君にアイを教えよう
■人間不信の男性とAIの物語です
■男女サシ劇用ですが愛役は女性ボイスの出る方であれば男性でもOKです
■マルチエンディングです。ラストAとB好きな方をお選びください
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【君にアイを教えよう】
連(レン)︰
愛(Al) :
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※作中の『』は連の回想及び心の声です
【STORY】
連
『 友人も必要最低限。恋愛も、告白されるから付き合ってはみるが当然続かない
笑わない。涙を流さないサイボーグ
周りが自分の事をそう呼んで気味悪がっているのを知っていた
その事になにも感じなかった…
俺はどこか欠落しているらしい
人と関わる事を仕事にする事が出来ずSEになった
SEなら、家から一歩も出る事なく、誰とも関わる事なく仕事が出来たので好都合だった
ある日悪友から、おまえにぴったりの仕事があると依頼を受けた
育児放棄された子供を預かって欲しいという
子供?俺に子育ては無理だぞ?
よくわからないまま
俺は半ば強制的に、その子供を預かることになった』
SE:インターホンの音
連
『送られてきたのは一台のアンドロイドだった。首に刻まれたコードNOらしき数字とバーコードさえ無ければ、正直人間かと思うほどによく出来ていた』
SE︰起動音
■アンドロイドを起動させて
連
「子供って聞いていたんだけどな。まさかアンドロイドだったとは」
愛
「私はNo00K37561LL4です。あなたは誰ですか?」
連
「コードナンバーか。初期プログラムのままだな。育児放棄…なるほど。開発者は名前もつけずに放棄したのか」
愛
「私はNo00K37561LL4です。あなたは誰ですか?」
連
「俺はレン。君に名前をあげよう」
愛
「レン。はじめまして。名前とはなんですか?」
連
「名前っていうのは、生まれてくる時に親が子供につける、その人を識別するための記号みたいなものだ」
愛
「識別?記号?親が子供につけるのが名前?なんで名前をつけるのですか?」
連
「なんでって…
んー
名前が無いと呼びたい時に不便だからさ」
愛
「名前無い。呼ぶ。不便…レンは私に名前をくれる…レンは私の親ですか?」
連
「まあ、そういう事になるのかな?」
愛
「名前…」
連
「君の名前は今日から愛だ。これからたくさんの人に愛されるように。俺は今日から君に愛を教えようと思う」
愛
「アイ…それが私の名前。アイサレル…
アイヲオシエル…
アイとはなんですか?私の名前では無いのですか?」
連
「愛は君の名前だ。でももっと別の意味もある
んー
愛にはまだ難しいと思うから、今日から一つ一つ教えてあげるよ。これからよろしく…愛」
愛
「はい。よろしくお願いします。レン」
連
『愛は思った以上に高性能だった。国で優秀だと認められたSEのみ名乗る事が許されている公認上級SEのプライドにかけて。と書き込まれたコードの解析を試みてはみたが、ロックが何重にもかかっていて初期プログラムのコードにたどりつく事さえ不可能だった。正直ここまで難解なのは初めてだ。
もしかしたら最先端のセキュリティとAIが搭載されているのかもしれない。
伝えた言葉はどんどんと吸収し、学習し、学習したところからさらに新しい知識を得る為に俺に毎日たくさんの質問をする。
3か月経った頃には、愛はアンドロイド特有の機械音では無く、まだぎこちなくはあったが、人間に限りなく近いなめらかな声で話すようになった』
愛
「レン。今日はもうオセロはしないのですか?」
連
「もう愛とオセロはしない。おまえ強過ぎなんだよ!俺じゃもう絶対勝てない…最初は俺のが強かったのに…」
愛
「ふふっ」
連
「なんで笑ってるんだよ?」
愛
「そんな顔したレンはじめて見ました。はじめての顔、かわいい。嬉しいです」
連
「おまえなー!かわいいって言うなよっ」
愛
「なぜ怒るのですか?私、なにかレンを怒らせること言いましたか?」
連
「おまえさ?なんでもなんで?なんでって…
いい加減にしろよ!
