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九条 顕彰・台本置き場

消罪-しょうざい-男女逆転版

2022.01.05 15:55

声劇台本「消罪-しょうざい-」改変版

作:九条顕彰


※はじめに※

こちらは声劇台本となっております。

コピーなどでの無断転載、自作発言、二次創作はおやめ下さい。

ネットでの生放送(ツイキャス等)のご使用に関しては自由です。

※YouTube等での音声投稿や有償での発表(舞台での使用等)に関しては作者の方に相談してください。

使用報告なしで構いませんが、なにか一言あるととても励みになります。飛んで喜びます。

物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。

大幅なセリフ改変・余計なアドリブを多く入れることはおやめ下さい。



〜story〜

───「本当の罪は、一生消えない。」

これは、人を殺した女の、滅ぼすことの出来ない罪滅ぼし。



演者:2人



比率

♀:1 不問:1



上演時間:約30分




登場人物

アニス(女)

終身刑の囚人、人殺し


テリー(男or不問)

週刊誌記者、ヘビースモーカー

※終盤に出てくる「?役」はテリーが兼役でお願いいたします


※テリーのセリフは基本男性口調で書かれてあります。女性が演じる際は一人称を「あたし」にすれば男勝りの女性でいけると思います。



役表

アニス:

テリー:




〇本編セリフ〇



アニス:あんたはなにもわかってないわ…いい?本当の罪っていうのは、一生消すことは出来ないのよ


テリー(M):そういった彼女の表情は、まるで安堵してるような、優しい表情だった





───1週間前…車内で煙草をふかすテリー





テリー:…(煙草の煙を吐く)……くそ…なんで俺が…こんな仕事やらにゃいけねえんだ



テリー(M):雨音の響くレンタカーの車内、俺は肺の中に残ってる紫煙を吐き切ると、やる気の出ない重い体を動かし、ドアを開けた



テリー:はぁ…売れない週刊誌の端っこに載っけるネタのために、なんでこんなとこに…ついてないな…


テリー(M):数々の犯罪を犯した凶悪犯達が収容されている刑務所…俺は今日、先輩に仕事を押し付けられて、ここに収容されている、ある囚人の「取材」をする事になっていた…先輩も嫌がるくらいの「面倒な仕事」ってやつだ



テリー:面倒なら引き受けなきゃいいんだよ…というか、人殺しの残した言葉なんて…そんなの誰が読むってんだよ



テリー(M):俺は警備員に案内され、厳重なゲートをくぐり中に入る…囚人たちの暴言や看守の罵声がそこかしこに響いている…まるで動物園の猛獣ゾーンの檻を案内されている気分だった…ただ一つだけ安心なことは、こいつらは二度と、檻の外に出されることはないって事だ、そんな事を考えながら面会室に案内された



テリー:さぁーて、いよいよ殺人鬼とご対面かぁ…こんな仕事さっさと終わらせて、帰ってビールでも飲みたいぜ……それにしても…冷たい空間だな…窓のない、真っ白い壁…頭がおかしくなりそうだ


アニス:そうね


テリー:!?


アニス:けど、このガラスの向こう側にいけば、もっと頭がおかしくなるわよ?


テリー:あ、あんた…




テリー(M):いつの間に居たんだろうか…面会室の、分厚い透明なガラス板の向こう側に、銀髪のスマートな女性が、こちらを見て不気味にニヤリと笑っていた…こいつが今回の取材対象なのか…?確か、名前は…




アニス:私はアニス・グラントよ…看守から、私の事件の取材をしたい人がいるって聞いたんだけど?


テリー:あ…はい、どうも…えっと…週刊誌記者のテリー・キャデラック…です


アニス:ふーん、週刊誌、ねぇ…ニュースや雑誌は大嫌いよ、彼らは嘘ばかりつくから


テリー:い、いや…まあ、そうは言っても…彼らも、もちろん俺も、一生懸命やってるんですよ…仕事ですから…


アニス:へぇ?じゃああんたも、他の記者も、嘘をつくのが仕事なの?その嘘でお金稼いでんの?


テリー:えっ!?いや…それは…


アニス:…ふふっ、ごめんなさい、困らせてしまったわね…まあ、ニュースや雑誌記事の全てが嘘ばかりじゃないってのは分かってるわ…それに、あなたは嘘は書かない、そうでしょ?


