意外な人物にも好かれる小林の仕掛け! RTDリーグ2017準決勝第3節11、12回戦レポート
9/3(日)14:00よりAbemaTV「麻雀チャンネル」にて放送された、RTDリーグ準決勝第3節11、12回戦の様子をお届けします。
レポートは、鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)がお送りします。
開始時のポイントはこちら↓
数年ほど前、近代麻雀という老舗雑誌で、言わずと知れた雀鬼・桜井章一さんとの対談企画があった。
雑誌を手に取られた方はご存知だと思うが、その対談相手として選ばれたのが小林剛だった。
なぜ流れ論者の雀鬼vsスーパーデジタル小林なのか?と、反響があったように思う。
この対談相手、実は選んだのは、近代麻雀側ではなく、桜井さん本人だったのだそう。
桜井さんが、強いと思う人として挙げた数人のうちの1人が小林だったというのである。
世間の感想としては全く交わらなさそうなイメージを持たれる2人かもしれないが、私にはどことなくしっくりきた。
その理由が、この11回戦によく表れていると思ったので紹介したい。
11回戦、小林が取った開局の配牌がこちら。
ドラが8sであるため、9sを残したくなるところ。
しかし、小林は、9sからターツができてアガりにくくなるよりも、發が重なったときの機動力を優先し、第1打に9sを選ぶ。
すると、重なった發をポンして、あっという間に戦える牌姿を作ってみせた。
ここに村上からリーチがかかるが、小林の1p4pのほうが早く、1500のアガリ。
論点は、この1500の価値をどう見るかである。
打点は確かに低いが、相手のリーチをつぶすことで、失点していたかもしれないところを逆にリーチ棒込みで2500の加点にしてしまった。
これは、差し引きで5000点分程度の価値(子方のリーチ平均打点が4000点程度で、自身がオヤと仮定すると、平均して2000~3000は失点しそう)があるのではないだろうか。
このように、小林の麻雀は、いわば「他家の決め手が出ないようにする麻雀」である。
RTDに出場する多くの選手が、少し無理してでも決め手を作ろうとする思考であるのに対し、小林は「チャンス手はそのうち勝手に入る。そのときのために相手の手をつぶし続ける」という思考に近いのである。
この辺りが、桜井さんの考え方に近いものを感じるのだ。
桜井さんは「動いてアガっていけばだんだん地運が育って決め手が作れるようになる」といういわゆる流れ論なのに対し、小林は「動いてアガっていれば、そのうち誰でもアガれる手牌は平等に勝手に入る」という発想。
流れ論vs合理主義という構図で見れば確かに真逆に見えるのだが、上記の思考に立ったとき、両者の行動は、実はほぼ同じになるのではないかと思うのである。
2本場でも、小林が軽快にダブ東をポンすると、8巡目にテンパイ。
平賀のリーチがかかった局面である。
ここから、小林は掴んだ2p、6sとあっさり押して6sで放銃。
終盤であるだけに、オリという選択もあるが、小林は押した。
このときの感覚が面白い。
「みんな、リーのみのリーチはかけるのに、仕掛けだとオリちゃうんだよね。この2900の両面テンパイは、そういうリーチと同じ。リーチ棒を出していないだけ、むしろ得ぐらいの感覚です」
これである。
しかし、これを実行するのは本当に難しい。
大事な対局であればあるほど、心が弱い方に流れ、オリたくなってしまうからだ。
こういう感覚をRTDリーグ準決勝という大舞台でも通せる小林は、精神面も非常に強いのだと感じる。
では、他のプレイヤーが真似できない仕掛けをする小林が、逆に「自分にはできない」といった1打はどんなものなのだろうか。
南1局、平賀がここからドラの8m切りリーチをかける。
この宣言牌8mを猿川にポンされた後、最終的には平賀が500・1000をツモアガったのだが、小林はこう言った。
「自分の仕掛けより、平賀さんのあのリーチのほうがよっぽどこわくない?こわくて、自分にはできないなあ」
これは、プレイヤーのバランスにもよるのだと思うが、小林にとっては、ポンされる可能性のあるドラ切りリーチで、自分がカン7pのリーチのみというのは、損な選択だということなのだろう。
この辺りの感覚も、桜井さんの言う「無謀」という感覚に近い気がするのである。
そして、その平賀にまくられた南4局。
小林は早々にダブ南をポンしてこのイーシャンテンまでこぎつける。
1000・2000条件のため、「その可能性が消える5sだけは鳴かないようにしようと考えていた」と語る小林。
当然のことながら、何でも鳴けばいいというわけではないのである。
結果、8pを引き入れると、8sツモで1000・2000。
「(降着の可能性もあるため、)テンパイした後は全部アガるつもりだったけど、ツイてたね」と語る小林。
ツイてた、か。
最高打点1000・2000でこの半荘を制してしまった小林を、ツイてたなんて思う者はいないだろう。
仕掛け出しの軽快さと、損得(≒桜井さんが言うところの勇気と無謀)の微妙なバランスの取り方。この辺りが、非常に雀鬼好みの麻雀であり、かつ、いわゆる今風の若手にも好かれる、小林の強さ。
それらが存分に発揮された小林の半荘となった。
12回戦では、開局と同時に白鳥にテンパイが入る。
マジョリティは2s切りの4s7sだろうが、白鳥は長考の末、打6sを選択した。
ドラまたぎの4s7sより、1sのアガリやすさと、よもやの5sツモでマンガンあり、打点を5200以上に決められる、固定概念に捕らわれない優れた1打だと思うのだが、結果は最悪。
すぐに7sを打たれ、自身でもツモ4s。
そのアガリ逃しの後、たろうがリーチ一発ツモで6000オールを決めた。
「ひきずった」と語る白鳥だったが、南1局に復活の一撃を決める。
佐々木がカン3sチー、ドラの2mポンで發バックのテンパイ。
すると、ドラを鳴かせた白鳥にもテンパイが入った。
これを受けたのが、トータルで後がないたろう。
トップ目なのでオリることはできるのだが、トータルを考えるとオヤ番で連荘していきたい欲が出る。
そんなたろうは、チートイツイーシャンテンから南を打って白鳥に8000を献上した。
たろう「あそこでオリるの嫌いなんだよね。南を抱えちゃうと失点しかないと思ってるから、白鳥が白を切って、もう切らないとヤバいと思って先に切った。南3局ならオリたけど、南1局のオヤだからオリられないなあ。じっとしててもまくられること多いし」
これに対する小林が面白い。
小林「南は、さすがにもう切らないほうがいいんじゃない?南は生牌だから、もう1枚いるし。麻雀牌は4枚あるからね」
同じようにデジタルのカテゴリーに分類されるたろうと小林だが、お互いの感覚を知った上でのこの違いが興味深かった。
この半荘は、復活した白鳥が、オーラスでドラ単騎のチートイツをリーチでツモり、大逆転の3000・6000。
白鳥が5位以下を引き離し、かなり有利なポジションに復活していった。
鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
■次回9/24(日)19:00から準決勝最終節をAbemaTV 麻雀チャンネルにて生放送予定