心の鏡
上演目安60分~90分
■男性サシ劇台本ですが男性の声が出せる女性でもご使用頂いて大丈夫です
■前半と後半の1箇所ずつ呪文詠唱があります
■安倍晴明と闇安倍晴明の心理バトルを書いてみました
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【心の鏡】
安倍晴明︰
闇晴明 ︰
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【本編】
晴明
(技を出す)
SE:技出てる感じの(あればでOKです)
「六根清浄急急如律令 (ろっこんしょうじょうきゅうきゅうにょりつりょう)」
晴明
SE:攻撃でダメージを食らった感じの音(あれば)
「攻撃をくらった声」
闇晴明
「笑
おまえどこを狙っておる?
さきほどから一つも私に当たらぬではないか」
晴明
(独り言)
「くっ
なぜだ
なぜ攻撃が何も届かぬのだ
それどころか、あやつに攻撃を仕掛ければ仕掛けるほど
自らの身体がボロボロになっていく
一体何が起きているというんだ·····
(敵に向かって)
お主·····もしや人の姿をした妖か!」
闇晴明
「笑
妖とは言い得て妙 。
確かに、何も出来ない無力な人間どもからしたら、そう言われてもおかしくはないのかもしれないなー?
私はこれを使い
幾度となく魔のもの達を滅し、封じてきたのだから」
晴明
「それは式神
お主も式神使いか?
だが妙だ
私だけしか使えぬはずの術ばかり使う
なぜだ·····
なぜ!」
闇晴明
「笑
血の滲む様な修行の末に体得した術。
そうやすやすと他の者に使われてはたまらないよなー?
この術、並の式神使いでは到底使えまい
だが私は使える
ならば分かるだろう?私が誰なのか?
他の誰でも無い、おまえなら」
晴明
「私ならわかる·····
まるで謎かけだな
(自問自答する感じで)
なぜ私しか使えぬはずの術をこの者は使えるのか·····
(少し考えてから思いついた様に)
はっ!?
(すぐに打ち消す様に)
いや、まさかそんな事あろうはずが」
闇晴明
「笑
その苦悶に満ちた表情そそるな~
たまらないねー」
■闇晴明、ぼんやりとした姿から晴明の姿に変化する
晴明
「!?
馬鹿な
姿形が変化 (へんげ)していく
その姿形·····
まさかっ!そんな事があろうはずが·····
だがしかし
疑いようも無いほどに瓜二つ
おまえは、もしや私なのか?」
闇晴明
(大げさに拍手をして)
「いやーさすが私だなー
およそ他のものでは到底無理であろう圧倒的な早さで、自ら真実にたどり着いた」
晴明
「姿形は見れば見るほど
まごうことなき私その者
ただ·····私はここにいる
あやつが私なら私がこの世に二人いる事になってしまう·····
いや、まさかそんなことあろうはず·····」
闇晴明
「笑
へー、そんな顔もするんだなー?
あまたの妖を前にしても心一つ乱さないお前が
おのれを目の前にそんなにもうろたえるとは·····
いや、みなの前では乱していないフリをしていただけか
おまえ、本当は臆病者だもんな~?」
晴明
「お主何を言う!」
闇晴明
「本当の事ではないか?
いつも本当は怖くて怖くてたまらなかった。
術をとなえている時でさえ、声に震えを表さぬよう必死であった。
いつだって
耳の奥には心臓が早鐘 (はやがね)の様に打つ音が響いていた
他に代わってくれるものが現れはしないかと心の中で常に願っていたではないか」
晴明
「なぜそれを!
(自問自答しながら)
私がひた隠しにし、心の奥底に潜ませていた誰も知り得ぬ事実·····
それを知っているとは、やはりこやつは私という事なのか?
(闇晴明に向かって)
くっ·····
確かに私は臆病者かもしれぬ·····
だが、逃げる訳には行かぬのだ!
私がやらねばならぬのだ!
それが私の·····」
闇晴明
「使命·····だろ?
だが、そう思っているのはおまえだけだとしたら?」
晴明
「なんだと?どういう意味だ!」
闇晴明
「この世の平穏 への助力
困り人を救う事こそがおのれの使命。
そんなおまえの想いを、ただ私利私欲の為だけに利用している者がいるとしたら?」
晴明
「そんな事あるはずが·····」
闇晴明
「無い。とは言いきれぬのは、お前が1番よくわかっているであろう?」
晴明
「それは·····確かに無いとは言いきれぬ
だが、見る事の出来ぬ心の奥に疑いを持とうが、ただ一つの真実を知るのは当人のみ
ならば、ただその者を信じる事こそが私の出来る最善の·····」
闇晴明
「笑
相変わらず甘いな~おまえは
人は欲の塊だ。隣を見ればあいつよりも高い位(くらい)につきたい
自分が持っていない物は平気で奪い取ろうとする
人の不幸を願い、呪い、わが欲の為ならば他者を傷つけようが蹴落とそうが、心の痛まぬ物も大勢おる!」
晴明
「それは、確かにそういう者もおるが
そんな者ばかりではない!