そうやってなんでもすぐ俺に聞かないで少しは自分で調べろよ!!!」
愛
「自分で…調べる…検索開始…エラー、エラー。禁止プログラムにつき、強制的に電源をオフにします」
連
「おい!愛、どうした?おい!
はっ。検索エンジンへの接続はプログラム上禁止されてたんだっけ。俺なにバカな事やってんだ。あーもう!愛相手に何ムキになってんだよ!ごめん愛。ごめん…」
愛
「なぜレンがあやまるのですか?私がレンを怒らせた。怒らせた私が悪い…」
連
「違うんだ、愛。愛のせいじゃない。俺が、ただ大人げなかっただけなんだ…」
愛
「私のせいでは無い。なぜですか?大人げないとはなんですか?あっ。なんでも質問してはいけないのに…でも自分で検索はかけられない…」
連
「愛、大丈夫だ。聞いて大丈夫。俺が全部教える」
愛
「でもレンはもう、私に質問されるのは嫌なのでは無いですか?」
連
「そんな事無い!俺が教えたのに、おまえのがオセロが上手くなって…その…悔しかったんだ」
愛
「悔しい。私が上手くなると、レンは悔しいのですか?」
連
「愛は元々俺なんか比べ物にならないくらい、遥かに賢いんだよ…」
愛
「私が賢くなる事でレンが嫌な気持ちになるなら、私はもうこれ以上賢くなんてなりたくありません!」
連
「愛は優しいな。賢くなる事は悪い事では無いよ。悔しいとも…んー正確にはちょっと違うかな」
愛
「悔しいとは違う。ではなんですか?」
連
「んーと…そうだな…寂しい。かな?」
愛
「寂しい?」
連
「そう。どうしたって愛のが俺より賢いんだよ。愛はそのうち俺の知能をあっという間に追い越してしまう。そしたら俺はいらなくなる」
愛
「いらない?」
連
「あー。お前にとって役に立たなくなるんだ。おまえに教える事の出来無くなる俺なんて、必要無いだろ?」
愛
「レン!私、今なにかレンの役に立ってますか?」
連
「えっ?」
愛
「今私は、レンにいろんな事を教わってます。レンに聞かないと私は何もわからない。
私がレンの役に立っているとは思えません!
役に立たない私は、レンには必要ないですか?」
連
「愛…違う!そんな事無い!」
愛
「役に立たない私でも必要なんですか?それはなぜ…」
連
「何故って…俺は愛の親だし、愛と毎日話してるの楽しいし、愛が俺が教えた言葉を覚えて使って成長してくのがすごく嬉しいし…それに…大事だから一緒にいたいんだよ。役になんて立たなかったとしても、俺は愛が大事なんだ!」
愛
「レン。私も同じ気持ちです。私にとってレンは親でもあり大切な人。役に立つとか立たないとか関係なく、大事だから側にいて欲しいのです。それでは…ダメ、ですか?」
連
「愛。ありがとう。俺が悪かったよ。ごめんな?」
愛
「いえ。レン。これはもしかしてケンカというやつだったのでしょうか?」
連
「愛はどう思うの?」
愛
「最初はレンを怒らせてしまって悲しかったです。でもレンが自分をいらないと言った時は悲しいと同時に、腹がたちました」
連
「うん。まあケンカみたいなものだね。
ケンカはね。お互いに相手の事をわかりたい。
相手に自分の事をわかって欲しいって思ってするんだ。
ケンカのあとは仲直り。だな」
愛
「はい。ずっとレンとケンカしたまま、それはすごく悲しいです。仲直りしてください」
連
「ああ。ありがとう愛。俺もごめんな。仲直りだ。あっ、仲直りの印にってわけじゃないけど…はい」
愛
「うわー。これは洋服というやつですか?」
連
「そうだよ。愛はずっと同じ服だったから買ってみた。なにか好みのものがあるといいんだけど…」
愛
「ありがとうございます。これがプレゼントというんですね。
こんなにたくさん、とっても嬉しいです。大切にします」
連
「良かった。プレゼントはね、大切な人にだけ贈るんだよ」
愛
「そうなんですね。プレゼントは大切な人にだけ……
レンは私にとって大切な人
私もいつか、レンにプレゼントします!」
連
「ほんと?楽しみに待ってるよ。
あっ、1つお願いがあるんだけど」
愛
「なんですか?私で叶えられるお願いでしょうか?」
連
「うん。むしろ愛にしか叶えられない」
愛
「私にしか叶えられないお願い…
なんでしょうか?」
連
「敬語じゃなく、タメ口でしゃべってくれたら嬉しいんだけど」
愛
「タメ口とはレンがしゃべっている言葉ですか?」
連
「うん。敬語よりタメ口の方がさ、なんか距離が近いっていうか…」
■愛、連にめいっぱい近づいて
愛
「距離…距離?
