この心白く染めて
【設定】
リュウ
→ツカサの兄
ツカサ
→リュウの弟
【シチュエーション】
ツカサとリュウは兄弟。
ある日ツカサが登山をしたいと言い出した。
反対しても行くと言って聞かないツカサ。
リュウは記憶喪失の弟のツカサを1人にしておけず一緒に登山に行く事にするが実はこの兄弟にはある秘密があって·····
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「この心白く染めて」
作…七海あお
リュウ…
ツカサ…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【Story】
■登山中の二人
■登りながら会話する
リュウ
(少しだけ前にいるツカサに呼びかける様に)
「さっび~
なあツカサ、お前なんでこの時期に突然山登りたいとか言い出したんだよ~
あ~もうつま先かじかんできたし、息もほら
真っ白だ」
ツカサ
「俺は1人でも大丈夫って言ったのに心配だって勝手についてきたのは兄貴だろ?そんな文句言うなら、今からでも降りれば?俺は1人で行くから」
リュウ
「バカな事言うな!お前を1人にしておける訳ないだろ?」
ツカサ
「ふふっ
兄貴のそういうとこ、俺好きだよ」
リュウ
「ったく、お前な〜
それじゃ答えになってない·····」
ツカサ
「後悔したくないんだ
例え俺に残された時間がわずかでも·····
やれる事は最後まで諦めずやり抜きたい」
リュウ
「お前、何言ってんだ?」
ツカサ
「聞いてた、兄貴と先生の会話。
このペースで行くと、もしかしたらもうすぐほとんど眠ったままになるかもしれないって」
リュウ
「それは·····」
ツカサ
「俺もさ、自分で感じてる。起きてる時間より眠ってる時間のが最近圧倒的に多くなってきてるって」
リュウ
「あくまで可能性の話だ
先の事なんてどうなるかわかんないじゃないか」
ツカサ
「治療法、無いんだろ?」
リュウ
「過去の記憶を思い出そうとして、脳に負担がかかり過ぎて強制的に長期的に眠ってしまうケースもある。先生はそう言ってた」
ツカサ
「例え死ななくても、なんも出来ないなら俺には死んだも同然だよ」
リュウ
「だとしても、なんでこの時期に登山なんだよ」
ツカサ
「夢の中に毎回この山が出てくるんだ
この山で何かを探してる·····
きっと大切な何か、それだけはわかる
だからどうしても来たかった
ここならきっと見つかるんじゃないかと思って」
リュウ
「ツカサ·····」
ツカサ
「あっ、ロッジだ。なあ?ちょっと休憩してかない?」
リュウ
「あー
そうだな。ここまでずっと登りっ放しだったし、少し休憩するか」
SE:扉の開く音
SE:扉の閉まる音
■ロッジにて
ツカサ
「はー
あったか~い
生き返る~」
リュウ
「なあ、さっき言ってた話、大切な何かってなんだよ」
ツカサ
「んーたぶん·····恋人」
リュウ
「恋人?」
ツカサ
「そっ
俺はそんな賢くないし、事故って記憶喪失になったのはまあ正直仕方ないかなって思ってる。
でもさ、恋人に関する記憶が全く無いのは悔しいし寂しいじゃん」
リュウ
「えっ?そこか?」
ツカサ
「俺にとってはめちゃめちゃ大事な事だよ!
今この瞬間も、もしかしたら俺の事待ってるかもしれない·····
ねえ?兄貴は俺の恋人の事なにか知らないの?」
リュウ
「いや、さすがにお前の恋人の事までは·····」
ツカサ
「そっかー、残念」
リュウ
「なあ?ツカサ、こうは考えられないか?
記憶が戻らないって事は、思い出したくない忘れたい事だからなんじゃないのか?
だったら無理に思い出す事なんて無いんじゃ·····」
ツカサ
「そんなの思い出して見なきゃわかんないだろ?」
リュウ
「だって思い出す度苦しそうにしてるし、いまだに思い出せないんだろ?
それって思い出したくない記憶ってことだろ?
こんな山奥に来てまで思い出そうとする価値が本当にあるのか?」
ツカサ
「なんだよ!!
兄貴だからって勝手に決めつけんなよ!!」
リュウ
「何ムキになってつっかかってきてんだよ!
お前が思い出せないのは事実だろ?
少し冷静になれ」
ツカサ
「兄貴は何にも分からないくせに·····」
リュウ
「何が?」
ツカサ
「何もかもだよ!!