心の優しい者も、この世には大勢おる!」
闇晴明
「心の優しい者は、その優しさを利用されボロボロにされる
その優しさ故に、反旗をひるがえす事もせず
ただじっとその痛みや苦しみに耐えるのみだ!」
晴明
「それは·····」
闇晴明
「1度ついた心の傷は決して消える事は無いというのになー?
傷をつけた者達は、傷つけた事にさえ気づかず、ただあざ笑うんだ·····
おのれの心が、弱いからだと」
晴明
「人を傷つけて平気でいられる者など、人をあざ笑う者など本当の強きものとは言わぬ!!!
弱さのなにが悪い!弱き心の何が悪い!
弱いとはすなわち繊細であるという事
人の痛みを想像し、その痛みを我がことの様に想う
だから柔らかく、愛と優しさを持って寄りそえるのだ!」
闇晴明
「ほう
お主は弱さを悪い事では無いと申すか
ならばなぜ人は強さを求める?
弱き者は[[rb:虐 > しいた]]げられる?
誰しも支配される側と支配する側ならば迷わず支配する方を選ぶであろう?
晴明、おまえだってそうではないか」
晴明
「どういう意味だ!」
闇晴明
「人ならざる者。
幼きおまえを皆がそう呼んで嫌っていた。
いや、むしろ畏れていたと言うべきか?
その能力故に、今までどれだけの心無い言葉を浴びせられてきた?
どれだけの者達に馬鹿にされてきた?
おまえの居場所なんてどこにもなかった。
そう、この世のどこにも」
晴明
「その様な事は·····」
闇晴明
「誰かとつながりたい!
ここから抜け出したい!
そう強く想いこの手を必死に伸ばし叫び続けても
その手を取ってくれる者は誰もいなかった!
だからおまえは自ら立ち上がる力を身につけた
己の心の弱さを嘆き
圧倒的な力を欲した!
なぜ私ばかりが
私が何をしたというのだ
この世の全てをおまえは呪いながら
その呪いをまるで隠すかのように
より強大な力を手に入れていった」
晴明
「うるさい·····」
闇晴明
「お前が圧倒的な能力を身につけたら
今度はどうだ?
お前を蔑んでいた者達が
途端に手のひらを返したかの様に
お前を神の様に崇め始めた
金を積み
額を擦り付けて自らの願いを叶えて欲しい
と懇願した
ようやく
地位も名誉も信頼も、圧倒的な能力も何もかもを手に入れた。
これで勝った
おまえはその拳を高々と天へ突き上げた·····
だが、本当は分かっていたはずだ
結局はその者達に、利用されていただけに過ぎぬのだと」
晴明
「黙れ·····」
闇晴明
「いくら力を手に入れようとも、所詮おまえは心の弱きもの
あまたの裏切りに
幾度となくその胸を痛めてきたではないか」
晴明
「黙れ!」
闇晴明
「おまえは自分の運命を呪いながら強さを欲し圧倒的な力を手に入れた
だがどうだ?結局その力は数限られた私利私欲の限りを尽くした強きものどもに使われている。
おまえだって本当はとうに気づいているはずだ
この世は出自(しゅつじ)が全て
どこで生まれたのか
何を持っていたのか
初めに勝った者だけが勝ち続ける理(ことわり)
努力でどうにかなるなどとはただのまやかし!
想いを人に注ぎ真(まこと)の絆で繋がるなどとは夢物語
所詮
我が身のみをかわいがり
その欲の為ならば他の者を傷つけようが
こればかりも心を痛めぬ
そんな強欲な者だけが·····この世を動かしているのだと·····」
晴明
(闇晴明の言葉を振り払う様に怒りながら)
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!」
闇晴明
「笑
ひた隠しにしている真のおまえの想いを代わりに私が言うただけではないか?
真の心を突きつけられ怒り狂うなど
まるで年端のいかぬ幼子(おさなご)に同じ」
晴明
(怒り狂って発狂する様に苦しそうに)
「黙れ黙れ黙れ!!!」
闇晴明
「苦しいか?苦しいよな~?