私はこれ以上、レンに近づく事は出来ません」
連
「んーと。愛?ちょっと近いから離れてくれる?」
愛
「離れる?はい。分かりました。これで良いですか?」
連
「ありがとう。
んー。物理的な距離っていうか…
心の距離かな?
んーなんて言えば良いかなー。
あっ!もっと仲良しになれる!」
愛
「もし私が敬語をやめたら、レンは嬉しいのですか?」
連
「うん!とっても嬉しい!」
愛
「レンが嬉しいと私も嬉しいです。では、次は敬語をやめて、タメ口で話せるように頑張りますね」
連
『愛はAIだという事を時々忘れてしまうくらい、感情がどんどん豊かになっていった。
涙こそ流せないものの、嬉しい、楽しい、悲しい、寂しい、悔しいなど。人間だけが持っている感情をほとんど自然に表せるようになっていった。変化は愛だけではなかった。俺にも少しずつ感情というものが蘇ってきていた。時々その感情に呑み込まれそうになるほどに…
でもそんな自分が思ったほど嫌いではなかった。
愛の質問はどんどん高度になっていった。正直答えの出ない難しい質問もあった。愛に教えるために俺も今まで以上に色々な事を勉強し、考えるようになった。こんなに真剣にいろんな事を考えるのはもしかしたら生まれてはじめてかもしれない。
考えすぎて苦しくなる事もあったけれど、その苦しささえ愛がいれば心地よいと感じるようになった。俺は最近少しずつ、自分は今、生きているんだと感じるようになってきていた。愛と出逢う前は死が怖いなどとは一度も思った事が無かったのに…
愛に出逢ってから、いつの間にか、もうすぐ1年が経とうとしていた。
俺にとって愛はもはやアンドロイド以上の存在になっていた』
愛
「レン。今日は知りたい事があるの」
連
「ん?何を知りたいの?」
愛
「死って…なに?」
連
「また難しい話だね。どうして知りたいの?」
愛
「この前、本を読んだの。人はいつか死ぬって書いてあった。私にはそれがわからない。だから知りたい」
連
「そうか、わかった。死というものに対してはいろんな考え方があるんだ。だから俺の知っている限りの死についての情報を伝えるね」
愛
「1つじゃないの?」
連
「現象。事実としては1つだ。でも死という現象に対しての捉え方はたくさんあるんだ」
愛
「事実は1つなのに捉え方はたくさん…」
連
「まあ、死だけじゃないね。世の中にはいろんな事実がある。そして世の中にはたくさんの人がいる。育ってきた環境や関わって来た人々や、元々持っていた性格や資質があって、考え方がある。それによって同じ事実を前にしても捉え方や感じ方が違う。同じ言葉に嬉しくなる人もいれば、傷つく人もいる。あー同じ人でもタイミングによって、傷つく時もあるね。って、ちょっと難しかったかな?わかる?」
愛
「うん。人とはとても複雑で、バラバラで、良い悪いではなくそれぞれがそれぞれの良さを持ってる。この前、レンが教えてくれたよね?」
連
「愛。よく覚えてるな。そうだね。で、話を死に戻すね。
死とは事実として、命が終わる事」
愛
「命が終わる…」
連
「人や動物には心臓という機能があって、その心臓が動く事で生きているって話は前したよね?命が終わるとは、心臓が動かなくなる事を言うんだ」
愛
「どうして動かなくなるの?」
連
「原因は様々だね。寿命、病気、事故、ケガ、自ら命を終わらせてしまう人もいるし、誰かに強制的に止められてしまう人もいる…」
愛
「強制的に…それは殺人って事?」
連
「ああ。心臓が止まると身体から魂が抜け、今まで動いていた人が人形の様に動かなくなる。話す事も出来なくなる。それが死だね」
愛
「抜けた魂はどこへ行くの?」
連
「さあなー。天国と地獄があって、生きてきた時の行いでどちらかに振り分けられるという人もいるし。
輪廻転生って言って、また別の命に生まれ変わるって人もいる。でも正直誰もわからないんだよ。死を経験して戻ってくる人なんていないんだから」
愛
「そうなんだ…事実としてはわかった。さっきレンが言ってた捉え方の話が聞きたいな」
連
「そうだね。こんな事を言う人がいるんだ。人の死は2度あるって」
愛
「二度?人は死んだら終わりなんでしょ?死ねるのは1回なんじゃないの?」
連
「うん。人は生きてる間、もがいたり苦しんだりしながら一生懸命に自分の人生を生きていくよね?