テリー:な、なんで、そんなこと…言いきれるんですか?


アニス:あなたが真面目で馬鹿正直そうな顔してるからよ


テリー:馬鹿正直って…


アニス:目を見ればわかるわ、あなたは嘘はつかない…いや、つけない


テリー:…そんな事はないですよ…俺も、嘘はつくし…


アニス:ふーん、まあそんな事は置いといて、取材なんでしょ?私はあんたに何を話せばいいの?昔話?それとも、犯した全ての罪を懺悔すればいいのかしら?


テリー:!?ち、ちょっと待って…ください…えっと、1個ずつ、こっちの質問に答えて欲しくてですね… 


アニス:ちょっと


テリー:は、はいっ!?


アニス:その敬語やめて、嫌いなのよ、そういう話し方(←睨むアニス)


テリー:うっ…わ、わかったよ、わかったからそんなおっかない顔すんなって…じゃあ質問をはじめるぞ…まずは…


アニス:…


テリー:……誕生日は?


アニス:…は?


テリー:いや、だから、君の誕生日はいつだって聞いてる…


アニス:(吹き出し大笑いする)


テリー:へ?


アニス:あははははは!!なによ、それ!!最初の質問が誕生日って…あんた本当に記者?ここは合コンの席でも婚活パーティ会場でもないし、それに、ガキが大人をナンパするにはまだ早いわよ?


テリー:は?……あっ!?いや、ナンパとかそういうんじゃなくて、取材内容に書いてあってだな…って言うか、誰がガキだよ!!俺は大人だ!ガキじゃねえ!!!


アニス:あはは!悪かったわ、冗談よ、冗談!…ほんと、おもしろい子ね、話してて飽きないわ


テリー:ふん、そりゃ良かったな…


アニス:さてと、それじゃ…誕生日だったわね


テリー:…え?


アニス:私は8月15日生まれよ


テリー:……


アニス:ん?何ぼーっとしてんのよ?質問には答えたわよ?メモ取らないの?


テリー:!!わ、分かってるよ…


アニス:変な坊やね


テリー:坊やじゃねえ!……それに、変な、はこっちのセリフだ…(ボソッと)


アニス:なにか言った?


テリー:い、いや!なんでもない!じゃあえっと…次の質問は……



テリー(M):それから俺はアニスに様々な質問をした…出生、好きな食べ物、好きな曲……まあ正直な話、犯罪者にろくな奴なんていないと思ってたし、大量殺人鬼って聞いてたから、初めはどんな怖いやつが来るんだろうと身構えていたが…アニスは殺人鬼なんて雰囲気はひとつも見せず、むしろ気さくに全ての質問に答えてくれた



テリー:…あ、もう面会終了時間か…じゃあ、今日はここまでにしとこう…また明日、取材しに来るよ、今日はありがとな


アニス:……ねえ


テリー:?なんだ?


アニス:その記事、いつ頃出るの?


テリー:え?さ、さぁ…?俺に決定権はないし…上司の判断次第、だな…


アニス:…そう


テリー:どうしたんだ?


アニス:……なんでもない…ちょっと気になっただけ


テリー:?


アニス:また明日、来るんでしょ?


テリー:あぁ、そうだな


アニス:ならさっさと帰って、私も久しぶりに人と話して疲れたのよ


テリー:あ、ああ、すまない…じゃあ、また


アニス:…またね



テリー(M):「またね」、そう言った彼女の顔が、不思議と曇って見えた…



アニス:…なんで、私なのよ…なんでその話なのよ…思い出させないでよ…バカ…





───次の日、車から降りるテリー





テリー:ふう…さて、こっからがいよいよ本題(メインイベント)だ…



テリー(M):今日はアニスの犯した罪を聞きだす…これがメインの取材だ…昨日の質問は親交を深めるためのもので、正直どうでもよかったものらしい…上司の考えてる事は分からない…落ち着かないのか、いつもよりタバコに火をつける数が多い気がする