晴明、おまえは私·····
おまえはその力
弱き者を救う為に手に入れた
おのれの様に弱き者を、心の優しい者を、痛みや悲しみから
我が身かわいいだけの無慈悲で強欲な者どもの支配から救う為に」
晴明
「何ゆえそれを·····」
闇晴明
「時にこの世とあの世を行き来するほどの
深い傷を負いながら
その信念を貫こうとただがむしゃらに·····
されどその想いはことごとく踏み潰され砕かれた
この世はまことに腐敗してしまった·····
(深くため息)
(覚悟を決めた様に)
だから私は決めたのだ
この不条理を無に帰すと」
晴明
「無に帰(き)すとは?」
闇晴明
「我が身かわいい無慈悲で強欲な者どもをこの世から全て排除する!
そして創るのだ!!
心の優しい者が
信念を持ち努力し続ける者だけが報われる世界を
理想郷をこの手で!!」
晴明
(最初はこらえるように、段々とこらえられずに爆笑する)
「笑」
闇晴明
「何がおかしい!!」
晴明
「いや
さすが私だなと呆れておったのだ」
闇晴明
「どういう意味だ!」
晴明
「お主が言うた心の優しい者や
信念を持ち努力し続ける者だけが報われる世界を創りたい
そこまでは私も異論は無い
ただ、その為に無慈悲で強欲な者を排除するならば
その者どもが弱き者を支配するのとなんら変わらぬではないか」
闇晴明
「何?」
晴明
「それではなんの意味も無いのだ
排除したところで人には心や欲がある
支配する側になれば心の優しい者の中にもいずれ無慈悲な強欲な者が現れるであろう
その度に排除をするのか?
途方もないのう」
闇晴明
「苦し紛れにへりくつか!」
晴明
「へりくつなものか
よく考えてみろ
やっている事はお主が嫌う者共と何も変わらぬではないか
奪いあい殺し合えば憎しみが憎しみを産むだけ
どこかで断ち切らなければ
負の連鎖を止める事は出来ぬ!!」
闇晴明
「だから
私はこの負の連鎖を断ち切るのだ!!!
不条理を無に帰す
この世を正しき方向へ導く!!」
晴明
「お主の言う様に
心の優しい者が試練や苦しみが少ないとは言い難い
私自身もこの世の全てを呪っていた事がある
自分に無い能力を持っているものをうらやみ、ねたんだ事もある
それこそ
己の出自をうらんだ事も、正直ある·····」
闇晴明
「ほら見た事か
おまえは私
やはり私の考えは間違ってなどおらぬ!」
晴明
「ただ·····
ただ、お主は知っているはずだ!
その目で見てきたはずだ!
自らの命をかけてでも大切な人を守ろうとする人の深い愛を!
天災や戦から手に手を取り合い助け合い励まし合う人々の絆を!
出自に負けず、がむしゃらに努力し続ける人々の姿を!
今、この世を無に帰すとはすなわち
その者どもの命や願い努力さえも全て·····
今までの何もかも、何ひとつ無かった事にしてしまうに同じ
今、この時を大切に出来ない者が
明日の幸せなど築けるはずがないだろう!!!」
闇晴明
「くっ·····」
晴明
「お前だってわかっているはずだ
それが、最善の方法ではないことぐらい·····」
闇晴明
「くっ…
だが、しかし、他に方法が!」
晴明
「結果を焦るな!
先人たちは、何もないところからこの地を耕し
食物を植え、手に手を取って、知恵をふり絞り
命を育み
今私達がいるこの時を作ってきたのだ
いくつもの時代をたくさんの人々が
時に争い、時に血を流しながら
数々の過ちを重ねながら
あまたの痛みや悲しみから立ち上がりながら
それこそ気の遠くなるような途方も無い時をかけて
この、【今という時】を作った
まだ見ぬ未来を悲観し無に帰すとは
その者たち全ての時間と命を無駄にするに等しい行い
私達にその様な権利などあろうはずがない!!
その様な事をすれば
ただ、憎しみの連鎖が広がるのみ
悲しみ心を痛める者を、いたずらに増やすだけだ!!
なあ晴明?
己の胸に手を当てて聞いてみよ!
ここまで歩いてきた人の道、本当につらく悲しいだけであったか
生きる事が悲しみや苦しみだけであったなら
なぜ今、ここにいる?
なぜ今、ここに命を繋いでいる?
闇に負けるな!
曇りのない心で
偽りの無い真実を見よ!!
お主の悔しさ、悲しみ、怒り
痛いほどによくわかる
ただ、この世を無に帰そうとするならば話は別!!
その願い、成就したくば私を倒してみよ!
私にその思い、すべて己の限りぶつけてみよ!
