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シナリオの海

満ちて欠けては繋がって…

2022.01.06 00:07

上演時間60分程度

♂2︰♀︎2

■和物の台本です

■シリーズものです

※過去編・未来編・鈴と凛の2人の物語も近々投稿予定です

■途中殺陣(たて)のシーンがあります

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【あらすじ】

過去に恋人を亡くしたきり心に穴の開いた夏樹。

その夏樹にやきもきしながら何とか乗り越えて欲しい颯馬。

そしてその2人を思う鈴と凛…

そんな時、「妖を見たものがいる」という噂が流れ始める

その妖が夏樹の心の隙間につけ入り、夏樹は大切な人の命を危険に晒そうとしてしまう

果たして夏樹は過去の想いを断ち斬る事が

出来るのだろうか…

そして、彼らを想う2人の想いの行方とは…

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


【登場人物】

■速水 夏樹(はやみ なつき)27歳

→かつては名を馳せた剣士だったが恋人を亡くし抜け殻の様になってしまった。

友人の鈴が自分に思いを寄せてくれている事に気づきながら、過去の恋人、栞を忘れられずにいる。

幼なじみの颯馬と剣豪を夢見て共に修行に励んでいた過去がある。

真っ直ぐで正直者だが思慮に欠けて感情で突っ走ってしまう面がある。

妖に騙され、死んだ恋人の栞を蘇らせようと鈴と凛を生け贄にしようとする


■一ノ瀬 颯馬(いちのせ そうま)27歳

→夏樹と共に名を馳せた剣士。

     亡くなった夏樹の恋人の栞に密かに想いを寄せていた。

鈴とは異母兄弟だがその事は鈴には明かさずそっと見守っている。

思慮深く聡明で優しい性格だが、頭に血がのぼると夏樹よりも容赦が無い。

抜け殻になった夏樹を歯がゆく思いながらも何も出来ない自分の弱さを嘆き苛立っている。

自らに厳しく日々鍛錬を怠らない。

夏樹の企みに気づき、女装して凛の身代わりになろうとする大胆な一面も…


■朝比奈 鈴

(あさひな すず)23歳

→奔放で明るく無邪気で真っ直ぐな性格。

正直者で感情が顔に出やすい。 

一度決めたら意志を曲げない。

流行り病で亡くなっていく人々に心を痛めている優しい女性。

栞が生きていた頃から夏樹にずっと想いを寄せている。

栞が亡くなった事で、次は自分が夏樹と恋人になれると想い、栞の死を望んでしまったが、抜け殻の様になった夏樹を見て後悔している。

振り向いてくれない夏樹を思い続けるのが苦しくなり、妖への供物になることを望んでしまう。


■朝比奈 凛(あさひな りん)27歳

→颯馬に長年想いを寄せているが、誰にも話さずひた隠しにしている。

鈴が颯馬の妹である事。夏樹の恋人の栞に颯馬が想いを寄せていた事を知っている。

血の繋がらない事を知りながら妹の鈴を溺愛しており、鈴の身になにかあると命を賭けて守ろうとしてしまう。

朗らかで凛としていて、全てを包み込む広い器を持っている。

 夏樹を心配する颯馬に常にそっと寄り添っている。

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【満ちて欠けては繋がって…⠀】

速水夏樹 ︰

一ノ瀬 颯馬︰

朝比奈 鈴 ︰

朝比奈 凛 ︰

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ここから本編です

↓↓↓



【物語】

モノローグ

夏樹

「どんな痛みさえ

どんな悲しみでさえ

いつか忘れられる日が来るというのだろうか…


心はとうにこの穴をふさぐ事を諦め

あの日の月を今もなお

映し続けているというのに…」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<湖>

■湖にたたずむ夏樹

■夏樹をみつけ、声をかける鈴


(ため息)

「やっぱりここにいたのね。本当にあなたはここが好きねー。月は嫌いと言っていなかった?」


夏樹

「別に月を見に来てる訳じゃねえよ」


「では、何を見に来ているというの?」


夏樹

「湖面に映る月だ」


「それって結局、月を見に来ているって事ではないの?」


夏樹

(苦笑)

