For you 完全版_2
第1章 Seacret of my heart
はらはらと、櫻の花びらが舞い散る佳き日
京都のとあるホテルで、ひとつの儀式が執り
行われた
服部家
遠山家
並ぶ名前に、背筋が伸びる思いがした
また、招待された一族の重鎮達の顔触れに、
さらに普段とは違う緊張感を覚えた
ならよかったんやけど
服部平蔵 長男 平次
遠山銀司郎 長女 和葉
並ぶ2人の名前と、その結納式の招待状を手に、重鎮達はもはやどんちゃん騒ぎ状態
毎年、正月の服部邸の慌しさを手伝う和葉の成長を楽しみにしていたジイ達
お姫様が、とうとう一族に嫁いでくれるのか
と騒ぎ立て、
「オマエの今までの所業、無かった事にしてやってもええで、でかした!」
あまりの手放しでの喜び様に、おっちゃんの方が恐縮してしもうて
オカンが和葉をつれて来るなり、拍手喝采で
堅苦しい席はええから、早う、と大喜びや
おっちゃんとオレ、オカンで選んだ和葉の着物は、クリーム色と淡いピンクを滲ませたような生地に、繊細な刺繍が施された振袖
色白の和葉に映えるやろな、思うてたんやけど、想像以上やった
可愛ええ、可愛ええ、言われて、さながら和葉の撮影会並みの騒ぎ
「なぁ、オレは?」
「今日の主役は和葉に決まっとるやろが」
そう一蹴されたオレを、オカンらは涙を流して笑うてた
厳粛ムードなどどこ吹く風で、どんちゃん騒
ぎの賑やかな婚約式を終え、オレは和葉の手を取って、散歩に出た
桜が満開の中、羽織袴姿のオレと振袖姿の和葉で歩く
やってみたかった恋人繋ぎをして、揃いの指輪をして歩き、恥ずかしそうに頬を染める和葉と、ゆっくりと過ごした
「1500年は経ってへんけど、教えたるわ」
オレがあの寺で見かけた子は、オマエや、と
言うと、ぽかん、とした顔をした和葉
証拠として、オカンの実家に保管されとった
和葉がオカンの秘書兼執事の西條と一緒に車
の前で笑う1枚を見せた
赤い着物、鞠、ツインテール、薄化粧
全部、オレの記憶にある桜の木の下に居たあの少女や
「いつから、気付いてたん?」
「最後は、工藤らを見送った時、確信してん
姉さんを、嫁さん、と間違えとんのはオマエ
だけやったし」
平次はいけずや、と言う和葉
私は、あの後、アンタも桜も京都も嫌いにな
りそうやったのに、と
「そらスマンかったなぁ〜
まぁ、ええやん、結局オレは、同じオンナに何度も惚れただけの話や」
平次、と言うと、和葉が笑う
あー、お化粧ってアカンね、と
「何でや?今日そんな塗ってへんやろ?」
「せやけど、くっついたら紅が付いてしまうやんか」
ちゅーしたいんに、と俯いている様子は破壊力満点の愛らしさ
口紅を持ってへんと言うので、オレは、頬と
唇ギリギリにキスをした
真っ赤に染まる和葉は可愛ええ
「早う帰って、着替えていちゃいちゃしたいなぁ〜」
「うん、せやね!」
繋いだ手をぶんぶん振って、ホテルまで戻ったオレらは、その後そのまま和葉のオカンが眠る場所へ、揃って向かう
「おばちゃん、約束は果たしたで」
え?
和葉に、和紙をブックカバーにした手帳を差し出した
「これ、何?」
「ブックカバーは、オレが紙を選んで掛けたんやけど、中身はおばちゃんから預かったもんやねん」
「お母ちゃん?」
「平次!アンタ、一体」
おばちゃんの、最後の日記や
平次!と言うオカンの非難めいた声に、オレは、言うた
「最後に、おばちゃんと話したんは、オレやったんや」
おばちゃんが亡くなる前日
一瞬、席を外したオカンと和葉
その時、おばちゃんが言うたんや
「平ちゃん、おばちゃんのお願い、聞いてくれる?」
「おぅ、おばちゃんの頼みなら、特別に聞いたるで?」
生意気な5歳児に、優しい笑みを浮かべたおばちゃんが言うたんや
大事な、大事なお願いやって
和葉が、泣き止むまでは、変わらず傍に居ってあげて欲しい
そして、いつか
2人がそれぞれの道に進む事になった時
もしくは
2人が一緒に歩く事を決めた時
これを、和葉と銀司郎さん達に渡して欲しい
それが、おばちゃんの願い
「バラバラの道を選んでも、一緒の道を選んでも、和葉と平ちゃんには縁がある
オトナになって、よう考えて決めた道やったら、おばちゃんどんな道かて応援する」
和葉も、平ちゃんも大好きや
そう言うて、その時が来るまで、平ちゃんが持ってて、言うて、オレの幼稚園バッグに入れたんは、おばちゃんやった
それからずっと、隠し場所を変えながら、もう12年守り続けて来た秘密の手帳
これは、おばちゃんの最後の日記帳やねん
おばちゃんが、特別にオレは、読んでええと
言うてくれたから、もう何遍も繰り返し読んだんや
忙しいダンナの身を案じ、オレや和葉の成長を喜び、忙しいながらも幸せを噛み締めとる様子から
体調を崩して、病院で告知を受けた後の揺れ動く気持ちまで
隠す事なくおばちゃんの本音が詰まっていた
遺して行かねばならない娘と夫に
共に協力して育児をしとる親友夫妻に
思いを託す内容が、ぎっちりと書かれとって
乱れる文字で書かれたオレらに向けた言葉は
遺言であり、ラブレターやった
おばちゃんが亡くなった当初、おっちゃんに一度だけ、訊かれた
和美から、何か預かってへんか?と
昔から日記をつけとったおばちゃん
おっちゃんは、当然、最後の日記の在りかを探しとった
「和美との、約束、なんやな?」
そう言うて、頷くオレの頭を撫でてわかったと言うたおっちゃんは、
最後まで、約束、守ってやってくれ
そう言うた後、二度と日記の在りかを尋ねはせんかったんや
そして、和葉にプロポーズするために、おっちゃんに勝負を挑んだ後、おっちゃんにこの手帳を預けたんや
一晩だけ、貸してくれ、と言うたおっちゃんは、その日、姿を消した
翌日、おっちゃんが、これは平ちゃんから和葉や静さんらに渡してくれ、と言うて、オレに返してくれたんや
「そんな大事なもん、アンタは」
「おばちゃん、ええの」
お母ちゃんは、間違うてへんかった
ちゃんと、平次が届けてくれるって、信じてたんやもん
時が来るまで、見守ってくれてたんや
「お母ちゃん、おおきに
ちゃんと平次から貰いました
大事に、大事に読みます」
そう言うて、おばちゃんのお墓に頭を下げた
和葉の隣に立って、その手をしっかり握った
「おばちゃん、約束通り、おっちゃんにも親父にも、勝ったで?約束はちゃんと果たした
せやから、約束通り、オレの和葉はもろうて
行くから、文句言うなや?」
アンタって子は💢と言うオカンをいなして、オレは和葉と手を繋いで、おばちゃんに別れを告げた
おばちゃん、また後で、な
そう呟き、隣で大事そうに手帳を抱える和葉と歩き出した
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to be continued