私は逃げも隠れもせぬ
その思い、全て受け止める!!
さあ、来い!!」
■晴明、闇晴明の前に両手を大きく広げて立ちはだかる
闇晴明
「私の願い
たとえおまえにも邪魔はさせぬ!
では私の思い、しかと受け止めよ!!
(術を結び始める)
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在
りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい…」
■闇晴明、術を途中で止める
闇晴明
「なぜ?
なぜだ!なぜ術をかけぬ!
何もせず手を広げ、私の前に立ちつくすとは愚の骨頂!
貴様、死ぬつもりか!!!」
晴明
「お主は私なのだろう?
ならばお主が私を攻撃する事など出来ぬ」
闇晴明
「バカな事をほざきおって·····
何を言う!!」
晴明
「幾度となく
その痛み、味わってきた
妖に術をかける時でさえ心を痛めるおまえが
自ら他の者に攻撃をしかけるなど出来るはずがないであろう?
人に攻撃される痛み
消える事の無い痛み
誰よりも知っているのは他でもない、お主であろう?」
闇晴明
「こざかしい!!
私はお前を倒し、理想の世界を創る!
術を結べ晴明!!」
晴明
(闇晴明をみつめ、たちはだかる)
「…」
闇晴明
「卑怯な!!
無抵抗の者に、私が技などかけられるはずがないだろう?」
晴明
「ああ
わかっていたさ
信じていた
ほら?
おかげで、本当の敵が、ようやくおでましのようだ」
闇晴明(妖)
「ヴー
あー!!!
おのれ晴明!
こしゃくなマネを!!
そのぬるく弱き心、私がこの手で木っ端みじんに砕いてくれるわ!
あーー!!!」
■闇晴明の中から妖が抜け出る
晴明
「やはりお主であったか
誰の命 (めい)でここに参ったかは知らぬが
性懲りも無く私の前に現れたという事は
滅せられる覚悟はとうに出来ているという事よな~?」
■闇晴明伸びをして
闇晴明
「あー
ようやく出たか
身体痛てー
ほう
こやつか、我らの心を弄んだのは」
晴明
「ああ。
こやつだ。
なあ?
このままやられっぱなしというのは、さすがに面白くはないよなー?」
闇晴明
「ほう。はじめて気があったな。
ちょうど同じ事を思っていた。
ならばこの怒り、こいつにきっちり返してやろう」
晴明
「準備は出来ておるか?」
闇晴明
「おう。いつでもいけるぞ」
晴明
「ならばもう二度と悪さをする気も起きぬ様
わが陰陽師の力、こやつにしかと見せてやろう。
(一文字ずつ力強くはっきりと)
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前
(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん!)
■妖に2人で攻撃するのは卑怯だと言われ
闇晴明
「笑
何が卑怯なものか
己が私達を分裂させ、二人にしたのであろう?
心の闇と協力するとは計算外?
ほう
それは残念であったなー?
人生は計算通りに行かぬから面白いのだ
青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女!」
(↑読み方︰せいりゅう・びゃっこ・すざく・げんぶ・こうちん・ていたい・ぶんおう・さんたい・ぎょくにょ)
晴明
「よくもわが心をもそあそんでくれたな」
闇晴明
「そのゆがんだ魂、改めよ!!」
晴明&闇晴明
「六根清浄急急如律令
(ろっこんしょうじょうきゅうきゅうにょりつりょう!!)」」
■妖、消滅
SE:爆発音等(あればでOKです)
(少し間を空けてから)
晴明
「終わった…な」
闇晴明
「なぜだ?
この妖を倒せば、私はすぐにでも消えるかと思っておったが、これはいったいどういう事だ?」
晴明
「なあ晴明?」
闇晴明
「ん?うわっ、ちょっといきなり何をする!同性に抱擁されるなど
私にそのような趣味は無い、離せ!」
晴明
「なあ晴明?
私はずいぶんと長い間
自分の心の弱さを嘆いていた
他の者との違いを恨んでいた
人を羨んだり、妬ましく思っていた
そんな風に思おてしまう己の心の弱さと
本当の思いを押し殺し逃げ続けていた
その事に、今ようやく気づかされた
弱き心
いや優しき心を持ったものが幸せになれる世を
努力をしたものが報われる世を
人が人を思いやり手に手を取り合いながら生きていける世を…
そんな世を思い描けば描くほど
所詮は夢物語と絶望を味わう日も幾度となくあった
心の強さを手にすれば全てが手に入る
そんな気がしていた·····
私が私でなくなれば
全てが上手くいくと思っておった·····
だが、人は心が健やかでなければ
明日に希望を見出す事は出来ぬ
心の鏡が曇っておれば真実を見る事など出来ぬ
他のものの笑顔を願う事は出来ぬ…
己の心で生きなければ
己の道を築く事は出来ぬ
その事を、すっかり忘れていた
お主と話ながら気づかされた
礼を言う、ありがとう」
闇晴明
「お前は私だ。礼など言われる筋合いはない」
晴明
「お主、もしかして照れておるのか?
