スクリーンに放つ衝撃波
映画「ア・プラスティック・オーシャン (A Plastic Ocean) 」は、海洋汚染の広がりに人々の関心を引きつけるのに役立っている。ジェイムズ・P・グラハムがその重大性に言及。
翻訳:浅野 綾子
「ア・プラスティック・オーシャン」、クレイグ・リースン (Craig Leeson) 監督。ブレインストーム・メディア、2016年。www.plasticoceans.org
この映画をまだ見ていなくて、ただの環境ドキュメンタリーの1つにすぎないと思っているなら考え直してください。この映画は、地球上の秘境中の秘境であるいくつかの場所へと私たちを連れて行く冒険映画。そこで私たちが目にするのは、人間性の成れの果ての暗闇-悪夢ともいうべきもの、人間のプラスチック中毒なのです。
2人の主人公は、クレイグ・リースン (Craig Leeson) とタニヤ・ストリーター (Tanya Streeter) 。二人とも海の世界とつながりがあり、一目置かれる正直さに影響力、信念をもって、この驚きの物語の詳細を伝えます。
捕獲が難しいシロナガスクジラのドキュメンタリーを撮影している最中、汚れない海であるべき場所に、リースンはプラスチックのごみを発見。これは彼の探求を根本から変えました。プラスチック汚染の驚くべき真実を明かし、白日の下にさらす決意をしたのです。
ストリーターは、環境活動家に転身した元フリーダイブの世界チャンピオン。例えば、家がゴミ捨て場と化した南太平洋のツバル島出身者に出会った場面では、偽りのない思いやりの心を見せ、ストリーターは映画を血の通ったものにしています。
4年間の長い旅の間に映画のチームは世界20ヶ所を回り、最新鋭の機器を使って海の壊れてしまいそうな状況を探り、海洋生態系や人間の健康に対するプラスチック汚染の影響を明らかにしています。
この映画の表現方法は人間味に溢れかつ正確であり、あらゆる年齢と知識レベルの人たちの関心を惹きつけるものとなっています。大きなプラスチックでできた物の数々が、海鳥や魚の体内から見つかるのは衝撃的で、この映画が明らかにしたいくつかの事実に私は不安を隠せませんでした。プランクトンの数の多さは、プラスチック微小粒子に比べて、たった2対1の割合でしかない、というような事実です。
この映画のメッセージは、滅亡の流れを反転させるべく力を貸して欲しいという切なる願い。どうやって? 映画は、以下3つのRを提案します。Refuse:使い捨てプラスチックを断る。Reuse:手持ちのプラスチックを何度も使う。Recycle:できる時はいつでもリサイクルをする。熱分解の技術に対する投資の強化についても提案しています。熱分解とは、プラスチックを燃料に分解する科学反応。航空母艦内のプラスチックのごみ処理に、アメリカ軍によって使われたのが始まりです。
「ア・プラスチック・オーシャン」は、海洋に関する特別会議の一端として今年6月に国連で上映されたのを含め、マルタ島からマリブに至るまでの上映を経て、国際的な賞賛を獲得してきました。海をきれいにする地域活動を次々に生み出しています。例えば、アメリカのロードアイランド島のミドルタウンでは、成功を収めたレジ袋使用禁止運動の支持者たちが、この映画の影響を受けていました。「プラスチック・オーシャンズ・ファウンデイション (Plastic Oceans Foundation) 」は、「ア・プラスチック・オーシャン」に資金提供した団体ですが、「ア・プラスチック・プラネット (A Plastic Planet) 」という草の根の団体を立ち上げるのに一役買っています。「ア・プラスチック・プラネット」は、スーパーマーケット企業に、店内にプラスチックフリーの商品が並ぶ通路を導入するよう交渉するロビー活動を展開中。ほとんどの環境映画に見られるように、この映画においても、今日の状況は希望のない暗澹たるものとして描かれています。未来は、人類の変える力、何度も何度も変えることは不可能だと私たちが証明してきたことを変える力にかかっているのだと。その意味で、映画にできることは事実を提示し解決策を提案するだけなのです。「ア・プラスチック・オーシャン」が素晴らしい映像で事実と解決策の全てを見せてくれるように。結局のところ、どうなるかは私たち次第なのです。
ジェイムズ・P・グラハム (James P Graham) は、イタリア・エトルリアに住む芸術家。www.jamespgraham.com
304: Sep/Oct 2017