」


■直人、ようやくショウが今ナイフを素手で握り締めて足元が血の海になっている事に気づく


直人

「!? ショウ?ショウ!

何そのナイフ?え?顔が真っ青…血が…何だよこの血の海は!」

ショウ

「なんでもねーよ」

直人

「これ…もしかして僕がナイフを?」

ショウ

「違ぇよ!ただの事故だ…」


■出血多量でその場に立っていられずナイフを握ったまま膝から崩れ落ちるショウ


直人

「ショウ!ショウ!しっかりしろ!おい!きゅ、救急車!救急車!」

ショウ

「直…人?」

直人

「あっ?もしもし!あの!至急救急車1台お願いします!はい!大量出血していて…はい!急いでください!場所は…トレジャーパークのイベント広場の…」

ショウ

「直人…直人?」

直人

「どうしたショウ?今、救急車来るからな!なあ?頼むから死ぬなよ?絶対死ぬなよ?お前が死ぬなんて絶対嫌だ!

もう…大事な人を失いたくない」

ショウ

「なあ?直人?」

直人

「ん?なんだ?」

ショウ

「冬華が…逢わせてくれたのかな?俺たちの事」

直人

「ああ…そうだな。きっと…きっとそうだ!」

ショウ

「渡すの…遅くなっちまって悪かった」

直人

「そんな事無い!あいつの…冬華の最後の声、届けてくれてありがとう」

ショウ

「なあ…なんでハルなんだよ…名前…全然…違ぇじゃん…」

直人

「ショウ…これ以上しゃべるな!今、今救急車来るからな?」

ショウ

「教えろよ…俺たち…親友だろ?」

直人

「なあ?ここでそれ言うの…ずるく…ないか?」

ショウ

「何泣いてんだよ…直人…教えろよ…なっ?」

直人

「僕、自分の名前、嫌いだったんだ。親の言う事をなんでも素直に聞く良い子になる様にって…それで直人。

1から10まで、何もかも自分の思い通りにならないと気が済まない人達だった。

愛されたくてそれに答えようとする自分も嫌だった…

そう言ったら…あいつ言ったんだ

あなたは、私の心のずっと続いていた冬を、あたたかく包んで春にしてくれた…

だから春の人と書いて春人(はると)!今からあなたの事、ハルって呼ぶねって…」

ショウ

「だから…ハル。か…我が姉ながらトリッキー過ぎて…おかげでこんなに遅くなっちまったじゃねえか、全く·····

でも…ちゃんと冬華の最後の声、お前に渡せて良かった…なあ、直人?」

直人

「ん?なんだ?ショウ?」

ショウ

「もうあいつを殺して自分も死ぬなんて、言わねえよな?」

直人

「ああ!そんな事したら、あっちに言った時、冬華になんて言われるか分かんないからな…約束する!」

ショウ

「それが聞けて安心した…生きろよ…あいつの…分も…生きてくれ…頼む」

直人

「ああ!親友の頼みなら…聞かないわけにはいかないな…」

ショウ

「ほら…約束だ…」

直人

「小指じゃないの?」

ショウ

「小指は…なんか照れるだろ…ほら、さっさと拳だせ…」

直人

「ショウってさ、クールぶってるけど、結構かわいいとこあるよな?」

ショウ

「うっさい!さっさとしろ!」

直人

「ああ。わかった。約束するよ…」

ショウ

「守れよ?ちゃんと

お前に出逢えて良かった…華(はな)の分まで…幸せになれよ?約束.......だから.......なっ」


■気を失うショウ


直人

「おい!ショウ!嘘だろ?

おい!目ぇ覚ませよ!

ショウ!ショウ!!!!!!」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【時のはざまにて】

冬華

『あんたは心の声聞こえるんだし!もっと早くにハルに辿り着くと思ったのになー…』

ショウ

『はぁー?もっと早く届けて欲しいならな、せめて本名のメモとか残せよ!ハルってなんだよ!全然本名ちげぇじゃねーか』

冬華

『あの時は…録音するので精一杯だったのっ!』

ショウ

『はいはい!お前らしいよなー…ほんと.......言葉が足りないのは相変わらず』

冬華

『うるさい!』

ショウ

『なぁ?良い奴みつけたじゃん!お前にしては珍しく』

冬華

『もう!ほんとにいつも一言余計だよね?