「俺の思いを誰かにわかって欲しいなど、はじめから思ってはいない」


「誰も入れ無いのね…その心には…」


夏樹

「心ねー。お前は入りたいと思うのか?」


「思いを寄せる人の心に入りたくなるのは、人の常ではないの?」


夏樹

「恋だ愛だなどとのんきに言ってられるのも、平和の証という事か…」


「夏樹が聞いたんでしょ?自分から聞いておいてはぐらかさないでよ!」


颯馬

「やめておけ。こやつには何を言ってももう届かぬ。どうやら遠い昔に、心を置き去りにしてきたようだ…」


「颯馬」


颯馬

「凛が心配していたぞ?お前がこんな時間になってもまだ帰って来ないと…」 


「空にはこうして月も出てる。まだ帰りを心配される様な時間では無いと思うけど?」


颯馬

「いくつになろうとお前は凛にとって大切な妹。可愛くて仕方が無いのだろう。心配ぐらいさせてやれ。それに…近頃妙な噂も流れているしな…」


夏樹

「妙な噂?」


颯馬

「妖を見た者がいると…しかもまさに今俺たちがいる、この場所で…

その妖がどうやら流行り病に関係していると…」


「妖…もしかして…また?」


夏樹

「単なる噂だろう?」


颯馬

「火の無い所には煙もたたぬ。火種があるからこそ燃えるのだろう?」


夏樹

「妖ねー…」


「ねえ?どんな妖なの?教えて?」


「不思議な事に誰もその姿を覚えてはいない…確かに見ているはずなのに…

彼らに共通して残っているのは、自分はこの湖に来て妖に会ったかもしれない。そんなぼんやりとした曖昧な記憶だけ」


「凛!」


「もう、鈴!ついこの間あんな事が起きたばかりなのに、まさか一人で出歩くなんて…」 


颯馬

「あんな事?」


夏樹

「あー。なんか数人の若い輩に絡まれていた事があったなー…そういえば…」


「私は何度も断ってるわ!なのに諦めがほんとに悪いの。お金や権力でなんでも自分の思い通りになると思ってる。恋文や贈り物を届ける事さえ自らは動かず人を使ってする…

そんなやつ、虫唾が走る」


■鈴の言葉に笑う夏樹


「なによ?何がおかしいの?」


夏樹

「端正な顔立ちをされていて、おまけに金も地位も名誉もある一国の主と聞いている。

しかも見染められれば一生の幸せが約束される。

国中の女どもが、あの手この手で必死に誘惑して落とそうとしているというのに…

そんなお方に向かって虫唾が走ると言い放つ物好きは、どこを探してもお前ぐらいのもんだろうなー…」


「お金や地位や名誉があればそれで幸せなの?そこに愛はなくても幸せだと言えるの?」


夏樹

「愛ねー。んー、どうだろうなー。そんな不確かで目に見えぬものより、手に取り、目で見る事が出来るものに価値を感じる。それは別段悪い事では無いと思うが?

所詮人は欲の塊。生きていくにはどうしたって金がいる。それは揺らぐ事の無い事実だろ」


「変わったね。夏樹ってそんなつまらない人だった?」


夏樹

「俺は変わっちゃいないさ何も。もし変わったと感じるなら…それはきっとお前自身の問題だろう?」


「変わったよ何もかも!少なくともそんな投げやりな言葉言うやつじゃ無かった。

そんな…死んだ様な目、してなかった…全部置いてきちゃったんだね…

ううん。栞が、持ってっちゃったんだね…

もういいや…もういい…

凛、何も言わずに出て来てごめん…帰ろう。颯馬、またね」


颯馬

「送るよ」


「ううん。凛がいるから大丈夫。行こ?凛」


「え?あ、ああ。待って、鈴…そんな早足で歩いたら危ないったら…鈴!」


■二人の姿が見えなくなったのを確認して口を開く颯馬


颯馬

「わざとか?」


夏樹

「なにが?」


颯馬

「鈴を諦めさせる為に、わざとあんな言い方…」


夏樹

「買いかぶり過ぎだ。俺は思った事を素直に言ったまで…」


颯馬

「素直が聞いて呆れるよ…言ってやればいいじゃないか…お前が心配でいつもそばにいて見守っている。だからいつでも助けられるのだと…」


夏樹

「同じ思いを返してやれない事がわかっているのに…半端に期待を持たせる様な事はしたくない」


颯馬

「まだあの日が尾を引いているのか…

あいつはもう、どうしたって帰ってこないのに…」


夏樹

「何が言いたい?」


颯馬

「生きている者としか…同じ時を刻む事は出来ないぞ?」


夏樹

「昔の事だから…もう戻って来ないから諦めろと?もう忘れて次の恋をしろとでもいうのか?

まだこんなにも生々しく残っているのに

あいつを抱きしめた手の感触も!

耳をつんざく様な叫び声も!

大切な人の命を目の前で為すすべもなく奪われたこの痛みも!!

目を閉じれば今でも鮮明に思い出せるほど焼きついている柔らかい微笑みも

俺を求めて何度も名を呼ぶ艶のあるかわいらしい声も

ただ思うだけで心があたたかくなる様な…まるで自らの一部の様に感じられた、

時に切なく、狂おしく、愛しいというこの思いも…

何もかもこうして、まるで昨日の事の様に生々しく残っているというのに!