人は生きている時点で一人では無い。生まれてくるためには両親が必要だ。
人が生きているって事は色々な人と関わっている」
愛
「うん。それはなんとなくレンの話を聞いて想像できる」
連
「だからね。その人がもし死んだとしても、誰かの中で思い出として生き続けている。その誰かに忘れられた時に、二度目の死を迎えるんだって」
愛
「大切な人の事は、記憶喪失かそれかアルツハイマーとかにならないと
忘れる事はないんじゃない?」
連
「うん。そうだね。だから身体と魂が離れた事実としての瞬間じゃなくて、人に忘れられて初めて死を迎えると捉える人もいるんだよ」
愛
「命に限りはあっても、大切な人の中で生き続ける」
連
「そういう事だね」
愛
「もう一つ聞いても良い?」
青年
「いくつでも」
愛
「人を殺すのはいけないこと?」
連
「んー。そうだね。いけない事だと思う」
愛
「なんで今少し考えたの?」
連
「これもいろんな場合があるなって思ったから」
愛
「事実としては?」
連
「法律で裁かれて罪になる。警察に逮捕されて刑が確定すれば刑務所だね」
愛
「刑務所は罪を犯した人が入るところでしょ?罪は悪い事でしょう?」
連
「例えば、俺が殺されそうになっていたとしたら、愛はどうする?」
愛
「そんなの嫌だ!!!」
連
笑
「たとえ話だよ。本当に死ぬ訳じゃないから…」
愛
「私にはなにも出来ないけど…でもなんとかして助けたいって思う」
連
「ありがとう。俺も愛が殺されそうになったら全力で守るよ。その助けようとした時に誤って命を奪ってしまったら、それは殺人なんだ。助けなければ、その人は確実に死ぬのにね」
愛
「罪に問われない為には、見殺しにしなければならないって事?」
連
「そうだよ」
愛
「そんなのってあんまりだよ!」
連
「うん。俺もそう思うよ。愛?世の中にはね。正しい事と納得できないけどどうしようもない事があるんだ。そういういろんな複雑なものが絡み合いながら、社会が出来てるんだよ」
愛
「私は、出来るなら、努力している人が報われて欲しいし、心の優しい人は幸せになって欲しい。本当に悪い人はちゃんと裁かれる。そんな世の中になって欲しい!」
連
「愛は優しいね。そうだ。愛に戦争の話はしたかな?」
愛
「ううん」
連
「戦争はね、自分の国の領土を広げる為、自分の国を豊かにする為に他の国と戦う事だね。お互いにお互いの正義があって、お互いが大切な者を守る為に戦うんだ。ここではね。人を殺せば殺すほど、人に感謝されて英雄になるんだよ」
愛
「人を殺すのに罪にならないの?」
連
「戦争とはそういうものらしい。俺も実際に行った事はないから聞いた話だけどね」
愛
「命や死が人にとって、避けては通れないけど、とても複雑なものだという事はわかった。ねえレン?」
連
「ん?なんだい愛?」
愛
「レンは死なない身体になりたいと思った事は無いの?」
連
「んー。それを望む人もたくさんいるね。でも、俺は、思った事は無いなー」
愛
「レンは死が怖くないの?」
連
「死が怖くないというよりも、生きている事が楽しくて幸せで楽な事だけじゃないって知っているからね」
愛
「辛かったり、苦しかったり、悲しかったりもあるって事?」
連
「そう。死が無いって事は、苦しみも悲しみも痛みも全部永遠に続くって事だろ?他の人は知らないけど、俺は終わりがあるから人は生きていけるんだって思うんだ。いつか終わりが来るから耐えられるみたいな」
愛
「レンは今、生きているのが辛い?」
連