でしょ?ハルは最高でしょ?

時間はかかったけどね、あんたならきっと何とかしてくれるって信じてた!本当にありがとうね.......ショウ』

ショウ

『どういたしまして.......なあ?俺ようやくそっち行けんの?』

冬華

『残念でしたー!まだ、ダーメ!』

ショウ

『えっ?マジか.......俺、わりと大量出血だったと思うんだけど.......』

冬華

『もしこれであなたが死んだら、またハルが自分の事責めるでしょ?』

ショウ

(ため息)

『.......だ.......なっ』

冬華

『私にはもう、これぐらいしか出来ないから.......ショウ.......あなたの人生を奪ってごめん』

ショウ

『何言ってんだよ!

.俺は何も奪われちゃいない。全部俺が決めて、俺がやりたくてやったんだ!

復讐することだけに囚われていた俺があいつにきちんと法の裁きを受けさせる

そう思えるまでになれた

なあ?」

冬華

「ん?」

ショウ

「ずっと聞きたかったんだけど、

あの日、屋上にいた俺を.......

あいつを殺そうとした俺を助けてくれたのは、止めてくれたのは.......お前だろ?』

冬華

『なーんだ、バレてたか。バレない様に上手くやったつもりだったんだけどなー』

ショウ

『お前の心の声、ダダ漏れだったからな?』

冬華

『マジで?』

ショウ

『マジ。双子に宿る不思議な力かー』

冬華

『心の声が聞こえるよりむしろ現実味があると思うけど?』

ショウ

(笑)

『確かにな』

冬華

『ねぇ、ショウ?』

ショウ

『ん? 』

冬華

『 あの日、心の声が聞こえるって言った時、信じてくれてありがとう。ショウがいたから、私、生きてこれた』

ショウ

『直人も、だろ?」

冬華

『当然でしょう?』

ショウ

(からかう様に)

『あぁ。お前の中ではハル·····だっけ?

私の中でずっと続いていた冬を·····』

冬華

(慌てて照れながら)

『あぁもう言わないで!事実だけど、改めて言葉にされると恥ずかしい····· 』

ショウ

(笑)

『 なあ?華(はな)?』

冬華

『ふふっ。その名前で呼ばれるの久しぶりだなー。ショウって感じがする。

何?ショウ?』

ショウ

『後悔.......してないか?』

冬華

『んー。正直ちょっと·····いや、かなり寂しさはあるし、ハルにもごめんねって思うけどね.......

うん!後悔してないよ』

ショウ

『なら良かった。じゃあ、俺もう少しあいつと遊んでくわ』

冬華

『うん!ショウ?』

ショウ

『ん?』

冬華

『本当にありがとう!またね?』

ショウ

『ああ!またな.......華』


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【海】


ショウ(モノローグ)

その後、華の命を奪ったあいつは、法の裁きを受けた

しばらくメディアはこのセンセーショナルなニュースをこぞって煽りたて

様々な専門家が自らの立場で的外れに色々な意見を述べていたが、正直どうでも良かった


関係の無い人間の中ではやがて風化して綺麗さっぱり忘れ去られるだろう

だが、俺達の中では永遠に終わらない·····

ただ一区切りついただけだ

刑事時代、散々被害者に会ってそんな想いを聞いてきたが

本当にそうなのだと

自分が被害者の遺族という立場になって初めてわかった


長かった·····

これであいつに大切な人の命を奪われた人達の気持ちも少しは救われるのだろうか·····


あいつに法の裁きを受けさせる

あの日の約束を果たし

ようやくここに来ることが出来た

華の遺骨を撒いたこの、海へ·····


SE:波の音

「お前にあいつを殺させないし、俺も殺させない。か.......見事なまでの有言実行!カッコイイねーお兄さん」

ショウ

「直人?ん?違うな」

「へぇー。するどいなー。さすが、叶人が認めただけの事はあるって事だな」

ショウ

「俺はショウ。名前、教えてくれるか?」

春人

「春の人と書いて、春人(はると)だ。気軽にハルって呼んでくれ」

ショウ

「ハ…ル?」

春人

「そっ。あいつらの中でやーっと長かった冬が終わったからなー…新しい季節が訪れて、人生の春が訪れたって事だな。

春人だけに.......」

ショウ

「ハルは、新しく生まれた3人目って事か?」

春人

「華麗にスルーかよ!