忘れる事など、出来るはずがないだろう!」


颯馬

「夏樹。おまえは今ここに生きているんだ…あいつとは違う!あの日にずっと囚われたままでは、幸せにはなれない…」



■夏樹、颯馬の胸倉をつかみながら



夏樹

「お前に俺の気持ちが分かってたまるものか!!」


■颯馬、夏樹の胸倉をつかみ返して


颯馬

「わかりたくも無いわ!自らはこうして生きているのに…まるで屍の様に腑抜けになっているおまえの気持ちなど!」


■にらみあう二人

■諦めたように颯馬の胸倉を掴んでいた手を静かに離す夏樹



夏樹

「喧嘩を売りにきただけなら帰れ」


颯馬

「言われなくてもそうするさ…」


■颯馬、夏樹の胸倉をつかんでいた手を乱暴に離す


颯馬

「夏樹…やっぱりお前変わったよ…

喧嘩の1つもまともに出来なくなっちまったんだな…

少なくとも、俺が好敵手と認めていたお前は…もうどこにもいなくなっちまった…」


■颯馬が立ち去り、気配が無くなったのを感じて


夏樹

「どいつもこいつも言いたい事言いやがって…

忘れられるものなら忘れたいさ俺だって!

俺が本当は一番…あの日を、忘れたいんだ…」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<夜︰鈴の部屋>


「ねえ?返してよ?心まで…持っていかないでよ!

ずっと羨ましかった…当たり前にあいつのそばにいるあなたが…

あの日…あなたが命を落としたと聞いて、悲しいだけじゃなく

正直嬉しいと感じる自分がいる事に気づいてしまった…

あなたがいなくなれば…もしかしたらあるいは…次に振り向いてもらえるのは自分かもしれないと浅はかにも思っていた…

なのに…

あの日から…あいつは変わってしまった…



ねえ?これは罰なの?

あなたの死を少しでも望んでしまった…

少しでも嬉しいと思ってしまった私への罰…

手を伸ばせば触れられるぐらい近いのに…

近くにいるはずなのに…

まるであの人は、空に浮かぶ月…

どんなに手を伸ばしても決して届く事は無い…



こんなに苦しい思いをするくらいなら…

胸が引き裂かれそうなぐらい…こんなにも痛いものなら…

恋なんてするんじゃなかった…

こんなに醜い自分を知ってしまう事がわかっていたなら…

あの日あなたの死を望んだりなどしなかったのに…

いっそこの思いを忘れて諦めてしまえばどんなに楽だろう…



ねえ?心が欲しかったのよね?ならあげる…

持って行って…今すぐ私の心…奪い去って!!!!!


もう、こんな苦しいのは…嫌…

もう…疲れた…

疲れたよ…」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<夜があけて次の日>


■凛の家を訪れた夏樹と颯馬


夏樹

「今…なんと言った?」


「今朝、文が届いて…流行り病をおさめるには供物が必要だからと…

その供物になる心優しい者を求めていると…帝から…」


颯馬

「供物って…

ただの生け贄じゃないか!

なんで止めなかったんだよ!こんなのどう考えても、振り向いてもらえない事への単なる嫌がらせだろう!」


「止めたわよ!何度も何度も…でも…最後は鈴が自ら行くと言って行ってしまったんだよ…」


颯馬

「自ら…?なんでそんな愚かな事…」


「この流行り病でたくさんの命が奪われた…

誰にもなんの罪もないのに…

あの子は、その事に日々心を痛めて毎日の様に泣いていたんだ…

どうにかこの悲劇を終わらせる事が出来ないかと願っていた…

自分の命で他のものの大勢の命が救われるなら…

きっとそれが私の天命なのだとそう言って…」


颯馬

「あんの馬鹿っ!そんなものが天命であって良いはずないだろう!命の重さを…

大勢の命が救われれば一人の命が犠牲になっても良いなんて…

そんな正義があってたまるか!

また繰り返すのか…

あんなにも多くの者の心に穴を空けたあの痛みを…

あの愚かな行いを…

もう…充分だ…

大切なものを奪われるのは…もう…たくさんだ…」


■顔を覆い涙をこらえる颯馬


「颯馬」


夏樹

「どうして鈴なんだ…どうして…

供物は誰でも良いとそう聞いたのに…何故よりにもよって鈴なんだ…」


「供物は誰でも良いって…それ、どういう意味?」


夏樹

「えっ?あーしまった。俺とした事が…嫌、なんでも無いんだ。今のは忘れてくれ…」


「教えて!なにか知ってるなら教えて!あの子が助かるなら私はなんでもするよ!あの子は私にとってたった一人の家族なんだ!誰よりも大切な家族なんだよ!」


夏樹

「んー。参ったなー。

こんな話しするつもり無かったんだが…お前がそんなに言うなら仕方ねえ。

俺も聞いた話しだから詳しくは知らねえけど…

流行り病をおさめる為には土地の神様に供物を差し出す事でこれを治める…あの日も、そうだったよな?」


「ああ…そう、だったね」


夏樹

「替われるものなら、俺が替わってやりてー。

でも、男ではダメなんだそうだ…ただどうやら成人している女なら、誰にでも等しく供物になる素養はあるらしい…」


「成人している女性なら誰でも…」


夏樹

「待て凛!早まるな!自分が鈴の替わりに供物になろうなんて馬鹿な事考えるなよ?

きっと他に方法があるさ!