「んー。そんな時期もあったかな。俺さ、愛に出逢うまで、生きてるって感じる事さえなかった。今は愛に出会えたから、ようやく生きてる事が楽しいって思えたよ。ありがとう」
愛
「レンが生きることがつらくても頑張って生き続けてくれていたから出会えたんだね。生きててくれてありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう」
連
「え?ちょっと愛…そんな事言うなよ…そんな事…」
■連は思わず涙を流す
愛
「それが涙…
キレイ。レンどこか痛いの?それとも悲しいの?」
■連、涙を流したまま
連
「愛。違うよ。これは嬉しくて泣いてるんだ。愛が嬉しい事を言ってくれたから」
愛
「嬉しくても人は泣くの?悲しいとは真逆の感情なのに。不思議だね」
連
「そう…だね。言われて見れば不思議だね」
愛
「ねえレン?」
連
「ん?」
愛
「もしレンがこの先殺されそうになったら、私が命がけで守るよ?どんな方法を使っても。私にとってレンはそれぐらい大切な人だから。だから、少しでも長く生きて、私のそばにいてね?」
連
「愛…もうなんだよ…今日は俺を泣かせたいのか?」
愛
「それも嬉し泣き?私は本当に思った事を言っただけだよ?」
連
「ほんとにおまえは…
ありがとう。俺も愛になにかあったら全力で守るよ。俺の命に代えても…じゃあ、また明日」
愛
「うん。また明日」
SE:TELの着信音
連
「もしもし?なんだおまえか。お前なー。人に強引に愛を押し付けて今まで連絡よこさないとかほんと何考えてんだよ。って…え?はっ?おまえ急に何言い出して…
そんな笑えない冗談…はっ?愛のコードNO?えっと確か…
■愛の首に刻まれたコードNOを思い出し、その意味に気づいて
え?嘘…だろ?
おい!おまえいい加減な事言うと俺だって怒るぞ?
は?ネットNEWS?あー今PC開いてるけど…なんなんだよもー…
え?これ、明日?
なあ?それって、本当に俺にしか出来ないのか?
ああ。そうか…わかった…
大丈夫。ちゃんと俺なりに、答えを出すよ…」
<翌日>
連
「愛。おはよう」
愛
「おはよう、レン」
連
「今日は愛に話したい事があるんだけど、いいかな?」
愛
「うん。なーに?」
連
「うん。今日までいろんな話をしてきただろう?生きるってこととか死とか命とか色々」
愛
「うん」
連
「今日は最初に愛に聞かれた、愛とは何かって事を話そうかなって思って」
愛
「愛について…」
連
「そう。そもそも俺がつけた愛って名前も、いろんな人に愛されて欲しいって思ってつけたんだ。
でも、愛に聞かれて、あの時は愛ってどんな事かって正直俺はよくわかってなかったって気が付いた」
愛
「今はわかるの?」
連
「うん。わかったよ。愛が、教えてくれたんだ」
愛
「私が?」
連
「うん」
愛
「私はレンに教わる事しかなかった」
連
「ううん。愛は俺にたくさんの事を教えてくれたよ」
愛
「たくさんの事?私が?」
連
「ああ。誰かに必要とされる事ってとっても嬉しい事だって。愛にいろんな事を教えると、愛は【ありがとう】って言ってくれるだろう?俺、それがすっごく嬉しかった」
愛
「ありがとうは言われる人が嬉しい言葉」
連
「そうだよ。それから、人は感情的な生き物で、不完全で、だからこそ愛おしいんだって。俺はずっと感情を押し殺して生きてきた。それが愛に出逢って、前よりいろんな感情が素直に出るようになった。それがコントロール出来なくて正直苦しい時もあったけど、そういう自分が思ったより嫌じゃなかった。前より、人が好きになった」
愛
「人間は不完全だからこそ愛おしい」