かわいいやつよのう
うりゃ」
■晴明、闇晴明の髪をわしゃわしゃする
闇晴明
「ちょっ
頭をこねくり回すでない!!」
晴明
「素直になれ
礼を言われて照れておるのだろう?」
闇晴明
「照れてなどおらぬ!」
晴明
■嬉しそうに笑う
闇晴明
「あーもう!
ほんとにお前は·····
なあ?
野望や夢は大切な事
人を救いたい
弱き者に寄り添える人でありたい
その思いはあっても良い
ただ、まずは
己を大切にするのだ
己の素直な心を大切にするのだ
負の感情もまた真なり
妬ましい
羨ましい
悲しい
憎い
寂しい
愛して欲しい
認めて欲しい
これら全て沸いてくるは人ならば自然な事
ならばその思い
否定するでもなく
見て見ぬふりをするのでもなく
一度その胸にとどめる
泣き叫んでも良い
なぜその思いが沸いたのか
その胸に手を当て己の心に問うてみる
さすれば
自ずと答えは見え、闇に呑まれる事も無いだろう」
晴明
「己の負の思いもまた、己という事か」
闇晴明
「お主が私を嫌っていたように、みな己の見たく無いところには目をつぶるであろう
だが
その負の感情もまた己のもの
今日までともに苦しみ闘って
今、この時まで必死に命を繋いできた、いわば戦友の様なものなのだ
いがみ合い闘えば互いに傷つけあう
ただ手を取り合えば…」
闇晴明
「またとない協力な味方になる…か」
晴明
「ああ」
闇晴明
「なあ?」
晴明
「ん?」
闇晴明
「本当に来ると思うか?
我らが望むような平穏で道理の通った世が」
晴明
「絶対とは言い切れぬ
だがしかし…私達の祖先は途方もない年月を重ねここにこの地を築いてきた
今、私達が当たり前の様に見ている食物や建物
今着ておるこの着物も、この履物も
はじまりは全て、人の強い思いが生み出しておる
人には心がある
人には知恵がある
ならば遠い世ではきっと
人はもっと成長しているであろう
私達が見たことも聞いた事もないものが
さも当たり前かの様にあるのだろう」
闇晴明
「ほう。一理あるな」
晴明
「まだ誰も見た事がないものは不可能なものではない
いつか出来るかもしれないもの
これから生まれてくる可能性を秘めているもの」
闇晴明
「今この時を大切にしながら
信じて繋いでいればいつか
もっとずっと先の子が生きる遠い世ではいつか」
晴明
「ああ!
きっとな·····
信じて繋いで行こう!
この想い永遠(とわ)に·····」
闇晴明
「ああ」
■闇晴明が消えていく
闇晴明
「おっ
そろそろ時間だな。身体が透けてきた」
晴明
「もう消えてしまうのか?
次は、いつ会える」
闇晴明
「さあな
俺は当分会いたくはないけどな」
闇晴明
「なあ?
光ある所に必ず影は出来る
影ある所に闇は生まれる
でも闘う事などしなくて良い
受け止めて
己の心と向きあえれば
決して呑まれる事は無い!
己の闇を恐れるな!
お前はもう1人ではないであろう?
だから大丈夫だ!!
ここまで本当に良く頑張って生きてきたな
私はお前
ここに
お前の心にずっとおる
ずっと、そばで見ているからな」
■闇晴明、少しづつ消えていく
晴明
「晴明!!」
■闇晴明、晴明の中へ消える
晴明
「行ってしまったか·····」
晴明
(少し涙ぐみながら晴明に語りかける様に)
「長い間寂しい想いをさせてすまなかったな
私はもう己からは決して逃げぬ!!
いつの日か我らの望み叶う様に
人の想いの強さを信じ
今この時を大切に
この想い、永遠(とわ)に繋いでいこう
私はもう決して、1人ではないのだから·····」
■空に浮かぶ月を見上げ
晴明
(心の中の晴明に語りかける様に)
「なあ、見えておるか?
人の心は月に似ておる
満ちたり欠けたり陰ったり·····
されど·····どの月も美しい
今宵の月は、この上なく美しく見える
そうは思わぬか?
~間~
なあ、晴明よ·····」
END