そうだ!俺、なにか他の方法が無いか探してくるよ…」


「でも!」


夏樹

「心配するな!

鈴ならきっと大丈夫だ!俺がなんとかするから任せろ!」



■走って外へ行ってしまう夏樹

■その後を慌てて追いかけようとする凛



颯馬

「おい待て!どこに行こうとしてるんだ!」


「離して…」


颯馬

「まさかあいつの言う様に自分が替わりになれば良いなんて、馬鹿な事考えてないだろうな?」


「お願いだから離して!私が行かなきゃ鈴が…私の妹が!あなたの妹が!はっ」


■あわてて口を閉じる凛


颯馬

「やはり…おまえは知っていたのか…」 


「鈴と私の血が繋がらない事は…母が生きていた頃に聞かされていた。

それを聞いても私は鈴が好きだったし、無論、大切な妹な事にかわりはなかった。

母は鈴のお父さんの写真をいつも大切に持っていて、私にも見せてくれたんだ…

あんたお父様似なんだねー

一目見てすぐにわかったよ」


颯馬

「本当はこの事は、誰にも言わず…墓場まで持って行くつもりだった…

これからも…誰にも言うつもりは無い

(ため息)

さっきは悪い事をしたな。

お前が悪い訳ではないのに…みっともなく八つ当たりをした…」


「わかっているさ。私にぐらい遠慮しないでなんでも言って良いんだよ?

あんたが言うつもりが無いのなら…私もこの事は、そっと心の奥深くに閉まっておくよ」


颯馬

「恩に着る。

やはりあいつは、すっかり変わってしまったんだなー。

失敗も多いが馬鹿正直で真っすぐで…なんだかんだ情にもろくて…俺には無いものをたくさん持っていて、喧嘩もたくさんしたが…それでもどこか憎めなくて…

どこか、敵対しながら憧れてさえいた…

なあ?俺はあの日…幼なじみだけでなく、好敵手までも同時に失ったのかな…」


「あの日失ったのはただの幼なじみではないでしょ?」


颯馬

「どういう意味だ?」


「あなたが…想いを寄せていた人…でしょ?」


颯馬

(苦笑)

「おまえにはほんと敵わんなー。全部お見通しという訳か…誰にも、この思いを言ったことなどないのに…」


「女の勘って奴かねー。

夕飯、食べて行くだろ?

私、しばらく買い物で留守にするから。この家には今からあんた一人きりだよ…」 


颯馬

「おまえ…いい女だな…」


「惚れたかい?」


颯馬

「はいはい。惚れた惚れた…」


「もう!いっつもそうやってはぐらかすんだから…もういいよ!買い物行ってくる」


■膨れる凛の顔を見て笑う颯馬

■出掛けるようとする凛


颯馬

「凛!」


「なんだい?」


颯馬

「俺がなんとかするから…馬鹿な事は考えるなよ?いいな?」


(ため息)

「わかったよ…鈴の事は、あなたに任せる…ありがとうな…颯馬」


■出かける凛

■自分の家が見えなくなって


(ため息)

「わかるに決まってる…

当たり前だろ?

私はずっと…あんたに思いを寄せているんだから。例えあんたの心にはあの人がずっと住み続けているとしても…

止められないんだよ、諦めようとしたって簡単に消せやしない…

そんな簡単に消せるものじゃないんだ…一度燃え上がってしまった恋という炎はさ…」


■凛を見送り、部屋に戻る颯馬


颯馬

「出かけたか…

ほんと…俺なんかにはもったいないぐらいの良い女だよ、お前は…

(ためいき)

想い人の命と親友の心だけでは飽き足らず

鈴までも…妹までも奪おうとするのか…

どれだけ奪えば気が済むんだ!!!

守る事も出来ずに…また失うのか俺は…

俺だけじゃ…何ひとつ守れやしないというのか…

畜生!畜生!

あーーーーーーーーー!!!!」


■声にならない叫び声をあげて壊れた様に泣きだす颯馬


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<湖>


■湖に来た夏樹。女性の後ろ姿を凛だと思い、声をかける


夏樹

「これしか方法が無いんだ…許せ…」


■手刀を首に振り下ろそうとする夏樹


颯馬

「いったい、誰と勘違いしているんだい?夏樹…」


夏樹

「颯馬。なんで?なんだよその格好…」


颯馬

「似合うだろう?

そういえばべっぴんさんになるから女形をやらないかと旅回りの座長に声をかけられた事もあったなー。

ここに来るまでも俺は男だと言っているのに、次から次に声をかけられてなかなかたどり着けなかった。

俺、生まれてくる性を間違えたのかなー?」


■自分が声をかけたのが女の着物を着てカツラをつけた颯馬だと知って驚く夏樹


夏樹

「なんで…まさか、なんで…お前が女装してくるなんて…」


■着物とカツラを取って


颯馬

「女物の帯は苦しいなー。

ふーっ。これで楽になった…

凛なら来ないぞ。俺が説得して、今家にいる」


夏樹

「え?そんな…どうして?鈴と凛、二人が揃わないと意味が無いんだ!」


颯馬

「どういう意味だ?」


夏樹

「約束したんだ!あいつを助けると…

だから優しい鈴には帝からの偽の手紙を送り、自ら望んで供物になる様に仕向けた。鈴が囚われれば凛は何を犠牲にしても助けようとするだろう。

だから…」


颯馬

「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか?