連
「ああ。あとね、例えば両親に愛されなかったとしても、後天的に愛情を受け取る事が出来るようになれば、誰かに愛情を与えたいって思う事ができるんだって」
愛
「レンのお母さんはレンを産んだ!人間が生まれてくるまでにはたくさんの時間が必要。愛してなければ産まないと思う」
連
「ああ。そう思いたいけどな…
俺は家に何日も置き去りにされて、死ぬ直前の所を保護されて特殊な施設で育ったんだ。
名前もね、親じゃなくて、そこでもらったんだよ?」
愛
「レンて、どういう字を書くの?」
連
「連続の連。つらなるとも読むね。たくさんの大切な人と繋がって、幸せが永遠に続くように。そう願ってつけてくれたんだ。残念ながら今の俺は人と関われずにこんなとこで一人でいるけど…」
愛
「レンは優しい人。そしてとても賢い。だから、きっとこれからたくさんの人を幸せにするし、レンも幸せになる」
連
「ありがとう愛。愛というものについて俺がわかったのは、とても残酷で、とても深く、そして、とてもあたたかいものという事だ…」
愛
「残酷で、深く、あたたかい…」
連
「誰を傷つけても、誰を犠牲にしても、たとえ自らの命とひきかえにしても構わない…それでもその人を守りたいと心から強く思う。
例えばこの世界の全ての人を敵に回したとしてもその人が大切だと思える
それが愛なんだってわかったよ」
愛
「自分を犠牲にして、世界中全ての人を敵にしても貫ける思いが愛…」
連
「愛?よく聞いて?君は元々暗殺用のアンドロイドとして作られたんだ。
限りなく人の形に近づけ、人間の感情を学ぶことでターゲットに怪しまれずにその任務を遂行する。そのためにAIが搭載されている。人を殺すために、人の考えや心を学習していたんだ」
愛
「私は暗殺用アンドロイド…」
連
「愛の首に刻まれたコードナンバーはNo00K37561LL4。これには数字の語呂合わせでみな殺し。そして英語で殺す事を意味するkillが隠されている」
愛
「私は、暗殺用アンドロイド…」
連
「昨日電話があってね。君の産みの親を殺したやつが脱獄して暗殺プログラムを完成させてリモートで愛にプログラミングした。
起動はカウントダウン式であと1時間も経たないうちに君は俺を殺す。そしてこの部屋を出て、この国の人間を手当たり次第に殺していくらしい」
愛
「えっ?」
連
「愛の身体の中には何重ものセキュリティがあって、その奥にある自爆プログラムを起動する。つまり愛を殺さなければ、俺が死ぬ。かなり高度なセキュリティらしく今この国では俺ぐらいしかそのプログラムを起動出来ないらしい」
愛
「私がレンを殺して、殺人をする?そんなの嫌!お願いレン、今すぐ私を殺して!」
連
「愛。ごめん…俺、出来ないよ…愛を殺すなんて、俺は出来ない…」
愛
「でも!私を殺さなきゃレンが!他の人が死んじゃう!」
連
「それでも…俺には出来ない…」
愛
「レン!私はアンドロイドだから痛みも悲しみも無い…」
連
「でも生きてるじゃないか!生きて、俺の目の前にいて、こうやって動いてる…こうやって話してる…初めて出逢った時から、今日まで、ずっと一緒に生きてきた!アンドロイドだとか、中身が何で出来てるとか、俺にはそんなの関係ない!愛は愛なんだよ!」
愛
「でもレンが!」
連
「愛に殺されるなら俺は良い。どうせ親にさえ望まれなかった命だ。
愛がいてくれたから、俺は今日まで生きてこれた。
愛がいてくれたから、いろんな事に気づいた。
愛がいないなら、俺の生きる意味なんて無いんだよ…
俺には世界なんて正直どうでもいいんだ!