テリー:(タバコの煙を吐く)…問題は、ちゃんと話してくれるか、だな…まあ、心配しても仕方ない…行くか



テリー(M):警備員に案内されゲートをくぐる…相変わらずここは動物園だ…来て2日目だが、何度来ても慣れそうにない…重い足取りで、俺は面会室まで来た



アニス:あら、キャデラック、遅かったわね


テリー:!…す、すまない、準備に手間取って…というか、アニスの方は早かったんだな


アニス:ええ、看守に無理言って早めに待たせてもらってたの


テリー:…そうなのか…


アニス:…?なによ、どうしたの?今にも死にそうな顔して


テリー:い、いや…なんでもない


アニス:ふーん?さあ、今日はキャデラック記者様に何を話せばいいのかしら?


テリー:…


アニス:…?キャデラック?ねえちょっと?充電切れの機械みたいな反応しないでよ……ねえってば!


テリー:!!あ、ああ悪い……今日はな…アニス…アンタの犯した「罪」について聞きたいんだ


アニス:…


テリー:…あ、アニス…?


アニス:ふふ、なに、そんなこと?…改まってどうしたの?それがキャデラック様のお仕事なんでしょ?


テリー:だ、だって…はっきり言えば、怖かったんだよ…仕事とはいえ、罪を聞き出すんだから…


アニス:あのね、私を他の囚人の子と一緒にしないで、私はそんなことで子供みたいにキレたりしない、だからそんな怖がらないで


テリー:そ、そうだよな、悪ぃ


アニス:まあでも、私も犯罪者には変わりないけど


テリー:うっ…その冗談が冗談に聞こえないような言い方するの、やめてくれよ…心臓に悪いだろうが


アニス:ふふふ、ごめんなさい、けどそれは本当の事だから……まあでも、私の罪、ね…少しは知ってるんでしょ?


テリー:ああ…俺が学生のときだったから、うろ覚えだが…確か、住んでたアパートの住人を一晩のうちに全員殺した…だっけ


アニス:そうよ…しっかり覚えてるんじゃない


テリー:いや…近所に住んでたから…ただ人が殺されたって噂を聞いただけで事件の詳細は知らなかったから、母親と2人で一晩中震えたのだけは覚えてる


アニス:…なるほどね…怖がらせてごめんなさい


テリー:いや……それで、その…あんたはなんで、あの日、あの時…アパートの住人全員を殺そうと思ったんだ? 


アニス:全員、ね……本当はそんなつもりじゃなかったのに


テリー:え?


アニス:私はあの日、一生消えない罪を背負ったのよ


テリー:一生?…でもあんたは今ここで、自分の犯した罪を償おうとしてるんじゃねえのか?


アニス:償う…ね…


テリー:?


アニス:…あなたは何も分かってない……いい?テリー…本当の罪っていうのは、どんなに自分が償おうと思っても、一生消すことは出来ないのよ


テリー(M):そういった彼女の表情は、まるで安堵してるような、優しい表情だった



テリー:…何を、言ってるんだ?現にあんたはこの刑務所にいて、終身刑になって…


アニス:そんなもので、本当に償えてると思うの?


テリー:…え?


アニス:いい?よく覚えておきなさいテレンス、たとえどんなに小さな犯罪でも、犯した罪の重さも、その行為も、過去も…魔法でもない限り、変わることも変えられることも、もう出来ないのよ…


テリー:…


アニス:どこの刑務所に収容されようと、私がどれだけ改心しようと、犯罪を犯したことには変わらないわ…手を出してしまったものの重さに毎晩うなされながら、それでも生きていかなきゃ行けないのよ…忘れようとしても、忘れられないの


テリー:…アニス


アニス:あんたに、その重さが耐えられる?


テリー:…俺には……分からない…


アニス:分からなくていい…わからないでいて欲しい……人は殺すものじゃない…罪は重ねるものじゃないの…


テリー:どういうことだ…何を言ってるんだ?…あんた、一体あの日、何をしたんだ?