いや…人格としてこの身体に存在しているのは一人。直人や叶人のいろんな要素が集まって、それ以外にも欲しい要素色々足して削って俺が生まれたって感じかな」

ショウ

「なるほど。良いとこどりの融合ってやつか…」

春人

「まあ、そんなとこ…あいつらがメモ残してくれて、ショウの事を知った」

ショウ

「そっか…」

春人

「ん?どうした?」

ショウ

「やっぱりお前の声は、聞こえないんだなって…」

春人

「あー。確か人の心の声が聞こえるんだったっけ?直人達が残してくれたメモに書いてあった」

ショウ

「ああ」

春人

「なんか大変そうだなー」

ショウ

「まあ、最初はな?慣れるまでは…ただ慣れたらむしろそっちのが普通になる」

春人

「不安…か?」

ショウ

「えっ?」

春人

「俺の心を読めない事が。俺が心で何を考えてるか分からない事が…」

ショウ

「別にそういう訳じゃ……」

春人

「んー。確かになー。俺が言ってる事が嘘か本当かなんてわかんないもんなー·····

んー。

よし!決めた!俺今からショウには心の中で思ってる事も全部言う」

ショウ

「え?」

春人

「これから、お前にムカついたらはっきり言うし、こういう所気にくわないとか全部言ってく。もちろんマイナスな部分だけじゃなくて、直接言葉で言われたら照れる様な事も全部な」

ショウ

「は?」

春人

「人なんてきっと多かれ少なかれ、ずるい部分とか弱い部分とかあって、表に出せない本音とか、社会性の仮面の中に本音を隠して生きていくんだ。そうやってバランス取って不用意な衝突を避けて生きていくんだ…

表と裏が全く同じなんて人間の方が正直稀だと思うよ?俺は…


どうしたって社会で上手く生きていくなら、表と裏が違ってもしょうがない

だったら、見えない裏、心の声を邪推せずに生きていく方が賢い生き方だと思う…」

ショウ

「……」

春人

「ただそれは…俺たちには表しか見えないからだよな?

本当なら人の心の声なんて聞こえないのが一般的だ…聞きたく無い事のが多くて聞くのも辛いだろ。聞きたくなかった、知りたくなかった事だって

今までもたくさんあったんじゃないか?」

ショウ

「……」

春人

「だけどお前は聞こえるんだもんな?

しかも何故か俺の心の声だけが聞こえない。

そしてその事をとても不安に思っている…

心の声が聞こえるショウにとっての当たり前が俺にだけ適用され無い

それって割と恐怖だったりすると思うんだよな…

ショウ

「……」

春人

「だったらさ…


だったら、俺は全部さらけ出すよ…

弱いとこもずるいとこも、みっとも無いところも…本当は隠しておきたい、見られたくない部分も全部…


だから…

ショウ!俺の心はもう読まなくて良い

俺の心が読めない事を怖がらなくても良い

ショウと、これからずっと一緒にいたいからさ…

それが俺の覚悟!

なあ?もちろん全部受け止めてくれるんだろ?」

ショウ

「いや?全然?」

春人

「はっ?そこはさ、ありがとう!最高!さすがは俺の親友!で、熱い抱擁じゃねぇのかよ!」

ショウ

「笑」

春人

「お前!笑ってねぇで何とか言えよ」

ショウ

「しょうがねーなー」

春人

「そんな事言って、一人は寂しかっただろ?ずっと長い間、お前の事だからいろんなもん背負って1人で闘ってきたんだろうし?