なんの罪も無い親友二人の命を、今まさに差し出そうとしてるんだぞ?」


夏樹

「颯馬!聞いてくれ!あいつは生きていたんだ!!!!

あの日こそ幻だったんだよ!

今は湖の呪いに囚われて出てくることは出来ないが、女、二人分の血があれば…

この湖から出られてまた前と同じ様に愛し合える」


颯馬

「呆れたな…妖にそそのかされでもしたか?

夏樹!お前だって本当はわかっているだろう?

どんなに辛くとも…

のどから手が出るほど欲しようとも…

それは叶わぬ望み!

死者は、決して蘇りなどしない!!!!」


夏樹

「違う!あいつは死んでなんかいない!死んだと思っていたのは俺たちの勘違いだったんだ!あいつは…栞は…生きていたんだよ!!!」


颯馬

「目を覚ませ!!!

あいつは、あの妖は人の心の隙間に付け入る!

見た者の望んだ愛しい者に姿を変え、操り、供物を…人を差し出させる…

そして生き血を喰らい、次々と増えていく…

流行り病の元凶は、まさにこいつなんだ!お前は騙されているんだ!」


夏樹

「流行り病の元凶とか、妖とか…俺には関係ねえ!!!

今目の前に栞が…愛しき人がいる!それだけが俺にとってはただ一つの真実だ!

邪魔をするならたとえお前とて容赦はせんぞ!」


颯馬

「そうか…言葉で言ったところで、もうお前には届かぬ様だな…なら、力づくで分からせてやるまで!」


■颯馬、刀を抜いて夏樹に向かって構える


夏樹

「俺はお前と勝負する気は無いんだ…頼むから邪魔をするな!」


颯馬

「刀を抜け、夏樹!その腰に挿しているのはただの飾りか?俺と勝負しろ!

お前はあの日に全てを置いてきたのか?

信念を持って刀を振っていたお前はどこへ行った?共に夢を追いかけていたお前はどこへ行った?

俺と喧嘩もまともに出来なくなったか?刀を抜け!この腰抜けが!!!」


夏樹

「ふっ。ずいぶん言いたい放題言ってくれるじゃねえか…

ちょうど良い。おまえとはいつか決着をつけたいと思っていたんだ。その口、二度と聞けない様にしてやるよ!!!」



■夏樹、刀を抜き、颯馬に斬りかかる



SE:刀の刃が当たっている戦いの音


■颯馬と夏樹、ここから激しく斬り合いを始める

■防戦一方の颯馬


夏樹

「なんだぁ?威勢が良かったのは始めだけか?煽った割にはさっきから守る一方じゃねえか」


颯馬

「相変わらずの馬鹿力だな…でもただやみくもに振りかざすは真の剣にあらず…

幼き日のお前の方が、よっぽど強かった!!!!」 


夏樹

「はいはい!ようは勝ちゃ良いんだろ?つまらねえ御託ばっか並べてねえで…さっさと来いよ!!!!」


颯馬

「まだだ…あと少し…」


夏樹

「何ぶつぶつ言ってんだ!さっきからいなすのが精一杯じゃねえか!てめえが売った喧嘩だろ?ちゃんと俺と真剣に勝負しろよ!馬鹿にすんのもいい加減にしろ!!!」 


■夏樹の剣が颯馬の腕を斬る


颯馬

「うあっ!!」


夏樹

(肩で息をしながら)

「これは遊びじゃねえんだぜ?相手と向き合う覚悟のねえ奴が、中途半端に振り回して良い道具じゃねえんだよ!わかったなら…さっさと帰れ…

加減した…今医者に見せれば大したことにはならんだろう。

俺だって、お前をこれ以上斬りたくは無い…」


颯馬

「(笑)」


夏樹

「何がおかしい!俺に腕を斬られて気でも触れたか?」


颯馬

「いつもよりだいぶ息があがってるなー夏樹。お前は自分でも気づかないうちに焦っているんだ…

わざわざ喧嘩を売った俺がひたすらにお前の剣をいなしてる理由が分からず戸惑っている…斬られてなお冷静な俺を見て、間違っているのはむしろ自分の方なのではないかと不安になっている…

邪心は迷いを生み…迷いは弱さを生む…

迷いのある剣では…なにも斬れぬ」


夏樹

(苦笑)

「言うに事欠いて、俺に斬られて腕から血を流しながらようやく出てきた言葉がそれか?