アニス:…残念だけど、時間よ、テレンス…続きはまた今度、ね…


テリー:え?おい、待てよ、まだ話は終わってないぞ…おい、アニス!!……行っちまった……なんなんだ、アイツ…



テリー(M):腑に落ちないまま、今日の面会は終了した…それから取材に行っても当の本人は現れず、しばらく取材と面会を拒否され続けた…




───────(間)3日後




テリー(M):あれから3日後、今日は向こうから連絡があった…取材の続きをお願いしたい、と……時間のかかる取材だとは分かりきっていた。けど、アニスのあの態度、あの言葉…あの時、明らかに様子がおかしかった…彼女は本当に、犯罪を犯した殺人鬼なのだろうか…俺は、仕事も取材も抜きにして、アニスのことをもっと知りたくなった…そしてまた俺は、あの冷たい部屋に入る




テリー:ア、アニス…


アニス:…いらっしゃい、テリー…この前はごめんなさい


テリー:あ…いや…大丈夫だよ


アニス:…なんというかその……あんな話でも記事になるの?


テリー:ああ…あれはどうかな…まあ最終的に文章に書き起すのは俺だから…あの部分も入れて欲しいなら、入れとくよ


アニス:そう…まあ、その辺はあんたに任せるわ


テリー:わかった…よし、それじゃ……この間の続きから始めようか


アニス:ええ…私の罪について、だったわね


テリー:そうだ


アニス:……ねえ、いじめってなんで起こるんだと思う?


テリー:…は?


アニス:だから、いじめよ


テリー:え?い、いきなり何の話だよ?


アニス:ちょっとね…気になったのよ…どこかの国では、「いじめられる方の心が病んでる」からカウンセリングを受けさせるそうなの…けど、別の国では「いじめる方の心が病んでる」から、カウンセリングを受けさせるらしいわ…どちらが正しいんでしょうね?…あんたはどう思う?


テリー:ど、どうって…うーん…まあ、「いじめる側」の心に問題があるのは間違いないよな…「いじめられる側」は周りより弱いから結果、そこを狙われるわけで…どちらが正しいとか、そういうのはないんじゃないのか……っていうか!その話がお前の罪となんの関係があるんだ?また適当に話をはぐらかそうとしてるんじゃないだろうな?


アニス:…私も昔…「いじめられる側」だったの…


テリー:!?


アニス:だから、私の心に問題があったから、あんなことしてしまったのかなって…私もあの時カウンセリングを受けていれば、こんなところに居なかったのかなって…少し思っただけ…けど、あなたの「いじめる側の心にも問題がある」という言葉には、少し救われたわ…私だけに問題があった訳じゃなかったのね


テリー:……アニス…俺は時々、あんたが分からなくなる…本当に、大罪を犯した殺人鬼なのか……それにしては…あんたはなんというか…優しすぎる気がして…


アニス:ふふ…優しい、ね…本当に優しい人間だったら、こんなとこにいるわけないでしょ


テリー:…そんなの、分からないだろ…


アニス:…さぁ、無駄話しすぎたわね……そろそろメインディッシュにしましょうか…私の罪について、あなたに全てを打ち明ける…ここからが長いから、しっかりメモするのよ


テリー:あ、ああ…


アニス:…んー、そうね…どこから話すべきかしら……私はあの日、本当は人を殺すはずじゃなかったの


テリー:まあ、大抵の犯罪者はみんなそう言うよな


アニス:ちょっと、その言い方は傷つくじゃないの…ただ「こうなるはずじゃなかった」をやらかしてしまうのが人間よ


テリー:それは…俺にも経験はある


アニス:ふふっ、正直でよろしい…じゃ、続けるわよ……あの日は…仕事帰りだったの…私は当時…同居人と2人で…事件を起こしたあのボロアパートに住んでいたの…2人で何とか家賃をやりくりして、生計を立てていたのよ


テリー:ち、ちょっと待て…同居人?同居人がいたのか?それは初耳だぞ


アニス:ああ……あの子の事については、あの当時の記者にも警察にも……誰にも話してなかったから……言いたくなかった…あの子は私の唯一の友達……友達、だった


テリー:?どういう事だ?


アニス:…あの日、残業でいつもより帰りが遅くなってしまって…あの子の誕生日だったって事をすっかり忘れてたの……思い出した時にはもう日付が変わってて…仕方ないから、あの子の好きなビールを買って、忘れてた事を誤魔化そうと思って……玄関を開けた……そしたら……


テリー:…?