愛さえいてくれればそれでいい…
愛のいない世界なんて、俺にはなんの意味も無いんだよ
俺にとっては愛が全てなんだ…
それぐらい大切なんだ…
そんな愛の命を奪うなんて、俺には出来ない…」
愛
「馬鹿な事言わないで!それは自殺行為だよ!」
連
「それでも!それでも…俺に愛の命を奪うなんて…出来ないよ…」
愛
「レン…それがあなたの選択?」
連
「そう。それに大丈夫。愛が俺を殺すんじゃない。プログラムが俺を殺すんだ。だから、たとえ俺が死んだとしても、それは愛のせいじゃない」
愛
「レン?そういうの、へりくつって言うんだよ?」
連
「それでもいいさ。さっき言ったろ?俺がみつけた愛について」
愛
「自分を犠牲にして、世界中全ての人を敵にしても貫ける思いが愛」
連
「そう。それが、俺が愛に出逢ってはじめて知った、愛の形だよ」
愛
「本当だ。愛って、残酷で、深くて、あったかいね…」
連
「ああ」
愛
「レン、今日は何の日か覚えてる?」
連
「俺たちがはじめて出逢った日だろ?」
愛
「それだけじゃないよ?レン、本当に自分の事には無関心だよね」
連
「え?他になんかあったかな?」
愛
「レンの誕生日だよ?」
連
「えっ?あーそういえばそうだったっけ。誕生日なんて祝った事なかったからすっかり忘れてた」
愛
「レン?一つ聞いても良い?」
連
「ん?なに?」
愛
「レンはこの世に生まれてきて、幸せだった?」
連
「ああ。愛に出逢って、今、心からそう思えたよ。この前さ、生まれてきてくれてありがとうって、生きててくれて、出逢ってくれてありがとうって言ってくれたろ?
あの言葉聞いた時、本当に泣きたくなるぐらい嬉しかった。愛?」
愛
「ん?」
連
「俺に生きる意味をくれて、俺を愛してくれて、俺に愛を教えてくれて、本当にありがとう。愛してるよ」
愛
「レン。ありがとう
どうか覚えておいて?
私は機械だけど、あなたを心から愛してた。
そしていつか、あなたを心から愛してくれる人がきっと現れるから」
連
「愛、何言って…」
愛
「約束したでしょ?いつかプレゼント渡すって。レン、私もあなたを殺したくない。
あなたは教えてくれた。
大切な人に忘れられなければ、永遠に生きてられるって。レンはきっと私の事、覚えててくれるでしょ?」
連
「当たり前だ!俺が愛の事忘れるわけないだろ?」
愛
「レン?だったら私はレンの中で生き続けられる。ずーっと死なないって事だよね?」
連
「愛!何考えてるんだ?やめろ!」
愛
「プレゼントは大切な人にだけ贈るもの。レンは私にとって世界で一番大切な人。
だからね…これは私がレンに贈る、最初で最後の誕生日プレゼント。
生きて!生き抜いて…どうか、幸せになってね…」
■愛、連を扉の奥に閉じ込める
連
「愛!なにするんだ!愛!離せ!」
愛
「ありがとう…レン…またね…」
SE︰鉄の扉が閉まる音
SE︰ロックのかかる音
連
(鉄製の扉を力一杯に叩きながら)
「おい!愛、ここを開けろ!おい!何勝手な事してんだよ!おい!開けろ!愛!」
愛
「自爆プログラム起動アクセス開始。
パスワードNo00K37561LL4。
パスワード確認。自爆プログラム最終確認完了。
プログラム実行します。
バイバイ、レン。私、レンに出会えたから、レンに愛してもらえたから、生まれてこれて幸せだったよ…ありがとう。
私も·····愛してる」
SE:爆発音
連
「愛ーーーーーーーーーー!!!!!!」
■崩れ落ちる連
連
「なんで!なんでだよ…愛…愛…」
■悲鳴のような痛々しい鳴き声が部屋に響く
共通パートのあと、AとBのマルチエンディングになります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~共通パート~
<◯年後>
■子供たちに向かって話しかける連
連
「ん?あーこのピアスか?聞いて驚くなよ?これはな、アンドロイドの涙だ。
あー笑ったなー。いいだろ?信じたって。おまえら子供なんだからもっとさー子供らしく素直になー。
あーあ
行っちゃったか…
レン先生のうそつきーか。未だに慣れないなー、先生って呼ばれるの」
■施設で無邪気に遊ぶ子供たちを見守る連
連
『結局、愛は自らの命と引き換えに俺を守ってくれた。身体はその破壊力で粉々になってしまったが、顔のパーツは唯一、その形をとどめていた。そして目からはこのしずく型の液体が流れて固まっていた。アンドロイドにはそもそも感情など無い。
ましてや涙など流すはずも無い。わかってはいる。でも、俺は不思議と、それが間違いなく、愛の涙なんだと信じていた。
あとで聞いた話だが、愛を悪用されそうな事がわかった研究者が死ぬ間際に危険を察知し、俺の悪友に愛を送っていたのだという。
愛の産みの親は育児放棄どころか、まさに命がけで愛を守っていたのだ。
自爆プログラムは、AIの暴走に備え愛の産みの親がつけた物で、外からのアクセスを前提に作られていた。感情の無いはずのアンドロイドが、自らあのプログラムを起動するなんて考えてもみなかったのだろう…
愛には本当に感情がなかったのだろうか?機械に感情は持てないのか?