何も斬れぬだと?お前のその腕の傷はだれがつけた?俺が今、この刀で斬った!違うか?」


颯馬

「本当の剣とは、折れない心…迷わない心…すなわち信念とともにあるもの…

むやみやたらと周りの物を秩序も無く斬り刻む剣は剣とは言わぬ!本物の剣は…

斬りたいものだけを斬る…」


夏樹

「斬りたいものだけ…何言って…

はっ!まさか!お前の斬りたいものって…」


颯馬

「俺ははなからそれしか見てはいない…」 


夏樹

「やめろ!お前にだって栞が見えているだろ?」


颯馬

「ああ見えているさ…はっきりと見えている…

だから斬るんだ…ここで、本当の意味で断ち切るんだ…あの日を…

目を覚ませ夏樹!

お前が俺の本当の友なら…あの日を、超えてみろ!!!」


夏樹

「やめろ…」


颯馬

「せめてひと思いに斬ってやる…守りきれなくて悪かった。

この想い、伝える事は叶わなかったが、愛していたよ栞…来世はきっと、幸せになれよ!」


夏樹

「やめろー!!!!!!!」


SE:刀で斬る音


■颯馬、栞の姿をした妖を斬る

■夏樹、絶叫し、泣き崩れる


颯馬

「どんなに苦しくても…悲しくても…過去は決して戻らない…

死んだ人間が蘇る事などあろうはずが無い…

認めたくなかっただけだ…本当はわかっていたんだろう?お前だって…」


夏樹

「俺は…俺はなんて馬鹿な事を…鈴…凛…すまない…すまない…

はっ!颯馬、その傷…」


颯馬

「これぐらいどうって事ないさ…ようやく俺の親友が帰ってきたみたいだな?」


夏樹

「本当に悪かった!早く医者に診てもらおう!」


SE:着物を破く音


颯馬

「おい!お前何着物破いて…」 


夏樹

「止血だ。少しきつめに縛るから痛むぞ?」


颯馬

「くっ」


夏樹

「なるほどねー。いつの世も真に怖いは人間様~ってか…」 


颯馬

「気づいていたのか?」


夏樹

「お前のおかげでようやく目が覚めた…ざっと50…いや100はいるか…」


颯馬

「あー。概ねそれぐらいだろう。そういや俺ら、ちょっとばかり名と顔が売れてたんだったな」


夏樹

「そうだったな。真の黒幕が誰かなんて正直これっぽっちも興味はねぇが、俺はどうやら他人の手の上で転がされていたって訳だ。気に入らねぇなー。

颯馬。俺がてめぇを担いで行ってやりたいが、どうやらそうもいかねーみてえだ。一人で行けるか?」


颯馬

「俺もやる!」


夏樹

「お前その腕じゃ…」


颯馬

「どのみちこいつらが黙って通してくれるとは思えねえが?」


夏樹

「違いねぇー。やれるか?」


颯馬

「片腕もあれば充分だろ。一瞬で片付けてやるさ。お前こそ足を引っ張るなよ?」


夏樹

「俺を誰だと思ってやがる?

数が居ようが雑魚は雑魚。俺様に挑んだ事をあの世で後悔させてやる!」


颯馬

「俺達。だろ?」


夏樹

「あー。はいはいそうでした。行くぞ!」


颯馬

「おう!」


■夏樹、颯馬。斬りかかってくる雑魚(人間)を片っ端から斬っていく


SE:刀がぶつかり合う音


夏樹

「おい!颯馬後ろ!」


■夏樹、颯馬を斬りかかろうとする輩を斬る 


颯馬

「助かった」


夏樹

「これで一つ貸しだな」


颯馬

「夏樹、上!」


夏樹

「はっ?上?うわっ」


■颯馬、夏樹の頭上から飛びかかかって来た敵を斬る


颯馬

「これで帳消しだな」


夏樹

「なあ?

さっきからてめえの動き見てると、だいぶ血を流して目がかすんできてるみてえだな…あとどれぐらいもつ?」


颯馬

「この感じだと…3分が限度かな…」


夏樹

「3分か…」


颯馬

「足りないか?」


夏樹

「馬鹿言うな。1分だ…あと1分で片付けてやる」


颯馬

「油断するなよ?」 


夏樹

「お前もな」


■再び、それぞれ敵を斬りつけていく


SE:刀のぶつかりあう音

SE:斬られる音


夏樹

「あの日以来、あいつは1日も休まず刀を振っていた。いつかのその時の為に、大切な人を守り抜く為に刀を振ってきた。ただ己の力を振りかざし力を誇示したいてめえらみたいな連中がかなうはずねぇんだよ!!!!」


颯馬

「あれだけ瞳をキラキラ輝かせながら叶えようとしていた夢さえ投げ捨ててしまった。それだけ大切な人を亡くした。あいつの心の穴の大きさと深さなど計り知れぬ。ただあいつは生きてきたんだ!大切な人を失ってもなお…大切な人がいないこの世で…その痛みと悲しみを抱きながら、それでもなお今日まで、生き続けてきたんだよ!!!!」