アニス:…………集団レイプされてたの…あの子……アパートの上の階に住んでた…頭のおかしいヤク中共に


テリー:!?


アニス:薄明かりの中で見たあの子の姿は……顔も体も殴られて、ボロボロにされて…ひどい有様だった……元々は綺麗な容姿をしてたの…遠目から見ても、女なのか男なのか分からないくらいに…綺麗だった…


テリー:…そう、だったのか…


アニス:……私が、「どうしたの、何があったの?」って聞いても、何も答えてくれなくて…ようやく口を開けたと思ったらあの子…虚ろな目で私を見て、言ったの……「殺して」って


テリー:…え?


アニス:びっくりしたわ…開口一番に「殺せ」だなんて……お願いだ、殺して欲しい、こんな汚れた身体でいたくないって何度も何度も……私にすがって泣きついてきて…!私はそれだけは出来ないとキッパリ言ったわ…!ちゃんと病院に行きましょう、警察行きましょうって、何もあなたが死ぬことなんかないって……そしたら、あの子…泣きながら言うの



-回想-


?(テリー兼役):キミには分からないよ…こんな…汚されて…消せない傷を背負ってまで、それでも我慢して生きろなんて、そんなの、出来ない…ねえ、なんで…?なんで、早く帰ってきてくれなかったの…?早く帰るって言ってたくせに…!約束したのに…!!…ずっと、呼んでたのに…あの時ずっと…助けて、アニスって…


-回想終わり-



 

アニス:……あの子…まだ頭が混乱してたんでしょうね…まるで、私が悪いみたいな目をして見つめて、そう言ったのよ


テリー:…それは…偶然が重なった悲劇だったんだ…それにアニスは何も悪くないだろ


アニス:けど本当は早く帰るはずだった!!約束してたのよ…!!それを忘れて私は……私が忘れてなければこんな事にならなかった……それが私の1つ目の罪…2つ目の罪は、あの子を守れなかった事…そして、3つ目の罪 


テリー:3つ目?


アニス:……私は、あの子を殺した


テリー:…!


アニス:……泣いてすがりつくあの子が、まるで昔の自分を見ているようで……辛かった、苦しかった、耐えられなかったの……あの子の最期に言った「殺して」が聞こえたあとは、もうなんにも覚えてない……気づいたら、身体中、血まみれで……血の海の中に立っていて……あの子のことも、上の階のヤク中どもも……関係の無い、他の人間も…全員……この手で……


テリー:アニス…


アニス:……この「罪」を消せると、償えると、本気で思う?…私が改心すれば?生きてさえいれば?いつかきっと償える?許してもらえる?……答えは、無理…無理なのよ、テレンス…たとえ全て許されたとしても、終わってしまったものを消すことは出来ない…失くしてしまったものを取り戻すことは出来ないのよ…二度とね…


テリー:……確かに…アニスの言う通りだ…過去は変えられない…たとえどんな理由があろうとも罪は罪…あんたの犯した罪も、消すことは出来ないだろうな…これからも悪夢にうなされ続けて、この冷たい壁の中で毎日を過ごすわけだ…


アニス:…


テリー:けど!!!


アニス:?!


テリー:けどなぁ!!それに縛られてんなよ…!勝手に!自分を縛りつけてんじゃねえよ!!


アニス:…っ!!


テリー:俺にはあんたの罪も!気持ちも!もちろんあんたの友達(ダチ)の気持ちも、何ひとつ分からねえさ…!!……俺があんたの立場になったら、もしかしたら同じように思うかもしんねえ…考えるかもしんねえ…けど、自分で自分を縛りつけたら、元も子もねえだろ!償う気持ちが少しでもあるんなら、その心を見せればいいんだ!まだ許されてないと思うのなら、許されるまで頑張ればいいんだよ!!全部あんた1人で背負わなくていいんだよ!!!


アニス:テリー…


テリー:…俺が、あんたの罪を消す

 

アニス:?!…ふふ…負けるわ、あんたには…でも…どうやって私の罪を消す気なの?


テリー:…あんたが今、俺に話してくれたことを、あんたの事件の事実を、包み隠さず全部記事にする!あんたの最後の一言まで全部!嘘偽りなく書く!……そんな事で、あんたの罪の全部を消せるなんて思ってねえし、あんたの事を完全に救えるとは思ってねえ…けどあんたを縛りつけてる枷が、鎖が少しでも軽くなるなら…上になんと言われようが俺は最後まで書く!だから!!!