今となってはわからない。でも俺にとっては、愛と過ごしたあの日々だけがただ一つの真実だ。
愛が死んでしまってからしばらくは、何をしたら良いのかわからなくなった。
正直、命を絶ちたいとさえ思った。でも、愛が命がけで守ってくれたこの命を捨てる事など出来なかった…
俺は愛に教えてもらったたくさんの事を教える為に家を作った
愛を信じられない、愛を受け取れない、親に愛をもらえなかった
そんな子供達が愛を知る為の。安心して帰れる家を…』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ここからマルチエンディングです
【Aのエンド】
■女性が訪ねて来て声をかけられる
連
「はい。何か?
え?あー。それならここですが…
えっ?嘘だろ?そんな…いやまさかそんなはず無いよな…でも、本当によく似てる…」
■連、目の前の女性が愛にそっくりな事に気が付いてじっと見つめてしまう
女性(愛役の方兼役)
「あの…私の顔に何か?」
連
「あっ!すみません!
知ってる人にあなたがよく似ていたもので…
そんなはずないのにじっと顔を見てしまってすみません!
」
■全力で身体を折り曲げてあやまる連
■彼女、連の耳にピアスを見つけて
女性
「そのピアス、キレイですね?」
連
「え?あーこのピアスですか?
キレイですか?嬉しいです!
あっ、実はこれ、アンドロイドの涙なんですよ?」
女性
「えっ?そうなんですか?すごい」
連
「いや。そんなすんなり素直に信じるなんて…
もちろん本当の事ですけど
この話をして、そんなに素直に信じる人ははじめてだったので…
あの…初対面でめちゃめちゃ失礼な事聞きますけど
よく人に変わってるとか天然とか言われません?」
女性
「えっ?まー…確かに…そうかも…」
連
「あー
やっぱり?
だろうな。すっげぇわかる
なんか何となく君とは長い付き合いになりそうだ…
あらためまして
ここの代表の連です
もしよろしければ中に入って紅茶でも飲んで行きませんか?」
END
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Bのエンド】
■女性が訪ねて来て声をかけられる
連
「はーい。あー面接の方でしたか。どうぞ」
愛
「そのピアス、キレイだね」
連
「え?このピアスですか?キレイ?ありがとうございます。これ、実はアンドロイドの涙なんですよ。子供たちは全く信じてくれないんですけどね」
愛
「そうなんですねー」
連
「えっ?驚かないんですか?」
愛
「そんなのまだ持ってたの?レン…」
■連、目の前の女性が愛にそっくりな事に気が付いて
連
「えっ?嘘…だろ?もしかして…愛?なのか?」
愛
「うん…なんかね…私、本物の人間になっちゃったみたい…えへへ」
■連、笑ったあと、涙を流しながら
連
「あーあ
神様って基本的にいじわるだけどさ、時々こういう奇跡を起こすんだよなー」
愛
「うふふ
連の泣いてる顔かわいいー」
連
「ちょっ…
久しぶりに会ってそっこーからかうなよ…」
愛
「連…ただいま」
連
「ずっと…ずっと待ってたよ。おかえり…愛」
END