ほら、俺がこれからはお前の荷物も持ってやるから

なっ?もっと喜べって」

ショウ

「あー。直人帰って来ねーかなー…」

春人

「お前なー…それはさすがに俺、泣くぞ?なぁ?今ここで泣こうか?」

ショウ

(笑)

「なあ?」

春人

「ん?」

ショウ

「ほんとにお前、直人と叶人と同じとこから生まれたのか?人なつっこ過ぎねぇか?」

春人

「ああ。声も顔も同じだろ?」

ショウ

「そうなんだよなー…どっからどう見ても同じなんだよなー…人類の神秘だ…」

春人

「そうだ!ショウは心の声が読めるんだろ?

だったらさ、実際には声をあげて助けを呼べないやつらを助けるとか…人の心の見えない叫びを救う探偵なんてどうだ?」

ショウ

「却下」

春人

「少しは考えろよ!」

ショウ

「はいはい勝手に言ってろ」

春人

「そんで探偵にはさ、相棒がつきものだろ?やっぱ」

ショウ

「ん?だから?」

春人

「俺…相棒になってやってもいいぜ?」

ショウ

「丁重にお断りします」

春人

「なんでだよ!」

ショウ

「笑」

春人

「お前ってほんと良い性格してんなー。まっ、そんなお前…俺、正直嫌いじゃないけどな」

ショウ

「なんだそれ。

ハル、お前、ほんとに心の声ダダ漏れだな」


■ショウ、嬉しそうに爆笑する

■ショウにつられ、春人も笑い出す



~間~


ショウ(モノローグ)

人はみな嘘つきだ。一見反省してます、もうしません!みたいな顔をして謝っていても、心では真っ赤な舌を出していたり…

一見天使の様に見える笑みの裏に

実は凶暴な悪意が隠れていたり…



そうかと思えば

本当は素直に伝えたい思いを意地を張ったり照れくさくて伝えられなかったり

苦しいのに悲しいのに必死に無理して笑っていたり…


言えなかった

たくさんのありがとうとごめんなさいと好きが、後悔と共に混ざり合っている…


もしあの時華の声が聞こえていたら…

俺は、華を救うことが出来ていたんだろうか?

ありもしないもしもを、未だに繰り返す


そうやって後悔があるから

人はまた、前に進むことが出来るのかもしれない…

楽しい思い出で、上書きする為に…


心の声は語る

人は狡(ずる)く脆(もろ)く、弱い生き物なのだと…


心の声は語る

裏切り、裏切られ

傷つき傷つけられ

時に痛みと苦しみを伴い、人は生きているのだと…


心の声は語る

そして

君がそんな色々にもがきながらも

それでも今日まで、必死に生き続けてきて

今、ここにいるのだという事を·····


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

〇ヶ月後

【 屋上⠀】

■目の前に顔面蒼白で飛び降りそうな女性がいる

春人

(わざと明るく)

「おじょうさーん。バンジージャンプするにはここは向いてないと思うけどなー。

なんにも付けずにここから飛び降りたら、下手したら死んじゃうかもしれないから、俺はオススメしない。

それよりも、俺らともっと楽しい事しよう?」

ショウ

「ナンパじゃねぇんだから!ごめんなー。こいつ悪いやつじゃねーんだけど…チャラくて」

春人

「誰がチャラいって?やんのか?あー?」

ショウ

「怖がらせんなって!

あー悪かったな。お前の声が聞こえた!

助けてって…」

春人

「あー。信じらんないかもしんないけど、俺の相棒のショウはね、人の心の声が聞こえるんだ!凄いでしょー?」

ショウ

「なんでお前がドヤってんだよ!」

春人

「まあまあ。あのさ…君…本当は死にたくないんでしょ?」

ショウ

「大丈夫だ。お前の声が誰にも届かないなんて事は無い…

ちゃんと…俺に聞こえた!だから…もう大丈夫だ!大丈夫だ…」

春人

「人生は楽しんだもん勝ちだぜ?まだまだ楽しい事たっくさんあるのに、それを知らないで終わっちゃうの悔しくない?」

ショウ

「ほら!俺たちの手を取れ!ちゃんとお前の意思でその手を伸ばして、その手で未来を掴みとれ!」

春人

「ん?俺たちか?俺たちは…心の声の叫びを救う」

ショウ

「探偵さ」

END