夏樹

「そんな颯馬に」


颯馬

「夏樹に」


夏樹

「おまえらが」


颯馬

「てめえらが」


夏樹&颯馬

「勝てるわけねーだろーが!!!」

「勝てるわけないだろうが!!!」


SE:刀で斬れた音


夏樹

「愛していたよ栞…どうか、安らかに眠ってくれ…」


■全員敵を倒し終わった二人

■どこかへ消えようとする夏樹


颯馬

「おい!どこへ行く」


夏樹

「俺は、凛や鈴にひどい事をした。もう、合わせる顔がねえ…」


颯馬

「待て!うわっ」


夏樹

「颯馬!大丈夫か?」


■ふらつき倒れそうになる颯馬を支える夏樹


颯馬

「どうやら血を流したまま暴れすぎちまったみたいだ…

 なあ?合わせる顔が無いなら会わなくて良いから、せめてそこに括りつけられた鈴を、連れて帰ってくれないか?俺はこの腕じゃさすがに無理だ」 


夏樹

「しょうがねえなあ…はっ!」


SE:刀で大きな木を斬る音


■夏樹、括りつけられた木ごと、鈴を縛っていた縄を斬る


夏樹

「よっと。おい、お前は俺の肩使え…」


颯馬

「俺は大丈夫だ…」


夏樹

「そんな真っ青な顔して言われても全然説得力ねえんだよ!ほら…ほんとは紐でくくりつけて担いで行ってやりたい所だけど、背中には鈴を背負ってるし…俺の肩、空いてるだろ?せめて掴まれ…」


■青白い顔をしながら夏樹の肩につかまる颯馬


颯馬

「悪りぃな…」


夏樹

「いや。元はと言えば俺が斬った傷だし…」 


颯馬

「俺が妖を斬るためにけしかけたんだ…気にするな」


夏樹

「あーあ。もっと強くなりてぇなー!

悔しいけどあの人数、俺一人じゃとうてい無理だった…ありがとう、な?」


颯馬

「お前に礼を言われるなんて…明日は雪でも降るのか?」


夏樹

(笑)

「雪見酒かー。それはまた美味そうだなー」


颯馬

「夏樹」


夏樹

「ん?」


颯馬

「また、会えるよな?」 


夏樹

「なんだ?そんなに俺が好きか?」


颯馬

「まー。大切な幼馴染だからなー。好きか嫌いで言えば…正直嫌いではない」


夏樹

(笑)

「そうだなー…その答えは…きっと…あの月だけが、知っているさ…」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<夜:凛の家の縁側>


SE:秋の虫の声


■颯馬の手当をする凛


颯馬

「痛ってー!お前もう少し優しく出来ねえのかよ」


「なに情けない声出してんだよ。俺に任せろって言った結果がこれかい?無敵の剣士が聞いてあきれるねー」


颯馬

「妖に…やられたんだよ…」


「へー。この傷…どう見ても刀で斬られた傷に見えるのにねー」


颯馬

「別にいいだろ?」 


「はいはい…そういう事にしておいてあげるよ」


颯馬

「なあ?あいつは今頃どの辺りかなー」


「ふふっ…夏樹がいなくなって、寂しくなるんじゃない?颯馬」


颯馬

「俺が?まさか」


「本当に?」


颯馬

「俺じゃなくて、むしろあいつが、寂しくなるんじゃないか?」


「ふふっ」


颯馬

「お前こそ…寂しくなるんじゃないか?」


「ん?あー。まあ…ねー。

でも…いつかはこの日が来るって、どこかでは思っていたから…」


颯馬

「そういうもんかねー。まっ…そういう事にしといてやるか…」


「ねえ?颯馬?」 


颯馬

「ん?」


「まだ…月は嫌いかい?」


颯馬

「んー。どうも月はなー。なんか見てると切ない気持ちになっちまうんだよなー。満ちてもいずれは欠けちまうだろ?」 


「そういうもんかねー。私は人間らしくて親しみがわくけどねー」


颯馬

「人間らしい?どこが?」


「日によって、見る角度によって、いろんな表情があるだろう?それこそ人間みたいにさ。

調子の良い時があって、そうでも無い時があって…

でも、どれも趣があって良いじゃないか…」


颯馬

「ほう。なるほど、趣ねー」


「それに…欠ける時があるから、満ちた時幸せを感じる事が出来るんじゃないか?」


颯馬

「欠けるから…満ちる…」


「たとえばここ。心の真ん中におーっきな穴が空いたとしてもさー。

 たった一人でもその穴を埋めてくれる人に出会えたら…

 いきなりは無理でも…少しずつ少しずつその穴を小さくしていって、いつかはその穴を埋めていく事は出来るんじゃないかなーって…

こうやって月を見てると、なんか不思議とそんな風に思うんだよねー」


颯馬

「…」


「あいつの心の穴は、きっといつか埋めてくれる人が現れるさ…で、あんたの穴は、私が埋めてあげるから安心しなよ」


颯馬

「ああ。ん?今お前なんて言った?」


「はっ?聞いて無かったのかい?あきれた…もう知らない!