アニス:ぷっ…あはははは!!


テリー:あ、アニス?


アニス:はーあ、本当におもしろいわね……楽しみにしてるわ、テリー…あなたが私の背負ってるものを軽くできるのか……取材に来たのが…話を聞いてくれたのが、あなたで良かった…ありがとう


テリー:な、なんだよ、改まって礼なんて…なんか恥ずかしいだろ 


アニス:あら、照れてるの?可愛い


テリー:照れてねえよ!バカ!


アニス:ふふふ…さあ、もう時間(タイムリミット)よ…帰り、気をつけて


テリー:ああ、そうか…じゃあ、また来るよ、アニス


アニス:……いいえ…さようならよ、テリー



テリー(M):その後、俺は早速、アニスとの会話を記事に起こし、上司に直談判して、この記事を大々的に載せてもらうことになった。そのことをアニスに報告しようと、俺は刑務所に向かった…



テリー:…は?ちょっと待って…今、なんて…なんて言ったんですか…?



テリー(M):看守の報告に思わず耳を疑った…彼女は、隠し持っていた針金を凶器に、首を切り、死んだそうだ…つい1時間前の出来事だった…まるで俺がここに来る事を予知していたかのような死の報告に、俺は愕然としていた…その後、俺は看守から、一通の手紙を受け取った


テリー:差出人は…アニス…?



───テリー、アニスからの手紙を開ける



アニス(M):ハァイ、テレンス、元気?あなたがこれを今読んでるってことは、私は死んだってことね…なぁんて、ありきたりな文面はさておき…まずは…ごめんなさい…あなたが書いた記事を読むことが出来なくて…そして、死んでしまって…本当にごめんなさい。


テリー:なんだよ…本当だよ…あんたのために書いたのに…あんたを救うために書いたのに…なんで死んだんだよ…馬鹿野郎


アニス(M):あぁ…私が死んだ理由…ね…そうね……あなたにはきっと、一生分からないでしょうね……いいのよ…あなたは分からなくていい、わからないでいて欲しい……まあ、ただひとつだけ言えるとしたら、これが私が出した「こたえ」って事ね………最後に、ありがとう、テリー…あなたに出会えてよかった…あなたと話せて楽しかった…面と向かっては言えなかったけど、あなたはあの子にそっくりだったの…


テリー:え…?


 

───泣くアニス、涙で文字が歪んでいる



アニス(M):…あなたは、本当にあの子に似てた……話し方も、声も、顔も……また最愛の友に出会えた気がして…許されたような気がして…本当に、嬉しかったの…


テリー:…アニス…


アニス(M):…ふふ…こんな事で泣くなんて…私も歳をとったのかしら……あの日のあなたの言葉のおかげで、心の枷が外れたわ…本当にありがとう……私は死んでしまったけど、あなたが忘れない限り、私はあなたの心の中で生き続ける……覚えておいて…人が本当に死ぬ時は、肉体が消えた時でも、魂が消えた時でもない…人の記憶の中から…心の中から、忘れら去られた時よ……さあ、お別れの時間よ…いつかまた、どこかで会える日を願って……さようなら……親愛なるテリーへ…アニスより


テリー:……ああ…あぁ…忘れないよ、アニス……あんたのような、凶悪で残酷で、優しい囚人が、この世に居たって言うこと…たとえ他のやつが忘れても、俺は……俺だけはずっと、お前を忘れない…約束だ



テリー(M):「忘れる」というのは、時に酷く残酷で、時に酷く恐ろしく、そして時に酷く優しい…彼女が本気で、自身の罪の呪縛から解放されたと願ったのなら、なぜ「死」という道を選んだのか……それはもうきっと、彼女自身にしか分からない。……以上、雑誌記者、テリー・キャデラックより…この雑誌をご購読頂き、本当にありがとう。またいつか、この雑誌でお会いしましょう。




終わり



あとがき

「忘れる」ということの罪の大きさは計り知れない。

しかし、それは時に優しさに変わるのかもしれない。