もういいよ、兄貴は先に降りてて。俺は1人で行く!止めても無駄だから!」
リュウ
「ツカサ!おい待て!バカな事すんな!ツカサ!」
■ツカサ、ロッジを飛び出す
リュウ
(ロッジのクッションを投げながら)
「んっ!!なんなんだよ!
お前こそ、こっちの気持ちも知らないで!
じゃあなんで?
そうじゃなきゃ
そうだと思い込まなきゃ、今こうなってる事に説明がつかないだろ?
俺はお前の兄貴。 それがお前の望んだ事なんじゃないのか?なあ、ツカサ·····」
(少し時間が経って)
リュウ
「全然帰ってこない
あいつまさか、あんな薄着で本当に1人で登ってないよな?
まさか登ってる途中で眠ってたり·····
ん?なんだ?メッセージ?ツカサからだ·····
(ツカサからのメッセージを読む)
兄貴、登山に行きたいなんてわがまま言ってごめん!
ここから先は1人で大丈夫だから
兄貴は帰ってて?
俺のせいで今までいっぱい迷惑かけてごめん
俺は1人で大丈夫だから
兄貴は兄貴の人生を生きて幸せになってください。今まで本当にありがとう。大好きな兄貴へ·····
ってなんだよこれ!
あのバカっ!俺に急にケンカなんかけしかけて、最初からこのつもりだったな?」
■慌ててロッジを飛び出すリュウ
リュウ
「ツカサ~!!!ツカサ~!!!
返事しろ!!ツカサ~!!!
やっば、もうずいぶん暗くなってきてる
早く見つけないと
ツカサ~!!!
っと
うわーーーーー!!!」
■切り株につまづき崖から落ちるリュウ
リュウ
「ってぇ~
う゛っ·····
あーあ
これ、足ひねったな
早くあいつ見つけなきゃいけないのに·····
あー、クソっ!!何やってんだよ俺!」
■側にツカサを見つけて
リュウ
「えっ?あの服、もしかしてツカサの?」
■足を引きずりながらツカサの元へ
■ツカサを見つけ必死に起こそうとする
リュウ
「やっぱり。
おい!ツカサ!しっかりしろ!!
お前こんな所で寝るな!!おい!起きろ!!」
■ツカサ、目を覚まさない
リュウ
「(ため息)
ツカサが事故って死にかけて、目を覚ました時には記憶喪失で、しかも何故か俺の事は兄貴だと思ってて·····
思い出そうとする度に苦しそうなツカサを見てずっと兄貴のフリをしてたけど·····
恋人が目の前にいるのに触れる事さえ出来ないのは想像以上に苦しかった
でも、せめて生きてそばに居られればってそう自分に言い聞かせてた·····
(悔しそうに怒りをぶつけるように )
なのに·····
なのに·····
突然何日も眠り続ける様になって、今は死にかけてるとか·····
おい!
こいつが、何か悪い事したのかよ!!
俺たちが何かしたのかよ!!」
■粉雪が降ってくる
リュウ
「冷たっ!
白い、ん?雪が降ってきたのか?
ははっ、雪かー
ツカサ雪好きだったよな~
雪はどんな物でも真っ白に染める
雪の前では誰もが平等に無力で、誰もが平等に愛される。そんな風に思えるから好きだって·····
どっちみちお前を好きなまま兄貴のフリをし続けるなんて、俺にはもう限界だったんだよなー
(雪に向かって切なげに願う様に)
なあ?
俺の、どうにも消せないツカサへのこの思いも、いっそ全部真っ白に染めてくれよ·····」
■自分のコートを脱ぎ、ツカサにかける
リュウ
「よいしょっと。
ツカサ。俺のジャケットこうやってかけといてやる。
ほら、これで少しはあったかいだろ?」
せめてお前だけは助かって欲しいけど·····
この足じゃお前を助けてやる事は出来そうにないな·····
ごめんな·····
(あくび)
身体が重い、なんか、眠くなってきた·····
なあ?ツカサ聞こえてるか?
ツラい思いたくさんさせたな
俺がちゃんと素直に思いを伝えられなくて
寂しい想いもたくさんさせたよな?
事故の前にケンカしてそのままになっちゃったけど·····
お前は俺と違って異性を愛する事も出来るから、お前の為に別れた方が良いんじゃないかって思ったんだ·····
でも、本当は、本当の気持ち言っても良いなら·····
俺はお前と恋人のままで、ずっとずっと一緒にいたかった·····
なあ?ツカサ?