(独り言)

恥ずかしくて二度も言える訳ないだろっ…」


颯馬

「なあ凛?」


「なんだい!二度は言わないよ?」 

颯馬

「情けない話だが、まだ一人で見るのは正直怖いんだ…

だから…これから毎晩一緒に、俺と月を見上げてくれるか?」


「あたしで良いのかい?」 


颯馬

「あーもちろん。あっ、でも無理にとは言わない。駄目だったら良いんだ…」


「しょうがないねー。ここまで来たら腐れ縁。繋がったのも何かの縁。

行けるとこまで、ともに繋がっていこうじゃないか」


颯馬

「あぁこれからもよろしくな、凛。

さぁ、そろそろあいつは、追いついた頃かなー」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

<とある街>

■歩いている夏樹

■息を切らしながら走って追いかけてくる鈴


(息を切らしながら)

「ちょ、ちょっと待って…」 


■鈴に気づかずに歩いていく夏樹


「全然気づかないし…あーもう!」


■走って夏樹に追いつき、夏樹の着物のを引っ張る鈴


夏樹

「うわっ。はっ?鈴?おまえこんなとこまでどうした?」 


「や…っと追いついた…あんた歩くの早すぎ!ちょっとは後ろ振り向くとか一休みするとかしなさいよ!ど…どれだけ自分の育った故郷に未練が無いのよ!」 


■鈴、走った直後に夏樹にまくしたててせきこむ


夏樹

「鈴!大丈夫か?」


「なんで黙って行っちゃうの?せめて…せめてお礼ぐらい言わせてよ!」


夏樹

「お礼?」


「凛と颯馬から聞いた。夏樹が私の事助けてくれたんでしょ?ありがとう」


夏樹

「あー。いや、俺は別に…

颯馬もいたし…

それに…礼を言われる様な事は何も…

むしろ謝らないとならねぇっていうか…」


「いつ、帰ってくるの?」 


夏樹

「ん?さあなー?

まあ、いつか気が向いたらな…

わざわざこんな所まで見送りに来てくれたのか?ありがとな。じゃあ、元気でなー」


■鈴を置いて手を振りながら去って行こうとする夏樹


「ねぇ!夏樹はずっと1人でいるつもり?」


夏樹

「さあ?どうだろうなー」


「1人ぼっちは…寂しいよ?」 


夏樹

「……」


「私と一緒にいよう?夏樹が行くなら、私も一緒に連れてって!」


夏樹

「はっ?お前何言って…」


「私、強くなるから!もっともっと夏樹を支えられるぐらい!夏樹が頼りたい、甘えたいって思えるぐらい強くなるから!

だから…一緒にいよう?ね?」


夏樹

「俺の心にはまだあいつがいる…

俺は…もしかしたら、もう誰も好きにならないかもしれない。お前の気持ちに応える事は、一生出来ないかもしれないぞ?」


「それでも良い!私が…私が夏樹といたいの!

私がそばにいれば、泣いてる夏樹を抱きしめる事だって出来るよ?」 


夏樹

「俺は泣かねぇよ…」


「一人じゃ埋まらなくても…二人なら!

埋められるかもしれないよ?その心の穴、一緒に少しずつ埋めていこう?ね?」 


夏樹

「………」


「夏樹!ずっと一人ぼっちは…きっと寂しいよ?」


夏樹

「……」


「良いよ!夏樹が帰れって行っても私帰らないから!もう決めたの!止めても無駄だからね?」


夏樹

「女の一人旅なんて聞いた事ねぇなー。どうぞ襲ってください。って、鴨がネギしょって歩いてる様なもんじゃねえか」


「それは…なんとかする!」


夏樹

「なんとかって…

なあ?俺はしばらく戻る気はねぇ。颯馬や凛に次いつ会えるかわからねぇぞ?」


「それは…正直寂しいけど…でも!それよりも…夏樹のそばにいたい!」


夏樹

「明日食う飯も、安らかな眠りも、なんなら明日の命の保証さえ何も無いんだぞ?それでも良いのか?」


「良い!」


夏樹

「お前なー…少しは迷えよ」


「もう、私は後悔したくない!

あの日みたいにただ傷ついてるの見てるだけなのは嫌なの!

それに、人の命の火がいつ消えるかなんて、誰にもわからないじゃない」


夏樹

(笑)

「お前は本当に頑固だからなー。一度言いだしたら絶対に譲らねぇもんなー」


「そうだよ!よくわかってるじゃん」


夏樹

「最後にもう一度だけ聞く。本当に…良いのか?」


「これからあなたに降りかかる悲しみや苦しみの全てから、私はあなたを守るわ」


夏樹

「分かった。

お前の覚悟、しかと受け止めた

ならば俺も…今宵の月に誓おう。お前の事を身を賭して守り続けると。この命の火が消える、その時まで…」