俺は少し、先に行ってるよ
お前に出逢えて、俺は心から幸せだった
少しの間でも俺の恋人になって、俺を愛してくれてありがとう
ツカサ、愛してる」
■ツカサにキスをし、そのまま倒れるリュウ
~間~
リュウ
「あれ?あったかい。ここは·····天国か?」
ツカサ
「残念だったな、まだ生きてるよ」
リュウ
「えっ?ツカサ?お前なんでここに」
ツカサ
「それは俺のセリフだ!
なんでこんな真冬に、あんな薄着であんな所で寝てんだ!おまけにケガまでして!死ぬ気かバカっ!」
リュウ
「お前が俺をここに?」
ツカサ
「他に誰がいるんだよ?」
リュウ
(起き上がりながら)
「ありがとう·····う゛っ·····」
ツカサ
「あー、足腫れてると思ったけどやっぱり痛むか。痛み止めあるぞ?飲むか?」
リュウ
「えっ?あー、うん」
ツカサ
「じゃあほら、口開けろ」
リュウ
「え?」
ツカサ
「お前そんな状態じゃ1人で飲めないだろ?ほら、飲ませてやるからさっさと口開けろ」
リュウ
「いや、それはちょっと·····」
ツカサ
「何恥ずかしがってんだよ?さっさと口開けろ。お前、まさか俺の言う事が聞けないのか?
そう。良い子だ。そのままな?」
■口うつしで薬を飲ませるツカサ
ツカサ
「よし、ちゃんと飲んだな」
リュウ
「なんで??」
ツカサ
「何そんな人の顔見て驚いてんだ?」
リュウ
「今、お前口移しで飲ませた?」
ツカサ
「それがどうかしたか?
キスだって、なんならそれ以上の事だって俺達もう何度もしてるだろ?」
リュウ
「ツカサ·····
俺が誰だか、分かるか?」
ツカサ
「なんだよ急に、お前足だけじゃなくて頭も打ったのか?」
リュウ
「答えて!お願い·····」
ツカサ
「変なやつ·····
リュウだろ?俺の恋人」
リュウ
「恋人?兄貴じゃなくて?」
ツカサ
「笑
なんでリュウが兄貴なんだよ?お前もしかしてそういうのが趣味だったのか?」
リュウ
「違っ…」
ツカサ
(リュウを抱きしめながら)
「リュウ、ほら、おいで」
リュウ
(ツカサに抱きつく)
「ツカサー」
ツカサ
「よしよし
ずいぶん長い間待たせな。ごめん。全部思い出したよ、何もかも」
リュウ
「うん。うんっ…おかえりツカサ」
ツカサ
「ただいま、リュウ」
■抱きしめ合う2人
ツカサ
「あっ、そうだ
俺まだ怒ってんだけど?」
リュウ
「なんだよ急に?」
ツカサ
「お前、俺の気持ちを勝手に決めんなよ!
俺の幸せを勝手に決めんな!
この先例え色々苦しい事や辛い事があったとしても、俺はお前といたいの。
ずーっとお前の恋人でいたいの!
それが俺の気持ち
お前はどうなんだよ?
俺の事思ってとかそんなのどうでも良いから、お前の素直な気持ちを聞かせろよ」
リュウ
「ツカサの恋人がいい!
俺だって、ずっとずっと一緒にいたい」
ツカサ
「ふっ
ようやく聞けたな、お前の本当の気持ち」
リュウ
「あ、そうだ俺も言いたい事あったんだ」
ツカサ
「なんだよ?」
リュウ
「記憶喪失は仕方ないとして、なんで俺が兄貴なんだよ!恋人が目の前にいながらキスも出来なかったんだぞ!」
ツカサ
「それは、なんていうか·····本当に、悪かった·····」
リュウ
「やだ!許さない」
ツカサ
「そう、だよな·····
リュウ、俺はどうしたら良い?」
リュウ
「一生かけてツカサが俺の物だって、俺の身体と心に刻み続けてくれなきゃ絶対許さない」
ツカサ
「それは、ずいぶんと魅力的な罰だな
そんな罰なら喜んで受けるよ
長い間本当にごめん
じゃあまずは、お前に触れられなかった時間分のキスをたっぷりと·····」
リュウ
「えっ?キスだけ?」
ツカサ
「ふふっ
焦るなよ
ようやく記憶を取り戻して
今、目の前に愛しい恋人がいるんだぞ?
俺が
キスだけで止まる訳ないだろ?
今日はもちろん寝かさないよ?
だから·····まずは、会えなかった時間を埋める程のたくさんのキスを·····な?
愛してるよ、リュウ」
リュウ
「俺も愛してるよツカサ·····
もう二度と、離さないで」
END